緋色の英雄   作:kozmo78

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第7話 落とし物

 

「璃亞は雄英の推薦入試受けないのか?」

 

「推薦入試?…考えてはいたけど倍率凄いんでしょ?」

 

 

 食事会から一週間後、いつもの『個性練』とは違って学校以外の場所に向かっている。蝉の声が陰りなく増す炎天下の中でずっと気掛かりだった事を思い出した。

 日中で待ち合わせするには蒸し暑過ぎて会話も途切れそうになっていたから話題作りには丁度良い。

 

 

「元々どの方法で行っても難易度なんて変わんないだろ。推薦入試の選択肢があるのもこの学校の利点なんだからやってみりゃいいだろ?」

 

「それは飛威炉も同じ話でしょ?あなたなら楽勝なんだから出来るだけ早く決着する方が良いと思うけど」

 

「要らん期待だぞそれ。あと、俺は受ける気無いし璃亞に受けてほしいって考えなんだが」

 

「…どうして?倍率が高すぎて推薦枠が一つしかないのは知ってるけど飛威炉が受けない理由にはならない筈よ」

 

「一人暮らしするんだろ?推薦が受かれば奨学金だってもらえる、あの家なら生活費には困らないと思うが璃亞の言う“独り立ち”には役立つと思ってな」

 

 

 推薦入学………雄英にもその制度は存在し、内申で考えれば俺ら二人とも条件には当てはまるが本人の心持では彼女の方が相応しい。

 

 俺は別に推薦入学者とかの立場に興味は無いし、普通に入学試験受けても特に問題無いと推測しているから推薦入学に拘りは無い。

 しかし璃亞にとっては話が違う。“あの”雄英に推薦で入るなんて肩書はヒーローを目指す子供を持つ親にとってはこれ以上の保険は無いだろう。それも好待遇の奨学金のオマケ付きだ。

 俺なんかよりは絮吏儕の代表として選ばれるべきだろう。

 

 

「あなたがそう言うなら考えようかしら……でも、こんな暑い中でする話じゃないわね」

 

「確かに…そうだな。涼しい屋内で落ち着いて話す方が正しいだろうな」」

 

「話している内に近くなってきたわよ、周りの人も増えてきたし」

 

「ああ、やっぱ人気なんだな。ってことは………あそこが“渋谷ヒロイック”か」

 

 

 渋谷駅から出て10分ほど歩いたところにある大型ショッピングモール“渋谷ヒロイック”。普通の商業施設と同様に様々な小売店や飲食店で賑わっているが、一番の売りは名前通りの要素だ。

 国内のヒーローにまつわるグッズは勿論、実際に来ていたコスチュームとサポートアイテムの展示や一部の実際な体験、有名ヒーロー視点のVRゲームや交流イベントなどなど………、ここでしか味わえないモノに溢れている。実際今日の目的もそれである。

 

 

「まず何処か行きたいって場所はあるか?昼には少し早いが…」

 

「うーん…じゃあ『MIGHT×CUSTOM』行こうかしら。並ぶぐらい人が居たら…またその時ってことで」

 

「オールマイトのとこか、分かった。…さっさと向かうか、熱中症になったら元も子もないしな」

 

「そうね、行きましょ?」

 

 

 

 近付くにつれて人口密度が高まっていき、世代問わず期待に満ちた人々の熱気が増していく。避暑地を求めて歩いているのに放射日光以外の要因でより息苦しさを感じていると思うと、オアシス前のとんだトラップにも思えてきた。

 特に俺の場合は胸部のコアが暑さにやられて使ってもないのにオーバーヒートしてると勘違いしそうになる。だから基本的には夏は好きじゃないがそんな子供染みた我儘を横の彼女にバレるのは気が引けた。

 

 テーマパークみたいな入り口を抜けて気持ち急ぎ目に自動扉に向かうと、駅以来の冷気を肌に触れられた。先程まで涼しげに歩いていたように見えていた璃亞も、施設に入れば何となく快さそうに手元のハンカチで汗を拭っている。

 

 

「2階の…あそこのエスカレーター昇ったところか、まあ見た感じ入れなくはなさそうだな」

 

「夏休みだから人込みも凄いわね。前来た時より賑わっていると思うわ」

 

