久しぶりに先輩団員達とダンジョンに潜り、安全階層の18階層で水浴びをする際に真空ソープを使ってみたが、かなり身体を綺麗にすることができた。
先輩団員達にも真空ソープは好評で、特殊な魔法銃から出るスプレー状の石鹸である真空ソープを使って身体を洗うと、水だけで洗うよりも身体の汚れを落とせたみたいだ。
ダンジョン内で良い石鹸を使えるのは贅沢なことのようで、精神力を少し消費するとしても真空ソープを使いたいと思う冒険者は多いのかもしれない。
質の良い石鹸である真空ソープをダンジョン内でも使えることを知れば、特に女性冒険者達は目の色を変えそうな気がするな。
ダンジョン内で身体を洗う時に真空ソープが役立つかを実際に試すことはできたので、ダンジョンを出たら団長にも報告しておくとしよう。
団長が使っても問題ないと判断すれば、次回の遠征の時には、ロキ・ファミリアの冒険者達に真空ソープが出せる特殊な魔法銃を提供することになりそうだ。
真空ソープを使った水浴びで全員の身体がさっぱりしたところで、18階層から下に降りていき、モンスターを倒しながら中層を越えて下層に到着。
以前来た時と違って、至るところに大穴が開いている下層の25階層が、何かによって破壊されているのは間違いない。
Lv3の先輩団員が9名とLv5の私1名を加えた合計10名で、破壊された25階層から降りて26階層に移動してみたが、26階層も同様に大穴が幾つも開いている。
天井や壁だけでなく地面にもある大穴を避けて26階層を探索していくとマーマンの群れが現れた。
青い鱗に包まれた通常のマーマンの群れが振るう水晶鎚矛を「白木」で斬り裂き、手早くマーマン達の首を刈っていると水場から飛び出してきたアクア・サーペント。
薄緑な鱗と蛇の頭を持つ大型モンスターであるアクア・サーペントの頭部を、構えた「白木」で両断。
それからも下層で遭遇するモンスターを倒し、魔石を抜き取りながら階層を移動していくと、辿り着いた27階層。
やはり27階層も大穴だらけであり、壁面や天井に地面などにも大穴が開通しているようだ。
何故こんなにもダンジョン内に大穴が開いているのか不思議に思っていると、現れた6体の深紅の体皮を持つラムトン。
ラムトンとは異名であり、正式な名称はワーム・ウェールであるが、生息圏の深層から下層までダンジョン内を潜行して移動してくることから、凶兆を意味するラムトンと呼ばれている。
ラムトンは下層にも現れることがある深層のモンスターだが、通常のラムトンの体皮の色は、深紅ではなく深い青色だった筈だ。
色違いの亜種なら、通常種よりも更に強力な存在であるのは確実だろう。
そして深紅のラムトンは数が6体と多く、動きもなかなか速い。
色違いのラムトンから先輩団員達を庇いながら戦う必要がある私は、手数を増やす為に「アダマスの剣」と「白木」の2刀流で、ラムトンへ対処する。
ダンジョンの壁面に天井や地面などに潜って移動し、上下左右から攻撃してくるラムトン達が暴れ回る内に、更に破壊されていくダンジョン。
様々な場所から飛び出してくる深紅のラムトンに叩き込むのは「アダマスの剣」と「白木」による斬撃。
天井から迫る深紅のラムトンの首を斬り落とし、壁面を破壊して飛び出すラムトンの頭部を真っ二つにすると、地面から顔を出した深紅のラムトンを2刀流で十字に切り裂いた。
襲いくる深紅のラムトンを斬り裂き続けて、5体を倒した頃には、凄まじく破壊されていたダンジョンの27階層。
深紅のラムトン達によって行われたのは、ダンジョンの再生が追いつかない程に大規模な破壊。
残った1体のラムトンを倒そうと「アダマスの剣」と「白木」を私が構えた瞬間、ダンジョンが哭いた。
とてつもない無機的な高音域の甲高い音響は、間違いなくダンジョンが哭いている音であり、その音に「おいおい、何かやべぇぞ!」と戸惑いながらも警戒する先輩団員達。
