ソードアート・オンライン~赤腕の槍使い~   作:G.S

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え~最初に謝らせて頂きます。

本当に申し訳ありませんでしたー!!m(__)m
ちょっと最近忙しくて全然時間が取れなかった訳でして…
マジお前何週間更新してないんだよ!って自分でも思ってまして…
長らくお待たせしてスミマセンでしたー!!

とにかくこれで過去編も終了です。次の話はなるべく早く作ります!

それではどうぞ



第三十話:結末

 彼女、三ヶ島紗夜は父親である三ヶ島隆道と二人で暮らしていた、母親は彼女が産まれてすぐに病気で亡くなったらしく男手一つで育てられたそうだ。

 

『ねえねえ、好きな食べ物は何?』

 

『えっと、特には…』

 

『そうなの!?私はねーー』

 

母さんと三ヶ島さんが部屋で話している間、俺たちはリビングでずっと話していた。正確には彼女の質問に俺がずっと答えていただけなのだが…それでもなんとか会話になっている。

 

それにしても…よく喋る娘だ、さっきから休む暇も無く俺に話し掛けてくる、まるでマシンガンのようだ…正直こっちはあまり人と話した事が最近無いからすごく疲れる、主に精神的に。そんな俺の様子を察したのだろうか、彼女は身を乗り出してこちらに尋ねてくる。

 

『もしかして、お話するのは嫌い?』

 

『え?!いや、えっと…』

 

『全然恥ずかしがる事では無いわ。誰だって苦手な事があるのだもの』

 

そう言って微笑む彼女、その声色は俺を軽蔑するものではなく、どこか俺の答えを期待しているようなものであった。

 

『…少し苦手』

 

正確には会話をする事が苦手なのではなく知らない他人が苦手なのだが…まあ同じ事だろう。俺がそう言うと彼女はパーっと表情を明るくしてこちらを見詰めてくる。

 

『良かった!このまま話してたら私、あなたに嫌な思いをさせるところだったわ』

 

すると彼女は無言のまま楽しそうに足をぶらぶらさせ鼻唄まで歌っている。何故だが分からないがご機嫌のようだ

 

だが赤の他人が苦手な俺には彼女が提供してくれたこの空間は居心地が良かった。彼女の小鳥のさえずりのようなハミングだけがリビングに広がる…家族の前以外でこんなにも穏やかな気持ちになったのは初めてかもしれない。

 

そんな心地良い気分に浸る事数分、ガチャリと部屋の扉が開く音がした。

 

『紗夜ー、帰るよ』

 

『あっ!もうお話終わったの?』

 

そう言って部屋から出て来る三ヶ島さん、どうやら話は終わったようだ。その声を聞いて、彼女は父親の元に駆け寄りその脚にしがみついた。

 

そのまま玄関に向かう二人、俺たちも見送るために二人に付いて行く。

 

『今日はありがとうございました』

 

『いえいえ、いつでも来てください』

 

そう言って微笑む母さん、三ヶ島さんも微笑を浮かべてそれでは、と言い玄関のドアを開ける。彼女、紗夜は一緒に出て行く直前でクルリと百八十度回ってこちらに向き直した。

 

『それではさようなら、また遊びましょうね』

 

丁寧にお辞儀をして朗らかに微笑む彼女、数秒の後、その言葉が自分に向けられたものだと理解した俺は慣れない言葉を発した。

 

『うん…また』

 

彼女は再びお辞儀をすると父親の手を掴む、そのまま二人は帰って行った。

 

『ーーさて、ちょっと遅くなっちゃったけどご飯にしよ?』

 

二人の姿が見えなくなる頃を見計らって母さんが聞いてくる、確かにもういい時間だ。俺は母さんの手伝いをするために一緒にキッチンへと向かった。

 

 

 

 それからというもの三ヶ島親子は頻繁に家を訪れた。家の中でお互い少し話すだけの時もあれば、一緒に出掛けたり買い物に行ったりする時もあった。

 

お互い楽しそうに談笑する二人を見ていれば俺でも気づく。あの人は母さんが好きなのであろう、そして母さんも…

 

『ねえねえ、竜也君』

 

『どうしたの?』

 

とはいえ俺も最近は彼女、紗夜とばかり話をしている。同じ小学校の同級生とは適当な返事しか出来ない俺ではあるが家族を除けば彼女とは会話を成り立たせることが出来るのだ。おそらく彼女独特の雰囲気に毒気を抜かれてしまったのだろう。

 

『あの二人って、絶対両思いよね?』

 

目を輝かせながら俺に尋ねてくる彼女、年頃故かこういう話題には興味津々のようだ。

 

