私たちの戦いに介入した外星人の痕跡を辿り、行き着いたのは地球と呼ばれる美しい青い星だった。
いくつもの国という小さな群れを作る人間達が生活する、一つの小さな島国の日本と呼ばれる国に私は辿り着いた。
この体、人間の呼称である神崎進次郎からどうやらこの外星人はこの日本と呼ばれる国に住んでいたことが判明し私は彼の、神崎 進次郎の情報を求めてこの国の中心である「東京」のシブヤへとやって来た。
まずは図書館と呼ばれる施設で情報収集を行い、一度外の人間達を観察しようと図書館の外に出た時だった。
私を、いやこの体の持ち主である神崎 進次郎の名を呼ぶ人間達と出会うことが出来た。
彼についての情報を集めるには、彼を知る人間から情報を引き出すのが一番よい。
そう思っていたのだが、神崎 進次郎の死に驚きの表情を浮かべる目の前の二人の人間は片方が瞳が涙を流し、片方が呆然としていた。
涙、確か図書館の情報では目の涙腺から分泌される体液。眼球の保護が主要な役割であるが、人間特有の現象として『感情』の発現により涙を流すことがある。
確か『悲しい』『嬉しい』と感じたとき、『痛み』や『吐き気』を感じたときに流れる事が多いだったか。
「進次郎が、死んだ?」
「ウソ……」
この人間達には神崎進次郎の死を伝えるべきでは無かったのだろうか?
だが、偽ってもいずれ私が神崎進次郎ではない事に勘づかれる、もしくは気付かれるのは分かっている。
ならば隠さずこの人間達に協力を願い、人間達の言う小さな群れの中で神崎進次郎について詳しく調べた方がかかる時間は少ないだろう。
ふと、左手に装着されているブレスレットの宝玉に目を向ける。
ゾーフィに与えられたこのブレスレットを使わずに、私が彼と融合すれば恐らく彼の肉体は蘇生可能……だがその場合は、精神は彼ではなく私だ。
それに光の星の掟で他生命体との融合は法で禁じられている。
「混乱しているだろうが、彼の死は事実だ。私を外星人からの攻撃から庇い、命を落とした。私はわからない、何故彼がそんな行動をとったのか知りたい。何故、自身の命を賭してまでも私を守ったのかを」
可能なら、今すぐ図書館と呼ばれる場所に戻り人間の感情について調べ直す必要があるだろう。
一日、情報書類を読み込んだが人間についての理解はまだまだ浅いようだ。
だが、時間をかけるわけには行かない。
ゾーフィが私の元へと訪れるまでに、私は知りたい……神崎進次郎について
「私は知りたい、彼はなぜ……見知らぬ外星人である私を庇ったのか。それを知るために、この人間の命をこの場所へと返すために、私は地球へとやって来た。どうか彼について教えて欲しい、神崎進次郎について知る君たちにしか出来ないことだ。どうか、協力してほしい」
そう口にする、少女は未だに涙を流したまま俯いている。
だが、もう一人の少年は少しの沈黙の後に苦しそうに口を開いた。
「取りあえず、時間を……情報を整理する時間をくれないだろうか」
「構わない、私はこの先にある図書館にいる」
そう言葉を返し、私は彼らに背を向け歩きだした。
放課後、河川敷の芝生に座り込んで膝に顔を埋めていた。
『どっちの味方なの?』
『望月さんって、誰にでもいい顔するよね』
クラスメイト達の声が頭の中で繰り返される、クラスメイトのみんなの言葉がまるでナイフみたいに私の心をズサズサと刺して、傷付けていく
私は、誰にも傷ついて欲しくないだけなのに。
そう思って行動しているのだけなのに。
「傷ついて欲しくないって思うのって、いけないことなのかな……」
そんな言葉を呟いてしまう程に、私はたぶん心に限界が来ていたのかもしれない。
そんな時だった、あの人と出会ったのは。
「隣、失礼するね」
まるで幼稚園や保育園の先生のような、懐かしさを感じる優しい感じがする声がした。
カサリと私のすぐ隣に誰かが座り込む音がして、チラリと横目で見てみる。
そこには、何処か優しそうな顔をした制服を着た男の人がいた。
「これは、独り言だから聞き流していいんだけどさ」
「……」
男の人は私ではなく、空を見上げながら話し出した。
「誰にも傷付かないでいて欲しいって、思いはとても大切で尊い思いだ。そう思える君はきっと、優しい……相手を思いやる事が出来る心を持っているんだね」
まるで先生のような、言われたらそう答えるような当たり前の答えが返ってきた。きっと、学校の先生に相談しても、返ってくるような当たり障りのない言葉。
「きっと今みたいに疲れちゃうこともあるよ……君のような優しい心を持つ人は特に周りに気を遣ってしまうから」
「じゃあ……どうすればいいんですか」
膝に顔を埋めたまま、私はそう口を開いていた。まだ分からない、答えが分からない。
