ソードアート・オンライン~赤腕の槍使い~   作:G.S

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最近更新速度が遅れてしまいまして申し訳ありませんm(__)m
今回主人公が普段の三倍増しで陰鬱になっております、ご了承下さいませ。
それではどうぞ


第二十七話:決戦前の出会い

 現在午前七時、俺は熟睡することなく朝の寒さで起きてしまった。仕方ないので俺は重たい体を起こしてシャワーを浴びる。

 

「さて…後の時間をどう潰すか…」

 

シャワーを浴びて少しすっきりした頭でこれからの事を考える…本日ALOは午後三時までメンテナンスなのでALOにはまだ入る事は出来ない。つまり三時になるまで俺は暇だという事であり、何をするか…

 

「とにかく何か食わないとな」

 

そういえばまだ朝食を食べていなかった事を思い出した。俺は冷蔵庫の中を確認するが…

 

「あ…」

 

冷蔵庫の中身は空であった。そういえば帰って来てから何も買っていなかったのだと今さらになって思い出した。まずは近場のスーパーに買いに行くか…俺はいつものように手袋をはめて、ジャージの上に上着を羽織り外に出掛ける事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 二十分ほどの時間を歩いて目的のスーパーに入る。そしてスーパーの中で適当なカップ麺を何種類かかごの中に入れていく。これで当分は食い物に困らないだろう…

 

「よう!メイジンじゃねえか!」

 

そんな事を考えていると急に肩を叩かれ後ろから声を掛けられた。…俺のことをメイジンなんて呼ぶ奴は一人しかいない…俺は後ろを振り返る。

 

「…ああ、二年ぶりだよな。…つかよく気付いたな?背格好なんかは前会った時より大分変わったんだと思ったんだが…」

俺の後ろにいたのは予想通りの人物…170㎝の俺を遥かに越える身長、強面の顔に傷が付いている絶対に堅気には見えない…だが実際はただの子煩悩で愛妻家な模型店経営者の土須薫《通称ドズル中将》がいた。

…このおっさんは父親の知り合いだ。俺がまだ家族と仲が良かった頃、父親の趣味である某機動戦士のプラモデルをやりたいと言ったところ連れていかれたのが彼の店であった。当時の俺はこの店主の人相にビビっていたのだが中々気さくな人柄に俺はかなり早く心を許したのだ。当時学校で友達が出来なかった俺にとっては年の離れた友達みたいな人である。

 

「ははははは!俺から見たら身長なんかみんな同じに見えるわ!」

 

豪快に笑いながら答える中将…確かに210㎝を越えるあんたから見たらみんな同じ身長に見えるんだろうな。

あれ?そう言えば…

 

「あんた何でここにいるんだ?あんたの店ここから遠いだろ?」

 

確か埼玉じゃなくて神奈川の方にあった筈だ。わざわざ電車に乗ってこんな何の特徴も無いスーパーに買い物に来るわけがないし…俺の疑問に中将は答えてくれた。

 

「ここには知り合いの見舞いに来たんだよ。そしたらカミさんにお使い頼まれてな…お前はここら辺に住んでるんだな?」

 

「ああ…それはともかくメイジンは止めてくれよ。恥ずかしいたらありゃしねえぜ」

 

俺の渾名…メイジンというのはそのアニメに出てきた俺と同じ名前の登場人物から付けられたものだ。当時はその名前をえらく気に入っていたのだが、今となってはかなり恥ずかしい。

 

「そうか?前は気に入ってたのに…お前も変わっちまったな…」

 

…変わっちまったか…

 

「…ああ、変わっちまったよ…あの頃とは何もかも…」

 

俺が最後に彼と会ったのは約四年前…俺の両親が亡くなる数日前だ。あの頃から…いや、それよりも前から俺は変わってしまったのであろう。

 

「…悪い。あんまり思い出したくなかったよな…」

 

「…別に、もう終わった事だ。あんたが気にする事じゃねえよ」

 

顔を曇らせて謝る中将に俺はなるべく平静を装って答える…そう何もかも終わった事だ…二度と元には戻らない。それから俺たちの間に沈黙が続く…沈黙に耐えかねて先に口を開いたのは中将であった。

