緋色の英雄   作:kozmo78

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第48話 ダサい意地

 

 

 

 

 

────……場所はKURI8の支部。A.R.Cも含め本社は時間的に厳しかった。

 

 

 呼び出されるのも久々だ。

 あったとしても誰かが席を外してるパターンが常だった。

 

 深夜ながら全員勢揃い、この状況に見合った要件があるって事だろう。

 

 

 

「やぁやぁ飛威炉クン! 暫くぶりだね!!」

 

「お久しぶりです。3人ともお揃いで」

 

「仮免取得祝いだ」

 

「忙しい身で直々に来てくださるとは光栄ですね」

 

「都合が良かったとだけ思っておけ」

 

 

 …サーらしい返答だな。祝いの名目にしちゃ冷たいけども。

 

 夜遅くに呼び出してでも一堂に会するのはある意味で当然の流れだ。

 仮免試験にはソレ相応の『意味』を持ち合わせていた。

 

 

「一先ず、計画の第一段階は踏破した」

 

「これで『個性』使用絡みの厄介事が減る。よくやった」

 

「幾ら飛威炉クンだからって1年生での取得は凄いね! だからさー、も~ちょっと天狗になっても良いんだよ?」

 

「通過点ですから」

 

「十分だったわ!」

 

 

 過信にもならん。出来なきゃ名折れだろ。

 

 

 …なんて調子良いこと言ってみた癖に試験自体はギリギリだった部分あるな。

 

 自信満々な割に見てくれは傷に塗れてるし。誰かさん・・・・に台風のような絡まれ方されたせいで、試験を終えて大分経ったのに傷は癒え切っていない。

 変に心配されない様に振舞いたいってのにこの時間帯にこの疲労は厳しいってのものだ。

 

 だが、今に至るまでを余裕と踏んでた3人にどう虚勢を張ろうか?

 

 

「不安は無かったがまさか試験内容がな」

 

「知ってるのか父さん?」

 

「既にネット上で試験内容を漏らした者が居る。暗に報道規制がある事でマスメディアは取り挙げないだろうが」

 

「でも仕方ないんじゃない? 今の時代に無理な話だって」

 

「“上”は難易度の差を指摘されようが構わないのでしょう」

 

 

 説明する必要無かったか。

 ホークスの所在など、たかが口約束じゃ隠せないって事だな。

 

 俺だってその想定だった。

 思い上がりだとしても、『俺』が参加してる仮免試験でソレなのが危険な組み合わせだ。

 

 …ってかそもそもの話だがバレる事すら想定内なんだろうな。

 

 ネットでもし囃し立てるとして、只の噂がそっくりそのまま真実でしたってのは十二分にあり得る。

 

 

 まず、ネットよりも遥かに目聡い人が目の前に居るのが問題だ。

 

 

「話は変わるが………試験終了後、試験官側から何かコンタクトはとってきたか?」

 

「────……あったっちゃ、あったが」

 

「怖っ、何それー?」

 

「公安に何を吹き込まれた?」

 

「いや説教みたいなもんだった。ネチネチとこの集まりに纏わるほぼ全部を叱られてな」

 

「うわ~」

 

「あくまでも説教であって『やめろ』とは言われてないんで、まぁなんとか」

 

 

 無理やりなこじ付け、って感じだな。

 まぁ全部が全部嘘じゃない。別のスタッフにそれなりに注意を受けたのは事実。

 

 

 しかし反応を見るに────……まず栗衛さんは大丈夫だろう。

 サーは判らんな。いつもの顰めっ面と全く変わらん

 

 何よりもまず父さんの眼差しが怖いんだが。

 

 

「………………」

 

「(……疑ってくるか。止めてくれよ、隠し通せる自信あんま無いぞ)」

 

 

 詰めもせずただ黙って俺を睨んでいる。

 コレじゃすぐにでも看破してきたって可笑しくないぞ。

 

 まぁ……いつ何時だって隠し事出来た試しが無いんだよな。

 

 ただ賢いだけじゃない。大局観にも秀でた、俺とじゃ比べようもない聡明さである。

 『何』を隠そうとしてるかなんてもうお見通し────……いや、尋ねる以前に政府の思惑を見抜いてる可能性だってある。

 仮にそうだとしたら更なる恐怖感が募るけども。

 

 最早、黙ってるのも何かしらの意図があるのかもな?

