だいぶ時間がかかってしまいました。
やっぱりヒロインとの絡みって難しいですね。結構苦戦中です。
それではどうぞ
「…こんにちは。シグルド」
「パーティーから抜ける気なのか?リーファ」
どうやらリーファは俺を襲った連中のリーダー…名前をシグルドと言うらしい…と知り合いのようだ。まあ、彼女の表情を見れば好ましい相手では無いようだが…
つかシグルドって…シグルド …通称ジークフリート…バルムンクやグラムのような名剣やグラニという名馬を持ち悪竜ファフニールを打ち倒しその血を浴びたことで不死身の体となった北欧神話の英雄である。よくもまあそんな大層な名前を付けれたなと悪い意味で感心してしまった。
「うん…まあね」
「残りのメンバーに迷惑がかかるとは思わないのか?」
その言葉にリーファは少し不機嫌そうになる。
「…いつでもパーティーから抜けていいって約束だったでしょ?」
「だがお前は俺のパーティーの一員として名が通っている。勝手に抜けられたらこちらの面子に関わる」
はあ?何言ってんだこいつ?約束しといて自分の都合でダメだとか…あんた自分勝手過ぎじゃねえのか?っと言いたい気持ちを抑える。ここで俺が話したらますますややこしくなるだけだしな…まあこんな距離でも俺に気付いて無いあいつらにその目は飾りか?って聞いてみたいが…そいつも今はやめておこう。
しかしこの会話に一言言わずにはいられない奴が一人…
「仲間はアイテムじゃないぜ…」
「ん?何だと?」
困った人…主に女の子…に手を貸さずにはいられない男…キリトであった。キリトは堂々とシグルドの前まで歩くと再び口を開く。
「他のプレイヤーをあんたの大事な剣や鎧みたいに装備にロックしておくことは出来ないって言ったんだよ」
「…貴様」
キリトマジカッケー!…でもそれ相手を完全に怒らせる言葉だから。なんでこんなところでトラブル起こすかな… シグルドは剣に手をかけ今にも飛び掛からんとする。
「屑漁りのスプリガン風情がつけあがるな!どうせ領地を追放されたレネゲイドだろうが!」
レネゲイド…文脈から察するに領地に戻れなくなったプレイヤーのことを言うのだろう…俺勝手に領地出てったけど大丈夫かな?…なんだか少し心配になってきた…
「失礼な事言わないで!キリト君は私の新しいパートナーよ!それとタツヤ君も」
あ!待てリーファ!…しかし俺の心の声がリーファに届くわけ無く奴らの視線は俺の方へ…
奴らはあり得ない物を見たかのような驚いた表情をした後にその顔に怒りの感情を表した。
「!貴様はあの時のサラマンダー!」
「え?何?あなた達知り合いなの?」
そんな良いものでは無いがな。いうならば加害者と被害者の関係だ…勿論、被害者はこちらだ。
「そんな奴らと組むとは…!リーファ!貴様シルフを裏切るつもりか!」
シグルドの言葉にさすがにリーファも驚く。いきなり裏切り者呼ばわりされたのだ、そんな反応をしても仕方無い事であろう。
「そ、そんな気は…」
「黙れこの売国奴が!貴様のような奴が俺達と同じ種族だとは虫唾が走るわ!」
先ほどのシグルドの罵声に段々と表情を曇らせるリーファ…仕方無い、大体は俺とあいつらの因縁のせいでこんなややこしい事になってしまったのだ。怒りの矛先を元に戻してやろう…
「あんたら寄って集って弱い者イジメしか出来ないのかよ?情けねえ奴らだな。そんな奴がパーティーのリーダーなんて笑えるぜ」
「何だと!」
どうやら奴らの注意はリーファから俺に向いたようだ。壁プレイヤーとしての経験がこんな所で役に立つとはな…ヘイト値の操作はお手の元だぜ…!まあ、こんなMobよりも扱いやすい連中はそうそういないけどな…
「大体、自分の都合ばかり相手に押し付けて聞く耳持たずとかいくらなんでも自分勝って過ぎだろ。約束ぐらい守るって今時幼稚園児でも知ってるぜ。あんた常識無いの?」
