評価サンキュー!
sideM
【リョウ】
山田リョウは自室でパソコンを広げていた。
作曲作業。
まだ始めたばかりの慣れない手つきで、打ち込みソフトを叩く。
ちらりと同じ画面に開いているテキストファイル……『歌詞』に目を向けた。
結束バンドのオリジナル曲の歌詞を作ろうと、リョウ以外の3人で歌詞のコンペが行われた。
出てきたものを見て、作曲担当のリョウは即決した。
後藤ひとりが作った歌詞。
青春にむけて斜に構えて、自分から突き離すかと思えば、正面から立ち向かう愚直な結論。
バンドに憧れ入りそびれ、男装してまでボーイズバンドに入るロックな精神性を垣間見た。
面白い。
虹夏と喜多も賛同してくれた。
(ぼっちが入ってくれたのは良かったな)
年上の女性ということで、トラウマから強く当たったことを申し訳なく思い返す。
(どんな曲にしようか)
作曲の参考にしようと、パソコンでギターヒーローの動画を再生する。
安定した技巧に、特徴的な歌っているかのようなビブラート。
惚れ惚れする演奏だ。
一緒にバンドとして演奏しているときとは比べものにならない。
後藤ひとりは他の楽器に合わせることさえできれば、ギターヒーローとしての演奏ができることが約束されている。
将来が楽しみな話だ。
さて、ここで悩ましい問題がひとつ。
(結束バンドのぼっちとギターヒーロー。どっちを前提として作曲するか)
とりあえずソロはいれてみようかな。
リョウはギターパートを弄りだした。
【虹夏】
伊地知虹夏は洗濯物や家事をしつつ、何となく姉が帰ってくるのを待っていた。
もうすぐSTARRYが閉まる時間。
食事は、星歌が作った料理を電子レンジで温めて済ませていた。
正直言って自分の方が上手く作れるが、大味な姉の料理は嫌いじゃない。
(弟に食事の準備をされたら成人女性として立つ瀬がないだとか、変な意地張らなくてもいいのに)
洗濯物を畳み終わり、手持ち無沙汰になった虹夏はスマホを操作した。
ギターヒーローの動画。
初めて『後藤先輩』に会った日のことを思い出す。
STARRYのステージでギターを掻き鳴らす姿に見惚れた。
・・・ギターヒーローの動画では、手元とギターしか見えない。
デバイスのスピーカーに左右される音源。
画面越しでは、四角で切り取られた演奏でしかない。
だから人はライブハウスに向かうんだと、雷鳴のようなギターの嘶きを聞いて感じた。
記憶の中のギターヒーローの演奏の枠をぶち破って、あの日の後藤先輩はステージの上で輝いていた。
後藤先輩はバンドとして合わせることを身に着けたら、ギターヒーローとして飛躍する。
STARRYを有名にしたいという密かな夢。
そんな想いを抱きつつ、始めたバンドで大きな翼を得てしまった。
男装という力技によるボーイズバンド加入。
無理は承知の上。
いつか破綻するまでは、バンドメンバーとしてやっていきたい。
ギターヒーローの動画を再生してる最中、その『概要欄』が目に入った。
後藤先輩の彼氏はバスケ部エース、らしい。
(彼氏いるって本当かなぁ)
豊かな、それはそれは豊かなお山の記憶が鮮明に脳裏に蘇る。
どこの誰ともしれない腕が伸びてきて、揉みしだかれるイメージが湧いてしまった。
ブンブンと頭を振る。
(クソッ、リョウの言う通りになんてなるものか!)
ちょうどよく虹夏の気を紛らわせるかのようにタイミングでSNSアプリの通知音。
結束バンドの共用アカウントが更新されている。
内容は喜多が更新したもの。
「がんばってるなぁSNS担当大臣」
喜多の努力はすごい。
元々上手かったボーカル。
後藤先輩の指導を受けてメキメキ上達するギター。
(負けてられないな)
星歌が帰ってくるまて、少しだけでもドラムの練習をしようと虹夏は立ち上がった。
【喜多】
SNSを更新した。
少し前に撮影した結束バンドとしての動画をアップロードして、結束バンドとしてのアカウントでRT、喜多自身のSNSでも宣伝する。
ふぅと、ひと仕事終えて息を吐く。
自分のアカウントで友達とやりとりするのは楽しいし、結束バンドとしてのアカウント運営も楽しい。
『姉ちゃん』が重度のSNS好きだったこともあり、中学に上がった喜多は何となく興味をもって始めてよく触っていた。
さて次はギターの練習をしようとして、喜多は小腹が空いているのが気になった。
(なんかオヤツでも探してくるか)
キッチンにいくと、パシャパシャと聞きなれたスマホのシャッター音が連続していた。
姉がコンビニスイーツ片手に自撮りしていた。
キタ〜ンという擬音が響くポージング。
鳴り止まないシャッター音。
(またやってるよ・・・)
姉、喜多郁代はSNSジャンキーである。
シワシワネームを気にしているから、名前を呼んではいけない姉。
秀華高校の1年生。
(後藤先輩も去年まで中学だったって言ってたから姉ちゃんと同じ年なんだよな。・・・制服姿を見たことないけど)
学校帰りであろうタイミングで会っても上下ピンクのジャージ。
そもそも高校にマトモに行ってるのか。
学校の話題が出る度に、闇のオーラを垂れ流したり発狂するので、詳しく尋ねたことがなかった。
(制服は似合うんだろうなぁ)
後藤ひとりが姉の学校の制服姿を来た姿をイメージしようとして――――喜多の脳裏には上半身丸出しの姿が浮かんだ。
B地区。
失礼な雑念を振り払うために、慌てて喜多は姉のバストを凝視する。
無。
あるいは絶壁。
スンッと気持ちが落ち着く。
この世は格差社会だ。
「可哀そうに・・・」
「可哀そうに?! ちょっと待って。今どこ見て言ったの!!!」
思わずつぶやいてしまい、怒気が姉から放たれる。まずい。
「別に。なんでもないから」
持たざる者である姉。
(高一だって言うから同い年のはずなのにな・・・)
激詰してくる姉とやり合いながら、喜多はそういえばと思考を明後日に飛ばす。
(後藤師匠って高校どこなんだろ?)
喜多ちゃん「隣のクラスの娘が、男装して弟のバンドに入ってる?!」
喜多くんは喜多ちゃんの男子中学生化ですが、喜多ちゃんがこの話にいないとは言ってません!!!