今回は3700文字ぐらいになりました
アストレア・ファミリアの小娘達に敗北し、死を迎える筈だったわたしが、精霊とやらに魔石を埋め込まれて怪物として生き延びてしまっていた時は、また死にぞこなったと思ったものだ。
風の精霊であるアリアを求める精霊の声が絶えず頭に流れ、喧しくて仕方がなかったが、妹の子、ベルを見ることができたことには精霊とやらに感謝をしておこう。
世界は黒き終末を打ち倒す英雄を求めている。
怪物と化したわたし程度を倒せぬものに英雄となる資格無しと判断し、再び立ち塞がる壁となることを決めたわたしの前に現れたのは、妹の子であるベルと、そう遠く歳の離れていない黒髪の少年だった。
1度目は、わたしの魔法が直撃すると立ち上がるだけが精一杯であった少年は、再び戦いの場で出会った時にはまるで別人のように強くなっていたことは確かだ。
怪物となり強化されたわたしでも完全には捉えきれない速度で動き、剣を振るう少年。
少年の剣の技量も悪くはなく、磨き抜かれた剣技は少年と言える年齢にしては中々のものだ。
此方が再生能力を持つ怪人となっていなければ、既に勝負は決まっていたかもしれんな。
Lv7が怪物となったわたしと戦いが成立している少年は、黒き終末に抗う英雄となる資格を持ち合わせている。
わたしが魔法を乗せた拳を幾度叩き込もうが、倒れることなく戦い抜く少年は折れることがない。
雷雲と落雷を操る力すらも持つ少年は多彩な力を振るい、此方を追い詰めていく。
決着は一瞬。
白銀の剣を砕かれようと次の手札を用意していた少年の一撃により、わたしの胸部に穿たれた穴。
胸部にある魔石に穴を穿たれた此方の敗北が決まり、ようやく死を迎えることができると思っていた。
しかし少年が魔法で出した奇妙な風呂敷を被せられたわたしは、魔石を宿す怪物であった筈の身体を人へと戻されてしまう。
ついでにわたしを蝕んでいた不治の病まで、少年が渡してきた薬を飲むと完治してしまったことには驚きを隠せない。
もしも妹のメーテリアが生きてこの少年と出会えていればと考えてしまったが、既に死を迎えた妹を救うことは誰にも出来ない筈だ。
妹のメーテリアを助けられなかった悲しみを私は忘れることはない。
メーテリアの子が病もなく健康に生きていてくれたことは嬉しく思えたが、人ではないこの身では、妹の子に会わせる顔がないと思っていた。
そんなわたしに「人である今の貴女なら、あの子に会えるでしょう」と微笑んで言った少年は、凄まじいお人好しだろう。
自分をさんざん痛め付けた相手を助けて、ボロボロの身体で笑いかけてきた少年は、強くなっても優しさを忘れていない。
だが、そんなお人好しで優しい少年、モビタのおかげで、わたしは人としてあの子に会うことが出来るようになる。
そうなるとベルとどう接すればいいのかと迷うことになり、会う機会があっても足踏みしていたわたしの背中を押したのもモビタであった。
ダンジョンを出て、変装をして名前も偽名に変えたわたしに300万ヴァリスを渡し「当面の生活費です」と言ってきたモビタには世話になっているばかりだ。
テリアという偽名は妹の名前であるメーテリアから考えた偽名であり、それなりに気に入っている。
名と姿を変えてベルと接する日々は、悪くはないと思えるものだった。
妹が好きだった場所をホームにしているヘスティア・ファミリアは、善良な女神ヘスティアが主神をしており、眷族であるベルのことをヘスティアが大切にしていることは確かだろう。
妹の子であるベルと時折会話し、その成長を見守る穏やかな日々を過ごしていたが、アポロンとやらがベルのことを狙い始めたようだ。
アポロンから戦争遊戯を挑まれたヘスティアは拒否したようではあるが、そう簡単に退くような神ではなかったアポロンのファミリアは、ヘスティア・ファミリアのホームを襲撃してきた。
メーテリアが好きだった場所である教会を破壊しようとし、身勝手な理由でベルを傷付けようとするアポロン・ファミリアに、わたしが容赦をする必要はない。
わたしの魔法を使えば静寂のアルフィアだと知られてしまうのなら、魔法など使わずにテリアとして始末してみせるだけだ。
団長がLv3で、あとはLv2かLv1しか居ないファミリアなど、容易く踏み潰せる蟻と変わらん。
容赦なく一掃し、血で教会がこれ以上汚れることのないように放り捨てた有象無象の雑音達。
殺してしまえば問題があるかと判断し、重傷を負わせる程度に済ませる手加減を行いながら、わたしがアポロンとやらのホームへと向かう最中、立ち塞がったアポロン・ファミリアの団長。