「!貴様!今すぐその首斬り落としてやる!」
そう言って剣を抜いて俺の目の前に切っ先を向けてくる…しかし残念ながらこいつは攻撃できない…なぜなら…
「そうか…あんた無抵抗の人間をこんな衆人観衆の多い所で殺すっていうのか?」
そう周りにいる他のシルフプレイヤーのせいである。こういう面子がどうこう言う人間はプライドが無駄に高いからな…少なくともこんな人が多い所でそんな一方的な虐めみたいなことはしないであろう。
奴はやはり周りの目が気になるようで剣を戻した。
「せいぜいフィールドでは逃げ隠れするんだな」
「ご忠告どうも。あんたらも俺ばかりに気を取られて後ろから刺されないように気を付けるんだな」
俺の言葉に奴は舌打ちをして取り巻きと一緒に帰って行った。
「ごめんね。変な事に巻き込んじゃって…」
奴らの姿が見えなくなると同時にリーファが口を開いた。それは謝罪の言葉であった。こんな事になったのは自分のせいだと思っているのだろう。全く…
「…寧ろ巻き込んだのは俺の方だよ。俺がいなけりゃあんな事にはならなかっただろうさ」
それに…
「謝るなら俺の方だ。俺のせいでリーファに変な疑いがかけらたんだからな…悪い」
「そ、そんなこと…」
「これでこの話は終わりだ。もう気にするな」
これ以上この話をするとますます彼女が責任を感じそうなので強引に終わらせた。その後俺たちは終始無言のままリーファに頂上へと連れて行かれたのであった。
「「…すげー」」
塔の頂上に辿り着くと我ながらそんな単純な言葉しか出なかった。俺たちの前には青い空と緑の草原が見渡す限り広がっていて…俺の言葉では表現出来ないほど美しい景色が広がっていたのだ。
俺たちの言葉にリーファは満足そうな顔をした。どうやら思った通りの反応だったらしい。
「空が近い。手が届きそうだ…」
キリトの言葉に同意する。現実でも高い建物はいくらでもあるがここまで空を近くに感じる事は無かった。
…なんだか不思議な景色だな
「でしょ。この空を見てると小っちゃく見えるよね。色んな事が…」
そう言って彼女は空に手を伸ばす…
「…なんでああやって縛ったり縛られたりしたがるのかな?…せっかく羽があるのに…」
おそらく先ほどのシグルドの事であろう…どうしてか…きっとそれは人間だからであろう。羽が生えたからってそんなすぐに変われる訳では無い。どうしてもそうなりたくなければ人と関わるのをやめるしかない。
「複雑ですね。人間は…人を求める心をあんなややこしく表現する心理は理解出来ません」
そんな女の子の声が聞こえた。…え?ここには俺たち以外いないはずなんだけど。声の主はキリトの胸ポケットから出て来た。
「お久しぶりですね」
声の主の姿を見て俺は驚いた。あの時よりもはるかに小さいが、その姿はかつてアインクラッドで出会ったキリトとアスナの娘…ユイであった。
「久しぶりユイちゃん。…あの時は悪かったな。いきなり怒鳴って…」
あの時とはあの第一層の地下ダンジョンの事である。あの時は感情に任せて彼女を怒鳴りつけてしまったからな…今思い返すと中々に罪悪感が湧き上がる…後々になって自分の行動を反省する事が俺には多いようだ。
しかし、俺の言葉にユイは首を振った…
「いいえ、私が今ここにいるのはあなたが私の心に訴えかけてくれたお陰です。私は偽物では無いって…パパとママの本物の娘なんだって言ってくれました。だから…」
ありがとうございます…そう言って彼女は明るく笑った。その笑みを見て俺は…俺なんかでもこの少女を救えたんだと思った。その事実がただ嬉しくて…俺は久方ぶりに心から微笑んだ。
「…どういたしまして」
ただ…キリトとリーファが俺の方を見てあり得ない物を見るかのような視線を向けているのを見て一気に恥ずかしさが湧き上がる…な、なんか話題を変えないと…!