結局、傷ついて欲しくないって思う事はいけないことなのか、それとも良いことなのか。
「その答えは、きっと……自分で見つけるしかないんだ。僕の答えを聞いて君は満足しないだろう?だから、君が納得いくまでとことん悩んで、答えを見つけた方いいよ」
「答えになってない……結局、傷ついて欲しくないって思うのって、いけないことなんですか?」
結局、この人は私に何を伝えたいのだろう?そう思いがら私は先程から独り言を話す人に問いかけた。すると、男の人は笑いながら言った。
「いけなくなんかない。きっとその思いを実現するのは、凄く難しいんだ……でも、だからこそ現実にしたいと思ってがんばるんじゃない?」
それがダメだったから、私は今こうして悩んでいて傷付いているのに……それにしてもこの人は綺麗事ばかり話している気がする。
「綺麗事、ばっかりです……」
思わずそんな文句が口から溢れた、綺麗事じゃ何も変わらないのに。
「そうだね、綺麗事だ。だって本当は……綺麗事が一番いいんだから」
「綺麗事ばかり話す貴方にはわからないよ、私の気持ちなんて……」
何故か、見ず知らずの人なのに余計なお世話を働き、綺麗事ばかり話すかれの言葉に私は、自信の持っていた苛立ちを押さえられずトゲのある言葉を紡いでいた。
なんで、なんで誰もわからないの?
理解してくれないの?
私はただ、みんなに傷ついて欲しくないだけなのに。
「あたりまえだよ、誰かが自分の気持ちになるだなんて誰も出来ないんだ。」
本当に、訳が分からない。
この人は結局、私に何を伝えたいの?
「でも、こうして思いやることなら出来るだしょ?」
なんでだろう、少しだけど胸の中の苦しみが和らいだような気がした。
男の人が芝生から立ち上がる声と音が聞こえて顔を上げる。すると男の人は立ち上がって背伸びしてから私をみて口を開いた。
「最後に1つだけ、どうかその優しさを失わないで。たとえその気持ちが何百回裏切られたとしても」
そう言う男の人は何処か懐かしむような、悲しそうな表情を浮かべてから私の隣から去っていった。なんでか分からない、他の人に話して相談したからなのか分からないけど、少しだけ私の胸にある苦しみが軽くなったような気がした。
これは私がまだみんなと仲直りする……いや、みんなでLeo/needを結成する少し前の事だ。
Leo/needが結成されてからまもない頃、私は咲希ちゃんと咲希ちゃんのお兄さん、天馬 司さんの通う学校の文化祭へ一緒に出掛けた。そして文化祭の出し物を見て回っていたとき、私は司さんと話す神崎 進次郎さんと再会した。
相変わらず優しそうな顔をしていて、あれからもたまに相談に乗って貰ったり素話を聞かせて貰ったりする。
あの人の話す話はすごく現実味がない設定ばかりだけど、物語に引き込まれて凄く楽しかった。
あの人の話を聞いているときは、学校のクラスのみんなの事を考えなくて済むから。
「神社の石畳に座り込んだ少年は青年へと問いかけた。
『ずっとここで悩んでいれば、答えが出るかな……』」
そんなある日、あの素話で笑顔を守るために戦う戦士と少年が話すシーンに私は彼と初めて出会ったときの事を思い出した。
「そんな言葉へ、青年はすぐに答えを口にする。
『…出ないだろうね。』
青年はそう少年に告げると、言葉を続けた。
『だって、そんな簡単に出たら、悩む事ないじゃない。』
少年に顔を会わせ、顔は穏やかに笑いながらも少年の瞳を覗き込む青年の瞳は真剣なものであった。
『何年かかったっていいんだよ……みんな悩んで大きくなるんだから。君の場所はなくならないんだし、君が生きてる限りずっと、その時いるそこが、君の場所だよ。』
『その場所でさ、自分が本当に好きだと思える自分を目指せばいいんじゃない?』」
その言葉が、素話に登場した青年の言葉に私は感動したことは覚えてる。
何年かかったっていい……悩んで
その間、私の場所は……なくならない。
Leo/needのみんながいる、私が生きてる限りずっと、その時いる場所がきっと私の居場所なんだ。
そしてみんなと、一緒に生きて、自分が本当に好きだと思える自分を目指せばいいんだ。
あの素話を聞いた日、私は確かに彼に救われた……ほんの少しだけど。
そんな彼との繋がりが途絶えたのは、あの日だ。
朝、進次郎さんからメッセージが届いていたことに気付いた私はすぐにメッセージを確認した。
『みんなが夢を追いかける姿を見て僕も夢に走りたくなった。ようやく決心がついたし、覚悟もできた。僕が居なくなっても……みんな、友達や仲間がいるからきっと大丈夫だとおもう。母さんや父さん、妹に学校の知り合いのみんな、さようなら。ボクは夢を叶えに、宇宙へ行く。』
新しい素話の導入だろうか?
