3、お前が殺したも同然だ
上手くいっていたはずだった。
今まで争い合っていた三勢力が力を合わせて二天龍に挑み、順調にいっていた・・・筈だった。
私と天使達の力で漸く赤龍帝と呼ばれる赤い龍を寸前まで追い込んだと思った。しかし、その矢先に赤龍帝の身体にある宝玉が輝いた・・・瞬間、赤龍帝の力が倍加した。
今までの私達の有利と思われていた私達の状況が一変して天使達が瞬く間になぎ倒されてしまう。
ーガァァアっ⁈ー
ー嫌だ‼死にたくないっ‼ー
ー助けてくれーっ‼ー
そんな地獄絵図を私は呆然と見ている事しか出来ず、そんな私を嘲笑うように目を細めて赤龍帝が私を見下す。
「目障リダ、虫ケラ‼」
巨大な尻尾が私の頭上から振り下ろされようとしている。
身体が強張って動けない。
私、こんな所で死ぬのでしょうか?
・・・多くの天使達や信徒を残して、なにも出来ないまま。
どうしようもない悲しみと悔しさに思わずぎゅっと目を瞑ってしまう。
そして、頭上の巨大な尻尾は私に振り下ろされた。
・・・
・・・・
・・・・・
何時までたってこない衝撃に不信に思った私わ少しずつ目を開ける。
「・・・えっ?」
尻尾は私の寸前で虚空から伸びる植物に止められていた。
「何者ダッ⁈」
赤龍の向ける敵意の目を辿り、私も龍の見る方を見る。
全身を包むフルアーマーに緑色の鎧と盾、そして腰には剣を携えた騎士が立っていた。
目視して始めて判る圧倒的な存在感、
一歩進むだけでも震える空気。
「・・・」
騎士が一瞬私を見た後、龍を見据えた
身体が震え出した、たった一瞬見られただけで全身に恐怖心が纏わりついた。
次元が違いすぎる
きっとあの男(?)は私やこの龍より遥かに凌駕している。
勝てる訳が無い
赤龍もその事に気付いたのか気付いていないのか赤龍は今までに無いほどの怒りを孕んだ目で騎士を睨んでいた。
「何ヲ見テヤガルッ⁈ニンゲンガッ‼」
今まで以上に怒りだした赤龍が蔦が巻きついていた尻尾を無理矢理振りほどき騎士に振るう。
ドォォォオオン‼
辺りに砂塵が舞う、たった一撃でも世界が震える程の尻尾の鞭を叩きつけられた人間は一瞬で肉片になっただろう・・・ただの人間であれば
「グァッ⁈ナニッ⁈」
あの白い騎士はそんな赤龍の尻尾を盾を使う事なく"掴んだ"のだ。
「・・・・」
「なっ、グォッ⁉」
白い騎士はそのまま赤龍の尻尾を引っ張った、引っ張られた赤龍は軽々と引き寄せられ・・・
「・・・ハァッ‼」
「ガアァァア⁈」
同時に白い騎士の放つパンチ一撃で盛大に吹っ飛んでいった。
「人間如キガ‼粋ガルナッ‼」
体制を立て直した赤龍の口から炎か迸る。
何千何万もの天使、堕天使、悪魔を葬ってきた必殺のブレスが白い騎士き襲いかかる。
「逃げてっ‼」と私が叫ぶ前に口から放たれるブレスは白い騎士を包んだ。
「クククッ、コレデハ流石ニ生キテハイマイ」
赤龍は炎を睨めながら言う。
しかし、私は気付いていた、赤龍の声が震えていた事、そして、あの炎の中から放たれるあの圧倒的な威圧感が未だに消えていなかった事を・・・
「・・・ハッ‼」
それは一瞬の出来事だった、炎の中から一閃よぎると同時に彼の身体を包んでいた炎が雲散したのだ。
炎を葬った彼の手にはさっきまで腰に掛けてあった一振りの剣が握られていた。
その光景を見た赤龍は今までの虚勢が剥がれたかのように恐怖の声をあげる。
「ッ⁈コイツハマズイ‼」
赤龍は羽を広げ此処から大空に逃げようとするが・・・
「グウゥゥウ⁉何ダッ⁈」
途端に痛みからくる苦悶の声をあげたかと思うと自身の羽を見た。
「ナン・・・ダト?」
「なっ⁉」
赤龍の目に導かれるように私も赤龍の羽に目を向ける。
ーー赤龍の羽が見るも無惨に切り刻まれていた。
さっきの炎を薙ぎ払った一閃は自身に纏う炎だけではなく、あの赤龍の羽も切り裂いたのだと、私と恐らく赤龍も気付かされた。