「何だかんだ俺は初なんだよな、こーゆー人気な場所はこんな感じに人が多くて苦手だから避けてきた」

 

「ふふっ、クラスでもぼっちなのはそういうとこが起因しているのね」

 

「ほっとけ、もうすぐ着くぞ」

 

 

 どうせ璃亞の事だから気付いてそうだが面白そうに話題にするのが彼女らしいと思っておこう。…陰でそれに近い言葉を耳にした事もあるから否定出来ないのもあるが。

 

 昇り終えて見えてきたのは金色と赤色を基調としたオールマイト専門店『MIGHT×CUSTOM』。本人のイメージカラーで出来たこの店は、オールマイトに関連するグッズや歴代のコスチューム等が充実している。歴代最強はこういった部分でも力を発揮して初見でもこの店が人気なのが分かる。

 「ココに来ればまずコレ!」みたいなのは知らないけれど、大衆人気のあるこの店を一番に選ぶのは璃亞らしくないと勝手ながら思ってしまった。

 

 

「雄英入れば“被服控除”で自分のコスチュームを注文出来る、だから参考になればと思って“渋谷ヒロイック”に来たが…璃亞ってオールマイト好きなのか?」

 

「私も皆と同じよ、テレビで最初に観たヒーローがオールマイトなの。まあ……こんな派手なのは着る勇気無いけどね」

 

「成程。オールマイトも色んなコスチューム着てきたし良い参考になるかもな」

 

「30分程見たらすぐそこのフードコートで昼食ね、その後は飛威炉の行きたい場所に行きましょ」

 

「別に璃亞の行きたい場所と同じだから気ぃ遣わなくていいよ、まあ取り敢えず回るか」

 

 

 30分で回りきれるかどうかってぐらいの広さと賑わい具合なので立ち止まってても意味が無い。

 人が空いている所から回っていったが、やはりと言うべきか知らない事ばかりだった。この国に居ればオールマイトの事なんて嫌でも知れるが自分が生まれる前の活躍もそうだし、正しく“ヒーローらしい”派手なコスチュームにも意味が込められていたことに関しては知る由もなかった。

 

 そもそも進学が決まった訳でもないのに被服控除の妄想するのも気が早いとは思う。とは言え息抜きも兼ねている為モチベーションの向上に繋がれば万々歳だったから、璃亞の興味のが無いとは思えない何処となく楽しげな表情を見てそれだけでも満足できた。

 

 俺もそれに倣って自分のヒーローコスチュームの理想を考えてみたが…、オールマイトみたいな機能性シンプルだけど見た目派手なタイプは向いてない気がする。昔菟希に「絵描いてみて!」と言われて見せたら何故か笑われた経験もあって自分のデザインセンスは信用していないし、俺の『個性』的に着やすさ重視とかで済ますのは勿体無いように思う。

 現状俺の『個性』の応用は飛行能力ぐらいしか無いが何かの動力にもなり得るこのエネルギーを、ただ放出するだけの扱いに終わらせてはいけない。璃亞みたいに自由に形を変えることは出来ないから放出方法や出量で違いを出すしかない現状を変える方法がコスチュームやサポートアイテムにあるなら───────────

 

 

 

 

 

「飛威炉、そろそろ行きましょ?」

 

「ん?ああ………」

 

 

 展示物を眺めながら考えていたら璃亞に声を掛けられて我に返った。体感時間以上に思考に没頭していたらしい。

 特に何か買う事無く近くのフードコートへ。どの店を選ぶかは璃亞に任せたら最近話題になっているジャンクフード店で食べることとなった。巷では“映え”を重視した料理も多いようだがここのハンバーガーは美味しかった。……こういう時に思うが、傍から見ればデートって状況なのに女性側にプランを任せるのはあまりにダサいのでたとえ見栄でも事前に飲食店のリサーチとかはすべきだと実感する。

 

 

「璃亞のヒーローコスチュームのイメージってどんなのなんだ?」

 

「漠然としか決まってないけど…ドラグーンヒーロー“リュ―キュウ”みたいな感じかしら。私が一番推しているヒーローなの」

 

「ああ、最近20位以内に入った人か。なんか見た目似てるかもな」

 