『多分ね』

 

『あら?意外、竜也君も気付いてたんだ』

 

俺の返答に彼女は心底驚いているようだ、どうやら彼女の中では俺はそんな事も分からないような鈍感人間だと思われていたらしい。その彼女の評価に少しばかり不満を持った俺は不貞腐れるように彼女に聞いた。

 

『…なんだよ、気付いたら悪いのかよ?』

 

『いいえ、そんな事は無いわ。だからそんな膨れっ面しないで』

 

そう言ってクスクスと笑い俺の頬を突っつく彼女、情けない話ではあるのだがこれがいつもの光景だ。彼女がからかい俺がいじける…最初の頃は俺も抵抗を見せていたのだが、最近はなされるがままになっている。

 

別に相手にするのが面倒臭い訳では無い、不思議な話ではあるがむしろ彼女との会話を楽しんでいる自分がいるのだ。

 

『でも、もし二人が結婚したら私たち兄妹になるのよね…。竜也君の事をお兄ちゃんって言わなきゃいけないのかしら?』

 

どうやら彼女の頭の中ではもう結婚の所までいっているようだ、生憎そこまで行くにはもう暫らく時間が掛かると思うのだが…。しかし、よく考えれば確かに二人が結婚したら紗夜とは兄妹になるんだよな。彼女にお兄ちゃんと言われる自分を想像してみる。想像して、想像して、想像して…

 

『…想像出来ない』

 

全くといってもいいほど、イメージが湧かなかった。そもそもお兄ちゃんなんて言われる柄では無いと自負しているし、お兄ちゃん、と言ってくる紗夜なんか想像出来ない。

 

視線だけを彼女の方に向けるとどうやら俺の返答に満足しているようだ、口元を手で隠しながら肩を上下させている。

 

『フフフ、私もよ。でもーーー』

 

そう言って俺と向き合う紗夜、その目にあるのはそんな未来に対する期待…

 

『きっと良い兄妹になれるーーーいいえ、兄妹だけでは無いわ、きっと良い家族になれる。私たち四人ならね』

 

『家族…』

 

その言葉は俺にとっては特別なものだ、一度失いようやく手に入れたもの…絶対に俺が手放したくないゆういつのもの…きっと家族が増えるという事は喜ばしい事なのだと思う。でも…正直言うと不安になる。

 

確かに紗夜とその父親の隆道さんは良い人だ、だが家族となったら果たして俺は彼女たちと上手くやっていけるのだろうか?もし上手くやれなくて孤立してしまったら…俺の中にあったのは自分の居場所が無くなってしまうかもしれないという不安に恐怖…

 

『大丈夫よ』

 

『えっ?』

 

彼女の掌が俺の両手を包み、優しく囁きかける。

 

『家族なんてすぐになれる訳では無いわ。少しずつ、ゆっくり、ゆっーくり時間を掛けて築き上げていくものなの』

 

『築き上げていくもの…』

 

俺は噛み締めるように彼女の言葉を反復させる。

 

人付き合いが苦手な俺の手を彼女が引っ張って、それを二人が微笑ましいものを見るかのように見ててーーーゆっくりと四人で家族になっていく…そんな未来を想像して少しだけ気が楽になった気がする。

 

焦る必要なんて無い、迷惑を掛けながらでもゆっくりとしっかりと歩み寄る、そうすればあの人たちは俺の手を引っ張ってくれる。あの時だって同じだったじゃないか…

 

『…ありがとう』

 

『フフフ、どういたしまして』

 

俺の感謝の言葉に当然の事をしたかのように返す紗夜、彼女のお陰で…少しだけ新しく家族が増えることを待ち遠しく思えたのだ。

 

 

 

 

 

『ねえ、竜也』

 

『何、母さん?』

 

 そんな事があった次の日、いつものように二人で夕飯をとっていると母さんが箸を止めて唐突に尋ねてくる。彼女は一瞬言ようか言うまいか迷った後、真剣な目で俺を見詰めながら口を開いた。

 

『お父さん、欲しくない?』

 

『…』

 

あまりにも直球過ぎる言葉に絶句してしまった。

 

そんな気はしてたけどさ、もうちょっとオブラートに包んだ言い方をしてもいいと思うんだけど…しかし、彼女はそれに気付いていないようで俺の言葉を待ち続けている。俺はお茶を一口飲んで自分を落ち着かせて口を開いた。

 

『隆道さんの事?』

 

『えっ?!イヤイヤイヤイヤイヤイヤ、べ、別に彼の事じゃないから!』

 

顔を真っ赤にして手をブンブン振りながら否定する母さん、明らかに動揺している。反対に俺は冷静に話を続ける。

 

