緋色の英雄   作:kozmo78

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第6話 家族

 

 中学生最後の夏休みに入った。

 

 だが夏“休み”とは名ばかりで結局のところは普段の日常と変わらない、勉強と『個性練』ばかりの毎日だ。

 今日も相も変わらずIEルームで二人っきりである。

 

 

「(…58……59……60っ)よし終わり!…一旦休憩するか」

 

「はぁ…はぁ…、やっぱり捕まえられなかったわね」

 

「いや結構惜しかった。あと1分続けていれば分からなかったと思う」

 

「それは…ふぅ…良かったわ」

 

 

 ここ最近はトレーニングの一環として簡単な“鬼ごっこ”をしている。

 『1分間俺が飛行し続けている間に瑞銀の『個性』で一度でもタッチできれば勝ち』…ある程度彼女の流体金属に自由が利くようになったからこそ出来るようになった特訓方法であり、まだ一度も触れられてないとはいえ練習すればするほど危ない場面も増えてきている。

 時間に関して言うと、1分以上では体力が持たない為さっきの想定はまだ成し遂げられないが俺の方もそこまで余裕は無い。もう少し長くやれば追い付かれる可能性が増してきて、ムキになってギアを上げたりすれば下手したらガス欠にだってなるかもしれない。今だってする必要も無いのに、何故か瘦せ我慢してしまって気付かれない感じに息を整えている自分も居る。

 

 …そう思うと、もう実力差なんて無いのかもしれないと実感させてくれる。これも瑞銀の努力とこれまでの特訓の甲斐があったと自信をもって言えるだろう。

 

 

「今日はあと1時間くらいね。終わったら…いつも通り天蟲くんの家ってことで」

 

「オッケー分かった。それについてなんだが……俺ん家で夜食べていかないか?」

 

「え?珍しいわね」

 

「最近は調子良くて今日は母さんが夜ご飯作るんだが、是非いつも世話になっている瑞銀にも食べてもらいたいらしいんだ。」

 

「…世話になっているのは全面的に私だと思うけどそういう事なら勿論頂かせてもらうわ。ホントだったら行く度に朱寧さんに挨拶したかったところだったから願ったり叶ったりね」

 

「そりゃ良かった。…じゃあ今の内に母さんに連絡とってくるか、ちょっと待っててくれ───────」

 

「分かったわ」

 

 

 特訓の途中に聞くことになったが快い返事を聞けて良かった。

 体調の浮き沈みがあったり当人が慢性的な咳が見苦しいと考えていたりと言った理由で、週の多くは訪ねてくる瑞銀の前にもあまり顔を見せない母さんが手料理を振舞うなんて事は中々無い話だろう。…かく言う俺たち兄妹も基本的には家政婦さんの料理が毎食のメインであり、どちらかと言えば最近は菟希の方が台所に居るイメージさえある。

 

 

 …しかし、口では母さんが望んでいるのが理由みたいに話したが………実際のトコロは言い足りない部分もある。

 

 

 

 

 

 ・

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『璃亞さんが何か隠している?』

 

『そう。薄々感じてはいたんだが…母親に会えば大体分かると思っていたら逆にすんなり問題が解決したんだ。』

 

『問題って……瑞銀美麗さんが雄英行くのを止めるとかかしら?』

 

『ああ』

 

『そうなの!?ヤバいじゃん!………ん?でも解決したってことは璃亞さんのお母さんは認めてくれたってこと?なら問題無いじゃん』

 

『美麗さんは「私から言うことは無い」とまで言ってくれたよ。だからこれで万事解決……ってわけじゃなさそうなんだよな、あの顔は』

 

『璃亞さんに何かあったの?』

 

『分からないな、まあ…あったとしても瑞銀と美麗さんとの間でだろう。もしかしたら……本当に瑞銀が知ってほしかったのは雄英云々の話ではなかったのかもな』

 

『…何か悩んでるのかな、璃亞さん』

 

 

 初めて瑞銀の家に行った日、家に帰ってきてから少し遅い夕飯を食べていた途中に母さんから訊ねられた。そこまで思い詰めた表情をしていた自覚は無かったが、その気付きが間違いでもなかったのは確かだった。

 わざわざ俺を呼び出した上であの3人だけでの一幕であった以上、帰ってすぐにその内容を明かすのは信頼を失う行動だと自覚しているが…

 

 …俺の心の内に収めておくのは何も状況は上向かないような気がしたからこその告白だった。

 

 

『正直、家族間の問題に部外者が首突っ込んでも迷惑でしかないかもしれないがな』

 

