Lv4へのランクアップが可能になってから半月が経過したが、まだまだステイタスは極まっていない。
もう少し日々の食事でステイタスを伸ばす必要があるだろう。
農作物を食べなければステイタスは伸びないので、野菜が多目の食生活になっていたが、たまには肉を食いたくなる時もある。
最近は外食もあまりしていないなと思っていると、私にある酒場の話をしてきたロキ様。
どうやらオラリオには豊穣の女主人という酒場が存在していて、ロキ様が気に入っているその酒場の一角を貸し切りにして宴会をすることもロキ・ファミリアでは珍しくないらしい。
酒場である筈の豊穣の女主人の店員達は、腕っぷしもかなりのもので、並みの冒険者では相手にならない店員達と、それ以上に強い店主が居るそうだ。
そんな話をロキ様から聞かされてから数日後、レノアさんに魔道具作りを教わってから、マリア孤児院で犬人の少年に様々なことを教えた後、オラリオを歩いていると落ちている財布を発見。
誰の財布かは知らないが一応拾って持ち主を探してみようと思って、財布を拾い上げると周囲を見渡してみる。
軽く見渡してみた限りだと財布を落とした人は、近場には居ないように思えた。
とりあえずガネーシャ・ファミリアに落とし物として財布を届けようかと考えていた私の前を「ミャーの財布は何処ニャアアアア!」と叫びながら横切る猫人の女性。
もしかしたらあの猫人の女性の財布かもしれないと思った私は猫人の女性を追いかける。
並みの冒険者よりも足が速い猫人の女性は、間違いなく神の恩恵を受けているみたいだ。
Lv3で、ステイタスが極まりかけている私ならなんとか追いつける速度で走っていた猫人の女性は、もしかしたらLv4なのかもしれない。
ちょっと待ってください、と呼び止める私の声に気付いて立ち止まった猫人の女性に、貴女の財布は、これですか、と拾った財布を見せて聞いてみた。
「ミャーの財布ニャアアアア!」と言いながら財布に飛び付いてきた猫人の女性。
嘘をついているようには見えなかったので財布は猫人の女性に渡しておき、早めに持ち主が見つかって良かったですよ、と正直な気持ちを言っておく。
財布の中身を確認していた猫人の女性は「中身も減ってたりしないニャ、良かったニャア」と喜んでいた。
それでは私はこれで、と立ち去ろうとした私を「待つニャ」と猫人の女性が呼び止めてくる。
「ミャーが落とした財布を拾って届けてくれたオミャーは良い奴ニャ。そんなオミャーにミャーがお礼をしたいと思うのは当然のことニャ」
そんなことを言いながら猫人の女性は笑顔で近寄ってきた。
「これから豊穣の女主人に来ればいいニャ。そこで店員のミャーがお礼をするニャ」
にっこりと笑顔で私の背中を軽く叩きながら言ってきた猫人の女性は、どうやら豊穣の女主人の店員であるようだ。
ロキ様が「酒も飯も美味いんやで」と言っていた豊穣の女主人は気になる店ではあるので、実際に行ってみるのも悪くはないだろう。
それでは豊穣の女主人まで案内してくれませんか、と猫人の女性に頼んでみると「お客様1名、ご案内ニャア」と道案内をしてくれる。
オラリオの道のりを歩きながら「ミャーは、アーニャって名前ニャ。オミャーは何て名前ニャ?」と聞いてきたアーニャさんに、私はモビタという名前です、と自己紹介をしておいた。
互いの名前を知り、様々な会話をしながら道を進んでいくと、豊穣の女主人と書かれた看板がある店に到着。
アーニャさんに手を引かれて豊穣の女主人の店内に入ると、店内は大勢の客で活気に溢れていたな。
案内された席に私が座ると「母ちゃんに話を通してくるニャ」と言い出して、店主らしき女性が居るカウンターまで近付いていくアーニャさん。
「母ちゃん、ミャーの財布を拾って届けてくれた恩人に、お礼がしたいニャ」と言うアーニャさんの声が聞こえた後、此方を指差して「あそこの席に案内したニャ」と言っているアーニャさんの姿も見えた。
「娘の恩人には、あたしからも礼をしとくよ。あんたは、恩人に良い酒で酌でもしてやんな」