「そ、そういえばさっきの話って何だっけ?ほら、人を求める心がどうこうって言うやつ」
「?先ほどの話ですね?縛ったり縛られたりするのはその人を求める行為だと考えます。ただ私にはそんなややかしい表現をするのが理解出来ません。そうですね…」
幾ばくか冷静さを取り戻した俺はユイの意見について少し考えてみる。…成る程…そういう捉え方も出来るのか…確か彼女は元々はカウンセリングを行うプログラムだったんだっけ?その年不相応の鋭い意見に素直に感心してしまった。ただ…
「私なら…こうします。とてもシンプルで明確です」
と言ってキリトの頬にキスをしたのを見てその行動は人間には容易には出来ないと率直な感想を抱いてしまった。彼女にはまだ学ぶべき事が多いようだ。
「リーファちゃ~ん、ひどいよ~!!」
急に後ろから声が聞こえたので振り向くと緑色のおかっぱヘアーをした気の弱そうな少年がこちらに走って来た。
「ゴメン。レコンの事忘れてた」
その言葉にシルフの少年…レコンはがっくりと肩を落とす。先ほどのシグルドとは違いリーファの友好的な知り合いのようだ。
「私はパーティー抜けちゃったけどあんたはどうするの?」
その言葉にレコンは短剣を上に掲げて自信満々に答えた。
「決まっているよ。この剣はリーファちゃんだけに捧げているんだから」
今時そんな恥ずかしいセリフを真面目に言えるような奴は隣の黒ずくめだけだと思っていたがそうでは無かったようだ。…まあ、短剣という所が些かカッコ付かないと思ったが…
「え~別にいらない」
しかしリーファの返事にレコンは再びがっくりと肩を落とす…なんというか反応が面白い奴だな。きっとこのやり取りが日常茶飯事なのだろう。
「まあ、そういうわけだから…でも今ちょっと調べてる事があってさ…それが終わったら追いかけるよ。キリトさん、それと…『タツヤだ』タツヤさん…彼女トラブルに突っ込む癖があるので気を付けて下さい」
レコンはそのまま俺たちに背を向けて向こうに歩いて行った。
俺はここから翔び立つために左手を握り補助コントローラーを出した。しかし…
「「え!?自力で翔ぼうよ」」
そうこの二人…まさかのキリトも補助コントローラー無しでの飛行をマスターしていたのだ。なんというか…流石のセンスだなキリトは…正直な事を言えば俺だってコントローラー無しで翔びたいが…
「今更練習する時間も惜しいし、俺はこいつでいいよ」
そう…今回の目的は俺が翔べるようになる事では無い。出来るだけ早く世界樹辿り着き、アスナを助けるための手がかりを探す…これが一番重要な事なのだ。しかし…
「ダメだよ!せっかく翔べるんだもん。勿体無いよ!」
その言葉を発したのはリーファであった。どうやら彼女は翔ぶという行為に魅せられているようでお節介を焼いてくれたようだ。
「でも俺たちはなるべく早く世界樹に行きたいんだ。俺に割く時間なんて無いよ」
するとリーファはしばらく考えた後何か名案を思い付いたらしく口を開いた。
「ならこの後休憩する時に私が翔び方教えてあげる!それなら時間が無駄にならないでしょ?」
「でもそれだとリーファに迷惑がかかるだろ?」
確かにそれだと時間はそれほど無駄にならないが休憩中なのにリーファの手を煩わせてしまうことになる。そこまで迷惑をかけてしまったら流石に悪いと思ったのだが…
「私がやりたいからやるだけだし迷惑なんて思わないわ。その代わりスパルタでいくから覚悟しててね」
「…そこまで言うならお願いするよ」
結局リーファの断固とした態度に屈した俺はリーファから直々に教えて貰うことになった。
十分後、俺たちは近くのフィールドで休憩することになった。
「さて、これから翔び方のレクチャーをするわ!絶対にこの休憩時間中に翔べるようにするから頑張りましょ!大丈夫!私に名案があるから」
そして現在俺はリーファからレクチャーを受けているが…正直不安だ。キリトの話ではマスターするのに二十分程はかかったらしく、しかも失敗するたびにどこかに衝突していたらしい。
一体十分程の時間でどう出来るというのか…
「まず後ろを向いて羽を出して」
俺は言われた通りにした。するとリーファの手が俺の肩甲骨付近に添えられる。
「ここから仮想の骨と筋肉が伸びてるイメージをして」
「仮想の骨と筋肉…」
カサカサカサ…俺の羽が動く音がする。成る程…羽はこうやって動かすのか。
「そうそうそんな感じ。そのイメージをもっと強くして!」
さらに意識を羽に向けるともっと大きな音が聞こえる…これでなんとか羽は動かせそうだ。さて…
