今回はフレイヤ視点の話となります
美の女神にとって、愛を手にすることは容易いことで、どんな相手だろうと愛を返してくれた。
そんな愛を空虚に感じ、善神から貴女の伴侶を探しましょうと提案されたわたしは、伴侶を探す旅に出る。
天界では見付からなかった、それでは下界ならと考えて降り立った世界。
それでも見付からない伴侶に、涙を流していたわたしを初めてぶん殴ったドワーフとも出会った下界には未知が満ちている。
あのロキが下界の子と結婚したという噂話が広まったけれど、ロキ本神もそれを否定していない。
噂が広まる前から左手の薬指に指輪をするようになっていたロキは、幸せそうに指輪を撫でていることが多かった。
ある日、目をつけていた美しい魂の少年とロキがオラリオを歩いてデートをしている姿を見ることになったわたしが感じた感情は、強い嫉妬。
それは、伴侶を欲しているわたしが手に入れられていない幸せを、同郷の女神が手に入れていることに対する強い怒りも含んだ嫉妬心。
以前から目をつけていた少年の魂は、複数の精霊に加護を授かっており、複数の色が混じることなく組合わさって、まるで虹のような美しい魂となっている。
とても綺麗な魂をしている精霊に愛された子。
そんな子と仲睦まじくいちゃついて、生娘のように頬を染めて笑っているロキは、まるで乙女のよう。
伴侶を探しているわたしには、愛しの伴侶が見付かることがないのに、特に伴侶を探していなかったロキに伴侶が見付かったことに対して、怒りはある。
憎しみ、とまではいかないが、あの子から笑顔を向けられるのが何故ロキであって、わたしではないのかという気持ちもあった。
色鮮やかな輝きを放つ虹のような魂は、見ているだけでは我慢できずに、それを欲してしまうほどに美しいものだ。
欲しい。
欲しい。
あの子が欲しい。
見ているだけでは我慢が出来ないと、たとえロキから奪うことになろうとも、手に入れてしまいたいと私は思ってしまった。
Lv6のヘグニすらも単独で退けたあの子の魂は、更に深みを増す。
ついにオッタルを向かわせることを決め、送り出したけれど、オッタルすらも倒したあの子は、気絶したオッタルを肩に俵のように担いでフレイヤ・ファミリアにまで乗り込んできた。
迫る眷族達を棒術で叩き伏せて、真正面からわたしの前に姿を現した精霊の愛し子。
「何度もフレイヤ・ファミリアの人達を送り込まれるのも面倒なので、話をしに来ました」
そう言って真剣な表情をしたあの子には、わたしを害するつもりはない。
何故フレイヤ・ファミリアの眷族を送り込んできたのかという問い掛けに、貴方が欲しかったからと答えたわたしに「この身は既にロキ様のものですから諦めてください」と言ったあの子はロキだけを愛すると決めているのだろう。
その真摯な愛を砕いてでも、欲していた魂を手に入れたいと思ってしまったわたしは、美の女神として魅了を使った。
「わたしのものになりなさい」
「お断りします」
丁寧な言葉使いであっても、明確な拒絶を示してきたあの子。
同郷の処女神すらも魅了するわたしの魅了が全く通じておらず、平然としているあの子は「妻帯者に魅了を使うのはやめていただきたいのですが」とまで言ってくる。
初めて魅了が通じない相手に出会えた歓喜、その相手が既に誰かのものになっている悲しみ、様々な感情がわたしの中を駆け巡った。
わたしが求めれば、いかなる存在も愛を返してくれたけれど、彼は違う。
美の女神であるわたしでも手に入れることが出来ない相手に出会ってしまったのは、幸せなのか不幸なのかはわからない。
ただ感情だけが激しく乱れて涙を流していたわたしに、ハンカチを渡してくれた彼の手は優しかった。
愛してほしいと願うわたしに「それは出来ません」と答えた彼は「私はロキ様だけを伴侶として愛すると決めています」と続ける。
「ロキ様以外を伴侶として愛することはありません、私の女神は彼女だけですよ」
そう言って穏やかに笑った彼。
貴方のその優しさを、笑顔を、愛を、全てを一心に向けられているロキが妬ましくてたまらない。
どうしてわたしには伴侶がいないのだろうか。
何故、美の女神であるわたしが伴侶からの愛を受け取れなくて、あのロキが伴侶に一途に愛されて幸せそうにしているのか、と思う気持ちが強まってきていた。
それでも、優しい彼には嫌われたくないと思ってしまうわたしは、ロキには手を出せない。
その後、わたしと1つの約束をして去っていった彼は、きっとロキの所に帰るのだろう。
欲しても手に入れることが出来ない彼と話してみて、手に入らないからこそ、美しいものもあるのかもしれないとも思えた。
それでもロキを羨ましく思う気持ちが消えないわたしは、意外と嫉妬深い女神だったのかもしれない。
今日もロキの隣で、彼の魂は輝いている。
ロキの隣に居る限り、その虹の輝きは、きっと色褪せることはない。
ああ、とても綺麗な魂。
精霊に愛されている彼の魂は、虹色に輝いていた。