ダンジョンの壁面に亀裂が生じ、高熱を宿す紫の液体が湯気を放ちながら吹き出していく。
ダンジョンから通常のモンスターが生まれる瞬間とは違う、明らかな異常事態。
亀裂が更に大きくなり、壁面を内側から抉じ開けるように飛び出てきた異形のモンスターは、熱の籠った呼気を吐き、地を蹴る。
深紅のラムトンを鋭利な爪で通り過ぎ様に殺害した異形のモンスターが、瞬く間に私の近くに接近してきた。
鎧を纏った恐竜の化石に見える異形のモンスターは、巨体でありながらイグアス以上の速度を備えているようだ。
片手間で深紅のラムトンを殺害した異形のモンスターの6本指に生える鋭利な爪。
その破爪とでも言うべき爪を「アダマスの剣」で受け止めると、凄まじい衝撃が腕に伝わってきた。
Lv5にランクアップしていなければ、まともに受け止められなかったかもしれない一撃。
スキルで「アダマスの剣」に不壊属性が付与されていなければ、破爪を受け止めた「アダマスの剣」が破壊されていたのは確実だ。
通常のモンスターとは比べ物にならない威力の攻撃を繰り出す異形のモンスターは、私が相手をするしかないだろう。
「アダマスの剣」で受け止めている破爪を弾き上げ、もう片方の手に持った「白木」で突きを繰り出すと、異形のモンスターは跳躍して此方から距離を取る。
剣などを握ったままでも手から放てる無詠唱魔法「ストリングビーム」を異形のモンスターに放ってみると、モンスターの身体に当たった瞬間に反射されて「ストリングビーム」が跳ね返ってきた。
どうやら異形のモンスターの身体には、魔法を反射する効果が備わっているみたいだ。
放った後も自在に操れて、自由に消すことも可能な「ストリングビーム」であったから、反射されても私に届く前に消すことができたので問題はない。
しかし、直接的な攻撃力のない「ストリングビーム」とは違う通常の攻撃魔法が跳ね返されるとすれば、甚大な被害となるのは間違いないだろう。
とりあえず先輩団員達には、反射されて跳ね返されてしまうので魔法攻撃による援護は止めておいてください、と伝えておく。
逆関節の脚を軋ませて再び跳躍した異形のモンスターは、離れた距離を一瞬で詰めて、両手の破爪で左右から挟み込むかのような攻撃を繰り出してきた。
不壊属性が付与された「アダマスの剣」と「白木」で左右からの挟撃を受け止めると、大口を開いた異形のモンスターの頭部が此方に迫る。
異形のモンスターに噛みつかれる前に、モンスターの下顎へと下から掬い上げるような蹴りを叩き込んでおき、強制的に口を閉じさせて噛みつきを防いだ。
そして左右の破爪を受け止めた状態のまま「アダマスの剣」と「白木」に、スキル「心の友は音響兵器」で強力な破壊音波を瞬時に纏わせ、破爪に破壊音波を叩き込む。
力と敏捷が非常に高い異形のモンスターは、耐久は高くないようで、両手の破爪を破壊音波で粉々に破壊することができた。
もっとも攻撃力が高い部位を失い、尾による攻撃と噛みつきや突進程度しか攻撃手段が無さそうな異形のモンスターは、身体を回転させて長大な尾を振り回す。
尾による攻撃も、まともに当たれば骨が折れる程度には強力だが、破爪ほどの危険度はない。
破壊音波を纏う「アダマスの剣」と「白木」を振るい、異形のモンスターの長大な尾を切断。
これで異形のモンスターに可能な攻撃は、更に限定されることになる。
凄まじい脚力で跳躍し、イグアスを越える速度で接近してきた異形のモンスターが繰り出す噛みつきによる攻撃。
それを回避すると同時に破壊音波を纏わせた刀剣を振り下ろし、異形のモンスターの獣の頭骨に似た頭部を完全に破壊。
頭部を失えば通常のモンスターは死亡するが、異形のモンスターの身体は、まだ動いていた。
