虹夏くん視点。
仮称おキクちゃんが参加したライブでの結束バンドsideです。
文化祭が終わって、もう1ヶ月が経つ。
待ちに待った今日は、文化祭後、初のSTARRYでのライブ。
文化祭の集客効果で盛り上がるはずだ。
今日のために練習を重ねてきた!
そしてそんな本番直前になっての、自分の部屋の掃除の仕上げを終えたところ。
換気もしっかりした。
これで変な匂いもしないはず。
「エロ本はちゃんと隠した?」
リョウがわざと真剣な顔を作って尋ねてくる。
データ派だから現物は持ってないので心配無用。
そんなことはともかく。
「うっさい、リョウ!」
自室のように寛いでいるリョウの軽口をいなす。
喜多くんも笑ってないでさぁ。
そんなやり取りをしていると、ピンポーンとチャイムがなった。
最後のメンバーのお出ましだ。
「お邪魔します・・・うぅっ、こんな大事な日に追試食らってすいません・・・」
ドアの向こうにはべソをかいたぼっちくん・・・の衣装には着替えていない、ピンクジャージの後藤さん。
今日はライブだけど、後藤さんは追試を食らって直前まで学校だった。
なので格好も『ぼっちくん』ではなく、制服代わりのピンクのジャージ。
・・・制服が似合わないから拒否してジャージ通学って聞いたときは、マジかと思ったっけ。
「間に合ったから問題ないよっ! ライブに間に合わなかったらどうしようかと思ったけどね」
「いざとなれば教室の窓ガラスを突き破って脱出するつもりでした」
追試中にそんな空想にフケってたのかな。
空想だよね?
本当にしかねなくて少し怖い。
夢はバンドで売れての高校中退らしいし、後藤さんは少々ロックが過ぎる。
「ぼっちくん来たよー。はい、リビングに移動ね」
「ううっ、後から来たのに追い出してすいません・・・。なんなら隅で着替えるので居てくれても・・・」
「あえて隙を作ってない? ぼっちは露出狂なの?」
「あわわわ、そんなつもりじゃ・・・私のなんてなんの価値もないですし」
価値がないなんてふざけてんのか。
STARRYのフロアで。
体育館のカーテンの奥で。
メロンがふたつに、禁断の白い桃。
どことは言わないけど、体の一部がイライラする。
煩悩を振り切るように、ぼっちくんを部屋においてリビングへ。
リビングで一息つく。
・・・今、僕の部屋で着替えているんだよな。
いつも僕が寝泊まりしている部屋。
胸を潰すために、一旦普通のブラジャーを外して。
電灯の下にたわわに実ったメロンがふたつ。
「虹夏。何か変なこと考えてない?」
「考えてないよ」
じろりとリョウに睨め付けられて、しらばっくれた。
勘が良すぎるだろ。
「虹夏はムッツリだよね」
「人聞きの悪いことを言うなー! 喜多だって似たようなもんだろ!」
「俺を巻き込まないでください!」
リビングでわちゃわちゃやっていると、お待たせしましたと着替えた『ぼっちくん』がやってきた。
にぎにぎと服の裾を弄っていて、いつものライブより緊張して見える。
「えっと、どうかした?」
「友達の・・・それも男の子の部屋に来るなんて初めてで緊張しちゃって・・・へへっ、陽キャへの一歩・・・」
にへらと笑う、ぼっちくん。
そういうこと言うのやめて欲しい。
意識しちゃうじゃんか。
「あ・・・でもそれだけじゃなくて・・・今日のライブ、多分、両親が来るんです」
「多分ってどういうこと?」
「バンドのこと、あまりちゃんと説明できてなくて・・・」
「あ〜、ボーイズバンドに加入だもんね」
そりゃ説明しづらいよなあ。
「そもそもバンドに入れたこと、あんまり信じてなかったみたいで・・・ライブのチケット見せたら、本当だったのかってびっくりされました」
「ぼっち、虚言癖あるよね」
「ぐふっ!」
「ちょっと! リョウ先輩、言い方キツいですよ!」
ギターヒーローアカウントの概要欄も『ロインの友だち登録1000人越え』とかヒドいもんなぁ・・・
困ったときには、あからさまな嘘で誤魔化そうとするところあるし。
そういうときに限って、普段と違ってペラペラ発言するからモロバレなんだよな。
ご両親もその辺、分かってるんだろうな・・・
「へへっ・・・私は狼少年ですよ・・・。気まずくてライブがあるってチケットを渡して逃げてきました」
「それで来るかどうかは『多分』って付くんですね」
喜多くんも微妙な顔を浮かべている。
本番前なのに、あまり空気がよろしくない。
こういうときこそ、リーダーの出番だろう。
「切り替えてこう! 僕らはバンドマンでしょ!