『どうせ何とかしようと思ってるんでしょ?お兄ちゃんはヒーローナルシストなんだし』

 

『どーゆー意味だそれ。…せめてナルシストはやめてくれ』

 

 

 

 

ゴホッ……私に提案があるの』

 

 

 

 

 

 ・

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「「「「頂きます」!」」」

 

「ん!このグラタン美味しい!!」

 

「凄いですね、こんな豪勢な料理」

 

「この時間にここまで揃うのは久し振りだったから気合入れちゃったの。…遠慮せずどんどん食べてね」

 

「揃うってことは……父さん来るのか。席の用意もあるしな」

 

「もう少しで来ると思うわよ。今日の話を聞いて時間を合わせてくれたの」

 

 

 

 時間が過ぎてテーブルの席に。

 

 家族揃っての食事に身内でない人間が同席するのは自分の記憶だと初めてかもしれない。もうこの家の間取りすら把握してそうな瑞銀だからこそ言う程の目新しさは無いが、彼女の方はそうでもなさそうだ。

 

 母さんの横に空いた一つの席、そこにもうすぐ父さんが座るそうだ。

 父さんは帰ってこれない日もしばしば、帰ってきたとしても夜遅くで家族全員の食事なんて月にあるかどうかって感じだ。その為、知り合ってから1年近く経つのに今日初めて父さんに会うのも当然の流れだろう。

 食事を進める速度を見ても周りを窺って落ち着かないように見える。

 

 

「久悟さんは…私の事知っているんでしょうか?」

 

「勿論!息子に家に呼べるくらいの友達が居るのに忙しくて会えなかったことを悔しがってたぐらいよ」

 

「最初知った時は彼女が出来たのか?って思ってたんだよ!これ、璃亞さんのサラダね!」

 

「ありがと……菟希ちゃん、それちゃんと訂正してくれたの?」

 

「うん。でもお兄ちゃんが同級生と仲良くなってること自体に驚いてたけどね!」

 

「どう思ってたんだ俺の事…『ピンポーン』……帰ってきたみたいだしその話は終わりってことで」

 

「ちょっと待っててね、ハーイ今開けるわよー」

 

「…朱寧さん、今日は元気そうで良かったわ」

 

「瑞銀に料理を振舞えるのを前々から楽しみにしてたんだ。…月に数回あるかどうかの体調良い日が今日で本当に良かったよ」

 

 

 呼び鈴が鳴って母さんが玄関へ向かう。

 普段だったらロック解除なんて俺達兄妹か家政婦さんが対応するが、元気そうに歩いていくのを見たら止めるのは野暮だ。

 目の前に並ぶ料理を用意して他の仕事も率先して動こうとするのは今日と言う日を楽しみにしていたからこその行動力だろう。

 

 

「…あんま緊張する必要無いぞ」

「そうだよ璃亞さん、お父さんは怖い人じゃないよ!」

 

「分かってるけどね………」

 

 

 

「────────────いやすまない、急患の対応で少し遅れてしまった。……初めまして、かな…瑞銀璃亞さん」

 

「…初めまして。お邪魔させていただいてます」

 

「お互いそこまで畏まらなくていいのよ?じゃあ久悟も手洗いうがい済ませたらここに座ってね」

 

「ああ、少し待っててくれ」

 

 

 すぐにリビングから出てしまったが二人の初めての顔合わせとなった。

 まあ父さん自体が仕事一筋の真面目人間で、瑞銀も変に緊張してるからかさっきまでの空気よりも引き締まっているようにも感じる。…菟希なんて美味しそうに食べていたグラタンが手元のスプーンに残ったままだ。

 

 洗面所から戻ってきた父さんが席に着くと食事が再開したが、何故かこっちにも空気が伝染しそうになる。

 

 

「話は家族から聞いてるよ。…飛威炉がいつも世話になってるな」

 

「世話なんて…感謝したいのは私の方です。天蟲くんのおかげで日々楽しく過ごせてます」

「いや言い過ぎだろ」

 

「それにしても中学生になって初めて家に呼ぶのがこんなしっかりした子だなんてな。…こちらも忙しかった為家族面談ぐらいでしか学校状況を知れなかったんだが、このままじゃ友達0人で高校を迎えるんじゃないかって

「それは言わなくていいでしょ」

 

「それもこんな可愛い人だからね!初めて会った時お兄ちゃんヒーローになる事しか興味ない感じなのにやっぱモテるんだな~って思っ

「菟希もノらなくていい!」

 

 

 …さっきまでの堅い雰囲気が少し緩んだ。

 