『…良いと思うよ。僕、あの人好きだし』

 

『ほ、本当?…って違うから!隆道さんの事じゃないって言ってるでしょ!』

 

俺の言葉に一瞬呆気に取られた表情をした後すぐに顔を真っ赤にしてテーブル越しに俺に詰め寄る。コロコロと表情が変わって…なんだか面白い。 だがこれ以上やると彼女がいじけてしまうので名残惜しいがここら辺にしておこう、と少しばかり意地の悪い思考を働かせる。

 

『でも……本当にいいの?無理してない?』

 

心配するような母さんの声…母さんは俺の性格を知っている、だから俺が無理をしていると思ったのだろう。確かに不安が無いわけではない、それでも…

 

『家族が増えるのは楽しいと思うから…』

 

俺らしくないその言葉に母さんは微笑ましいものを見るかのような表情になった。

 

『そっか…よっし!お母さん頑張るね!』

 

そう言って腕捲りするような素振りを見せる母さん…こういう歳不相応な仕草を見るとこっちが微笑ましい気分になってしまう、そんな事を知ったらきっと母さんは羞恥で顔を真っ赤にして大声を上げると思うけど…

 

この日以降、母さんの隆道さんに対するアピールは苛烈となり、二人はめでたく結婚する事となったのだ。

 

 

 

 

『着いたよー』

 

 車の中でうたた寝をしていた俺は父さんこと隆道さんの声で目が覚めた。

 

二人が結婚するにあたり俺と母さんは東京都にある父さんの家…正確には父さんの叔父さんの家らしいのだが…で暮らすことになりさっきまでその道中だったのだ。新居に対するワクワクした気持ちと少しばかりの不安を抑えながら俺は車から出てその家を見る。

 

『…広い』

 

『そうね…』

 

そんな陳腐な言葉しか出なかった。庭付きの木造の二階建て…少し離れたところにある小屋もこの家の物だろうか?今まで一軒家というものに住んでいなかった俺にとってそれは凄く大きく思えた。

 

『おう、ようやく来たか』

 

そんな事を考えていると急に声を掛けられてハッと驚く。声のした方向を向くと鍛えられた体に禿げ頭なお爺さんがこちらを向いてニッと歯を見せていた。

 

…あまりの迫力に慌てて母さんの後ろに隠れる。

 

『…叔父さん。いきなり驚かすような事は止めてください、て何回も言いましたよね?』

 

『おう?おお、スマンスマン』

 

呆れるような父さんの声に全く反省の様子を見せずに平謝りする禿げたお爺さん…どうやらこの人が父さんの叔父さんのようだ。

 

『おう坊主、ワシがこいつの叔父の橘菊次郎だ。一応お前の大叔父?って事になるのか?まあ好きに呼びな』

 

そう言って先ほどと同じ迫力のある笑みを浮かべるお爺さん、この人の笑顔に慣れるのにはまだ時間が掛かりそうだ、と一人結論付ける。

 

そのままお爺さんに付いて行き中に入って行く。家の中も外観通りの木造の日本邸宅であった、趣のあるその廊下を奥へと歩いて行くと台所に行き着くとそこには一人の年配の女性が野菜を切っていた。

 

『初めまして。竜也君よね、私は橘雪江って言います。よろしくね』

 

こちらに気づいて手を止めて微笑むお婆さん、優しそうで穏やかで…失礼かもしれないが先ほどの爺さんとはエライ違いだ。正直もっと豪胆なお婆さんだろうと思っていた…

 

『もうそろそろご飯が出来るからリビングで待ってて』

 

すると再び手際よく野菜を切るお婆さん、その言葉に従い俺たちはリビングの椅子で座った。

 

『出来たわよー』

 

しばらくして、お婆さんが持って来たのはご飯に味噌汁、葉野菜のサラダに鯖の味噌煮…色鮮やかな野菜や香ばしい味噌の香りが食欲をそそる。

 

『いただきます』

 

全員揃ったところで食事が始まった。まずは一口…俺は鯖の味噌煮を箸で摘まみ口の中に入れた。

 

『!……美味しい!』

 

咀嚼して、味わって…そんな単純な言葉しか出なかったがお婆さんはその言葉で満足したようだ、嬉しそうに顔を綻ばせている。

 

『そんなに美味しかった?』

 

お婆さんの嬉しそうな問いかけに俺は正直に答えた。

 

『うん!母さんのご飯よりもずっと美味しい!』

 

『ちょ、ちょっと!酷くないそれ?!』

 

そんなコントのようなやり取りに周りからワッと笑い声が上がる。そんな笑い声を聞いて俺も可笑しくてクスクスと笑いだした。

 

