個人隊員・藤井夏綺   作:Euler

2 / 3
年1ペースくらいではやろうと思います


藤井夏綺①

「夏綺おつかれ~」

「おつかれ」

 

仕事終わりの挨拶を仲間にする。仕事、といっても私は社会人ではない。ただの、どこにでもいる女子高生だ。界境防衛機関(ボーダー)所属であることを除いてだが。

三門市。それが私の住む街で私の守るべき街の名前だ。4年半前、突如として異世界からの(ゲート)が開き近界民(ネイバー)と呼ばれる侵略者がこの街に現れた。私たちの知る普通の武器による攻撃は彼らには通じず街は壊滅していった。絶望的な状況の中ボーダーが現れ、彼らを倒していった。そうしてすぐに今のボーダー本部が出来上がり今日に至る。

市民は時折聞こえる戦闘の音にも慣れ、警戒区域外から隊員の写真を望遠レンズで撮る者まで出てきている。

私は第一次大規模侵攻の後すぐに入隊した。いや、スカウトされた。理由は単純、トリオン能力が高かったからだ。彼ら(ネイバー)の目的はトリオン能力の高い人間を向こうの世界、近界(ネイバーフッド)に連れていき、兵隊にしたりトリオン機関を抜き取りそのトリオンを戦争に使うことだ。

大規模侵攻の時は小学生ながら「なんであの化け物たちは私を見つけると執拗に追いかけるのだろうか…」と思ったものだが、理由を聞いて納得した。要は私は貴重な資源のようなものだったのだ。狙われるとわかっていて何もしないというのは怖いし、なによりも私と私の周りを護るためにもそのスカウトを受けた。

しかし家族は私が入隊することに反対した。まぁ自分の娘がよくわからないバケモノに狙われると分かってて、それを撃退する組織に入れようとは普通思わないだろう。両親の気持ちはよくわかる。それでも私はボーダーに入った。

ボーダーに入ってすぐの頃は訓練ばかりだった。当然である。トリガーが何なのかもわからない、剣を持ったこともないただの少女だったのだから。元々体を動かすことが好きだったのもあってすぐに任務に出れるくらいには動けるようになった。しかしどうも剣を振るうのが性にあわない感覚が残った。そこで射手(シューター)というポジションがあることを教えてもらい試したところ上手く感覚にハマった。それ以来私はシューターとして戦っている。

忍田さんたちには当初、「弾トリガーはトリオン消費が激しいしトリオンのコントロールが難しいからあまりオススメはできないが…」と言われた。しかし多数のトリオン兵を同時に倒すところを見せると何も言われなくなった。

 

「夏綺、おつかれさん」

「迅さん、今日も暗躍ですか?それともセクハラしにきました?」

「違うよ。今日は普通に運営会議に呼ばれてね。それよりお前明日から新学期だろ?いつもより5分早く出た方がいいぞ」

「何か視えたんですか?」

「いつも通りだとやたら信号に引っかかって朝からイラつくことになるぞ」

「それは流石に嫌ですね…ありがとうございます。それじゃあ私は帰るので」

 

翌日、私は迅さんに言われた通りいつもより5分早く家を出た。いつもより早く学校につくと新クラスの発表を見て教室に行く。すると先に奈良坂くんが既に来ていた。

 

「奈良坂くんおはよう。1年間よろしくね」

「藤井か。こちらこそよろしく。あとは三上も同じクラスだったか」

「そうみたいね。でも風間隊はちょうど任務入ってるはずだから教えておこうかしら」

 

4月のため出席番号順で席が決まっており私は奈良坂くんの隣だった。席についてすぐにスマホを開きメッセージアプリで連絡をいれる。歌歩からすぐに返信がきて「1年間よろしくね。奈良坂くんにも伝えておいて」とあったのでそのまま彼にも伝えておいた。

今日は始業式のため授業がなく、担任の紹介と今月の予定がまとめられたプリントが配布されて終わった。そのまま本部に向かい歌歩にプリントを渡してからランク戦ブースに向かう。

 

「お、夏綺じゃん。今からソロ戦やらねぇか?」

「出水くん。今日は攻撃手(アタッカー)の人とやりたい気分なのよね」

「なんだそうなのか。じゃあ俺は見る専にまわるかな〜」

 

自分と手合わせしてくれるアタッカーはいないかと辺りを見渡すも良さそうな人がなかなかいない。いつもならだいたい太刀川さんがいるんだけどな…

 