 

「ところで急な話なんだが、うちでバイトをやらないか?」

 

…本当に唐突だな…つかバイトって…

 

「あんたの店にバイトなんか要らないだろ?」

 

確か中将の店はそんなに大きくなくて、美人な奥さんと二人で切り盛りしていた筈だ。バイトなんて雇う必要が無いと思うのだが…

 

「ああ、実はな…」

 

どうやら中将はこれからの売上のためにも店で子供達にプラモデルの作り方を教えたいのだが、そのためには一人では厳しいので、もう一人を探していたところ偶然俺を見つけたらしい。

確かに作り方が分からなければプラモデルなんて買おうと思わねえし…新しい客を呼ぶためには悪くない戦略だな…

だが…

 

「そもそも最近のガキなんかプラモやらねえだろ?客層変えた方がいいんじゃねえか?」

 

残念ながら今日様々な娯楽が溢れている時代にわざわざプラモデルを選ぶ奴なんてもはや絶滅危惧種だと俺は考えている。…まあ…かつて俺はその絶滅危惧種だったのだが…

 

「それもそうなんだけどよ…」

 

そう言って恥ずかしそうに頬を掻き出す中将…正直あんたにその仕草は似合わないよ…

 

「子供達にもこいつの良さを知って欲しいんだよ…」

 

…そういえばあんたはそういう人間だったな、昔から変わらず…勿論良い意味でだが…

丁度バイトを探していた俺にとってはいい話かもしれない、少なくとも以前のバイト先よりは伸び伸びやれそうだ。だが…

 

「そうか…でももう作る気は無いんだ、その話は断らせて貰うよ。…悪いな…」

 

「…やっぱあの事を気にしているのか?」

 

気にしている、か…きっとそうなのだろう。あれをやると父親の事を思い出してしまう…そうなると再び喪失感と罪悪感押し潰されるのを分かっているからやりたくないのだろう…まあ、そんな事を伝える必要は無いが…

 

「…そうじゃねえよ、今は気分が乗らないんだ。あんただってよく言ってただろ?『所詮はただの遊び。やめても構わない』、ってさ」

 

この言葉はそのアニメである人が主人公に対して言った台詞だ、中将もよく引用していた。その言葉を聞いて中将は真面目な顔で口を開いた。

 

「竜也、肝心なところを忘れているぞ」

 

「?肝心なところ、って何だよ?」

 

「『遊びだからこそ本気になれる』、だ」

 

そう言って中将は微笑んだ…彼はさらに言葉を続ける。

 

「あの時の本気はまだお前の中に残っていると俺は信じてる。それとな…お前があいつらの事を引きずっているのは分かるが…お前にそんなに辛い思いをして欲しくないってあいつは思っている筈だぞ。……子供の幸せを望まない親なんていないんだからな」

 

子供の幸せを望まない親はいない…俺がもう少し早くそんな単純な事実に気付いていればこんな事にはならなかったかもしれないな…もう手遅れだが…

 

「…そうかもな」

 

でも例え両親か許してくれてもきっと…俺自身が自分の事を許せないんだ。だってあいつから両親を奪ったのは俺だから…自分を許しちまったらあいつの憎しみは一体どこに向かえばいいんだ?

 

「今が辛いならそれも仕方無い。でもいつかそれを乗り越えて純粋にプラモ作りを楽しみたいと思ったらいつでも電話してこい」

 

そう言ってその場を後にする中将…いつかそんな日が来るのかを疑問に思いながら俺はレジへと向かったのであった。

 

 

 

 

 レジで会計を終えてスーパーから出た俺は現在帰り道の公園のベンチに座ってボーッと考え事をしていた。

ここ最近は何故だかよく家族の事を思い出す…思い出す度に辛い思いをするのに何でそんな事をするのだろうか?