食卓が大音量の笑い声に包まれる中…俺の不安はすっかり消えていた、何も心配する必要は無い、だってここはこんなにも暖かいのだから。今はーーただこの幸せを噛み締めよう。

 

そんな事を考えながら俺は再び箸を動かすのであった。

 

 

 

 

 それからは幸せな毎日だった。六人一緒にどこかに行ったり遊んだり、母さんが婆ちゃんに料理を教えて貰っているのを隣で眺めたり、運動会ではしゃいで筋肉痛で動けなくなった父さんに紗夜と二人で湿布を貼ったり…とにかく楽しい毎日であった。

 

俺が父さんが子供のように夢中になって作っていたプラモデルに興味を持ち、中将にあったのもこの頃であった。

 

幸せな日々…ずっと続いて欲しいと心から願った日常は些細な事で崩れてしまった。何者でもない俺の手によって…

 

『お前、親と血が繋がって無いんだってな』

 

切っ掛けは同級生からのそんな言葉であった。

 

どこでそんな事を知ったのか…今となっては分からないしどうでもいい話だ。おそらく相手は軽い気持ちで聞いたのだろう。俺も表面上は何事も無いかのように装いそいつを睨み付けるだけで止めておいた。

 

だけど本当は怖かったのだ…俺が出来るだけ目を逸らしてきた事実…その事実は何があっても所詮俺は彼らの子供ではないと突きつけられているようで…いつか両親が俺を置いていってしまうのかもしれないという焦りと恐怖が俺を蝕んでいった。

 

『おかえり兄さん、どうしたの?顔色が悪くない?』

 

『…何でもないよ』

 

彼女、紗夜の存在も俺のそんな拍車を掛けていた。彼女は父さんの連れ子…つまり二人にとって半分は血の繋がった娘なのだ、どちらを優先するかなど火を見るより明らかだろう。

 

…分かっている、俺は彼女に嫉妬していたのだ。俺が持っていない物を持っている彼女に、俺の居場所を奪ってしまうかもしれない彼女に…俺の中に渦巻いていたのはそんな黒い感情だった。

 

それでも…俺は彼女を嫌いにはなれなかったのだ。彼女だけではない両親の事も…だって俺にとっては居場所をくれたたった一人の親で妹なのだ、嫌いになれる筈がない。それでも俺の黒い感情は止まらない訳で…様々な感情が渦巻いていき俺が取った行動はーーー家族と距離を取ることだった。相手を傷つけないように、そして自分を傷つけないように…

 

そのためなら何でもやった…特に仲の良いわけでもない同級生どうしの慣れない遊びにも興じ…結局それは二三回で断念したのだが…爺ちゃんの道場や中将の店に入り浸り出したのもこの頃だ。

 

俺の変化に勿論両親は気づきなんとかしようとしたが、俺は聞く耳を持たず、彼らはどうすればいいのか分からず手をこまねいている様子だった。

 

「ねえ兄さん…ちょっといい?」

 

ただ一人…紗夜だけはそんな俺との距離を埋めようと自ら歩み寄った。何度も、何度も…

 

部屋に入って来たそんな彼女を一瞥して俺は呟く。

 

「…ノックぐらいしろよ」

 

「ご、ごめんなさい…」

 

そう謝り顔を俯かせシュンとする紗夜、俺はこういう顔をして欲しくないから距離を取っているのに…これじゃあ意味が無いじゃないか、と内心舌打ちをする。

 

「それで…何?」

 

「え、えっとね…」

 

俺の問いかけに彼女は言い淀む…まあ彼女が何しに来たのかはその手に持っている物を見れば予想がつく。

 

彼女が持っているのは長方形の箱だった。パッケージには背景の宇宙を背負った姿、飛行機の羽のようなバックパックを装着した左肩に獅子とユリの花がマーキングされた鮮やかな桃色の全身が特徴的なロボット…俺が作っているプラモデルの箱だ。

 

「これ買ったんだけど作り方が分からなくて…教えてくれない?」

 

つまりはそういう事である。彼女はこの現状をなんとかするための突破口としてわざわざあれを買ってきたのだ。

 

彼女らしい健気な行為…そんな彼女の優しさがーー今の俺には苛立たしく感じた。

 

「…説明書通りにやれば出来る。塗装したいならそこの工具を使えばいいから」

 

そうぶっきらぼうに返して俺は部屋から出ていこうとする、しかし彼女はそんな俺の手を掴んだ。

 

「兄さん…何でみんなから遠ざかろうとするの?みんな心配してるよ」

 

「…別に、ただの反抗期だよ」

 