「太刀川さんなら呼び出されてるぞ」

「忍田さんかしら?」

「去年があまりにも酷すぎたもんで沢村さんも交えて履修登録してるんだと。今年はもう巻き込まれたくねーなー」

「太刀川さんはいつになったら真面目な人になるのかしらね…」

「どうだろうな。今年はもうレポートの手伝いとかしたくないけど…」

「十中八九やる事になるわね。私のサイドエフェクトがそう言ってるわ」

「迅さんの真似かよ。まぁそんな未来は誰にでもわかるだろうけど」

 

副作用(サイドエフェクト)。それは高いトリオン能力を持つ人に稀に発現する能力である。迅さんは未来視というサイドエフェクトを持っていることで有名だ。他にも風間隊の菊地原くんが持つ「強化聴覚」や影浦先輩の持つ「感情受信体質」などがある。私も「認識強化」のサイドエフェクトを持っている。菊地原くんは聴覚のみが強化されているが私は任意の感覚を強化出来る。例えば「視覚」を強化してより遠くの敵を見つける、「空間認識能力」を強化して敵との距離感や障害物の隙間などをより強く認識しバイパーを通したりすることが出来る。まぁ集中力が必要なのでこれに関してはあまり使わないようにしている。

実はこれの少しズルい使い方として私自身の「思考力」を強化することが出来る。そのため学校の授業でちょっと難しい範囲は、「思考力」を強化しより深く理解出来るようにしている。またテストの時もそれを強化することで私はいつも高得点を維持している。ちなみにテストが返された後でしっかり強化しない状態で解き、平常時の学力も上がるように頑張っている。

だいぶ話が逸れているが、結局今日はいい相手が見つからないので帰ろうかという時にちょうどアタッカーの先輩から声をかけられた。

 

「夏綺、少し相手をしてくれないか?」

「いいですよ。でも珍しいですね本部にいるなんて」

「来馬先輩が太刀川さんに用があるというのでそのついでだ」

「なるほど。10本でいいですか?」

「あぁ。どうしても夏綺には勝ち越せてないから今日こそは勝たせてもらう」

「まぁ私が勝ちますけどね」

 

そう言って私たちはランク戦ブースに入り相手を指名して仮想空間で戦闘を繰り広げた。結果は7-3で私の勝ち。ただまだ改善出来る動きがあるなと自分でも感じた部分があったから今日は家でログを見直すかな…。

 

「夏綺は強いな」

「まぁ私も長いので。でもまだまだ良くできる部分もあるなと思いました。また今度やりましょう」

「あぁ。滅多に来ないがまた機会があればよろしく頼む」

 

そう言って別れ、私は帰路についた。私の家は本部に近いオートロック付きのマンションだ。ボーダーに入った頃は普通のアパートに住んでいたのだが、忍田さんとその補佐役である沢村さんに「年頃の女の子、しかも一人暮らしでこのセキュリティは…」と言われ引っ越した。B級のため固定給がなく、家賃的にもキツいと思っていたがボーダーの方から家賃を補助すると言われたのでありがたく引っ越すことにした。前のアパートでも十分だったが、今のマンションの方が部屋も広くキッチンもかなり使い勝手がよく気に入っている。正直女子高生がこんな家に一人暮らしするとか贅沢すぎるレベルだ。とりあえず夕飯を作り終えたから食べながら今日のログを見返そう。そう決めて私はテーブルに夕飯とタブレットを用意する。このタブレットはボーダーからの支給品で私しか使えないようになっている。私のトリオンに反応してロックが解除され様々なアプリやボーダー内部のネットワークにアクセスできるようになっている。これは正隊員全員に配布されているが、それを可能にするだけの資金は一体どこから引っ張ってきているのだろうか…。唐沢さんの凄さがわかるものだ。

 

「無駄な動きが多いわね…。ここは回避よりメテオラで目くらましの方が良かったかしら?ここも時間差で打ち出せばもう少し防御に意識を割く方向に誘導できたかもしれない…。この場面も撃つタイミングが早かったかな…もう少し引き付けてから撃ってれば余計な被弾も無かったかもしれない」

 