 父と娘で似たのか、普段の俺を同じように弄ってきた。…別に友達を作りたくなくてこうなっている訳ではない、と言うのは心の内で否定しておく。

 

 

「…うん、やっぱり朱寧の料理は上手いな。今日もありがとうな」

 

「ふふ、ありがと。でも菟希もこの春巻きとか手伝ってくれたのよ?」

 

「そうだよ!テレビで観てやってみようと思ったんだ!」

 

「流石料理上手の母さんの子だな、知らない内にこんな成長しているとは………飛威炉もトレーニングばかりしてないでちゃんと手伝うんだぞ」

 

「肝に銘じてるよ」

 

「ならいいさ。………ところで璃亞さん、一ついいかな?」

 

「何でしょうか?」

 

「“ヒーローになる”のは簡単な話じゃないのは分かっているよな?」

 

「っ!」

 

 

 奇しくも美麗さんに言われた言葉と似たセリフが、厳しく瑞銀の方に向けられた。

 しかし何となくだが……あの時のモノとは意味合いが違うようにも思える。美麗さんの言葉には“親”としての責任が籠められていたと思っているが、父さんの発言は初対面の女子中学生に掛ける言葉ではない。

 事実を冷たく警告する様が、父さんが“ヒーロー”に対してどれだけの努力と覚悟が要るかを分からせてくれる。

 

 

 

「これは飛威炉にも言えることだが…子供が少し憧れたぐらいでなれるようなモノではない。僅かながらヒーローに携わる仕事をしている以上、たとえ飛威炉の大事な友達だとしても言わせてもらう………生半可な覚悟なら認める気は無い」

 

「父さん…………」

 

 

「…ありがとうございます、私の事ちゃんと考えてくださって。…でも、言わせていただきます────────────

 

──────ただ憧れたんじゃないです、…私だって・・・・No.1ヒーロー目指したいんです」

 

 

「……!」

「………………」

 

 

 父さんが心配するのも分かる。瑞銀がどんな人間かまで詳しく知って無くとも、この年代で『ヒーローになりたい!』なんて宣う奴の大体がヒーロー飽和社会の時流に調子づいた幼心の持ち主だ。そんな奴らが大人になって文字通り痛い思いしてるトコロなんて、医者の立場で嫌と言う程見てきただろう。

 

 現実を突きつけるような言葉にどう感じるか心配であったが…正直驚いた。

 この約1年妥協せず自分の成長のために『個性』を研鑽する瑞銀に、雄英に行くための偽りなき向上心を感じていたのは間違いない。

 それでも……迷いなく見据える彼女の眼と啖呵切る姿は想定する答えを上回るモノだったと思えた。

 

 

 少し息をついて、父さんが席に着いたまま頭を軽く下げた。

 

 

「申し訳なかった。…試すような真似をして」

 

「…え?」

 

「折角の食事の場で緊張させるような事を聞いてしまって申し訳ない。飛威炉の友達と言えど気になってしまってんだ」

 

「いえいえ!別に気にしてませんので」

 

「ダメだよお父さん!黙っておいたけどそういう話はご飯の後にしてよね!」

 

「久悟、真面目が過ぎてるわよ。…璃亞ちゃんが緊張してご飯食べにくくなったら許さないからね!」

 

「…本当にすまない」

 

「もうこの話は終わりね!食事に戻りましょ、料理が冷めちゃうわよ?」

 

「「ああ」」

「ハーイ!」

「分かりました」

 

 

 

 

 

 …そして、元の夜ご飯へと戻った。

 

 話はひと段落ついて、食事が終わるまで学校の事や『個性練』について、普段の受験勉強や高校に行ってやりたい事など様々な事を話した。瑞銀も話している内に打ち解けてきたのか、いつもの飄々とした態度に戻ってきていた。

 

 一事はどうなるかと思っていたが、何だかんだ楽しんでくれてよかった。話に華を咲かすうちに母さん・菟希・瑞銀の3人で今度料理を作る約束を知ってるあたり、こちらの・・・・家族とは仲睦まじく話している。

 

 

────────────“こちらの”と言うのは俺の推測だが。

 

 それに関しては隣で夜道を歩いている返答次第で分かる筈だ。

 

 

「今日は楽しかったわ……ホントに」

 

「そりゃ良かった、こちらとしても親二人とあそこまで仲良くしてくれるとは思わなかったよ」

 

「お二方とも素晴らしい人なんだから当然でしょ?また会えるのを楽しみにしているわよ」

 