この異形のモンスターを倒すには、完全に身体全てを破壊するしかないらしい。
破壊音波を纏う「アダマスの剣」と「白木」を連続で振るって、残った異形のモンスターの身体を破壊していく。
身体に魔石も存在していなかった異形のモンスターは、間違いなく特殊なモンスターだ。
完全に身体を破壊し、倒すことができた異形のモンスターの体表に存在していた殻。
その殻が魔法を反射していたのではないかと思った私は、拾った殻で簡単な実験をしてみる。
手のひらに収まる程度の殻に、無詠唱魔法「ストリングビーム」を放ち、反射されるかどうかを確認してみると、確かに殻に跳ね返される「ストリングビーム」が見えた。
やはり紫紺に輝く殻に魔法を反射する能力が備わっていたようだ。
異形のモンスターの体表に存在する殻を先に砕くことができたなら、魔法も通用していたかもしれない。
先輩団員達も流石に異常事態が起きたダンジョンに長居する気は無かったようで、急いで下層から中層に戻り、上の階層に上がっていくところで現れたヘルハウンド。
ヘルハウンドの火炎攻撃は魔法に近いと聞いたことがあった私は、先輩団員達に許可を取ってから、ある実験をしてみることにした。
異形のモンスターが残した殻で、ヘルハウンドの火炎攻撃を反射して跳ね返せるかの実験。
一応実験を行う際にはサラマンダー・ウールも装備しておき、跳ね返せなかったとしても火炎攻撃への備えは万全だ。
今にも火炎攻撃を行ってきそうなヘルハウンドと対峙して、私は紫紺の殻を手に持つ。
放たれたヘルハウンドの火炎攻撃を手に持った殻で受けた瞬間、殻に反射されて跳ね返された火炎攻撃がヘルハウンドに直撃。
跳ね返った自身の火炎攻撃で悶えるヘルハウンドを手早く倒しておき、中層から上の階層へ移動して全員でダンジョンを出た。
ダンジョンから出てホームに帰る途中で、ウラノス様の使いであるという相手が現れ、異形のモンスターについての情報を公表しないように頼まれることになる。
あの異形のモンスターにはジャガーノートという名前があるようで、再生が追いつかない程にダンジョンが破壊された時にだけ生み出される特殊なモンスターであるらしい。
ダンジョンを破壊したものを排除する為だけに生まれるジャガーノート。
そんなジャガーノートが発生するような事態は避けなければいけないと考えているウラノス様は、ジャガーノートについての情報が広まることを恐れているようだ。
確かにジャガーノートを悪用する存在が現れてもおかしくはないと理解した私と先輩団員達は、ジャガーノートについて黙っておくことをウラノス様の使いに約束しておく。
遠隔で声を届けて会話することが可能な魔道具を持っていたウラノス様の使いは、私と先輩団員達が嘘を言っていないかウラノス様に確認した。
全員が嘘を言っていないと確認できたところで「一応口止め料ということになる」と言ったウラノス様の使いが渡してくる袋の中には、高額な宝石が幾つも入っている。
それが10人分もあり、全員の合計で1億ヴァリスは軽く越えていそうな宝石の数々。
口止め料も貰ってしまったので、ジャガーノートについての情報を漏らさないように気をつけなければいけない。
拾ったジャガーノートの殻や実験結果についても黙っておくとしよう。
様々なことがあったが、全員で無事に戻ってきたロキ・ファミリアのホーム。
「おっかえりぃぃぃ!」
私の帰りを待っていたテンション高めなロキ様に飛びつかれたが、避けずに抱きしめておくと嬉しそうにしていたロキ様。
「今日も無事に帰ってきてくれたみたいやな!」
笑顔で私が無事に帰ってきたことを喜んでくれているロキ様に、怪我することなく帰ってこれました、と伝えておくと「ほんまに良かったわ」と言いながらロキ様は私に頬擦りしてくる。
密着したまま私から離れないロキ様を見た先輩団員達は、温かい目で此方を見ていた。