「なあこの後は『じゃあ行くよ!せーの!』ってうおおおおお!!!」
この後に何をすれば良いのか聞こうと思ったらリーファに体を押される…そのまま俺は様々な所に当たりながら翔び続けた。
…リーファの名案とはとにかく失敗でもいいので数をこなす事であった。…それは転けた分だけ自転車が上達するのと同じように…正直それは誰でも思い付く考えだとは思ったが、それでも効果はあったようだ…
「は…ははははは!スゲー!俺翔んでるよ!」
「凄い!凄い!中々飲み込みがいいね」
リーファの猛特訓のお陰で俺はコントローラー無しでも翔べるようになったのだ。最初はリーファに文句の一つも言おうかと思ったが、そんな事はどうでもよく感じてしまった。こんなに翔ぶことが楽しいとは…リーファには感謝しないとな…
「よし!じゃあ一回の飛行であの湖まで行くよ!」
俺たちは湖に向けて翔び出したのであった…
「はああああ!」
キリトの身の丈程もある剣で二体の羽の生えた紫色のトカゲのようなMobがポリゴン片となり消滅する。
「だあああ!」
負けじと俺もランスでMobを一体串刺しにして消滅させる。もう一体のMobは逃げ出したが…
「~~~~!」
リーファの魔法による攻撃…無数の風の刃がそいつを貫き止めを刺した。
やっぱり魔法って便利だよな…今度どんな魔法が使えるのか調べておこう。そんな戦闘を何度か終えた後、俺たちは森の中に降りて行った。
森に降りると俺は肩を回す。この世界では肩が凝るなんて事は無いのだが反射的にやってしまった。
「ここからは空の旅は終わりで歩いて行くから」
リーファの話ではここにある山が飛行限界高度よりも高いので洞窟を抜けるしか道が無いそうだ。なんというか…面倒だな。なんで飛行限界高度なんて作ったのか…開発者の意図が分からない。
「じゃあローテアウトしようか?」
「「?ローテアウト?」」
「えっとね…ローテアウトっていうのは…」
ローテアウトとは簡単に言うと交代でログアウト休憩することでその間は他の人が空のアバターを守る事らしい。そういうことなら…
「なら、先俺からでいいか?」
「うん。別にいいよ」
生憎こっちはゲーム屋を梯子してたせいで朝しか食べて無いのだ。さすがに腹が減っているだろう。
俺はメニューを開いてログアウトボタンを押したのであった。
ナーヴギアを頭から外すとそこにはあの世界での綺麗な景色とは似ても似つかない殺風景な俺の部屋が視界に映った。まずはとっとと飯を食おう…俺はコンビニへと向かった。
リーファside
タツヤ君がログアウトした事でここにはキリト君に私、そしてユイちゃんだけになった。
「あいつもしかして飯食って無かったのかな?」
急にキリト君が口を開いた…ご飯を食べてない?
「ねえ、どういうこと?」
「?ああ、あいつ飯食べる時間すら削ってログインしそうだなって思って…」
VRMMO中毒者の中には食事や睡眠時間すら削ってやる人がいるという話を聞いた事がある。彼もそうなのかと思ったが違ったらしい。
「この世界に誘ったのは俺なんだけど…あいつ自分も大変だろうに付き合ってくれたんだ。あいつは俺に恩があるって言ってたけど、俺も大分あいつに恩があるんだ。もう少し自分の心配をして欲しいよな…」
それは友人を心配するような顔であった。
「確かに自分の事は省みないところがあるよね」
シグルドの時だってそうだ…わざわざあいつに挑発して私を庇ってくれた。無愛想だけど会ってそんなに経ってない私の事を気にかけてくれた…
「でもあいつは知り合いじゃ無い奴には結構無関心だからな…あいつはリーファの事を結構気に入ってるみたいだな」
私の事を気に入ってる?その言葉がなぜか心に引っ掛かった…一体私のどこを気に入ったのか…今度時間がある時に聞いてみよう。正直に答えてくれるかどうかは分からないけど…
「何話してたんだ?」
声の主はタツヤ君だった。思ったより早かったけどちゃんとご飯食べたのかな?私はそんな心配をしたのであった。
コンビニで適当な飯を買い帰宅して、食事を済ませた俺は再びログインした。
「じゃあ次は私ね。二十分ぐらいで戻るからその間よろしくね」
そう言ってリーファはログアウトした。さて…
「おい。今のうちに作戦を確認するぞ」
「?作戦?」
オイオイオイオイ…まさかノープランじゃないよな…
「どうやってグランドクエストをクリアするかって事だよ」
「え?そんなの俺が前衛でお前が防御するんだろ?」
…ダメだこりゃ…俺は溜め息が出そうになった。そんな御粗末な作戦で本当にやれると思っているのか?
