喜多少年
ため息を一つ溢した。
高校が始まってもう一か月。
友達はできないしクラスにもなじめない。
せめてもの抵抗に、バンドのTシャツを着て、ギターを持ってきたけれど、結局話を膨らませることはできなかった。
黒歴史がひとつ増えただけ。
わざわざ遠くの高校まで来たのにな。
通学しんどいし、これ以上行きたくないな。
ひとりぼっちの帰り道、緑の多い公園のベンチで一息をつく。
そんなことを考えていたら。
ギターの音が聞こえてきた。
下手だな・・・。
お世辞にも上手いとは言えない。
初心者の演奏だな、と懐かしさを感じた。
音を辿ってみると、そこには赤毛の少年がいた。
元気いっぱいの子犬のような気配。
成長すれば、さぞ強烈な陽の気を放ちそうな、そんな予感。
真新しい水色のギターを担ぎ、難しい顔でコードを押さえて演奏しようとしている。
「あっ・・・お姉さん! その楽器、もしかしてギター?! 良かったら教えてくれませんか!」
「え? え?・・・え?」
目と目が合ったら、突然教えを請われた。
ポケモンバトル・・・?
「おれ、喜多って言います! 中学一年!
先輩のバンドに入ったんだけど、まだギター始めたばっかりでわかんないことだらけで・・・
来週になったら合わせの練習もあるし、尊敬している先輩にかっこわるいところ見せたくなくて!
もしギターに詳しかったら教えてください!」
ギターにはそれなりに自信がある。
陰キャは人のお願いを断るのが苦手なんだ。
男の子の相手ということで気おくれしてるのもあり、つい頷いてしまう。
「少しだけなら・・・」
「助かったー! ありがとうございます!」キターン
なに今の音(?)
喜多くんはいい子だった。
呑み込みが早くて教えていて楽しい。
お手本を見せてあげると、すごいすごいと褒めてくれる。
陽キャな男の子に褒められると、グングン自己肯定感が満たされる!
大丈夫かなコレ。
淫行罪とかセクハラとかで後で逮捕されないかな・・・
「ところで、なんで公園で練習しているの・・・?」
「やー、やっぱりバンドといったら路上ライブじゃないですか。
外でやったらその練習にもなるかなって。
もしかしたら教えてくれる人が寄ってくるかもしれないし!
目論見通り大成功!」
喜多くんの行動力はすごい。
ギターやったことがないのにバンドに入るし、家の外で演奏できてしまうし、ついでに先生を見つけようとすらする。
ギターの腕で勝ってはいても、バンドを組めている時点で、私よりずっと先を行っている。
その要領の良さと行動力で、ギターの腕も追い越して行っちゃうのかもしれない。
お別れの際に、明日もお願い!と喜多くんにねだられて、押し切られてしまった。
陽キャのテンションに勝てる気がしない・・・
高校生活で感じる寂しさが、ちょっとだけ薄まるのを感じた。