正直な話、俺は家族の事をなるべく思い出さないように生きてきた。…楽しい思い出はたくさんある、それでもそれを思い出すと結局最後に残るのは自分が家族に対して行ってしまった事への罪悪感ともう二度と手に入る事が無いのだという虚しさだけなのだから…そんなものを味わいたくない俺はその思い出に蓋をしてきたのだ。

そうやって過去からも家族からも目を背けていた俺であったが、あの世界に囚われて様々な人に会う事でたった一人の家族にもう一度会いたい、会って謝って昔のような兄弟に戻りたいという気持ちが芽生えた。俺はその一心で槍を振るい続けたのだ。…結局仲直りなど夢のまた夢だったのだが…

 

あの世界に行けて、俺は変われたのだと思っていたがそんな事は無かったのだ。あの世界に囚われる前の俺と今の俺に違いがあるとすれば、それは得難き友人を得たという一点だけ…俺自身には何の変化も訪れていない…

…何を今さら、そんな事は元より分かっていた事だ。だって俺はそういう人間なのだから…昔も今も変わらず、な…そんな結論に至った俺は時計を確認した。十一時十五分、か…俺は寒さに耐えかねてベンチから腰を上げて…

 

「「あ…」」

 

偶然正面の人と目が会った。ベージュの帽子に赤色のマフラーとコートを着た少女…しかも見知った顔であった。

 

「こんな場所に何か用か?」

 

普段の俺ならそのまま素通りしていたであろうがおもわず声を掛けてしまった。

それは…彼女の表情があまりにも辛そうなのを我慢しているように見えたからであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、えっと…その…少し休憩を…」

 

「…そっか」

 

 慌てて誤魔化す彼女…確か桐ケ谷直葉だったか?に対して俺はそう返す。そのまま彼女はベンチに座り、俺はその近くに立った。

さて…勢いで声を掛けてしまった事を俺はさっそく後悔してしまった。よく考えれば彼女との接点と言えば病院で一回会った事のみ、さらには彼女の事はキリトの妹であり、あいつの友達であるという事しか知らない。

長い沈黙が続く…それに耐えかねて俺は公園内の自販機に足を向けた。

 

「飲み物を買ってくる、何がいい?」

 

「え?そ、そんな悪いですよ」

 

最初は彼女は遠慮していたのだが、無言のまま自販機の前で止まっている俺に折れたようでお茶を頼んだ、俺もついでに缶コーヒーを買う。

 

「はい、お茶」

 

「ありがとうございます」

 

彼女がペットボトルのお茶を飲むのを見て俺もいつものように缶コーヒーのプルタブを開けて一口飲む。久しぶりの缶コーヒーの味は少し苦く感じた。

 

「変わった開け方するんですね」

 

「あぁ…そういえばそうだな」

 

唐突な彼女の言葉で自分がどんな事をしていたのか思い出した。左手の親指と中指で缶を支えて人差し指でプルタブを開ける…つまりは左手だけで缶コーヒーを開けたのである。長い間左手だけだったからな…缶コーヒーを開ける、卵を割る等大抵の事は左手だけで出来る。

…まあどうでもいい特技の一つだ。

 

「それで…えっと…紗夜ちゃんのお兄さんはどうしてここに?」

 

「…竜也だ。ただの買い物帰りだよ」

 

紗夜の名前を聞いただけで俺の心にチクリと何かが刺さる。それを誤魔化すために俺はぶっきらぼうに彼女に答えた。

 

「ちなみに何であんたはここに?あんたの家はここら辺じゃねえだろ?」

 

俺が再び問いかけると彼女はぎこちない笑みをこちらに向けた。

 

「私、今日お兄ちゃんと一緒にお見舞いに行ったんです」

 

「お見舞い?…あぁ、アスナのか」

 

一瞬お見舞いと聞いて誰のか分からなかったが、あいつがお見舞いに行く相手は彼女以外にあり得ない事を思い出す。そのまま彼女は話を続けた。

 

「はい。アスナさん凄い美人で、アスナさんを見ているお兄ちゃんを見て本当にあの人の事が好きなんだと思って…」

 

どうやら彼女はキリトをアスナの病室に一人置いてここに来たらしい。ただ…俺にはなんで彼女がそんなに辛そうな顔をしているのかが分からなかった。この話の中には彼女にそんな表情をさせている要因は無いと思ったのだが…

 