 

 

「政府からの圧力はある程度処理したんだがそう易々と静観してくれないか。だとしても……」

 

「ロードマップを変更する気は無い。ですよね?」

 

「勿論だ。早期取得を推し進めた意味を失ったら元も子もない」

 

「ってな感じの返事はしといた。やる事全てを否定する様子も無かったし大丈夫だろ」

 

「………やっぱ似た者親子だねぇ」

 

 

 しみじみと呟くその声、当の本人に聞こえてますが。

 …何度だってそう評価されてきたが栗衛さんの言葉なら深みが違うな。

 

 政府だって馬鹿じゃない。父さんと言う存在は“権力を持ち過ぎた”以外の理由で咎められないし、下手に亀裂を生むよりも友好関係を築いたままの方が都合が良いって思い至るだろう。

 超常社会は依然として混沌、A.R.Cもヒーローの食い扶持に直結してるんだ。

 

 そして、今更こちら側が折れるのも有り得ない。

 

 “HArP/国土武装計画”の為に尽力してきた全員がその覚悟だ。公門さん達にもし脅されてたとしても、俺なりに出来る限りの抵抗はしてたさ。

 『やりたい様にやる』────……宣言した通りにな。

 

 

 

 怖い視線は見透かしたかを教えてくれないまま、途切れた。

 

 話はやっとこの場を創り上げた理由に差し掛かる。

 

 

「まーまー一応大丈夫そうだし話は置いといて、本題入ろっか!」

 

「インターンは来月からだ。ソレまで学業に専念しろ」

 

「了解」

 

「なんだけど、せっかく仮免手に入れてインターン始められるのに何か足りなくない?」

 

「『足りない』────……ってことは」

 

「“機動装甲服アーマードスーツ”、一旦の完成を迎えたよ!」

 

 

 マジか。薄々そんな気はしてたが当たってたのかよ……!

 

 面食らった俺を横目に段取りよく周辺機器を動かし始めた。

 本社ラボよりも雑多に置かれた空間を所狭しと走り回り、暗幕が掛けられていた物体を中心にガチャガチャとロボットアームやら何やらがフル稼働だ。

 

 …仮免獲得の効果、とんでもない早さで享受できるとは。

 

 

「アレが試作品プロトタイプとは言え、約1ヵ月で出来るとは思ってもいませんでした。相変わらず凄い手際ですね……」

 

「大部分は長らく研究していたんだ、実戦運用も終えた事で形作るのにそう時間は要さなかった」

 

「でも全部一緒って訳じゃないよ? “緋色のスカーレットヒーロー”に相応しい戦闘服は用意できたさ!」

 

 

 事情は知ってたさ、にしてもじゃないか?

 工学系ド素人の俺でさえ段取りの良さに恐怖を覚えてしまう。

 

 職場体験で披露してから何日で────……なんて考えている内に、魅せたかったモノの準備が出来てしまったらしい。

 

 

「性能部分は更にアップデート! 仕込める武力装甲も増やしてみたんだけど?」

 

「だけど?」

 

「見どころは2つ! まず見た目で……正直さ、構想段階でイメージ自体はあったのに初期設計では間に合わなくてねー? 出来上がったタイミングでプレゼントマイクの命名で先を越されてs」

 

「無駄話はいい。本題に入ると言ったろ?」

 

「あーハイハイ! でね? いずれ君は日本のトップに立つんだからひと際目立たないとって事で、ホラ!」

 

 

 

 

────……ここまでとはな。

 

 

 暗幕が剥がされて、現れたのは試作品とは正反対の機体。

 

 夜の暗闇にも溶け込みそうな黒色を基調とした外装から、俺の髪から着想を得たであろう配色へと変化。

 初期デザインから格段に精錬されたモノに仕上がっていた。

 

 

「メインカラーは赤と白、エネルギー使用で機体がより映える様に! そして各部位に金色を施してより派手に!」

 

「派手すぎるとも思ったが一任した」

 

「過剰な位で丁度良いんですって、オールマイトだってそーじゃないですか?」

 

「本人の華々しさで成しただけだ。不釣り合いであれば笑われ者です」

 

「ソレは本人次第でしょ! 少なくとも、この場に居る人間で疑う者は居ないですよねー?」

 

「……間違ってるとは言ってませんよ」

 

 

 『派手』なんて言葉じゃ纏められない、空想で思い描くレベルだ。

 

