今回は3500文字くらいになりますね
フィリア祭当日の朝、自室で着ていく服を選んでいると、以前買った着流しを見つけた。
これにしようと決めて紺色の着流しを着用した後、ロキ様の護衛も兼ねているなら武器も必要かと考えて、腰の黒い帯に鞘に納めた刀を差しておく。
腰の刀も相まって侍のような格好ではあるが「おおっ、めっちゃええな。極東風の格好も似合っとるでモビタ」とロキ様には好評だったので、問題は無さそうだ。
ロキ・ファミリアのホームをロキ様と一緒に出ると両手を合わせて「ちょっと寄るとこがあるんやけど、ほんまに堪忍な」と謝ってくるロキ様。
そんなロキ様に、構いませんよ、と言葉を返しながら、此方を先導するロキ様と共に移動した先は東のメインストリートにある喫茶店。
ロキ様が喫茶店の店員に話を通すと、2階に案内されたが、そこでは深くフードを被った美の女神フレイヤ様が優雅に紅茶を飲んでいた。
私を見て、宝物を見つけたかのような顔で微笑んだフレイヤ様の視線を遮るように前に出たロキ様は「うちのモビタは渡さへんで」と細目を見開いてフレイヤ様を睨み付ける。
「あら、怖い。ロキにとって彼は特別なようね。安心してロキ、わたしはもうフラれてるわ。彼は貴女以外を愛することはないみたい。残念だけれど」
そう言ったフレイヤ様は、悩ましげに息を吐き、周囲の視線を独り占めにしていたが、流石は美の女神といったところだ。
フレイヤ様のその言葉を聞いて、護衛の立ち位置で控えていた此方に顔を向けたロキ様は「モビタは、ほんまにうちのことが大好きなんやね」と嬉しそうに笑う。
「それで、彼の紹介はしてくれないのかしら」
此方の様子を見ながらそんなことを言い出してきたフレイヤ様に、ロキ様は嫌そうな顔を隠していない。
「うちのモビタと初対面って訳でもないんやったら、紹介は必要ないやろ」
「あら、そう。それも残念ね」
その後ロキ様とフレイヤ様の会話は続き、以前行われた神の宴にフレイヤ様が参加した狙いが他派閥の男だと理解したロキ様は「モビタにフラれて直ぐに他の男を狙うとか、節操の無い奴やな」と呆れた顔をしていた。
女神2柱の会話が続き、フレイヤ様が現在狙っている相手が、どんな男性であるかの話になったところで、窓の外の光景を見下ろしていたフレイヤ様が「ごめんなさい、急用ができたわ」と言いながら椅子から立ち上がる。
「ロキ、貴女はいいわね。貴女に一途な素敵な伴侶がいて」
最後にそれだけ言い残して立ち去っていったフレイヤ様に「何やあいつ」と首を傾げていたロキ様。
そんなロキ様に、フレイヤ様は飲んだ紅茶の代金を支払わずに出ていきましたね、と伝えておくと「ああっ、ほんまや。紅茶飲み逃げとか何しとるんやあいつ。財布持っとらんのかい!」とロキ様は怒っていたな。
「くっ、フレイヤが飲んだ紅茶の代金をモビタに払わせるのは嫌やし、うちが払うしかないんか」
悔しそうにフレイヤ様が飲んだ紅茶の代金を支払ったロキ様は「いずれフレイヤに今日の紅茶代を請求したるわ」と言うと此方に手を差し出してきた。
しっかりとロキ様と手を繋ぎ、喫茶店を出た私は混雑する東のメインストリートを進んでいく。
歩くのにも苦労するほどに多数の人で溢れている大通りは、花を始めとした様々な飾り付けがされていて、普段とは違う彩りが添えられているようだ。
紐に吊るされて頭上で泳ぐ2種類の旗は、怪物祭を表す獅子とガネーシャ・ファミリアのエンブレムである象頭。
道の脇や中央に並ぶ屋台から漂ういい香りに、引き止められている人々も多い。
火で豪快に焼かれている鶏肉から肉汁が滴り落ちると、鳴ったのは食欲を刺激するような油が弾ける音。
「おっ、美味そうやん」
ロキ様が美味しそうだと思った屋台の料理を幾つか購入し、お互いに食べさせ合っていると「ロキに負けてられない!ボク達も食べさせ合おうじゃないか!」という声と「神様!無理です!無理です!」なんて声が、どこかから聞こえる。
どこかの神様がロキ様に張り合おうとしたんだろうか、と考えて周囲を見渡してみるとヘスティア様にじゃが丸くんを差し出されているベルくんを見つけたが、そっとしておくことにした。
今日は朝食を食べていなかったロキ様が空腹ではなくなるまで屋台で買い食いを続けていると、珍しいものを売っていた屋台を発見。
売られているのは見るからにココナッツであり、よく冷やされているココナッツを2つ注文してみると、鋭い鉈で切られたココナッツが提供される。