彼女を睨みつけながらそう答える。しかし彼女はそんな答えに当然ながら満足しなかった。

 

「私も!お父さんもお母さんも!兄さんと前みたいに一緒にいたいの!何かしたのなら謝るから…!だから…」

 

彼女はその両目で俺を見詰め手を更に強く握り、懇願するように叫んだ。両親が言いたくても言えなかった事を彼女は俺に言ってみせたのだ。

 

もしーーこの時俺が自分の胸の内を彼女に打ち明けていれば、俺たちは元の仲の良い幸せな家族に戻れたのかもしれない。

 

だけど…

 

「うるせえ!離せよ!」

 

イライラした俺は衝動的に彼女の手をひっぱたいてしまった。しまった!と自分の行動を後悔してももう遅く彼女はその綺麗な瞳から涙を一筋流して悲しそうに呟く。

 

「ごめん、なさい…」

 

そして彼女は走って俺の部屋から出て行ってしまった。

 

「クソ…!何やってんだよ俺は…!」

 

俺は誰もいない部屋で苛立たしく呟いた。結局俺は彼女を傷つけてしまった…本当に何やってんだよ、これじゃあ本末転倒じゃねえか…!そんな浅はかな自分に嫌気がさして俺はベッドの中に潜り込む。

 

「…俺、どうすればいいのかな…」

 

そんな弱々しい俺の呟きに答えてくれる人は誰もいなかった。

 

その日から彼女が俺に構ってくる事は無くなった。お互いに不干渉…どこか気持ち悪い関係が一年もの間続いた。

 

そう、一年後だ…一年後には俺と家族のこんな関係も終わりを迎える。想像もしなかった最悪な形で…

 

 

 

 

 それは春の季節であった、今日は平日で学校に行かなければいけない筈なのだが、この三人にほぼ強制的に車に乗せられ連れていかれたのだ。何処に行くのかは全く聞かされていない、着いてからのお楽しみ…というやつだろう。だが…

 

『(三人で行けばいいのに…)』

 

行くなら仲良く三人で何処となりとも行けばいいじゃないか、こんな無愛想な奴をわざわざ連れてって空気を悪くする必要はない。大体何で今更こんな事をするんだ?

 

そんな事を考えながら車窓から外の景色をぼんやりと見る、俺の気分とは対照的な晴れ渡る青空…人に喧嘩を売っているのか?と恨み言の一つでも言いたくなる。

 

しばらくすると外の景色が変わった、快晴な青空から薄暗いコンクリートの壁へと…どうやらトンネルの中に入ったようだ。その後は何の変てつも無いコンクリの壁を眺め続けた。

 

そしてーーーその時は訪れてしまった。

 

最初に起きたのは大きな揺れ…車内にいても感じるほどの大きな揺れの中、父さんは速度を落としてなんとかハンドルを操作し道の左端に車を停めた。

 

『みんな大丈夫か?!』

 

『うん。なんとか大丈夫みたい』

 

切羽詰まった父さんの声に母さんが答える、四人とも特には怪我をしていないようだ。しかし、まだ続く地震に

揺れる地面、崩れるトンネル、そして落下してくる無数の瓦礫ーーー

 

『『危ない!!』』

 

俺が最後に見たのは驚愕と決死の表情で叫び、後部座席に身を乗り出す二人の姿ーーー

 

そこで俺の意識は途絶えてしまった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 気が付いたら真っ白な天井に消毒液の臭いーー俺は病室のベッドの上にいた。口には呼吸器がつけられており左手には点滴が刺さっている、どうやらなんとか助かり病院に搬送されたようだ。

 

体が重すぎるので顔だけを動かしてみた。

 

何の変てつも無い普通の病室…頭や左手には包帯が巻かれておりどれ程の怪我を負っていたのかが想像出来る、次に反対側を向くと窓から光が射し込んでいた。あまりにも眩しくて目を細めてしまう。

 

最後に視線を下げるとそこにはーー袖口から消えている俺の右腕がーーー

 

『!~ーーー!!』

 

その意味を理解してあまりの衝撃に叫びそうになるが呼吸器がつけられているせいで上手く声が出ない、さっきまで重たくて一ミリも動かせなかった筈の体を恐怖のあまり動かしベッドの上でジタバタさせる。

 

『先生!患者が暴れてます!』

 

『早く鎮静剤を!』

 

騒ぎを聞きつけて先生らしき人物とナースが駆けつけて来た。暴れ続けている俺はそのままナースに押さえつけられて身動きを取れなくなる。

 

しばらくそれに抵抗していたのだが急に体から力が抜けてしまい、重たくなった瞼に逆らう事も出来ずに眠ってしまった。

 