 初めて試作品を見た時だって目を疑ったよ。戦闘服コスチュームじゃなくロボか何かだって言われた方が納得できたしな。

 

 

「どーかな飛威炉クン?!」

 

「『どー』って……触れてすらいないのに奮い立ちますね。コレ着られるんだって」

 

「お目に適って何よりだよ!」

 

「仮免祝いだとしても過ぎた贈り物には変わらない。完成までに掛かった費用も含めて、対価に相応しい力を示して見せろ」

 

「…具体的な数字は聞かないでおきます」

 

「今更でしょ、先行投資よ先行投資! でもお父さんには感謝しといてねー?」

 

 

 そりゃ感謝はしてるさ。…逃げ場を失わせる程の援助には。

 計画から研究に至るまで本来付き纏う筈なのが金銭面の問題だろう。そこを何の不自由も無く、寧ろ自由すら担保してくれてるのは親心を遥かに超越してる。

 

 先の未来、俺はその労力に見合う人間になるのは絶対って訳だ。

 

 勿論やれる限りを尽くすが……だからってこの出来を見せられて危機感を覚えてしまう。

 まだ性能部分で何が進化したのかも聞いてないのにな? 俺の予想を良い意味で裏切ってくるとしか思えない。

 

 

「見た目からもう凄いんですが、では2つ目の見どころってのは?」

 

「ちょっと待って! 今設定できるから………オッケー、じゃあこれ!」

 

「何でしょうか?」

 

「君のその“コア”にぴったり合う様に造ったんだ。肌着の上からでいいから着けてみて?」

 

 

 渡されたのは手の平サイズのデバイス。

 確かに大きさは丁度覆える位だな、コレを装着すればいいのか?

 

 着けるにしても如何やりゃ良いんだ────……お。近付けただけで磁力的な感じに引っ付いてくれた、それも窮屈な感じも無い。

 また面白い発明だな。どんな目的か分からんが。

 

 

「こんな感じで良いですか?」

 

「早速新機能使おうか、AISA!」

 

 『栗衛様 どうされましたか?』

 

「自動装着お願い!」

 

 『解りました』

 

 

 その命令に反応して、馴染みのある声が機動装甲服の方から。

 

 …待てよ? いつもと装着の仕方が違う。

 試作品の段階では俺の身体をスキャンしてから時間を掛けて各部位を纏っていた、しかし今回はスタートの時点で進化してるな。

 

 “AISAアイサ”こと“燈日綺矩ヒヒイロカネ”を補助するAI、彼女が自立して装着してくれてる。

 

 当初から存在する問題点の1つだった機動装甲服の自己完結能力・・・・・・

 着るのにも労力が要るその理由は『単体で動かす為の動力源が無い』ってこと。

 生み出すのが困難だし、『機体の唯一性』という制約としても生半可なモノは駄目。

 初期では解決するのも怪しかった筈なのに………

 

 

『(無人運用とはな────……動力源は?』

 

「先に言うと“複製”は研究中なんだけどさ、飛威炉クン仕様の起動デバイスは開発できたんだ!」

 

『俺、仕様ですか?』

 

「前の研究憶えてる? 君のエネルギーを別の媒体で保持できるかの奴。でさ、発動後1時間蓄積できる動力源は造れたの! ソレが“コア”に呼応して起動するようになってて、AISAの操縦である程度は動いてくれるから!」

 

「“コア”に関係無く稼働するなら機動装甲服の存在意味に影響するしな」

 

「まず動力源の小型化がむずいし! 体育祭とかの仮想ヴィランみたいなのは戦闘のみに特化してたりそもそもデカかったりするからさ、パワードスーツでは無理難題だったんだよ?」

 

 

 やはり……相当な苦労があったようだ。

 

 10秒も経たずに装着完了。使用感を確かめる為に各部位の動作を確認し、前作より明瞭に操作できてる気がしてきた。

 先程着けたデバイスとも同期してコアのエネルギー状況も表示してるな。

 

 

 『着心地いかがでしょうか?』

 

『………AISAってこんな感じでしたっけ?』

 

「学習機能も進化させながら、より人間らしくしてみたよ!」

 

 『今後とも宜しくお願い致します。飛威炉様』

 

『あぁよろしく……なんだか変な感覚だな』

 

 

