結束バンドのパフォーマンスは終わった。
「結束バンドは近々、STARRYってライブハウスでライブやるからよろしく! 細かいところはSNSで告知するよ」
そんな結びの声を聞きながら、一旦教室へと戻り『ソレ』を回収する。
体育館に戻ると、次のバンドの演奏が始まっていた。
コソコソと舞台裏に行くと、撤収しようとしている結束バンドのメンバーを見つけた。
後藤先輩はかっこよかったステージ上での姿が嘘だったかのように、隅の方に立ちズボンのお尻あたりをしきりに触っていた。
「ごと・・・ぼっちさん」
「あ・・・」
声をかけると、後藤先輩がこちらを認識していた。
みるみるうちに、不安の色に染まっていく。
そっか、後藤先輩の中では私に性別バレしたところで止まっているんだ。
「あの・・・演奏、素敵でした。ライブハウスにも行きます」
まぶたの裏には、後藤先輩がギターを掻き鳴らし体育館中の注目を集める姿が焼きついている。
アレは不意打ちにも程があった。
もっとあの姿が見たい。
「え、ほんと? じゃあ、私、バンド辞めなくて良いんだ。良かったぁ・・・」
心底安堵した声を漏らした。
指はにぎにぎとカーゴパンツの端を握っている。
やっぱり素肌にスボンは落ち着かないのだろう。
そのままなのは可哀想だと改めて感じて――――
「あの、これ良かったら・・・私の予備なんで、新品じゃないから・・・気持ち悪ければ捨ててください」
後藤先輩に近づき他の人に聞かれないようにしながら、教室から回収してきた不透明のポリ袋をこっそりと手渡す。
「こ、これは・・・!」
後藤先輩は不思議そうに袋をのぞきこんで、顔を劇画調に変化させた。
袋の中身は今の後藤先輩が求めて止まない物。
パンツ。
月の物で汚してしまったときのために備えていた、私の替えの下着。
体型そんなに変わらないし、履けないこともなかろうと持ってきた。
学校を出て、コンビニなりなんなりどこかの店に辿り着くまでに必要ならばと思ったのだ。
「ありがとうございます! このご恩は一生忘れません」
遠慮されるかとも思ったけども、仰々しくお礼を言われる。
よっぽど限界だったらしい。
ポリ袋を隠すように持って、壁際の遮光カーテンの束に向かおうとする。
人が隠れられそうな布の束。嫌な予感がした。
「ちょっと待って。まさかそこで着替える気? トイレでも・・・」
「この学校にトイレはありません」
瞳に地獄の底のような色を宿しながら断言されてしまった。
今度は呼び止める間もなく、しゅるりと軟体動物のような滑らかな動きで遮光カーテンの束の中に入ってしまった。
ゴソゴソと蠢いている。
た、大変なことになった。
私が後藤先輩を守護らないと!
「ねえ。君、ぼっちに何をしたの」
決意したところに、怜悧な声。
涼しげなイケメン、結束バンドの山田リョウが鋭い視線を向けていた。
「なにって・・・? なにもしてませんけど・・・?」
お漏らしして、そのままノーパンでライブして、カーテンの影で生着替え中なんて言えるはずがない。
山田リョウには、私が後藤先輩に話しかけた結果、後藤先輩が逃げるようにカーテン潜り込んだ結果だけが見えている。
イジメたように見えたのかもしれない。
咄嗟に上手い言い訳が思いつかないけれど。
山田リョウの前に立ち塞がる。
別に言い訳を思いつかなくてもいい。
後藤先輩が着替え終わるまでの時間を稼げれば・・・
――――私は忘れていた。
――――3対1だってことを。
「おーい、ぼっちくん、そんなところに隠れて何してるのさ」
「そろそろ次のバンドが来るからもう行きましょうよ、ぼっち師匠」
私が山田くんと対峙してる背後で、他の二人のメンバーがカーテンを覗き込んでいた。
あっ、あ、あ、あ・・・あーーーー!!!!
「へへっ・・・見苦しいもの見せちゃってすみません・・・」