「ロキは相変わらずモビタが好きみたいだな。とりあえずロキの相手は頼んだぞモビタ」
私にそう言って去っていく先輩団員達は、部屋に戻って休むつもりらしい。
それから2時間くらい私から離れなかったロキ様は、しばらく触れ合ってようやく満足したのか部屋に戻っていく。
幹部用の個室に戻った私は、誰にも見られないように素早くジャガーノートの殻を金庫にしまって隠しておいた。
数日後、金庫の中を確認すると隠しておいたジャガーノートの殻は灰と化していたようだ。
魔石が存在していないジャガーノートは長生きしないモンスターだと聞いていたが、身体の一部である殻も長持ちしないものだったらしい。
金庫の中の灰を丁寧に掃除してから、定期的なステイタス更新を行う為に、ロキ様の部屋に向かうと長蛇の列ができていた。
今日は他にもステイタス更新をしてもらいたい人が多いようで、列の最後尾に私が並ぶと、ステイタス更新が終わった人が去って少しずつ人が減っていき、列が短くなっていく。
ようやく私の番が回ってきたところで、扉をノックしてからロキ様の部屋に入ると、此方を見たロキ様は「今日は更新が大変やったけど、最後がモビタなら頑張らんとあかんね」と言ってきた。
疲れているならまた今度でも構いませんが、と言う私に「モビタがチューしてくれたら元気に頑張れそうなんやけど」と言いながら此方をチラチラ見てくるロキ様。
明らかに期待した様子で此方を見ているロキ様に近付いた私は、ロキ様に口付けをする。
しばらくキスが続くと満足してくれたようで「これで元気百倍やで」と満面の笑みを浮かべて言ったロキ様がステイタスの更新をしてくれた。
「モビタの今のステイタスは、こんな感じやな」
ロキ様から渡された紙に写されていた私のステイタスを確認する。
Lv5
力:G287
耐久:G258
器用:F312
敏捷:G263
魔力:F335
射撃:D
耐異常:F
連射:G
疾走:I
《魔法》
【ガンスミス】
【ストリングビーム】
《スキル》
【風に愛されし者】
【樹木の友】
【竜の温泉】
【雪解けの癒し】
【誕生せしは日出ずる国】
【山の心】
【小人との友情】
【白銀の剣】
【牧場物語】
【恐竜との絆】
【超越存在と繋ぐ手】
【犬人との出会い】
【再会の約束】
【斉天大聖】
【心の友は音響兵器】
【獣の惑星】
【海底散歩】
【神樹の実】
【夢幻の剣士】
【封印の剣】
【月光の狼】
【死が別つまで】
【名刀電光】
【名のある探偵】
【寄生浄化】
【反射外套】
・跳ね返す外套
・装備している外套、マントに反射を付与し、様々なものを跳ね返すことが可能となる
・装備している外套、マントに不壊属性を付与
・外套、マントを装備している時、発展アビリティ回避の一時発現
どうやら私には「反射外套」と書いて「アダナクラスィ・マンディアス」と読む新たなスキルが発現していたようだ。
今回のスキルは、間違いなくヒラリマントが関係するスキルであるが、ヘルハウンドの火炎攻撃をジャガーノートの殻で反射して跳ね返したことが影響して、このスキルが発現したのだろう。
もしかしたら火炎攻撃を反射した時に、ヒラリマントと同じく赤い布でもあるサラマンダー・ウールを装備していたことも、このスキルが発現する切っ掛けの1つになったのかもしれない。
「またヤバいスキルが発現しとるやないか!」
そう言って頭を抱えていたロキ様は「反射して跳ね返すとか、どっから出てきたんや」と疑問に思っているようである。
ウラノス様の口止めが無ければ話せたが、ジャガーノートについては黙っていると決めたので、ロキ様にも伝えることはできない。
ロキ様には申し訳ないが、詳しく説明することはできないので、黙ってロキ様の頭を撫でておいた。
撫でていくとロキ様の顔が幸せそうに緩んでいたので、少しは効果があったようだ。