 メット内に響く声が機械音声じゃない。語気もどこか柔らかくなり、本当に人間が喋ってるんじゃないかと思えそうなレベルだ。

 ってか人間らしくって何故に? より柔軟になったと受け取るべきなのか。

 

 とは言え、最早どこが変わってないのかも判らない位だな。

 説明だけで期待値を超えてみせるなんて………

 

 

────……そりゃ疼くよな。

 

 

「使用感、試したいよね?」

 

「良いんですか?」

 

「その前提で用意したんだから! あっ映像撮らせてもらうね?」

 

「飛威炉、体の具合は?」

 

『大方回復した。問題無い』

 

「今更だから止めないが、少しでも無理をしてると判断したらすぐ帰らせるからな」

 

『解ってる。出来る範囲で試す』

 

 

 いやキツイっちゃキツイけども、お預け食らって素直に眠れる代物じゃねぇな。

 わざわざ呼び出してる時点で実践前提だったんだろ?

 

 早めに越した事は無い。やれるんだったら今すぐ試したいんだ。

 

 

「試練で疲れてるのにゴメンね? でもさ、コレを見せただけで集まりは終わり!ってのは逆に可哀そうだしさ。そもそもアタシ達も簡単には集まれないしね?」

 

「多少観たら事務所に戻ります。目的は終えたので」

 

「私達もひと通り終えたら一緒に帰るぞ」

 

『今日は父さんも帰れるのか?』

 

「あぁ。出張も終えて、明日は都内主要プロヒーローとの会合だ』

 

「先輩も人のこと言えない位に働き過ぎですよ?」

 

「学生と比べるな」

 

「どっちもヤバいから比べなかろうが体壊しちゃうの目に視えてるって事ですー!」

 

 

 誰が言うんだって感じだが俺も同感だ。

 生まれてまだ見てないな、父さんがしっかりと腰を落ち着かせてるのは。

 帰宅してもやって夕食一緒ぐらいだ。ちょっと話したら書斎に戻って仕事絡み、まぁそもそも会社にトンボ返りで1週間帰らないとかがザラだな。

 

 その姿こそ俺を生き急がせる要因の1つだ。

 …だから、遅れは許されない。

 

 

 うずうずしてんだ。とっとと実践させてもらおうか?

 

 

 

「ってかさっさと始めなきゃ、まずは解りやすい変更点からいこっか!」

 

『画面のUIが変わってますね』

 

「そー! 機体状況を瞬時に理解できるように……───

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

「帰るぞ」

 

「了解。…久し振りだな、父さんの運転は」

 

 

 

 ッ疲れた────……けども充実した時間だった。

 

 

 2時間弱か? 機動装甲服の初見からぶっ通しって感じだな。

 

 もう今日は終わりだ。…試験会場で寝てたっていうのに眠気がどっと押し寄せて来てしまったよ。

 こりゃ帰っても習慣のストレッチもままならなそうだな。

 

 促されるがまま扉を開けて、微睡みに任せる様に深く腰掛ける。

 眠ってしまっても父さんは構わないんだろうが………気になるトコロを霞みそうな視界の端で捉えてしまう。

 

 

「そう言えば、車また変わってるんだが」

 

「今更の事だろう」

 

「何台目だ? 見た目とか大きく変わってないけども……」

 

「人目を忍ぶ1つの手段だ。それに改造もするとなると数が要る」

 

「…用心深いというか何と言うか」

 

 

 別に事情を理解してない訳じゃない。有名人の愛用車ってのは勝手にマスコミとかに取り挙げられるモノだから、対策打つのは正しいさ。

 普通、自家用車の話で『改造』なんて言葉出ないんだけどな?

 

 よく見ればハンドル回り、機動装甲服みたいな設備と化してる。

 

 外装だけなら地味なスポーツカーなのに内装はもうさながらコックピットだ。

 フロントガラスに交差する対向車両を捉えるターゲットカメラ。ナビパネルも戦闘機に備え付けるタイプの奴じゃないか?