「嬉しい事言ってくれるのね、褒めても何も出ないわよ?あ、でもここの食事代は出すからね」

 

「いや今日出る支払いは俺がするから要らないよ、俺が誘ったんだからそこと荷物ぐらいは俺がする」

 

「…良いの?甘えちゃって。無駄に買わせる気は無いけど大丈夫なの?」

 

「俺に欲しいモノの予定は無いからその分有効利用させてくれ。その分の用意は必要の時用に溜めてあるからいくら買っても問題無いぞ」

 

「ふふっ、変に気負いさせそうな言い方やめてよね?…でも甘えようかしら。ねえデザートでも食べない?あそこのParty-1パーティーワンとかで」

 

 

 奢りが決まってすぐ言うあたりちゃっかりしてるなとは思ったが、それぐらいの提案だったら断る理由なんて無い。

 

 昼ご飯を済ませて早速買ってみたが…久し振りに食べると旨いもんだな。家族の会話を思い出してこの味を選んでみたが菟希が好んで欲しがるのも分かる。その菟希も今日の話を聞いて来たがっていたが、友達から急遽遊園地の誘いが来て残念そうにそっちの方を優先する事となった。…優先したと言っても俺達が「また機会があるんだから友達の方行ってあげれば?」と説得してやっと納得するぐらいには渋っていたのだが。

 

 

「次行くとこなんだが、これからやるイベント行ってみないか?」

 

「へえ珍しいわね、お祭り事とかは苦手じゃなかったかしら?」

 

「好きじゃないってだけだし人込みを毛嫌いし続けたらヒーロー目指すとか言ってられないだろ?1階の特設会場でやるらしいんだが、丁度俺達が行くべき理由もあるしな」

 

「理由?……まあ楽しみね」

 

 

 

 

 

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「レディースエ―ンジェントルメーン!!今日は俺達のライブにようこそー!!MCはこの“プレゼントマイク”と~」

 

「ミッドナイトよ!宜しくね!!」

 

 

「「「わあああああああ!!!」」」

「ラジオ聞いてるぞー!!」

「イレイザーヘッドは~?」

「ミッドナイトー!ウインクくれー!!」

 

 

 大広間に出てみると、二人のヒーローが立つ舞台を囲むように凄まじい数の観客が沸いていた。

 壇上に居るのはマイクヒーロー“プレゼントマイク”と、18禁ヒーロー“ミッドナイト”。どちらも雄英高校の教師を務めていてヒーロー活動と教職双方で活躍している……とここ最近ヒーロー史の勉強の中で知った。

 イベント内容はトークショーとファン交流会。メンツ的には雄英高校の呼び込みも兼ねてそうだが…そのメンツには一人足りないとは思う。

 本来は雄英の教師がどんな人なのかその目で見ようと思って璃亞を誘ったが、観客からも疑問が出てるように抹消ヒーロー“イレイザーヘッド”の姿が無い。知ってる限りだとメディア嫌いだったと思うがドタキャンでもしたのだろうか。

 

 

「リスナーにはスマンがイレイザーヘッドは急遽仕事が出来ちまったんだ!だがしかしぃっ!クールなアイツの分も俺の面白トークで盛り上げてくぜぇ!!」

 

「今日は大出血サービス!私の初公開の秘密も話しちゃおうかしら?」

 

 

「「「うおおおおお!!!」」」

「プレゼントマイクもクールだよー!!」

「おい!?どんな秘密教えてくれるんだ!?うおおおおおおお!!」

 

 

「メッチャ盛り上がってんな。結構突発的なイベントだった筈だが…」

 

「こんなイベントあったのね、あるなら言ってくれれば良かったのに。この感じだと雄英目指してる中学生も多いんじゃない?」

 

「かもな。立ち見になりそうだが仕方ないか、人が増える前に行こうぜ」

 

 

 始まったばかりなのにこの盛り上がり、流石人気ヒーローと言ったところだろうか。一部で男臭い喚声が上がっているがそれは気にしないでおく。…子供も多く集まるイベントに“18禁”ヒーローを読んで良いのかは疑問ではあるが。