ひとしきり反省会をしてから学校の教科書をパラパラと捲り予習をする。とりあえず教科書を忘れてもいいようにまずは「記憶力」を強化し内容を覚える。それから教科書の問題を解いて授業の準備をする。これが私の基本的なナイトルーティーンだ。そうこうしている間にお風呂が沸いたようなのでお風呂に入りしっかり温まってから布団に入った。少し本でも読もうか、というタイミングでスマホに着信が入った。

 

「はい、藤井です」

『いま大丈夫か?』

「大丈夫ですよ。どうかしました?」

『いや、もし良かったらなんだけど今から麻雀やらないかと思ってな。太刀川が忍田さんにだいぶ絞られたみたいで1人足りないんだ』

「うーん…また今度でいいですか?今から新しい本を読もうかなと思っていたタイミングなので」

『そうか、悪かったな。それじゃあまた今度誘うよ』

「いえ、お誘いありがとうございました。東さんにはいつか勝ちたいのでそのうちリベンジさせてもらいますね」

『簡単には負けるつもりはないからな。それじゃあおやすみ』

「はい、おやすみなさい」

 

東さんからの電話を切って本を開く。最近忙しくて本を買うものの読む時間があまり取れていなかったのだ。1冊は読んでから寝よう…。

 

と思っていたら久しぶりの読書に熱中し過ぎていつの間にか太陽が昇り始める時間になっていた。積読は解消出来たからいいものの非常に眠い。少し寝る時間は取れるが、今寝たら間違いなく少しでは済まないだろう。1時間後にアラームをセットすれば大丈夫だろうか?コーヒーでも飲んで眠りを浅くすれば大丈夫…と信じて私はコーヒーを飲み、アラームをセットして眠りについた。

 

「……やばい!寝坊した!」

 

はい、見事にやらかしました。時刻は既に10時をすぎている。大慌てで着替えて最低限のメイクをしてすぐ家を出る。自転車の前カゴにカバンを放り込み原付よりも速いんじゃないかというスピードで学校に向かった。

 

「すいません、遅れました」

「大丈夫ですよ、奈良坂くんから事情は聞いているので」

 

数学の先生はそういうと席に着くように促した。奈良坂くんから聞いてるとはどういうことだろうか。先生が黒板に向くのを待って小声で話しかけた。

 

「奈良坂くんどういうこと?」

「お前が無遅刻無欠席を指定校推薦のために貫いてることは有名な話だ。だからHRの始まる5分前に来なかった時点で『急な呼び出しでいつ終わるか分からない』ことにしておいた。それにB級のフリーながらも上層部の仕事を手伝っていることも有名だしな」

「ほんっっっっとうにありがとう!今度お礼するね」

 

どうやら私は奈良坂くんの機転によって救われたらしい。A級の固定給が貰えない私は入試のために任務日数が減り給料が下がるのを嫌っている。そのため大学は指定校推薦を狙っているのだ。公言こそしていないがボーダー内では有名な話らしい…。本当にどこでも話してないんだけどな…。

とりあえず奈良坂くんには今度彼の大好きなお菓子を贈ることにしよう。数学の授業を乗り切ると次は体育だ。ん?体育……?ジャージがない!見学という手もあるがその場合でも着替え必須でそもそも私はジャージを忘れているのだからそれがバレてしまう。ここは素直に言って怒られた方がダメージ少ないかな…。とりあえずそうしよう。

 

「失礼します。2-Bの藤井です。体育科の高田先生はお手隙でしょうか?」

「あら藤井さん、どうかした?」

「すいません高田先生。実は今日の授業ですがジャージを忘れてしまって…」

「あぁそれも奈良坂くんから聞いてるわ。すぐに来て欲しいと言われてろくに準備も出来ないまま本部に行っただろうって。今日は制服でいいから見学ね」

「はい。ありがとうございます。失礼しました」

 

どうやら奈良坂くんへのお礼を増やさないといけないようだ。というか奈良坂くんが本当に神様に思えてきた。その後の授業を乗り切り放課後になると私はすぐに会員制の大型スーパーに向かった。たけのこの里を5箱買い自転車の後ろに括りつけて本部に向かう。本部に着くとすぐに三輪隊の隊室に向かった。

 

「B級の藤井です。奈良坂くんいますか?」

「あら夏綺ちゃん、奈良坂くんならまだスナイパーの合同訓練から帰ってきてないわ。どうかした?」

「あ、蓮さんこんにちは。実は……」

 