「…そんなんで行けるなら今頃誰か辿り着いてるよ」
そう…たった三人で行けるならどこかの大規模パーティーがとっくにクリアしているだろう。問題はこれまで多くのパーティーが挑んでもクリアには至らなかった事である。何かしらの要因があるに違いない…そういえば…
「お前はグランドクエストの内容って知ってるか?」
俺はグランドクエストの事を何も知らなかったな…一体その馬鹿なクエストはどんな内容なんだ?
「ああ、ガーディアンを倒して上に辿り着くクエストらしい。一体一体はそんな強くないけど数が滅茶苦茶らしい…」
数の暴力か…確かに厄介だな。戦いは数だよ!そんな事を言ってた奴がいたが本当にその通りだと思う。
どんな強い奴でも物量作戦で消耗させれば最後には負けてしまう。なんだかフロアボスの気分が味わえそうだ…まあそんなの味わいたく無いけどな…
「それで上に辿り着いて妖精王オベイロンに最初に会った種族に飛行制限が無くなるらしい」
成る程…それだと別種族同士の同盟とかは無理そうだな。変な所で根回しがいいようで…そこまでしてクリアさせたくない理由は何なのか?益々怪しいな…
それにしても妖精王オベイロンか…中々懐かしい名前を聞いたな…。?あれ?
「なあオベイロンだけなのか?ティターニアは?」
あの二体でセットだと思っていた俺はキリトに聞いたが返って来たのは予想外の言葉であった…
「?何だよティターニアって?」
「はあああああああ?!」
何で知らねえんだよ!って顔でキリトを見ると何で知ってんだよ!って顔で返される…仕方無い…
「いいかキリト!ティターニアっていうのはな…」
分かりやすく俺が教えてやろう!
キリトに話した事は基本的な事だった…ティターニアはシェイクスピアの戯曲の登場人物であり妖精王オベイロンの妃であること、連れ去った子供をめぐって関係の無い妖精や人も巻き込んでしまう事…俺も随分前に読んだから詳しい所は覚えていないが大体は合っているだろう。その話を聞いたキリトは…
「妖精って思ったよりえげつないな…」
「俺もそう思うよ」
キリトの感想は当然の事であろう。記憶を奪ったり子供を連れ去ったり入れ替えたりさらには人を殺したり…正直悪戯なんて可愛い物では無い。しかし、時には家事を手伝ったり農作業の手伝いをする…無邪気で自由気儘な生き物…それが妖精なのだ。
「話が逸れたな…話を戻すとクエストをクリアするためにはこちらも数で勝負するしか無いって俺は考えている」
なるべく大規模パーティーで攻めて相手の戦力を分断させる…ガーディアンがどの程度の強さかは分からないが10体、20体位ならキリトはどうにか出来るだろう。…俺には厳しいかもしれないが…
「つまりパーティーを募集するか、どこかのパーティーに入れて貰えって事だよな?でも俺たちみたいのに付いて来る奴も、入れてくれる奴もいないんじゃないか?」
「そうなんだよな…」
確かに俺たちのような新入りにそんな事をしてくれるような奴はいない。しかし、これが俺が考える中で最も確実な方法なのだ…もっと良い方法が思い付けばいいのだが俺には無理そうだ。
「ともかく今はそういうパーティーが有ったら何がなんでも入れさせて貰えって事を覚えていてくれ。…少なくとも一人で突っ込むなんて事はすんなよ」
「!わ、分かってるよそんな事は!」
オイ!今絶対動揺しただろ。図星かよ…
こいつは少し無鉄砲な所があるからな、誰かがしっかり見るなり釘を刺すなりしないと勝手に行きそうだ。
全く…困った奴だな…
「ただいま!」
するとリーファがログインしてきた、もうそんなに時間が経っていたか…仕方無いが話はここで終わりだな。結局分かったことは現状打つ手が無いという事だけ…気が重いな…
「じゃあ後はよろしくな」
そう言ってキリトはログアウトしたのであった。
キリトがログアウトしたことでここにいるのはリーファと俺…そしてユイだけになった。
リーファはユイが勝手に動いたことに驚いていたが…
「そう言えばあなたはなんでパパって呼ぶの?もしかしてそういう設定にしてるの?」
唐突なリーファの疑問にユイは当時の事を思い出しながら答えた。