 璃亞の言うように同世代であろう人も多いが、それ以上にそもそもの観客数が想定以上に多い。もしかしたらショッピングモールの客が全員来そうな勢いにも思える。確かに道中でスタッフの宣伝も聞こえていたが、渋谷のヒーロー系のイベントとなると老若男女問わず人が集まるもんだな。

 

 璃亞の方を見ていると……結構真剣に聞いてるな。空調が存在するとはいえ日が差しているこの会場でたとえヒーロー関係ないプライベートの話でも興味深そうに伺っている姿は、ヒーローそのものに惹かれていることを表しているようだった。

 

 

「…来て良かったな、サプライズは成功ってところか」

 

「知り合って初のサプライズがここでくるとはね。…まあ楽しませてもらうわ」

 

「それが聞けて良かったよ。そういえば熱くなりそうなのに飲み物買い忘れてたな、ちょっと自販機行ってくる。何が飲みたい?」

 

「麦茶でお願いするわ。まだ混みそうだから迷子にならないでよ?」

 

「ガキじゃないんだからな……じゃっ」

 

 

 観衆を掻き分けながら店舗の方で戻っていく。今日1の暑苦しさを食らったがそんなの気にしてられない、さっさと帰ってこないと俺の定位置もなくなってそうだ。

 

 オーダーに沿える自販機を探していると昼前より客足が落ち着いた店内に目が付く。やはりイベントに人が集まって来た時よりも落ち着いて移動しやすくなっていそうだ。まあ終わる頃にはごった返していそうだが───────────

 

 

「っ!」「いっだ!?ったく邪魔なんだよ!!」

 

 

 会場の方から走ってきた男性とぶつかってしまった。俺の方は後方からの衝突だったとはいえ怪我は無かったが、相手の方はこっちが確認する前に悪態つきながら店内へと駆けて行ってしまった。

 

 邪魔になる程入り口前で仁王立ちしてた自覚は無かったが謝るべきだったなと思案している内に姿は見えなくなった。今更過失がどうとか考えても意味無いし気にしないでおくべきだが………何であんなに急いでたんだ?

 イベントの最中なのにあんな切羽詰まった様子で走る理由は何なんだろうか。楽しげな会場から来た割にはだいぶ鬼気迫る表情ではあったのも引っ掛かってしまう。

 

 …いや他人の事情なんて推測するのも時間の無駄か。早く目的を達成して璃亞の元へ……ん?

 

 

「(何か落としてったな。メモ用紙か?………!?『爆弾設置場所はB-3と…』ってこれ、ヤバい事書いてるな)」

 

 

 拾ったメモ用紙には今日の日付と爆弾を含んだ作戦内容が乱雑に書き殴られていた。実行犯のメンバー名が伏せられていたり時間設定などの詳細な内容が記されていなかったりと、口頭での指示をまとめたようなモノではある為信憑性ははっきり言って無いし、警察やヒーローに渡しても効力無さそうな代物だ。

 

 だが……イベントで人の減った店内、警備員等の注目が会場に集まっている事、そして手に内にあるこのメモと鬼気迫る表情だったあの男。

 これらの要素から考えたら無視できない状況かもしれないのは間違いないだろう。

 

 さあ…どうするかな。

 

 

 

 まあ、まず璃亞には連絡しとくか。麦茶だけ渡してまた戻ってきてから追うべきな気もするが、見てない内にまた増えている客席を考慮すると最悪下手に時間かかって状況を悪化させるかもしれない。

 って事で連絡内容は……

 

『すまん、ちょっとだけ待っててくれ』

『店の中に行くから。すぐ帰ってくる』

『もし10分後帰ってこなかったら後で送る写真を警備員に見せてくれ』

『特に問題は無いからイベント楽しんでおいてくれ』

 

 こんなもんで良いか。写真の方は今から10分後に送るように設定しておいた。急に送られても変に驚かせるだけだろうから、出来ればこの設定が使われない事を願っておこう。

 

 思い違いであることを大前提として、メモ用紙に載っている通りの場所に行ってみよう。

 まずはB-3、って事は地下駐車場の何処かか?確かに爆弾を設置するには向いているかもしれない。時間の猶予は状況的にもイベント的にも無いのだから急ぐか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ───────────なんて、この時は呑気に考えていたが…待ち受けていたのはある意味予想通りの展開ではあった。

 

 

 

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