そう言って三輪隊のオペレーター、月見蓮さんに今日の出来事を話した。相変わらずドジなとこが可愛いわね、とからかわれ少し複雑な気持ちである。どうにも私は昔から少しばかり抜けているところがあるのだ。学校ではそれがバレないように必死で隠している。ボーダーの仲間のフォローと私の生来の人見知りの影響でまだバレていないが…。蓮さんとガールズトークに花を咲かせていると小寺くんと奈良坂くんが戻ってきた。

 

「あ、藤井先輩!お疲れ様です」

「お疲れ様小寺くん。奈良坂くんはさっきぶりね。お礼持ってきたから受け取ってくれる?」

「別にあの程度気にしなくていいのだが…」

 

奈良坂くんはそういうが助けられっぱなしというのは性にあわない。たけのこの里を5箱押し付けて私は三輪隊をあとにした。

 

「ミニパックが1箱に53袋だから…全部で265袋ですか…。奈良坂先輩しばらくは困らないですね」

「あぁ。今日のミーティングの時にみんなで食べるか」

 

三輪隊をあとにした私は諏訪隊の隊室に向かっていた。昨夜の電話の埋め合わせである。私のトリガーは諏訪隊の隊室のロックを解除出来るように設定されている(諏訪さんが設定してくれた)ので、中に入ると笹森くんたちにはとても見せられない光景が広がっていた。

 

「みなさんどんだけ飲んだんですか…掃除しますよ」

「おぉ藤井か……東さんが珍しいお酒持ってきたからついな」

「別にいいですけど…。これ瑠衣ちゃんに怒られたりしませんか?」

「小佐野なら今日は来ないのが確定してるから問題ないぞ…。藤井はどうしてここに?」

「昨日のお誘いを受けられなかったのでその埋め合わせと次の予定でも立てようかと思って。それより皆さん掃除しますよ」

 

そういうと私はだらしない大人三人を無理やり立たせて掃除を始めさせた。諏訪さん、東さん、冬島さんとボーダーの年長者であり普段は頼られることも多い。しかしお酒が入り麻雀を始めるとこうなのだ…。

一応ボーダーにも清掃業者は出入りしている。しかし隊室などの個室には清掃が入らない。専ら食堂だとかお手洗いだとかなのだ。そのため隊室の掃除は『原則』その隊の隊員で行うことになっている。なぜ原則かというと数少ない例外が私である。フリーのため防衛は他の隊に混ざって行うのだが、任務後に掃除を手伝ったりしている。これは任務に混ぜてもらっているお礼のようなものだ……。まぁ汚すぎて自ら掃除を始める隊室もあるが。

そういう訳で私が指示を出しながらテキパキと掃除を進め諏訪隊の隊室は綺麗になった。

 

「ありがとうな藤井」

「いえ、この程度はなんともないです」

「次の予定なんだが藤井はいつなら大丈夫なんだ?」

「金曜とかどうですか?私次の日完全オフなので」

「俺は大丈夫だ。諏訪はどうだ?」

「俺も大丈夫っすよ。おっさんはどうなんだ?」

「開発室の会議があるけど大丈夫だな」

「じゃあ金曜にしましょう」

「そういやお前このメンバーで麻雀とかやってて変な目で見られないか?」

「なんでですか?諏訪さんたちが夜な夜な麻雀してるのは公然の秘密でしょう?」

「おっさんに混じる女子高生はなぁ…」

「ボーダーの内部的にはみなさんおっさんですけど社会的には若者じゃないですか?(冬島さんは別として)だから大丈夫ですよ」

「藤井?今変な間がなかったか?」

「冬島さんは本当におっさんだと思っただけです。29はまぁ…そっち側にカウントされても仕方ないかと」

「酷いなお前…でも最近真木ちゃんもそんな感じ出してるしな…」

「でしょう?理佐ちゃん最近ファブリーズ買ってるんですよ」

「……………」

「藤井お前容赦ないな…。おっさん可哀想じゃねーか」

「事実ですから…。まぁ理佐ちゃんなりの親切心だと思いますよ。隊長にはいつも身だしなみを良くしておいて欲しい、っていう」

「藤井!もう解散!冬島さんが死ぬから!ほら帰れ!」

 

そう言って東さんは無理やり私を追い出した。何か不味いことを言っただろうか…?本部での用は済んだので帰ろうかというところで声をかけられた。

 

「夏綺、この後いいか?」

 

どうやら面倒事に巻き込まれそうだ。迅さんの表情を見て私は悟った。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。