「母さんの方は体調さえ良ければ問題無い、父さんの方は…いつになるか分からんがこれだけは言える、……家に居づらいのなら何時でも来てもらって構わないぞ」

 

「……………やっぱり気付いてたのね」

 

「何となくだがな。美麗さん見る限り表面的には何も無さそうに見えたが……勘、みたいなもんさ」

 

 

 歩みは止まらなったが会話が一度途切れたことで、瑞銀が何を想ったかが推し量れる。

 今まで何も俺の家に頼るような我儘を聞いた事なんて無かったからこそ、彼女がどんな想いを堪えているのかを知りたくなってしまった。

 たとえ部外者だと思われても、我慢してる事に口出すなと思われようとも───────────今日で俺達家族が“ただの息子の友達”とは思ってないと分かってほしいのだ。

 

 

 

「……昔は、お母さんとも仲良かったの」

 

「…離婚してから、あの家に二人っきりになってから変わったの。お母さんは仕事で殆どいなくなって私も年を重ねるごとに気を遣うようになっちゃって、小学5年生になる頃には二人で外出なんて事もなくなってしまったわ」

 

「…別にお母さんが嫌いになった訳ではないのよ、あの時も普段話さない娘が雄英入るって聞いて心配になったからこそ天蟲くんを呼び出したの」

 

 

「ああ」

 

 

「でもね……お互いの時間がすれ違うほど“家族愛”ってモノが薄れていったの。お母さんも学校の事とか聞かなくなったし私も…段々それに何も思わなくなった」

 

「このままの生活が続くのかなって思ってたんだけど………去年、天蟲くんと初めて会う前ぐらいにね、お父さんが帰ってきたの」

 

「元々私が知らないトコロでお母さんとは話が進んでたみたいで、数か月ぶりに会うお父さんが嬉しそうに話してくれたの、『やっと父親として相応しい人間になれた』ってね」

 

「…お父さん、俳優業を辞めて作家の方に行ったら上手くいったらしいの。今度テレビドラマの脚本に携わるって話も聞いたわ。そして……そのドラマの主演をお母さんが務める話とこれを機に縒りを戻す話もね」

 

 

 お父さん……『海嶋コージ』だったか、詳しくは知らないが美麗さんキッカケで知ったドラマに名を連ねていたのは覚えている。昔瑞銀家の事を調べた時には無名俳優としか書かれていなかったから印象は無かったが、ここで繋がってくるとはな。

 両親の成功ならその子供も喜ぶ話である筈なのだが………瑞銀の顔は暗い。

 

 

「確かにお母さんとお父さんが仲良く話してる姿に“懐かしさ”はあったの。でも──────────────“嬉しい”とは思えなかったの。子供の頃は夢にも3人で笑い合うリビングを出てきてた筈なのに、今じゃ自分の家族の思いやりにも嬉しいと思えなくて………そんな私に嫌気が差した」

 

「お母さん達もそれに気づいたのか急な復縁はしなかったけれど、来年には再婚する話で落ち着いたの。…普段よりも楽しそうに話すお母さんを見て断るのは気が引けてしまったわ」

 

「───────そんな時に天蟲くんに会ったの。気まずくなった家から離れるためにもやってた『個性練』繋がりで知り合えて、そこからの学生生活は……楽しかったわ。菟希ちゃんや朱寧さん、久悟さんにも良くしてもらって感謝しかないの………だからっ!」

 

 

 隣に居た瑞銀が俺の目の前に躍り出る。夜闇の中で外灯に照らされ、艶やかに照らされた銀色の髪の彼女が……いつもよりも輝いて見えた。

 

 

 

「雄英に入ったら一人暮らしするの。ちゃんと勉強して特訓して…家族からも独り立ち出来るぐらいになって、あなたも超えるヒーローを目指すわ!だから……これからも手伝ってよね?」

 

 

「…ふっ、“ライバル”の手助けか。そんなの………断るわけないだろ?こちらこそ、宜しくな」

 

 

 

 そう言って瑞銀は別れの挨拶を残して家に帰っていった。

 

 帰り際に見せた吹っ切れた笑顔には、不安に感じる要素なんて一切存在しなかった。

 ………気づいたら振り返って戻ってきてるけど。

 

 

 

 

 

 

 

「───────────1つ、忘れてたわ」

 

「ん?どうした?」

 

「お母さんの事“美麗さん”って呼ぶのに私の事“瑞銀”って呼ぶのはおかしくないかしら?」

 

「…そうか?」

 

「ってことで、もう一度言うわ───────

 

───────────またね、“飛威炉”」

 

 

「…ああ、またな“璃亞”」

 

 

 

 

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