 A.R.Cの研究がココにまで侵食してるとは………

 

 

 

 って考えてたら、父さんが忘れかけてた話題を蒸し返す。

 

 

「飛威炉、アレで誤魔化せてる訳ないからな」

 

「……何がだ?」

 

「圧を掛けたいのは構わないとして、公安がこちらと敵対したいと思えないんだが? もう少しマシな言い訳で取り繕うんだな」

 

「別に………嘘はついてないぞ」

 

 

 バレてたか。ちゃんと想定通りの指摘だし。

 

 それに────……歯切れの悪い返答じゃ無駄みたいだな。

 

 

「詭弁だな。粗方予想ついてるし聞かないでおくが」

 

「……良いのか?」

 

「だが口の堅さといなし方を身に着けろ。オールマイトの件も含め、多くを秘匿して生きてくんだからな」

 

 

 睨む事は無くともハッキリと忠告してきた。…下手糞な言い訳だけで、俺が隠そうとした“黒幕”の算段までも読んでみせたって事か?

 『聞くまでもない』、そう示す様に深く聞き込んでこないし。

 

 コレ・・が父さんだ。何処まで見据えてるか、俺じゃ計り知れない。

 

 

 

 判り切った返答をせず居る内に、街道をひた走るだけの静寂が流れた。

 

 気まずいって程じゃないが黙ってると意識を失いそうではある。

 今、中途半端に眠気を減らすよりは────……

 

 …そう言えばって話の種を思い出した。

 

 

「気になってたんだが、明日の会議ってどんなのだ?」

 

「興味あっても部外者に教える道理は無いが?」

 

「誰が参加するかとか聞けると思ってたな」

 

「都内トッププロぐらいある程度は把握してるだろうがな」

 

「例えば、“エンデヴァー”とかか? オールマイトは全国行脚するタイプだし」

 

「自分で調べてみるといい。今後の人生で絶対に関わる存在だ」

 

 

 教えてもらえないか。…インターンにも絡んできそうと思ったのに、無駄骨だったな。

 

 東京で事務所を構えるってのは至難の業だ。

 目立ちたがりの馬鹿が蔓延りやすいのが首都が抱える負の面とも言える、加えてヒーロー飽和社会の今時に新人事務所が参入できる土地も無い。

 その為、俺でも知ってるプロヒーローが都内担当ってパターンが多い。

 

 将来的に事務所を持つ事を考えると、実家を離れるのはヒーローを志した理由にも反するし俺も東京が良いと思ってる。

 父さんの言う通り把握しておくべき案件なんだろうな……。

 

 

「お前はもう少し身の回りの方に目を向けるべきだ。最近、家族との会話を蔑ろにしていないか?」

 

「そんなつもりは無いが……」

 

「では例を挙げよう。菟希の学校生活について、何か知ってるか?」

 

「ん? 友達も出来てよく勉強教わってるって件であれば……その口振りだと周回遅れって話なのか?」

 

「先程、自分自身で口にした者が関係してくる」

 

「エンデヴァーが? どのルートで繋がってくるんだよ?」

 

 

 急展開だな。何故、菟希の話でNo.2ヒーローが関わるんだ?

 

 

「同年代で誰が通っているか調べたら彼の息子が居た」

 

「へぇ……でも別に同級生なだけだろ?」

 

「否定はせん。しかし、母さんとの会話では一度話題に挙げたらしい」

 

「本当か?」

 

「相談されたよ、『「ちょっと話しただけ」と言ってたけど何か隠してる気がする』とな」

 

「…初耳だ」

 

 

 少し不穏じゃないか。お陰で眠気もマシになってきた。

 

 有名人の子供と同級生なのは今更の話。菟希が俺のせいで厄介事に巻き込まれるのも珍しくはない……申し訳ないけど。

 しかし、その2パターンが重なるのは話が違ってくるな。

 

 母さんの言い分を聞くにポジティブな話題な筈も無さそうだ。

 “エンデヴァー”の息子────……親の『個性』の性質には親近感を覚えてるのに、俺の及び知らないタイミングで謎の因縁が生まれたかもしれないのか。

 

 

「打ち明けていない辺りお前絡みかもな。ヒーロー関係者で菟希に“天蟲飛威炉”の名がチラつかない者もそうは居ない」

 

「とは言え愚痴ってきてもいい位の件だと思うんだが」

 

「配慮してもらってる立場でよく言うな、璃亞との件もそうだろ?」

 

「ん!?」

 

 

 

 突拍子もない話を振られて、思わず変に唸ってしまった。

 

 

 

 焚き付けたのは父さんだ。忘れる訳がない。

 

 …だったら当然か。何日も経って未だに進展も無いのだから。

 

 

「そもそも俺は“あの”時に決め切ると思ってたのにな」

 