演奏で楽しくやってるって伝えようよ。
ぼっちくんのご両親が来るんだったら、なおさらいいライブにしないとね」
「虹夏先輩の言う通りですよ! そろそろ良い時間ですし、STARRYに行きましょう」
ぼっちくんも着替えたし、ダラダラしている理由はなくなった。
喜多くんの言う通り出発しよう。
早めにステージ入りしていた方が緊張しないしね。
出発する準備をしていると、ぼっちくんが持っているラッピングされた袋が目に入った。
「なにそれ? ファンからのプレゼントか何か?」
「これは私が用意したもので・・・あっ、虹夏くんも喜多くんもお姉さんいますし、リョウ君も女の子との『経験』あるって言ってたから・・・ちょっと意見聞きたいです」
ペリペリと自分でしたであろうラッピングを剥がして出したのは・・・
新品の女性用下着だった。
それもふたつ、地味な物と珍妙な柄の物。
場が沈黙した。
おい。
誰か何か言ってよ。
ぼっちくんも見ればわかるって顔で、説明しないし。
くそぅ、貧乏くじか。
「えっと、これはどういったものなの?」
「ちょっと女の子に渡そうと思ってて、どういうものが良いかよくわかんなくて・・・」
とりあえずパンツは止めようよ。
その一言をグッと飲みこむ。
ぼっちくんは色々おかしいけど、何も理由なくパンツをプレゼントするほどアレじゃないと思いたい。
脳裏を『白桃』が流れていった。
異常な状況のせいで変な気分にはならない。
ぼっちくんがカーテンの中でおしりを出していた事件。
あの事件ってそもそも『パンツを履く』ために発生したわけで・・・
なんとなく状況の輪郭はわかってきたぞ。
いや、わかってきたけどさぁー
うん、その波打った縞模様に、天使の羽みたいな飾りがついたパンツどこ売ってんの?
「渡すのは地味な方だけでいいと思うよ」
「えっ? こっちは派手過ぎましたかね・・・?」
「そうだね、派手過ぎるね・・・」
なんでパンツ品評会やってるんだろ。
ぼっちくんは名残り押しそうに派手?なパンツを脇に退けた。
「それを渡す子と仲は良いの?」
「助けてもらったし、なんかシンパシー感じてて・・・これをキッカケにともだ・・・お知り合いになれたらなぁって」
照れながら、地味なパンツをまたラッピングしなおしていた。
ぼっちくん・・・いや後藤さんは前に進んでいる。
後藤さんはコミュ力に難があってバンドが組めなくて、縁が合った、ボーイズバンドである結束バンドにやってきた。
もしもコミュ力が身につけられたら、他のバンドに行っちゃったりするかもしれない。
『結束バンド』を辞める・・・バレたりとかじゃなくて、自分の意思で辞める、そんな日が来たらどうしよう。
現状は、僕もリョウも喜多くんもまだまだで、ぼっちくんのソロの技量にキャリーされてしまっている。
後藤さんが『ぼっちくん』としてそれなりの期間が経つけど、男装させてしまっている結束バンドについてどう思っているんだろう。
地雷はきっとそこかしこに潜んでいる。
・・・近いうちに、ちゃんと話をしないとな。
いつか今日という日が思い出となったときに後悔なく笑えるように。
今、こうしている瞬間は一度しかなくて。
未来のことなんて誰にも分からなくて。
大切に、このなんでもない瞬間を大事にしていこう。
次回 結束バンド、ライブを見た後藤夫妻に家へお呼ばれするの巻