「あの…竜也さんはアスナさんのお知り合いなんですよね?」

 

「…知り合いかと言われるとちょっと微妙だけどな」

 

今さら考えると俺と彼女の関係は何だろうか。友好関係…というほど仲が良いわけではない。ただキリトの側には大体彼女がいたから話す機会があった程度だ。その時の俺は彼女に苦手意識を持っていたしな…その苦手意識が払拭されたのは随分後の話だ…

 

「アスナさんってどういう人だったんですか?」

 

彼女は真剣な眼をして俺に尋ねてくる。その眼差しに俺も適当にはぐらかしてはいけないと感じた。

ーーー俺の中でのアスナは…

 

「すげー怖い奴だったよ…」

 

彼女は俺の言葉に一瞬何を言われたのか分からなかったかのような顔をする。俺はそのまま話を続ける。

 

「なんていうか…オーラが出ていた、かな?うん、正直怖かった」

 

俺の中での彼女の印象はそんな感じだ、常にピリピリしていて堅物、そしてとにかく怖かった…主にキリト関連で…得物のレイピアの先を向けられた時はマジで死ぬかと思った。

でも…

 

「でも…いい奴だったよ。明るくて、素直で…それに美人だったしな」

 

俺の言葉に彼女は更に表情を曇らせる…そろそろ本題に入ってもいい頃合いだろう。

 

「それで…何でそんな辛気臭い顔をしてるんだ?」

 

「…やっぱり分かりますか?」

 

彼女は一瞬驚いた顔をした後そう言いながらこちらにぎこちない笑みを向ける。

 

「えっと…竜也さんは私の事をどこまで知ってますか?」

 

「どこまで、って…キリ…和人の妹であいつの友達、それと…」

 

血縁上は従兄妹同士…その言葉を聞いて彼女は一瞬驚いた後再び表情を曇らせてしまった。

 

「驚いた…お兄ちゃんその事話してたんですね?」

 

「偶々だよ。偶然話を聞いちまっただけだ」

 

その話はシリカと一緒にフラワーガーデンに行った時に道中キリトが話していた。おそらくキリトの方は忘れているんじゃないんだろうか?

 

「私がそれをお兄ちゃんがSAOに囚われている時にお母さんから聞いたんです。急にお兄ちゃんが私と距離を取ったのはそれが原因なんだって思って…」

 

キリトがそれを知ったのはおそらく小学生の頃だろう、その歳の餓鬼にとって自分を育ててくれた人が本当の親ではないという事実はどれほどショックな事だろうか?

生憎俺にはその辛さは分からない、だって俺はそんな事は元々知ってたから…

 

「私…お兄ちゃんの事何にも知らなかったんです。お兄ちゃんがどんなに一人で辛い思いをしていたのか…それを知って、私は毎日お兄ちゃんのお見舞いに行ったんです」

 

きっと彼女は後悔していたのであろう…自分がもう少し歩みかけていたらこんな事にはならなかったのだろうと思って…

 

「あの世界からお兄ちゃんが帰って来た時はすごく嬉しくて…お兄ちゃんの膝の上で泣いちゃいました」

 

そう言う彼女の表情は先ほどのぎこちない笑みではなく本当に心から喜んでいる笑顔であった。

……羨ましい…そんな事を思ってしまった。俺が望んでいた事をキリトは意図も簡単にやってしまったのだから…

もしも彼女が許してくれたなら俺にこんな笑みを向けてくれたのかもしれないな…叶わない事だろうが。

……あれ?

 

「お兄ちゃん、あの世界から帰って来たらすごく優しくなってて…」

 

「あの…そろそろ本題に入ってくれないか?」

 

今さっき気付いたのだが俺は彼女が何でそんな辛そうなのかを聞いていた筈が、いつの間にか彼女とキリトの話に切り替わって…いや、そう言えば最初からそんな話だったわ。きっと彼女のそれを説明するのに必要な話なのだろうがこのままだと終わりそうに無いので話を折らせて貰った。

 

「ご、ごめんなさい。つい…」

 

「別にいいんだけどさ…それで?」

 

俺がそう言うと彼女は躊躇いながらもゆっくりと口を開いた。

 

「その…私、お兄ちゃんが好きだったんです」

 

「…まあ、兄妹なら普通なんじゃねえの?」

 

俺だって昔は妹の事が好きでよく一緒に遊んでたし、仲が良いなら好きなのは当然ではないだろう?