「…色々、あったんだよ」

 

「先延ばしの言い訳は要らん。プロポーズとでも勘違いしてるのか?」

 

「っ────……」

 

 

 言って欲しくない事、完璧に言い切られたな。

 

 父さんの前で口だけで終わるのだけは避けてきた人生“だった”。

 ………よりによって一番情けない奴に成り下がっちまったよ。

 

 親に背中押されてこのザマ。冷たくされて然るべきか。

 

 

「配慮できるとすれば、『プロヒーローを志す者』の恋愛に対する恐怖心か。気が早い点は置いておいて」

 

「………多少はあるな」

 

「典型的だが最も考慮すべき問題ではある。実例も絶えず生まれ、その中の多くがパートナーなのは事実だ」

 

「…俺達・・だって似た経験あるだろ?」

 

「そうだな」

 

 

 考え無しに躊躇ってたのではないんだ。

 色々な経験積んで多少は考えが変わってきたが、俺の根幹に潜むあの日の景色は絶対に霞んじゃくれない。

 

 

 寝台で傷ついた姿で眠る母さん。

 傍らで泣きじゃくる菟希。

 虚しさと憤りが伝わる表情で状況を知ろうとする父さん。

 

 『俺』は、無力感にただただ打ちひしがれていた。

 

 

 

 ………状況は違う。璃亞なら、悲劇にだって抗ってみせるさ。

 

 俺だって全身全霊で守ってみせるよ。

 

 

 …その覚悟の割に引き延ばして、結果引くに引けないトコロまできた。

 見合うって何だよ? 答えの無い悩みに勝手に苦しんでる。

 

 

「間違っちゃいない、が……一度決めた事を曲げる様な人間に育てたつもりも無い」

 

「っ!」

 

「まず告白を規模やモノ如何こうで考え過ぎるなよ? 意地張れるほど大して知恵も無いのに」

 

「そっ、そこまで言うかよ……?」

 

「じゃあ何か思いついたか? お前の言いたい『理想のプラン』は」

 

「……………」

 

 

 

 なッッんにも出なかった。恥ずかしい限りである。

 

 俺なりに考えてたんだが上手くいってない。

 …『やるんだったら』の精神が悪さしてるかもな。

 

 

「はぁ────……自分で考えろ、とでも言っておくべきか」

 

「そりゃ当然。自力でやらなきゃ恥だろ」

 

「フッ、どの口が言ってんだかな」

 

 

 笑うの珍しいな。…面白がってなのか嘲笑ってなのか。

 

 まぁ受け入れるさ。結果で示すほか無い。

 それこそこーいった暇な内にスマホで調べる位のやる気は見せるべきか。『穴場のデートスポット』……いや大体調べた所しか出ないな……────

 

 

────……素直にクラスメイトの誰かに相談した方が身の為なんだろうけど。

 

 

 

 

 ただ無心でサイトを眺めてただけ。収穫無し、だな。

 

 疲れた頭で構想練れるほど楽なモノじゃないって、馬鹿な俺でも承知の筈なのによ。

 告白の件を掘り下げられた動揺を引き摺り過ぎたって事か。

 

 納得できるのはいつだろうか────……と黙ってたら。

 

 

「……そうだったな、前のダッシュボード開けてくれ。渡しておきたい資料がある」

 

「ん? あぁ、…予定表か?」

 

「来月からのインターンの内容を纏めた物だ。一々連絡するのも面倒だしな」

 

「成程な────……!」

 

「ちゃんと目を通しておけよ」

 

 

 『“瀧南水府ろうなんすいふ” 日本最大級のレジャースポット 今夏オープン!』

 

 と、書かれたチラシが資料と一緒に挟まれていた。

 

 

 神奈川県の瀧南にて誕生する超大型リゾート施設だ。

 美麗な湾岸エリアや、多種多様なプールやアトラクションを網羅した遊泳エリア。他にも温泉旅館すらある宿泊エリアや食事・観光何でもござれな総合エリアなど……

 云わば海のテーマパークか、その最上級って感じの。

 

 …今後のスケジュールこそ気に留めるべきなのに意中なのはコレ。

 

 『楽し気な企画に心躍らせてる』からじゃない。

 時勢に疎い筈の俺が“既に”知ってたからだ。

 

 

「珍しい、知ってるのか?」

 

「…応募したんだ。プレオープンの奴に」

 