 

 

 

 

 病室に射し込む陽の光に目を覚まし、緩慢な動作で再び右側を覗くーーするとやはりそこにはかつてあった筈の俺の右腕は消えていた。

 

『やっぱり無くなったんだ…』

 

呼吸器はもう取り外されているようで小さく呟く、最初は驚いて取り乱してしまったが流石に二度目になれば心の準備が出来ている訳で声を上げる事も無かった。

 

おそらくあの事故で縫合するのが不可能なほどに右腕が潰れてしまったのだろう、と予想する。本当によく生きていたものだと自分の悪運の凄さにある意味感心してしまった。

 

『起きてたのか?』

 

そんな下らない事を考えていると横から声を掛けられた、俺にとっては祖父代わりの人物、橘菊次郎である。

 

『ああ、まあな。爺ちゃんも元気そうで』

 

俺の言葉に彼は無言で頷く、その表情には影が差していた。

 

『?どうしたんだよ、辛気臭い顔してさ』

 

『…ああ、何でも無い。もう少し落ち着いたら話す』

 

そう呟いて彼は病室から出て行ってしまった。先ほどの意味深な言葉が気になったが爺さんは出ていってしまったので聞くことは出来ない、仕方無いので俺は再び眠る事にした。

 

俺がその言葉の意味を知るのはその数日後の事であった。

 

 

 

 数日後、一応怪我が治ったであろう俺は精密検査を受けるために病院の待合室に座っている。待ち時間がかなり長いらしく俺は待合室に置いてあるテレビで普段は見ないであろうニュース番組を見ていた。

 

『次のニュースです。一週間前に起きた地震によるトンネルでの落盤事故による犠牲者はーーー』

 

ニュースキャスターが告げているのは俺が味わったあの事故のニュースであった。今でもあの事を思い出す、迫りくる瓦礫に押し潰されるのではないかという恐怖…初めて命の危機を味わった瞬間であった。

 

ニュースキャスターは慣れたようすで淡々と事故の内容を話す、何人死者が出たのかとか怪我人は何人だとか新たに発見された犠牲者の数やらなどそんな内容であった。

 

そして最後に映されたのは今までで分かっている範囲での死亡者の名前…

 

『え…』

 

だが、その名前を見て俺は目を見開く…呼吸は荒くなり足下が覚束無くなる。

だって、そこにあったのは…

 

『な、んで…』

 

母さんと父さん…二人の名前が載っていたのだから。

 

 

 

 

 あの後急に気分が悪くなった俺は検査を取り止めベッドに戻ることになった。急遽来てくれた隣で座っている爺さんに俺は尋ねる。

 

『…話ってあの事だったんだ…』

 

『あの時伝えるのはお前にとっては酷だと思ってな、黙ってて悪かった』

 

『別に謝ることじゃないよ、あの時言わなかったのは正しかった』

 

俺が最後に見たのはあの二人が俺たちに覆い被ろうとしている姿ーーー俺が生き残って彼らが死んだって事は彼らが自分の命を賭けてまで俺たちの命を救ったって事だ。

 

『馬鹿な奴ら…』

 

ふと、そんな言葉が出てしまった。俺みたいな血の繋がっていない人間なんか無視して紗夜だけを助ければ良かったのに…

 

たった一人残された彼女には彼らが必要だったのに…

 

そんな事を思っているとパチンっという音と共に頬に衝撃が走り、遅れて頬がじんじんと痛み出す。つまりは爺さんに叩かれたという事だ。

きっと俺の二人を侮辱するような言葉に怒ったのだろう。

 

『お前は…なんて馬鹿な奴なんだ…』

 

しかし俺の予想は外れた。爺さんの表情は怒りに満ちたものではなく、俺を憐れむようなものであった。

 

『お前はあいつらが何処に行こうとしていたのか知ってたか?』

 

爺さんの質問の意図が理解出来なかった、が素直に首を横に振って答える。すると爺さんはさらに言葉を続けた。

 

『そこはなーーー』

 

爺さんが言ったその名前には覚えがあった。小さい頃、俺を産んでくれた両親がよく連れてってくれた遊園地…

その名前を聞いてーーようやく俺は理解した、あの時二人が俺を連れて行ったのは…

 

『(俺のため… )』

 

『あいつらはーーどうしてお前が距離を取ったのか気づいていた、血が繋がっていない事を気にしているとな』

 

ある日爺さんが夜中に起きると母さんと父さんがその事で話し合っていたらしい。どうすれば以前のような関係に戻れるのかを話し合って、話し合って…その結果今回の行動だったのだ。

 