「パパは私を助けてくれたんです。俺の子供だって言ってくれて…だからパパはパパなんです」
「そ、そう…パパの事好きなの?」
リーファはあまり分かってはいない様子であったが再びユイに疑問をぶつけた。しかし…
「リーファさん。好きってどういう事なんでしょう?」
その言葉にリーファはひどく混乱したようだ。目に見えて動揺している。
「いつでも一緒にいたい…一緒にいるとドキドキワクワクする…そんな感じ?」
リーファの言葉を聞いた後、ユイはこちらにその純粋無垢な瞳を向けてくる…あれ?これってもしかして…
「タツヤさんはどう思いますか?」
まさかのカミングアウトかよ!一瞬誤魔化そうかと思ったがあの純粋な目を見てるとそんな事をしてはいけないような気がする…どうやら腹を括るしか無いようだ。生憎そういう事とは無縁でいた俺であったが少し考えてみよう…
「…俺は一緒にいると心地良いって感じる事だと思う。心地良さっていうのはつまり…なんていうか…その……。…悪い…上手い言葉が見つからないわ…」
どうやら俺には難しすぎる問題だったようだ。そもそもそんな事をこれまで考えたことすらない俺にはどう足掻いても答えることは出来なかったのであろう。
「いいえ。成る程…好きというのは人それぞれ様々な物があるのですね。人の数だけ答えがある…中々興味深いです」
俺の解答にもユイは満足してくれたようだ。しばらくするとキリトが思ったよりも早くログインした。どうやら家族の人が夕飯を作ってくれたらしい。
「よし!じゃあ行こうか」
リーファに続いて俺たちは洞窟の中に入って行った。
ルグルー回廊…如何にも洞窟のような感じで辺りは暗く道は狭くゴツゴツしている。普通ならこんな視界不良の所を進むにはかなりの時間を有するはずだがスプリガンの暗視能力をプレイヤーに付加する魔法のおかげでだいぶ早いペースで進めている。…戦闘では役に立たないしょぼい魔法だと言われてキリトは落ち込んでいたが。しばらく歩くとユイが口を開いた。
「!接近するプレイヤー反応です!」
ユイの大声で俺とキリトは急いで隠れようとするが生憎こんな狭い洞窟には隠れる場所は無い。しかし、リーファはこんな状況でも冷静でいた。
「~~~~~!!」
リーファの隠蔽魔法によって周囲と同じような壁が現れる。これを使って隠れるのであろう。しかし…
「ほら!タツヤ君も早く!」
「いや…俺はちょっと…」
俺たちが隠れるスペースが余りにも小さいのである。三人も入るためにはかなり密着しないと無理であろう…流石に俺にそんな事は出来ない。そんな事が平然と出来るのはそこにいるキリトだけであろう。
「なに言ってるの!隠れないとダメでしょ!」
「ま、待って!手を引っ張らないでくれ!」
しかしリーファは俺の手を引っ張ってその狭いスペースに連れて行こうとする。俺は抵抗して近くの岩を掴んだ。
ガチャ……ドドドドドドドドドドドドドドドドドド
そんな音が聞こえた直後に大きな揺れが起きた。
「な、なにこれ?」
俺にも分からないが正直ろくでも無い事に違いない…こういう時の俺の勘は大体当たるのだ。しかし…
「?揺れが止んだな」
「そうだね…」
しばらくすると何事も無かったかのように揺れがぴたりと止んだのであった。…どうやら何も無かったようだ…
「何だったんださっきのは?」
そう言ってキリトも驚いた表情でこちらに走って来た。俺にも分からないが…まあ何も起こらなくて良かったな…
ペキ
そんな何かにヒビが入ったような音が周囲から聞こえた。音の発生源は俺たちの足元からだった。ゆっくり下を向くとそこには…全面に無数のヒビが入った岩の床が…あれ?もしかして…
「「「うああああああーーー!!!」」」
俺の想像通りにそのまま床が崩れて俺たちはまっ逆さまに落ちて行ったのであった。
ということでオリジナル展開です。残念ながらジータクスと愉快な仲間たちもキリト君ビーストモードの出番もありません。期待していた方々申し訳ありません。
ついに作者が出したくてしょうがなかった奴らを出せる時が…
最難関ダンジョン《ヨツンヘイム》に落ちてしまったタツヤ達、そこでタツヤは驚愕の存在に出会う
次回「霜の妖精と長腕の魔神」にレディーゴーーー!!!