なんてことを言いながらアーニャさんに笑いかけていた店主である女性。
かなり体格の良い店主の女性は、確実に第1級冒険者並みの実力を持っているように見える。
店主の女性以外の女店員達も間違いなく強そうだ。
教えられていた情報通りだが、実際に見てみると想像以上に強い店主と店員には驚きを隠せなかった。
何故酒場に、こんなにも強い人達が集まっているんだろうかと不思議には思ったが、それを言葉にすることはない。
何も聞かない方が良いことも、世の中にはあると理解していたからだ。
私が黙って席に座っていると酒瓶とコップを2つ持ったアーニャさんが近付いてくる。
「モビタには良い酒を持ってきたニャア」
笑顔でそう言いながら私にコップを手渡し、酒瓶から酒をコップに注いでくれたアーニャさん。
この世界には未成年の飲酒を禁じる法はなく、未成年でも普通に酒を飲んでも問題ないらしい。
ちゃっかり自分用のコップにも酒を注いでいたアーニャさんと、コップで乾杯しておき、良い酒と言われた酒を少し飲んでみた。
よく冷えた酒には、舌全体を痺れさせるような強烈な甘みがあり、口溶けは滑らかでしつこくなく、後味は爽やかだ。
私のように甘いものが嫌いじゃない人には美味しい味かもしれないな。
どんな名前の酒なのかが気になったので、何て名前の酒なんですか、と聞いてみると「ソーマって名前ニャ」と答えてくれたアーニャさん。
「ちなみにこの1瓶だけで6万ヴァリスはするニャ」
ソーマという名の酒の値段まで何故か自慢気に教えてくれたアーニャさんだが、酒場で客に提供された酒に対して、金を支払うのは客だ。
ということは、私が原価の6万ヴァリス以上のヴァリスを支払うことになるのは間違いないだろう。
確かに良い酒を持ってきたアーニャさんには悪気がないことは理解できたので文句を言うことはないが、他の酒は無かったのかなと思わなくもない。
それでも持っているヴァリスには余裕があり、所持金が足りないという事態にはなっていないので、まだ大丈夫だ。
だとしても高額なものが続けば、いずれ所持金にも限界は来る。
さてどうしようか、と私が考えていると美味そうなフライドチキンが大量に乗った皿を私の座るテーブルまで運んできた女店員。
まだ料理は頼んでいませんが、と私が言うと「ミア母さんからのお礼らしいから、これは無料だって」とヒューマンの女店員は言って去っていく。
それならありがたくいただいておこうと思った私がフライドチキンに手を伸ばすと、隣に座るアーニャさんのお腹が鳴った。
どうやらアーニャさんもお腹が空いていたみたいだ。
フライドチキンは沢山ありますから一緒に食べましょうか、と提案した私に「モビタは良い奴ニャア」と喜んでいたアーニャさん。
一緒にフライドチキンを食べながらアーニャさんと話をしていると、1瓶しか無かったソーマは直ぐに無くなった。
「追加の酒を持ってくるニャ」と言いながら酒を取りに行こうとしたアーニャさんに、あんまり高い酒じゃなくていいですよ、と言っておいたが「遠慮しなくていいニャ」と言われたので、次も高い酒になりそうだ。
席で待っていると戻ってきたアーニャさんが持っている酒瓶には水晶飴が大量に詰まっているようで、水晶飴を使って作られた果実酒であるらしい。
また高そうなものを持ってきたなこの人は、という目で思わずアーニャさんを見てしまったが、アーニャさんは自慢気に「また良い酒を持ってきたニャ」と言っていて、此方の視線には気付いていなかったな。
瓶詰めだと万を超える価格で取り引きされる稀少果実の水晶飴を大量に使った果実酒は、やはりそれなりのお値段がした。
上品で美味な味がする水晶飴の味が溶け出した果実酒は、とても美味しかったがアルコールの度数が高かったようで、完全に酔っていたアーニャさん。
「モビタ、オミャーは本当に良い奴ニャ!今日からオミャーはミャーの心の友ニャア!」
酔っぱらった状態でそう言ってきたアーニャさんは、かなりのハイテンションになっている。