そして、それだけではなかった。
「⁈ッ・・・グゥッ⁈」
突然赤龍が力が抜けたかの様に倒れ込んだ。見ると、手足にも裂かれていたのだ。
白い騎士は赤龍にはもう用は無いと言う様に空を飛ぶ白龍に目を向ける。
瞬間ーー空に羽ばたく白龍が全身を切り裂かれ地上に墜ちた。
騎士の血に塗れた盾を見て私は漸く気付いた・・・あの騎士は白龍に向かって盾を投げつける"だけ"であの龍を落とせるのだ。
「これがあの神が恐れた二天龍の力・・・弱すぎる」
ーー弱すぎる。
この言葉はあの龍だけではなく私の心にも深く突き刺さる。
「もう此処には用は無い、後はお前達の好きにするがいい」
そう一方的にいい残して騎士は私に背を向けた。
「・・・どうしてですか」
「なに?」
「どうしてもっと早く現れてくれなかったんですかっ‼」
自分がどれだけ理不尽で自分勝手な事を言っているのかは分かっている。
ーーーでも、叫ばずにはいられなかった。
「貴方がもっと早く来てくれれば彼らは死なずに済んだっ‼」
一度出て来た理不尽の言葉はまるで湧き出た水のように次々と言葉が出てしまう。
「彼らも死なずに済んだかもーー」
「・・・言いたい事はそれだけか?」
彼のたった一言の言葉で私の激情は冷水を浴びせられたかのように冷めていった。
「最初に言って置いてやるが、私はお前達を助けようなどと考えた訳ではない」
そうだ、そもそも彼が私達を助けに来た訳ではない。
だったら・・・なんの為に彼は此処に来て私達の脅威である二天龍を薙ぎ倒し私達を救ったのか。
「そして、もう一つ言うのなら・・・お前の仲間達が此処で死体に慣れ果てたのはお前の責任だ」
「・・・どういうこと、ですか?」
自分の声が震えている事が嫌でもわかってしまう。言って欲しくない、言わないで欲しい、お願いだから言わないで・・・必死に心で祈り続けるのにもかかわらず、彼は淡々とした口調で言葉を続けた。
「彼らが死んだのはお前が弱いからだ」
「・・・・めて」
「あの赤龍の力が倍加したとき、お前は恐怖のあまり統制を捨て、結果彼らは自身の目的を失い同時に戦意も喪った」
「・・・やめて」
「彼らは自分がどうすればいいのか分からなくなり最後はあんな様になったわけだ」
「・・・やめて!」
「結果、彼らは自身を見失い、一途に信じたお前にも見捨てられた訳だ」
「やめてッ‼」
「足元を見てみろ」
彼に促されて言われたとうりにする。
「ーーーッ⁈」
思わず口を手で抑えてしまった。
そこにあるのは地面一面を覆うように血に濡れて、天使達の死体と羽が転がっていた。
「い、い、イヤアアアアアアっ‼」
途端に恐怖心と後悔と罪悪感が声にならない声になって私の口から出てしまった。
「彼らは皆お前に見捨てられた故にこの場で殺された・・・お前が殺したも同然だ」
残酷にそして淡々となんの感情を感じさせない口調で私の罪を一つ一つ宣告するように言った。
「さて、後はお前がどうするかだ」
話は終わりだと言わんばかりに彼は私に背を向け歩を進めた。
「・・・わたしにどうしろっていうんですか?」
自分でも驚く程の精気の無い声が私の口から出てくる。
私の問いかけに彼は背を向けたまま言葉を紡ぐ。
「自分で決めろ。死んでいった者の意思を継ぐのも、見て見ぬ振りをするのも残された者の権利だ」
そう言って彼は空間の裂け目を入り込み姿を消した。
ーー私はどうすればいいんだろう。
自分の目的が見えなくなってしまった私は、周りを・・・天使達の亡骸を見回す。
どうすれば彼らに対して償えるのか、どうすれば彼らは報われるのか、
今までの鮮明に見えていた筈の物が一瞬で見えなくなってしまった。
「・・・私は一体、どうすれば」
私のそんなつぶやきは誰の耳にも届かないままバラバラになって霧散した。
やりたい事だけやって、言いたいこと言ってさっさと帰る主人公。やっぱ悪者っぽく見えてしまうかな。