そういえばベルは「強くなりたい」と言っていたと思い出したわたしは、アポロン・ファミリアの団長とやらだけは、治療すれば戦える程度に済ませて残しておく。
あれがベルの糧となるなら使い道はある筈だ。
一部が破壊された教会の修復をモビタに頼むと、直ぐ様修復されていった教会。
ついでに市壁の上でロキ・ファミリアの小娘達と鍛練を行っているベルの治療も頼んだが、それも引き受けてくれたモビタ。
廃墟のような教会がモビタによって、しっかりとした教会にまで修復されていき、以前よりも教会が立派になった頃、行われた戦争遊戯。
ヘスティア・ファミリアとアポロン・ファミリアの戦争遊戯は、アポロン・ファミリア団長とベルの一騎討ちとなり、Lv3を倒したLv2のベルが勝利した戦い。
ベルの糧として残しておいたアポロン・ファミリアの団長は役目を果たしたが、充分にベルが痛め付けたので、追撃は勘弁してやるとしよう。
アポロン・ファミリアの財産を全て手に入れたヘスティア・ファミリアは、新たなホームに住まいを移すつもりで、ヘスティア・ファミリアのホームであった教会は、わたしに譲ると決めたそうだ。
「この教会はテリアさんにとって、大切な場所なんですよね」
「だったらきみに譲ろうとベルくんと一緒に決めたんだ」
そう言っていたベルと女神ヘスティアは、とても善良な少年と女神であり、誰かの大切なものを、大事に出来る優しさを持っていた。
それはわたしにとって眩しく見えるような優しさであり、女神ヘスティアとベルが出会えたことが素晴らしいことだと思えた瞬間でもある。
黒き終末に抗う為には、数多くの英雄が必要だ。
だが、英雄になどならなくてもいいから幸せになってほしいと、妹の子であるベルにはそう思ってしまう。
いずれ起こる黒き終末との戦いが避けられないとしても、優しいベルにはわたしよりも長生きして幸せになってほしい。
そんな願いを抱いたわたしは、このまま停滞を続けるつもりはなかった。
不治の病は完治し、わたしの枷となるものが消滅したならば、更なる高みを目指すだけだ。
その為には、主神であるヘラに会う必要がある。
一時的に教会の管理を女神ヘスティアとベルに任せてオラリオを出て、主神であるヘラを探す旅に出ると決めて旅支度を整えた。
モビタにもヘラを探しに行くと伝えると、魔法を使って池を作り出したモビタが見せてくれたのはヘラの現在地。
「千里眼の池」とモビタが言っていた池には、女神ヘラが歩いている街並みが映されている。
モビタの魔法で創造された「千里眼の池」で判明したヘラの現在地を頼りに進み、Lv7の脚力で全速力で移動していき、道中で通ることになった遺跡で黒い蠍のような怪物と戦うことになった。
黒い蠍は強力なモンスターではあったが、女神アルテミスとアルテミス・ファミリアを守りながら戦ったわたしは、全力で黒い蠍を打ち倒す。
そんな戦いがあったりもしたが、なんとかオラリオを出て2週間もしない内にヘラを発見。
妹の子であるベルを守る為にヘスティア・ファミリアへと改宗するつもりであるとヘラに伝えると「ヘスティアのファミリアであるなら構わん」と改宗を認めた女神ヘラ。
「ランクアップも出来るようになっているが、どうするのだ?」
改宗可能な状態にする為に背の恩恵を確認した際、そう聞いてきたヘラにランクアップを頼み、Lv8となって改宗が可能な状態になったわたしはヘラに別れを告げてオラリオへと戻った。
それからベルと女神ヘスティアに会いに行ったわたしは、ヘスティア・ファミリアに入団するつもりであると伝えておく。
「よろしくお願いしますねテリアさん」
「新団員が増えて良かったぜ。これでベルくんにも同じファミリアの仲間が」
ヘスティア・ファミリアにわたしが入団することに素直に喜んでいたベルと女神ヘスティアは、わたしがLv8であると知ると凄まじく驚いていたことは確かだ。
今のオラリオにLv8は居ないようだが、あのモビタならいずれLv8へと到達すると断言出来る。
黒き終末と戦うと決めたわたしはLv8程度で停滞するつもりはない。
Lv9の女帝でも届かない相手と戦うならば、最低でもLv10になっていなければ戦いにすらならんだろう。
かつての最強を超えた先へと辿り着かなければならないが、不治の病が完治したこの身体なら何処までも行けそうだ。
メーテリアの子であるベルが生きるこの世界を守る為に、今のわたしは戦うと決めた。
黒き終末を打ち倒す英雄を世界が求めているとするなら、その役目はわたしが果たそう。
他者に託して諦めることなく自らの手で、未来を切り開く。
それが英雄だ。