4、あれから長い年月
実に便利な言葉である。
あの二天龍とかいう白い龍と赤い龍を一方的に叩きのめした挙句、偉そうに神様に説教という皮を被った言葉責めを浴びせてから長い年月が過ぎ去った今、俺はなにをしているかというと・・・
「何故、私はこんなに暑い夏の最中にお前と釣りなどしているのだ?
・・・アザゼル?」
「随分と遅い疑問だな、もう始めて三時間は経っているぞ?」
「・・・確かに。
どうやら私はこの暑さで頭がやられたらしい・・・帰っていいか?」
「まあ、そう言うなって。
こんなに釣れるのも珍しいんだ、もう少し付き合えよ」
俺は今現在、堕天使の総督(より分かりやすく言うのならば親玉)であるアザゼルと一緒に夜中に海辺で釣りをしている。
これが夜だからまだ少なからず風が吹くからいいが昼だったらこいつを埋めて帰っていただろう。
「なあ、お前いま何かすげぇ不穏なこと考えなかったか?」
「いや、もしお前が私を呼んだのが昼だったらお前を埋めて帰れたのにな、と考えていただけだ」
「あっぶねぇ!一歩間違えれば今日が俺の命日ってことかよっ⁉」
慌てふためく堕天使の肩を叩きながら俺は安心させるように言い聞かせる。
「なに、そう深刻に捉えることはない"理由の無い悪意"なんて、この世には幾らでも転がっている」
「いやいやいや!お前のはどう見ても"理由のある悪意"だろうが!」
どうやらうまくいかなかったらしい、
さっきよりも騒ぎ出した。
面倒になったので俺はぶっきらぼうにち言い放つ。
「五月蝿い黙れ。魚が逃げるだろうが」
「えっ、なに?これ俺が悪いの?
ていうかお前さっきまで釣りには消極的だったろうが‼」
「そんなことはない。だが、敢えて言うなら・・・お前の交友関係内では誰もお前の釣りにすら付き合ってくれないのだな・・・と、お前に対して哀れみの感情を持っている」
「だから嫌々付き合ってやったてか⁈
それじゃあ何か俺が友達少ない寂しい奴みたいじゃねぇか‼」
アザゼルの必死の叫びに俺は首を傾ける。
「違うのか?」
「違う・・・とは言い切れねぇけど!
なんかお前に言われるとムカつくわ‼
大体、お前は友達多いのかよ?」
意趣返しのつもりなのだろう、疑いの眼差しで俺に質問してきた。
「少ないな、それはもう」
あっさり肯定されたのが意外だったのかアザゼルはキョトンとした表情してがすぐに冷静になり手元の釣竿に意識を向ける。
「・・・いや、なんかごめん」
「気にするな」
暫く微妙な無言が続く中、俺は少し竿の先をぼうっと見てみる。
「・・・影虎」
「・・・・んん?」
だからなのか、背後から呼ばれた声に気づくのに少し時間が掛かった。
「どうした?オーフィス」
私の言葉にオーフィスは数本の串を差し出して小さな口を動かす。
「お腹へった」
焚き火の方を見ると、先程まで身が残っていた魚が今や骨のみの死に体に早変わりしていた。
釣った魚の入ったバケツを覗き込み、残る在庫を確認する。
在庫に余裕があると確認した俺はオーフィスに向き釣竿を差し出す。
「焼いてやるから釣竿持っていろ」
「ん」
オーフィスに釣竿を持たせ、バケツから一匹取り出し口から尻尾に串を刺す、この作業をあと数回。
そして、串刺し状態の魚に向かって塩を刷り込み焚き火の火が当たるように角度を調節して串を地面に刺す。
そして待つこと数分。
「オーフィス、出来たぞ」
「ん、ありがと」
簡単な礼を述べた彼女は俺に釣竿を手渡し焚き火に向かって、正確には焚き火付近の魚に向かって歩いて行った。
その一連の様子を見ていたアザゼルがため息と苦笑い混じりに言葉を発した
「まさか、暫く見なかったオーフィスがお前の所に居るとはな。
お前ら、一体どう言う仲だよ?」
そう言えば、こいつの前でオーフィスが現れたのは初めてだったな。
どういう仲か、という質問に対する答えをどう説明したものか考えて言葉を選ぶ。
「・・・言い方や答え方は様々だが、強いていうのであれば・・・オーフィスとは一つのメロンパンを分け合った仲だ」
「やべぇよ、ますますわかんねぇよ」
俺の説明が分かりにくかったのかとうとう頭を抱え出した。
「ふむ、私はできるだけ分るように説明したつもりなんだがな・・・」
「今ので分かるわけねぇだろ」
間髪入れない返答に少し困らされた俺は黙り込む。
そんな空気の中、その沈黙を破る軽快な音楽が影虎の懐から流れ出した。
~♪~♪
「・・・む?」
三神影虎の携帯電話である。
画面を見て誰からの連絡か確認する。
もし、非通知であれば無視るつもりなのだが、残念なのかそうでもないのか相手は影虎をこの世界に送ったあの幼女だった。
「・・・ああ、私だ」
『あぁ、良かった繋がった~。
お久しぶりです影虎さん』
心底安心したような声にすこし口角を歪めてしまいそうになるが、すぐに戻す。
「あぁ久しぶりだな。
それで、何の用だ?」
『うぅ、相変わらず冷たいですねぇ。
もう何百年ぶりなんですから、少しは・・・』
「さっさと用件を言え」
『はぁ、少しはもっとこう・・・友好的にしてくれてもいいのに』
「切るぞ」
『あー!分かりましたよ、話します!話しますから切らないで下さい!』
「最初からそうしろ」
『う~、実はですね、あなたの居るその世界に別の転生者が送り込まれました』
思わず釣竿を落としそうになる。
えっ?なに?君ら神様はそんな頻繁にやらかしてるの?
「・・・お前の仕業か?」
俺の質問に向こう側は慌てたように返答してきた。
『いえいえ!そんなまさか!
その転生者を送ったのは私とは別の神です。なんでも・・・暇潰しのつもりで転生させたと』
「はぁ、全くお前たちはいいご身分だな?そんなことをしても許されるのか?」
『そんなわけありません。基本的に私達は人間個人に影響を及ぼしてはならないと決められているんです』
「はぁ・・・まぁいい。
それで?それを知った上で私に何をしろと?」
俺の苛立ちを含めた声に神はバツの悪そうな言い方で返してきた。
『その・・・その転生者を此方に戻してきてほしいんです』
「・・・つまり?」
『簡単に言うのであれば、殺してほしいんです』
彼女の言葉に内心怪訝になる。
「何故だ?そいつは定められた物ではないだろう?」
『えぇ、まあ、本来はそうなんですけど。その、件の転生者の人格に問題がありまして・・・』
なるほど、そういうことか。
「分かった、いいだろう、そいつは此方で始末してやる。その代わり私の頼みを一つ聞け」
『頼み?頼みってなんですか?』
「それは追い追い説明する、ではな」
『あ、はい、よろしくお願いします』
通話を切ると今度はメールが送られてくる、見てみるとそれは今現在その転生者のいる座標と今後先の行方が書かれていた。
「・・・行くぞ、オーフィス」
「ん、分かった」
俺がオーフィスを呼ぶと、両手に魚を持ったオーフィスが此方に駆け寄ってくる。
「なんだ?また面倒事ってやつか?」
「はぁ、まあ、そういうことだ。
悪いがアザゼル、私は失礼する」
「また今度、アザゼル」
「あぁ、じゃあな影虎、オーフィス」
俺はクラックを出現させオーフィスを連れて中に入った。