 

「えっと、そういう好きじゃなくて…その…異性としての好きの方で…」

 

「…ああ、そっちね」

 

どうやら彼女がキリトに対して持っていたのは兄妹愛ではなく恋心であったようだ。

……え?

 

『はああああああああああ?!』

 

柄でも無くそんな大声を出しそうになるのを必死に止める。え?どういう事?彼女はキリトの妹で…正確には義妹なんだけど…でも彼女は兄であるキリトの事が好きで…

全く…あいつの周りは女性関係のトラブルばかりだな。いつか誰かに刺されるんじゃないか?と少しばかり友人の将来に不安を覚えた。

 

「でも…お兄ちゃんにはもうアスナさんがいたんです。あの世界で結婚までした恋人の…」

 

そう言って彼女は一気に表情を曇らせてしまった。…つまり彼女の初恋は終わってしまったのだ、告白する時間すら与えられずに…きっと彼女はその想いをずっと胸に閉まってきたのであろう。

 

「でも…もう良いんです。私には他に好きな人が出来たから…」

 

ならどうして彼女はそんな悲しそうな顔をしているのだろうか?それは彼女が未だにそれを引きずっているからで…

生憎俺は人を好きになった事は無いが、彼女が別の人を好きになることでキリトへの恋心を忘れようとしている事ぐらいは分かる。だが…

 

「…そうか」

 

俺はそう言う事しか出来なかった。思いを伝えた時点で拒絶されるのは分かっているのだから…それならそんなのは心に閉まっている方がよっぽどマシだ。…他人に拒絶されるくらいなら一人で我慢する方が遥かに耐えれる事なのだから…

 

 

 

 

「それにしても驚きました、竜也さんって聞き上手なんですね」

 

「黙ってただけで聞き上手扱いされるなんてな…」

 

 彼女の呟きに俺はそう皮肉気に答える。実際俺がしていた事といえば彼女が喋っているのをほぼ黙って聞いていただけだ、こんなんで聞き上手扱いされるなら案山子でも出来るに違いない。

 

「それでもです。おかげで少しだけスッキリしました、ありがとうございます」

 

そう言いながらも彼女の表情は先程と同じように曇っているように見える。きっと気分が晴れたといっても微々たるものなのだろう。まあ…俺にはこの程度の事しか出来ないのだが…

 

「じゃあ、俺は帰るわ。最近は寒いからよ、風邪引かないうちに帰りな」

 

「あ!ちょ、ちょっと待って下さい!」

 

そう言って俺はその場を後にしようとするが、彼女に呼び止められて立ち止まる。彼女はどこか決意した様子で俺を真っすぐ見つめた。

 

「…どうして紗夜ちゃんを避けているんですか?」

 

その真っすぐな言葉は俺の心にグサリと突き刺ささる、俺はそれを悟られないように彼女から目を逸らした。

 

「彼女、ずっとあなたの帰りを待ってたんですよ」

 

「…あいつから俺の事はどんだけ聞いてる?」

 

俺の唐突な問いに彼女は一つずつ思い出しながら、ゆっくりと答えた。

 

「えっと…歳が三歳離れている、昔は仲が良かった、缶コーヒーが好き、高校生になると同時に家を出ちゃった事と、それと…」

 

そこまで話して彼女は言い淀んでしまった。おそらく最後の一つは…

 

「本当は血が繋がっていない事、か?」

 

俺の言葉に彼女は無言で頷いた。そう…俺と彼女は本当の兄妹ではない、ちなみに彼女のように従兄妹同士でも無く言うならば血縁上は全くの赤の他人だ。

…だがそんな事はどうでもいい。どうやらあの事までは話していないようだ…他人に言えるような内容じゃねえしな。

それにしても…

 

『あいつ話し過ぎだろ…』

 

他人に対して自分たちの情報を話し過ぎではないだろうか?まあそれだけ彼女の事を信頼しているという事だろうが…

 