あの二人は俺との距離をなんとかしたくてーーあんな場所まで行こうとしたのだ。俺なんかのために…

 

『本当に…馬鹿だ…』

 

それは俺なんかを最期まで家族と思ってくれた両親に対しての言葉だったのか、はたまたそんな家族の気持ちに気づかず勝手に被害者面していた自分に対しての言葉だったのか…おそらくはその両方だろう。

 

そんな俺を爺さんは悲しそうな目で見ていた。

 

『…悪い、爺さん。疲れたから出てってくれ』

 

『…分かった』

 

爺さんは何か言いたそうな顔をしていたが、おそらく俺の顔を見て言っても無駄だと思ったのだろう…そのまま病室から出て行く。

 

『満足するまでやりな 』

 

最後にそう呟いて彼はドアを閉じる、一人きりの寂しい病室…だが今の俺にとっては寧ろ好都合だ。誰にもこんな情けない姿を見せたくないのだから…

 

『ァァァァああああああああーーーーー』

 

そして俺は泣いた。子供のように、叫ぶように泣き続けた…ごめんなさい、ごめんなさいと謝るように…。

だがもう謝る事も赦しを乞う事も出来ない…だってあの俺を愛してくれた両親はもうこの世にはいないのだから。その事実が悲しくてーー俺は更に泣き続けた。

泣き続けて、泣き続けて、泣き続けて…涙が枯れてしまって…

 

それでも…俺の心にぽっかりと空いてしまった穴は消える事がなかったのであった。

 

 

 

 

 数日後なんとか体の方は回復した俺は現在爺さんと共にある病室の前にいた…紗夜の病室だ。

彼女もあの事故で足を複雑骨折する重傷を負い未だに立てないらしい。そしてこの先も立てるのかはまだ分からない、と…

 

『入るぞ、紗夜』

 

一言言って入っていく爺さんに付いて行き病室に入る。そこにはベッドから体を起こし陽の光に照らされながら外の景色をボーっと見ている紗夜がいた。その彼女らしからぬ行為に、一瞬誰なのか分からなくなった。

 

『あっ!お爺ちゃんと兄さんも来たんだ』

 

先ほどまでの壊れてしまいそうな儚さは一瞬で消え去り笑顔で俺たちを迎える紗夜、俺たちに心配を掛けないように普段通り振る舞おうとするその姿はーーあまりにも痛々しく映った。おそらく彼女も知っているのだろう…両親が死んでしまった事を…だからあんなにも悲しげな表情をしていたのだ。

 

…彼女を守らなければ…俺の中から湧き上がったのはそんな感情であった。俺が死なせてしまった両親の分まで彼女を助ける…それが俺が彼らに出来るゆういつの贖罪で、俺の義務なのだから。

 

先ずは彼女に謝ろう、そう思って口を開こうとしてーー

 

『?どうしたの?兄さん』

 

ーーふと、そんな資格が俺にあるのかと自分に尋ねてみた。俺のせいで両親は死んでしまった、そんな元凶が彼女を支える?今さら兄貴面?そんなのはムシがよすぎるのではないだろうか…彼女の事は爺さんや婆さんが支えてくれる、あの二人ならーー俺なんかよりもずっと紗夜の事を支えてくれるだろう。

 

やはり俺は彼女から離れた方が良い、そして二度と会わない方が…そう決意すると俺の行動は速かった、俺は彼女に背を向けて走って病室から出て行く。

 

『?!おい!竜也!』

 

後ろから爺さんの呼び止める声が聞こえるが無視して走る。行く場所なんて無い、それでも…一秒でも早く彼女から逃げたくてーー俺はとにかく走り続けた。

 

…今思えば俺はただ怖かっただけなのだろう、彼女から拒絶されるのが…たった一人の妹に面と向かってそれを言われれるのが…だから言い訳を並べて彼女から逃げ出したのだ。

 

退院してからあの家に戻っても俺の行動は変わらず…なるべく彼女の目に触れないように暮らしてきた。

 

それから二年後、つまり俺が高校生になる時ーーー俺は家から出ることを決めたのだ。

 

 

 

 

 

『じゃあ行くわ。今まで世話になったな』

 

『…ああ、体には気をつけろよ』

 

 今日から俺は埼玉県にあるアパートで一人暮らしをすることになる、俺が玄関から出ていこうとすると後ろから爺さんの声がしたので振り向く。爺さんと婆さんは最後まで俺たちの仲をなんとかしようとしてくれた、だから正直二人には悪い事をしてしまったと今更ながら少しばかり罪悪感が沸く。

 

『ああ、でも気をつけるのは爺さんの方だろ?もう歳なんだからさ、体を考えな』

 