そう思っていた、でも現実は違った。
メッセージを送っても全く返事が帰ってこなかった、最初は忙しいのかと考えたけど2日、3日と既読が着かないと流石に心配になった。
「何があったのかな……」
思いきって、放課後に神山高校に行ってみた。
そこではじめて、進次郎さんが突如として行方不明となったことを知った。
考えてみたら、私はあの人の事を全然知らなかった毎に気付いた。
あれほどに、現実的なやり取りのある素話が考えられるのに関わるような、誰にも話せないような
そんな事を思いながらも、学校が終わった放課後や休みの日は自然とあの人の姿を探すようになり1ヶ月。
まだ、あの人は見つからない。
警察も動いていたけど、結局はなんの痕跡も見つからず家族の人たちは今も必死にあの人を探している。
放課後、あの人を探していると近くのお店で新作のアップルパイが発売されたという情報を知り、休憩に食べようと店の前で並ぶ。
並びつつ私は道を行き来する人々の姿を眺めながら、新作のアップルパイはどんな味がするのか、こんなにも沢山の人が並んでいるのだから美味しいだろうと想像していた。
その時だった。
ふと、懐かしさを感じる背中を見つけた。
「え?」
その人は司さんと同じ学校の制服を着ていて、ずっと探していた行方不明の神崎進次郎さんだった。
「ま、まって!」
1ヶ月も行方不明だった人が見つかった、その衝撃は先程まで想像していた新作のアップルパイの事など吹き飛ばすのには十分だった。
離れていく背中を追いかける、だが人にぶつからないように歩きつつ、見失わないように追いかけるのは凄く大変だった。
そしてなんとか、あの人が入っていった場所。
図書館へと私は歩みを進めた。
図書館に入れば、放課後ということもあり他の学校の人たちが図書館を利用しており、本のページを捲る音が聞こえる。
あの人が好きそうな本のある本棚付近を探すがあの人の姿は見当たらない。
もしかして、見失った?それともここに入っていったように見えたのは私の見間違い?
そう思いながら、歩いていると分厚い本が並ぶ本棚の奥から、何度も本のページを捲る音が聞こえてきた。
本棚に記されたこの場所にある本の分類は『人類学』と描かれていた。
確か、この場所の先には本を読める机と椅子が用意されていたはずだ。
まさか、そう思いながらも本棚の奥へと歩みを進めると『人類の進化』という本のページを捲り読書するあの人、神崎進次郎さんの姿があった。
彼の座る机には『人の感情』『野生の思考から考える構造主義』『世界神話』『古事記から考える神々』など、普段のあの人が読むとは思えないような難しい内容の本が積み上げられていた。
此方に気付かず本のページを捲る彼の元へと近付いていく。
『あれ、望月さん?どうしたのこんな、ところで』
そう言って話しかけた私にいつもの優しそうな顔で返事を返してくれるとそう思っていると、先程から止まることの無かった本のページを捲る手が止まり振り返った。
まるで、背後に私がいたことを分かっていたように。
「先程から
静かな図書館では、通常の声でも大きく聞こえた気がした。
「え?」
いつも、自分の事を僕と呼ぶ進次郎さんに違和感を感じ首をかしげた私は進次郎さんと目が会った。
次の瞬間、私は背筋がゾワリとし、彼の事が怖いとそう思った。
此方へ向けられる私を見透かしているような無機質な、なんの感情も感じられない瞳。
何を考えているのかわからない、無表情でとても神崎進次郎さんとは思えなかった。
ご愛読ありがとうございました
感想、お気に入り登録、高評価
お待ちしています。