「…別にあんたには関係ねえだろ?誰もがあんたらみたいに仲直り出来る訳じゃねえんだ」

 

そんな彼女に俺はぶっきらぼうに答える。そう…俺はあいつにひどい事をしてしまった、きっと何をしても許されるようなものではないのだ。

…キリトのように仲直りがしたい、という気持ちは勿論ある。でもきっとそんな事は不可能だから…それなら今のような気持ち悪い関係の方がマシだと思えるから…そうやって俺は彼女と向き合う事から逃げ続けているのだ。

 

「…じゃあな」

 

俺の言葉に黙り込んでしまった彼女をその場に残して背を向けて歩き出す。これ以上ここにいたくない…その気持ちが俺の中を占めていた。

 

去り際に一瞬振り返った時に見た彼女の表情は、依然としてどんよりと曇っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そのまま真っすぐアパートに帰った俺はベットの上に仰向けに寝転がっていた。キリトとの約束の時間まであと約十分程…あと何日ぐらいでシルフ・ケットシー両名の準備が整うかは分からないがおそらく数日はかかるのではないだろうか、と予想を立てる。

それに問題はそれだけではない、今まで一度たりともクリアされたことの無いこのグランドクエスト…一体どれ程の障害が立ち塞がるのか実際には分からないのだ。本当にこの戦力でクリア出来るのか…正直不安だらけだが俺が悲観的になったところで仕方無い、と結論付ける。

考え事をしている間にメンテの時間が終わったようだ、寝転んだまま俺は枕元に置いてあったナーヴギアを手に取り頭に被せる。

 

「リンクスタート」

 

そして俺はあの妖精の世界に翔び立ったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 目を開けると昨日泊まった宿の中であった。どうやらキリトはまだ来ていないようだな。今日はグランドクエスト攻略のための準備をするか…そう思っていると静かな部屋の中に人がいることに気付いた。

金髪をポニーテールにした緑色の服を纏った女の子…間違いなくリーファだ。

 

「なんだいたのかよ。声掛けてくれないと分からない…ってどうしたんだリーファ?」

 

俺はリーファに問い掛ける…それは彼女の瞳から雫が…つまり涙が零れていたからだ。

 

「タツヤ君、私失恋しちゃった」

 

いつものような明るさは無く弱々しい口調でそう言い、涙を払い気丈に振る舞うリーファ…その姿はあまりにも痛々しかった。

…俺には正直彼女がどれ程辛い気持ちなのかなんて分からない。それでも…

 

「…辛いなら我慢するなよ」

 

自然とそんな言葉が出てしまった。その辛さが耐えられないようなものなら、誰かに訴えかける事で楽になれるものなら言ってしまえばいいのだから。

俺の言葉に彼女はその瞳に再び涙を溜めて俺の胸に飛び込んで来た。

 

「う、う…うわーーーん!!」

 

流石に胸に飛びついて来るとは予想できなくて一瞬驚いたが、彼女の瞳から決壊したダムのように流れる涙と泣き声にそんな感情は消えてしまった。

彼女の嗚咽だけが静かな部屋に響く…

きっと本当の俺には彼女を慰める資格なんて無いのかもしれない。でも、それでも、この瞬間だけは、俺の胸で泣きじゃくり弱弱しく映る彼女を、躊躇いながらも優しく抱きしめるのであった。




うん、大胆だね(笑)書きながらそんな事を考えてしまいました。
これで二人の距離が急接近…するかもしれません。

そしてまさかの趣味発覚!ちなみに模型店店主の人はドズ・カオルと呼びます。見た目はみなさんお察しの通り”やらせはせんぞー”さんです(笑)
これでオリジナルキャラクターはほぼ出し切りました。残るは中将の美人な奥さんと娘さんだけです(笑)
そう言えばオリキャラ紹介とかもやった方がいいのでしょうか?当分先の話ですが…

それでは次回予告です
世界樹に向けて歩き出すタツヤ達、しかしキリトが一人でグランドクエストに挑んでしまって…
次回「クエスト失敗と驚愕の事実」にレディーゴーーー!!!
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