アーニャさんは大丈夫だろうかと思っていると「心の友のモビタに、ミャーの歌を聴かせてやるニャ!」と言い出したアーニャさんは、大きく息を吸い始めた。
「早く「耳栓」つけろぉぉぉ!」
アーニャさんのその様子を見て、ヒューマンの女店員が叫ぶ。
「災害音痴が来るニャアアアア!」
猫人の女店員が、そう言いながら店内の奥に逃げていく。
豊穣の女主人に所属する女店員達の反応から、何が起こるのかは察したが、こんなに至近距離では完全に逃げることはできない。
今すぐ離れれば少しでも距離を取ることは不可能では無かったが、私が逃げたらアーニャさんが悲しむんじゃないかな、と思ったら逃げる気にはなれなかった。
覚悟を決めていた私の近くで、息を吸い込むのを止めたアーニャさんが口を開き、声を出す。
「ニャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!」
放たれた凄まじい怪音波。
店内に居た客達は、悲鳴を上げて耳を抑えながら床を転げ回る。
至近距離で、そんなものを浴びた私は耳が凄いことになっていたが、鼓膜が破けていたりはしない。
「どうニャ、モビタ」と何故か自慢気なアーニャさんの背後には、店主のミアさんが立っていて、間違いなく怒っている顔をしていた。
「営業妨害してるんじゃないよ!この馬鹿娘!」
怒りの込められたミアさんの拳がアーニャさんの脳天に振り下ろされて、一撃で気絶したアーニャさん。
気絶したアーニャさんを担いだミアさんに「アーニャが迷惑かけたね、耳は平気かい?」と聞かれたので、なんとか大丈夫ですよ、と答えておく。
「まあ、この馬鹿娘に悪気はないのは、わかってやりな」
アーニャさんのことを思いやるように言ったミアさんが、まるでアーニャさんの母親のように見えた。
そんなミアさんだからこそ豊穣の女主人の女店員達に、ミア母さんと呼ばれて慕われているのかもしれないな。
「馬鹿娘が迷惑かけた詫びに、酒代は安くしとくよ」
ミアさんのその言葉通りに、かなり安くしてもらった酒代。
酒の原価よりも安かったそれを支払って豊穣の女主人を出ると、ロキ・ファミリアのホームへと戻り、歯を磨いてから部屋で就寝。
翌日、定期的なステイタス更新の日が来たのでロキ様の自室へと向かう。
行われたステイタスの更新。
Lv3
力:A864
耐久:S999
器用:S998
敏捷:A892
魔力:S999
射撃:D
耐異常:G
《魔法》
【ガンスミス】
【ストリングビーム】
《スキル》
【風に愛されし者】
【樹木の友】
【竜の温泉】
【雪解けの癒し】
【誕生せしは日出ずる国】
【山の心】
【小人との友情】
【白銀の剣】
【牧場物語】
【恐竜との絆】
【超越存在と繋ぐ手】
【犬人との出会い】
【再会の約束】
【斉天大聖】
【心の友は音響兵器】
・心の友は凄まじい音を放つ
・装備している武器に破壊音波を付与し、放つことが可能になる
・様々な音に耐性
・武器を装備していない無手である時、発展アビリティ剛力の一時発現
「心の友は音響兵器」と書いて「ジャイアンリサイタル」と読むスキルが発現したのは、間違いなくアーニャさんに心の友だと言われて、怪音波のような歌声を聴いたからだろう。
のび太のことを「心の友よ」と呼ぶこともあるジャイアンは、時おりリサイタルを開く。
ジャイアンリサイタルは恐怖の時間であり、凄まじい音痴であるジャイアンの歌声を聴くことになる子ども達は、物凄い苦しみを味わっていたのは間違いない。
劇場版だと音響兵器扱いされることもあるジャイアンの歌声は、とんでもない破壊力を持つ。
ついにのび太の友人関係のスキルまで発現するようになってしまったが、ドラえもんとのび太を知っている私ならなんとか理解はできる内容だ。
私がそう思っていると「ジャイアンって誰やねーん!」と頭を抱えながら叫ぶロキ様。
まあ、ジャイアンのことをロキ様は知らないから困惑しても仕方ないかもしれない。
ロキ様にジャイアンが誰かを聞かれた時は、音響破壊兵器のような歌声を持つ少年ですね、と答えておくとしよう。
これなら嘘にはならない筈だ。