甘くて爽やかな果汁、果肉も食べられるように木の匙まで渡された私とロキ様はココナッツを堪能した。
その後、植物をジュースに変えることが可能な私のスキル「飲料変化」で、果汁と果肉が無くなったココナッツの実その物をジュースに変化させてみると、美味しいジュースに変わったココナッツ。
残らずココナッツを消費した私とロキ様は、時間を忘れて屋台めぐりを楽しんだ。
その結果、怪物祭の開演時間を大きく逃してしまうことになった為、近道だという路地裏を進むことになり、道筋を示すロキ様をお姫様抱っこしながら駆け足で進んでいく。
到着した闘技場周辺の雰囲気は張り詰めていて、慌ただしく動いているギルド職員達には余裕が無い。
状況を把握するには情報が必要だと判断し、お姫様抱っこしていたロキ様を降ろしてから、近くに居たギルド職員に話しかけてみたが「モ、モビタ・モビ!」と驚愕していたギルド職員は「実は」と詳細な情報を教えてくれた。
どうやら祭りの為に捕獲されていた一部のモンスターが、闘技場地下の檻から脱走し、東部周域へ散らばっていったらしく、それが外部犯の仕業であるのは間違いないそうだ。
モンスターを鎮圧するには人手が足りていないようで「どうかお力を!」と此方に懇願してくるギルド職員。
デート中にすいませんがロキ様、と言った私に「デートどころじゃないみたいやし、モビタがしたいようにしたらええよ」と微笑んだロキ様。
直ぐに終わらせて戻ります、とだけ告げて、地を蹴った私は跳躍し、近場で1番高い建物の屋根に飛び乗り、無詠唱魔法【ガンスミス】で作り出した狙撃銃を構えた。
スキル【銃の名手】の効果の1つには、銃を装備している間、弾丸が届く範囲を把握することが可能となる効果がある。
狙撃銃という長距離の射程を持つ銃で、弾丸が届く範囲に居たモンスター達を把握して排除しながら、場所を移動してモンスターを探していくと派手に暴れ始めたモンスター達が居たが、どうやらアイズさん達もモンスター達と戦っているらしい。
アイズさん達が戦っているのは、見たこともない花のようなモンスター達ではあったが、見えて把握が可能な範囲に居て、植物が相手であるなら【飲料変化】が使える筈だ。
という訳でスキル【飲料変化】を使用してみると、ジュースへと変わっていった花のようなモンスター達。
いくら美味しいジュースになるとしても、流石にモンスターが変化したジュースは飲む気にはなれないな。
そんなことを考えながらオラリオ全域を確認して回ったが、モンスター達によって冒険者以外の人々が負傷することはなかったようだ。
ヘスティア様を抱えて走っていたベルくんを見つけた私が話しかけてみると「モビタさん、神様を助けてください!」と言ってきたベルくん。
突然倒れたというヘスティア様の容態を治療師として確認してみたが、疲労が蓄積しているのと睡眠不足が重なって倒れただけですね、ゆっくり寝かせておけば起きますよ、と伝えておくとベルくんは安心してくれたみたいだ。
そんなベルくんの方が、無傷なヘスティア様よりも怪我していたので、スキル【雪解けの癒し】でベルくんの怪我を治療しておく。
「ありがとうございますモビタさん」
此方に感謝してからヘスティア様を抱えたまま立ち去っていったベルくんは、元気に駆けていった。
さて、私も主神であるロキ様が待っている場所まで、向かうとしよう。
お待たせしました、帰りましょうかロキ様、そう言いながら手を差し出した私の手を笑顔で握ったロキ様。
「アイズ達もモビタが助けてくれたんやろ?いきなりモンスターがジュースになったちゅうて、驚いとったみたいやで」
にしし、と悪戯っ子のような顔で笑いながら言ったロキ様へ、確かにモンスターをジュースに変えたのは私ですよ、と笑みを浮かべておく。
「植物系モンスターなら問答無用でジュースに変化させられるのは、ほんまに強いと思うわ」
そんなロキ様の言葉に、確かにそうです、と頷いた私は、スキルは組み合わせることで更に強力になりますね、と続けた。
「せやね、うちが頭を抱えるようなスキルが一杯やからな。そりゃ組み合わせたら、とんでもないことになるやろ」
なんて言いながら遠い目をしていたロキ様は、私の数々のスキルを思い出していたのかもしれない。
まあ、これからもスキルは増える可能性が高いのでよろしくお願いします、としか言えないな。