「その様子を見るに落ちた訳と」

 

「あぁ……見つけた中じゃ、俺だって良い場所とも思ってた。…オープンするのを待ってたトコロだ」

 

「ちゃんと行動には映してたんだな」

 

「疑ってたのかよ」

 

 

 こんな俺でも努力はしたさ、結果で見ればしてないも同然だけども。

 

 海の日に開業予定だが7月初週末にプレオープンが控えている。

 その企画では来園者をネット抽選で募ってて、俺も入試を思い出すレベルの倍率に挑んでみたものの全くのハズレ。

 …ちゃんと落胆したよ。前行ったショッピングで水着を一緒に見て回ったのを思い出した時は、コレしかない!と確信してたのに。

 

 じゃあ開業まで待てばいいって話なんだろうが、そうなると人口密度が気になってしまう。

 普段の通学でさえ対処せざるを得ない問題なのに……オープン後1,2ヵ月の人気リゾートで満足に楽しめるのかは難しい気はしてる。

 だったら別案を、と思っても未練は残っていたトコロではある。

 

 

 しかし奇遇だ。その名前が予定表と共に降って湧いてきた。

 

 そもそも、何故チラシが混ざってるのだろうか。

 

 

「で、ココがどうインターンと関係してくるんだ?」

 

「運営側からの招待だ。“燈日綺矩ヒヒイロカネ”としてな」

 

「招待……仮免入手する前提だったって事か?」

 

「形式上は機動装甲服初出しの時と同じ、無きゃ無いでやり様はあったにせよ面倒を減らしたかったのは事実だ。第一に仮免試験に落ちる体たらくならば手厚い支援もクソも無いが」

 

「見放されないで済んで良かったよ」

 

「警備の名目でプロヒーロー数人を招待する様で、来場者との交流会も開くと聞いている」

 

「警備?」

 

「国内有数の娯楽施設の誕生だ。スタートに万全を期すのは当然だろう」

 

 

 大規模な公共物を守るのもプロヒーローの役目、瀧南も例外に漏れないって訳か。

 ただ、プレオープンの段階で複数人での防護策を擁するのはそれ程までの気合の入れ具合とも言えるな。

 

 職場体験以来のパトロールと交流会────……経験上ダブるものがある。

 中学の時の渋谷の件。ミッドナイト達と初めて会ったあの日、形式で見ればこのインターンと大きく変わらないと思える。

 

 犯人捜査で警備に動いてたイレイザーヘッドの役割。

 イベントに登壇して、ファンを楽しませたプレゼントマイク達の役割。

 2つの立ち回りをやれば良いと。

 

 …渋谷では本当に事件が起きたし別物かもしれんが。

 

 

「警備にヒーロー関係者を呼ぶのには訳があってな。…まず客引きとしての価値だ」

 

「治安維持を任せてファンも呼び込められれば一石二鳥って訳か」

 

「その通りだ。プロでもないのに対象者となれた要因だな、世間一般での注目度を利用する賢い手法とも言える」

 

「更に完成した機動装甲服のお披露目……企画立ち上げに父さん達は関係無いんだよな?」

 

「全部が全部A.R.C主導じゃない。考え過ぎだ」

 

 

 関わってないにせよ、タイミングは絶対合わせにいったろ。

 

 興業の面で言うと俺に価値があるのは頷ける。

 だとしても、仮免取ってすぐの学生を呼ぶのも面白い話だな。『サーのついで』であった方が納得性がある。

 

 

 情けない事言うと場を盛り上げるようなタイプじゃないし自信も無い。

 だがプロになれば、いや現時点であってもソレじゃ駄目だ。

 

 『人前に立つ』のであれば意識高くあれ。己を飾ってでもな。

 

 

「もう1つの理由は?」

 

「理由というより運営形態の仕組みだな。プロヒーローに招待受理の見返りとして『優良待遇券』を提供する」

 

「へぇ」

 

「言ってしまえばヒーローへの“福利厚生”だな。自由プライベートの無い者達にほど価値を増す権利になるだろう」

 

「そーゆーのって他のトコロでもやってるのか?」

 

「元からVIP待遇当然の店であれば数多ある。この規模の施設だとそうは無いが」

 

 

 その少ない事例の中で思い出すのは雄英体育祭だな。とは言え、観客の大体がヒーローの単日イベントと比肩するモノじゃない。

 一般公開するリゾートでやる事だからこそ意味を増す。

 

