マイナス3歳という中学生デバフを受けています。
また最初から、ぼっち=ギターヒーローという認識です。
結果として、バンドの方向性は・・・
結束バンドの演奏は普通だった。
喜多さんについていった体育館。
軽音部を含めた有志がライブを開いている。
まさに文化祭の象徴のような場所だ。
ここに連れてきてくれた陽キャのシンボルのような喜多さんにはともかく、私には似合わない場所。
着いたときには「結束バンド」とやらが演奏をするひとつ前だった。
同じ3年の軽音部の男子たちが演奏をしていた。
私はあまり音楽は明るくないけれど、たいして上手いとも思えなかったが、会場は盛り上がっていた。
まさに青春全開という感じ。
彼ら彼女らは共感しあっているんだろうか。
そんな騒ぎに乗れずたじろぐ自分を知らないで、そのバンドは演奏を終え、歓声で迎えられていた。
眼前に広がっているのに、テレビの向こうのように感じる。
会場の空気に乗れない自分の陰キャ気質に感じる劣等感。
そんな、人とは違う感性であることに感じる優越感。
物事を当たり前に楽しめないつまらない、小さい人間だなと自分自身を冷めて観察する。
たぶんこんな私は、どこかの誰かが想像する「普通」という枠からはみ出ることなく終わってしまうんだ。
「ほら、はじまるわよ! ッ・・・・キャー! 年下はないと思ってたけど、やっぱりリョウくんは様になる~♪」
鬱な考えのスパイラルに陥っていると、喜多さんが歓声を上げた。
体育館のステージに、楽器を担いだ新しいメンバーが現れていた。
「こんにちは! 結束バンドのリーダー、2年の伊地知虹夏です!」
喜多さんと同じような黄色い歓声が、下級生が集まっているあたりから上がる。
時たま噂になる1,2年のイケメンたちが組んでいるバンドということで、女子人気は高い。
嬌声におびえるように、さっきみた不審人物・・・学外から参加のぼっちくんもこそこそ壇上に現れている。
他の3人は爽やかで清潔感のある恰好をしているのに、一人だけゴテゴテと重たいシルエットにサングラスまで装着済み。
・・・会場は、いかつい格好のわりに、背を丸めて小さく丸まっている不審人物のことを空気のように扱う。
「次のメンバー紹介は『ぼっちくん』! 学外から参加! ギターが上手くて、喜多くんの先生でもあります!」
ぼっちくんはこの学校ではアウェイであるため、反応もほとんどない。
始まりのMCでも一言もしゃべらず、紹介に対してはピロピロとギターの演奏で答えていた。
・・・どうも一言もしゃべらない設定らしい。キャラづくりと見せかけて、女の声を隠すために違いない。
やっぱり性別を偽って活動するのは無理があるでしょ。
結束バンドの演奏が始まった。
さっきの3年軽音部のバンドと比べると上手いけど・・・普通だった。
流行りの曲のコピーバンド。
ぼっちくんこと、後藤先輩も背を丸めたまま、バンドの一員として演奏している。
皆が知っている曲を、顔のいい男子が歌い演奏すれば、当然のように会場は盛り上がる。
さっきのバンドを聞いたときと、同じ気持ちを抱く。
大したこともない演奏なのに、ちぐはぐに青春の盛り上がりは最高潮。
別世界のように感じる会場の喧噪、その空気に乗れない私。
つまらない私。
2曲目の演奏を終えて、MCが挟まる。
「さぁ、会場も結束バンドのカラーに温まってきたところで・・・『オリジナル』をいっちゃおうと思います」
「ボクが作曲した。皆、心して聞くように」
「はい、作曲はベースの山田リョウです。そして、歌詞はぼっちくんが書いたよ。ね、ぼっちくん」
「ギュイーン、ギャギャギャピロロ・・・」
最初のMCと同じように、ギターで後藤先輩は返答した。
長いな。
いや、これって。
最初の返事と同じように単音で返答したかのように見せて、その爪弾きは止まらない。
観客から目を逸らすほど背を丸めて、大きく足を開いて踏ん張って――――――
ギターソロが始まっていた。
演奏はゆっくりしたスピードから始まって、加速、加速、加速していく。
指先が目で追えないほどの超絶早弾き。
嵐の中で轟く雷鳴のようなギターのうねり。
背を丸めてギターに齧り付く姿は獣のようで。
音楽をよく知らない人でも、何かすごいことをしていると、目で追ってしまうような演奏。
体育館中の視線が『彼女』に集まる。
そして一瞬の無音。
その無音にドラムが、ベースの伴奏が始まって。
ボーカルが叫んだ。
「“予定調和のシナリオなんて踏み抜いて”」
うちのギターは凄いんだぞ、そんな自慢げな顔で紡がれる“歌詞”。
「“青い春なんてもんは僕には似合わないんだ”」
青春そのもののような男子が、青春そのもの場所で、青春の否定を代弁する。
『“それでも僕は知っているから。一度しかない瞬間は儚さを孕んでいる”』
・・・これは青春の敗北者の曲だ。
『“風に置いていかれそうで、必死に喰らいついている”』
・・・敗北しつつも、それでもその記憶を抱えた歩み。
そうして彼女はあのステージの上で雷鳴を響かせている。
『こんなこともあったって笑ってやんのさ』
――――曲が終わった。
結束バンドの男子たちがイタズラが成功した男の子の笑みを浮かべる中で、大歓声が響いていた。
後藤先輩のギターソロで始まったオリジナル曲。
たぶん演奏の完成度で言えば、コピーの2曲の方がいい。
疾走し暴走するギターを、ベースが、ドラムが、ボーカルが追いかけるようなひどい演奏。
それを元凶であるギターのプレイングの印象だけで覆い隠した。
結束バンドは全員が汗だくだ。
今の1曲が、今の結束バンドの全力。
体育館中の歓声を集める後藤先輩は、スポットライトの下で呆然としているようだった。
猫背で、
喋らなくて、
喋ったとしても吃音混じりで、
所作におどおどと陰キャしぐさが滲み出ていて、
なぜかボーイズバンドに潜り込んでいて、
青春に縋り付く姿はバカみたいで。
バカみたいにかっこいい。
“なんとなくの一歩を踏み出すだけさ”
歌詞が残響のように、私の脳裏に響いた。