その罪悪感を誤魔化すようにぶっきらぼうに忠告をしてみる。まあ、どうせこの現役バリバリな爺さんは聞かないとは思うが…

 

『そうだな…考えておく』

 

しかし、意外にも返ってきたのは前向きな返答であった。俺があまりにもすっときょんな表情をしていたからだろうか、爺さんはニッと歯を見せながら悪戯っ子のように笑う。

 

『なに、孫の忠告ぐらいはしっかり聞いてやろうと思ってな』

 

その言葉に一気に目頭が熱くなるーーこの爺さんは未だにこんな俺の事を家族だと思ってくれているのだ。爺さんだけじゃない、俺に握り飯を持たせてくれた婆さんも…その優しさは嬉しかった。もっとここにいたい…そんな事を思ってしまうほどに。

 

それでも…

 

『……じゃあな』

 

俺はここにいてはいけない…その決意が鈍らない内に俺はそそくさと爺さんの家を後にした。決して振り返らないで逃げるように…

 

 

 

 

 

 

 

 

 そこから先は……まあご想像の通りだ。

俺はまるで生き亡霊のような日々を送り、偶然デスゲームなんてものに巻き込まれて、しぶとく生き残り、そしてーー現在に至る。

 

……我ながら下らない人生だ、と自虐的な笑みを浮かべてしまった。

 

「なに辛気臭い顔をしてるんだ、タツヤ」

 

……どうやら考え事をし過ぎたらしい、声がした方を振り向くとそこには予想通りの人物がいた。

 

「ああ……つか、辛気臭い面なんてお互い様だろ」

 

黒のコートに大剣を背負ったスプリガンーーキリトだ。彼は苦笑しながら呟く。

 

「…やっぱ、そう見えるか?」

 

「ああ」

 

その辛そうな表情を見れば大方話し合いがどうなったのかは誰でも分かる、彼女との関係が壊れてしまったことぐらいは…そのキリトは悲しそうな表情のまま呟いた。

 

「一応現実の方では言ったんだけど…リーファが来たら北側のテラスで待っている、って伝えてくれ」

 

そう言って歩き出すキリト…しかし、急にその足を止めて振り向かずに呟いた。

 

「……なあタツヤ、正直俺はまだ迷っているんだ、リーファ…いやスグの事を…。どうすれば…どうしたらいいと思う?」

 

誰でも良かったのか、それとも俺だから聞いてきたのかは分からないが藁にもすがるような思いで尋ねるキリト、だがその悲痛な問いかけに対する俺の答えはーー

 

「……わっかんねえよ」

 

俺の言葉が意外だったのかキリトは何も言わなかった、それを尻目に俺は更に言葉を続ける。

 

「生憎、兄貴らしい事なんて一度もやった事が無いんだ。助言なんて出来ないし……聞くだけ無駄だ」

 

突き放すような冷たい言葉…だが、これでいいのだ。実際に俺が言える事なんて何にも無いし、役に立たない助言なんてあいつは求めていないのだから…

 

「…そうか、悪かったな」

 

そう言って重々しく歩き出すキリト…その背中はまるで泣いているように見えた。

 

「おい、キリト」

 

だからだろうか…あいつを呼び止めてしまったのは。

 

確かに…俺には仲直りの方法なんて思いつかない、こんな事を言ってもあいつには何の足しにもならないであろう。だからーーこれはただの感想だ…

 

「あの時…お前たち二人はどこから見ても仲の良い普通の兄弟だったよ。憎らしいほどな…」

 

そんな何の役にも立たない言葉…しかしその言葉を聞いて奴のーーキリトの雰囲気が変わった…のだと思う。

 

先ほどと同じように迷っている筈なのだが、その背中が少しだけ……ほんの少しだけ前向きに見えたのだ。

 

「じゃあ、よろしくな」

 

さっきよりも力強く、そう言ってキリトは翔び出した。

 

「……頑張れよ、キリト。お前は…俺なんかとは違うんだから」

 

そんな俺の…祈りのような呟きは、誰にも聞かれる事無く空へと消えていった。




はい!本当に遅くなり申し訳ありませんでしたー!
次からは遅くなりそうだったら活動報告の方に書きます!

ちなみに紗夜が持って来たプラモデル…あの描写で分かった方がいるのでしょうか?少しばかり心配です。

それでは次回予告です
兄と向き合う事を恐れるリーファ、彼女はそんな兄から逃げようとして……
次回『兄と妹』にレディーゴーーーーー!!!

ところで話は変わるのですが…ようやくアニメのSAOを今までのところ全部見終わる事が出来まして一言…

ユウキまじ可愛い!!!

以上後書きでした。



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