 プライベートビーチの1つや2つ所持してる者もいるかもしれんが、基本は羽を伸ばすにもココみたいな密集地帯は選択の余地にも入らない。

 名声ってのはプロに不可欠でも利益だけじゃないのが難しい部分か。

 

 

「有名ヒーローほど守る領域も広い。そこを空けてまで引き受ける理由を作らないとな」

 

「互いに旨味のある戦略って訳か」

 

「家庭を抱える者も多いのだから魅力的ではあるだろう」

 

「実際、俺達みたいなのがリゾート施設に行っても楽しめないって話してたもんな」

 

「随分と昔の話を……親として申し訳ないと思ってる」

 

「…いや、こっちこそ。嫌味言ったつもりじゃないんだ」

 

 

 内心『お前も言う程興味無かっただろ?』って返答を予想してたのが、俺の浅ましさだな。

 

 しがらみが無かったとは言わないが迷惑に考えた事なんて欠片も無い。

 “天蟲”の名を背負ってることは俺の誇りだ。

 

 

 無粋なこと言って変な空気にしてしまった。

 

 ………ごめん。手前勝手だが、話を戻してしまおう。

 

 

「まぁ……仮免取って、初手が警備とイベント参加か」

 

「拍子抜けとでも言いたいのか?」

 

「言えねぇよ。また今回も特殊なパターンだなと思っただけだ」

 

「ヒーローの一生などアドリブばかりだ、慣れろ」

 

「了解」

 

 

 切り替えにノってくれたんだから優しさに感謝しないとな。

 

 俺がもう少し柔軟な人間なら慣れてくんだろうが、実戦以外のアドリブは精進していかなきゃ遠い道のりだろう。

 一生懸けてお望み通りのヒーローになってみせなきゃ、だな。

 

 

 会話を続けながら資料を読み進めていく内に………なんだか見慣れない便箋が挟まれているのに気付いた。

 

 

「封筒、コレ父さん宛だ。混じってるぞ?」

 

「名義だけだ。開けてみろ」

 

「………?」

 

「都合が合わなくてな、折角の貰い物を無駄にしては失礼だろう」

 

「────……コレって」

 

「まぁ仮免合格祝いと思っていい」

 

 

 中にはチケットが2枚・・

 

 記されていたのは、“瀧南水府 招待”を意味する文字列。

 

 

 

 

 …………やっと理解が追いついた。吞み込むのはまだだが。

 

 

 単なる俺への祝いじゃない。ペアで用意したのはそう言う事だ・・・・・・

 

 『都合が合わない』なんて、それっぽい口振りも意図を読み解けばまどろっこしい前置きだと理解できる。

 らしくない誤魔化し方じゃないか? 仕事一筋な父さんなら貰う以前に断るだろうに。

 

 

 …で、何よりも望んでたモノが偶然にもこの手にある。

 

 

 

「別にいいぞ? 下らない意地で『要らない』と言おうが」

 

「……もう言わせねぇってか」

 

「如何なんだ?」

 

 

 

 黙ってろってか。そりゃそうだよな。

 

 言ってらんねぇよな? “自分の力で”、とか。

 

 

 父親にここまでしてもらって、己の体裁がなんだよ。

 

 この施しは俺の為だけの『親心』じゃない。

 

 

 

「恩ばっかりだな。……ホント」

 

「なら挽回しろ。『約束』を違えるな」

 

 

 

 貰った分を返さなきゃ筋が通らないんだ。

 

 璃亞を瀧南水府に誘って、然るべき状況で告白する。

 

 

 …うだうだしてた俺でもやる時はやるって示さなきゃな。

 

 開業後だから色々と対策しないとか。

 人が多いにせよ、水着込みでの変装で誤魔化していくしかない。

 

 ってか……いっそ他のメンバーも誘ってみるか?

 

 現地で告白するのがバレるのは恥ずかしい事この上ないが、どうせクラスで関係性を隠し通すのは無理だし不誠実な対応だ。何度も勘繰られてきたんだし。

 あと、未経験のレジャー施設に独力じゃ手持ち無沙汰になりそうで。

 

 誘うにしても費用面が懸念点だが果たして……──────

 

 

 

 そんな構想練りながら────……仮免やら新スーツやら、色々あり過ぎた1日がやっとこさ終わりに向かっていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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