本当は一か月後に投稿する予定だったのですが『試験勉強なんてやってられるか!!』と現実逃避しました(笑)
お待たせいたしました。それではどうぞ。
決闘して欲しい…いきなりそんな事を彼女リーファに言われた俺は当然ながら驚いた。そりゃそうさ、こんな疲弊した状態で決闘なんて正気の沙汰じゃないし、そもそも決闘する意図が分からない。大体……
「武器が無い奴がどう戦えっていうんだ?」
「……えっ?あーー、えっと、それは…………」
俺の言葉に彼女は困ったように目を泳がす。俺の今までの得物《魔槍ブリューナク》は先ほどの戦いで壊してしまった。残念ながら俺に予備の槍なんて存在しない、つまりもしこのまま決闘するのなら俺は素手で彼女に挑まなくてはいけないのだ。未だどうすればいいのか分からず困惑するリーファ。しかしそんな彼女に助け船を出す人が現れた。
「ほら、これでいいのか?」
そんな言葉が聞こえるや否や俺の目の前に何故か緑色の槍が差し出される。俺はその槍を持って来た人を目を細めていぶしかげに見る。
「何で槍なんか持ってんですか?」
俺の問いかけに槍を目の前まで持って来た女性サクヤさんは大人の余裕を漂わせながら俺に答えた。
「偶々ストレージに入っていただけだよ。大丈夫。さっきの君の槍ほどではないがそれも業物だ、十分に使えるだろう」
そういう訳では無く俺が言いたかった事はなんで赤の他人に武器なんて渡すんですか?という事だったのだが、どうせ上手い具合にはぐらかされるだけだ、と早々に諦める。はあ~、相変わらず食えない人だ…………
そんな内心溜息をついた俺は彼女に再び視線を合わせる。その真剣な瞳は『早く戦おう』と語り掛けていた。だけど正直もう現実に戻りたかった俺は彼女に反論する。
「なあ、別に今じゃなくても良くねえか?」
俺の至極当然な主張。しかし彼女は首を横に振ってNoと答える。
「ダメ。今じゃないと絶対にダメなの」
その眼に宿すのは強固な意思…そんな眼を見てしまったらただ事ではないのは一目瞭然だ。それにそんなに真剣な表情をされては黙って立ち去る事なんて出来ない。
「なんで今じゃないとダメなんだ?」
「だってタツヤ君、もうここに来ないつもりでしょ?」
その言葉にーー俺は思わず目を丸くする。図星だった。あの戦いの前から誰にも言わず決めていた事を彼女は意図も容易く言い当てたのだ。そんなあり得ない事実に動揺しつつもなるべくいつもの俺らしく返そうとする。
「はあ?何言ってん『とぼけないで』…………」
だがそんな俺の言葉を彼女の鋭い一言は一蹴した。どうやら誤魔化しは効かないようだ、俺を見詰める彼女の真剣な瞳がそれを物語っている。俺は両手を上げて降参のポーズを取り、おちゃらけながら問いかけた。
「そうだよ。よく分かったな。もしかしてリーファってエスパーか何かか?」
「分かるわよ。あなたとここまでずっと組んで来たんだもん。あなたが考えている事ぐらい分かるわ」
ずっと、か…………それこそ二日間程度の付き合いしかないだろうにという事はさて置き。ここまでで分かった事はこれ以上このふざけた口調は止めるべきだ、という事ぐらいだ。彼女の意図は分からないがそれぐらい真摯に彼女と向き合わなければならない事であるのは彼女の様子から明白、俺は彼女の目をしっかり見る。
「それで……何で勝負なの?」
俺は彼女に尋ねる。すると彼女はこちらをきつく睨みつけながら答えた。俺にとって最悪の答えを……
「私が勝ったら、一つお願いをしたいの」
ああ、そうか……、俺はようやく彼女の意図を理解した。彼女のお願いなんて簡単に予想がつく。つまりは
だがそれは出来ないのだ。俺と彼女の状況はあまりにも違う……別に彼女とキリトの溝が浅かったと言いたい訳では無い。彼らの溝は深く埋めるのは困難であり、彼女がそれを成し遂げた事を否定するつもりは毛頭無いのだ。
ただーー俺と彼女の溝の深さの違い……いや、最早溝を通り越して穴だ。どんなに埋めようとしてもスッポリ抜けてしまうように絶対に埋まりはしない。きっと最初はそうでは無かった、確かに深い溝ではあっただろうがそれでも辛うじて溝だったのだ。可能性は低くても埋める事が出来たかもしれない溝……しかし時間が経つと共にそれは広がり、深まりーーついには底なしの穴になってしまった。もう手遅れだ。万が一の可能性さえ存在しない。
「嫌だね。大体その勝負、俺に何の得があるってんだ?」
「私が負けたら……あなたのお願いを何でも聞くわ。それでお相子でしょ?」
「付き合ってられない。何がお相子だよ。悪いけど、こっちとらリーファにお願いしたい事なんざ一つも無いんだ」
そもそも、もう会わないと決めた相手に何をお願いするというのだ?俺の事を忘れないでくれ、とかか?
ーー馬鹿らしい、寧ろ俺の事なんざとっとと忘れて金輪際思い出さないで欲しいものだ。その方が彼女のためであろう。
「大体、人様の家庭事情に口出しするなんて図々しいんじゃねえのか?お前にそんな義理なんざ無いだろ?」
もうこれでこの話は終わりとばかりに俺は彼女に止めを刺す。流石にこれで彼女も黙ってくれるだろうと俺は期待したのだが……現実は上手くいかないものだ。
「……確かに義理なんて無いよ。でもあなたにはもう後悔なんかして欲しく無いの。だってーー」
そして彼女は意を決してその言葉を口にする。自分の心情を、これまで自分の胸に積み重なってきた想いを。
「あなたの事が好きだもん!!」
そんな突然の愛の告白に、サクヤさんやアリシャさん、周りのシルフ・ケットシーの戦士たちは目を真ん丸にして驚き固まる。端から見たらまさに時が止まったように見えるだろう。
一方、俺はその言葉を受けて冷静に、無感情に考える。…………取るに足らない世迷い言だ。彼女には少しばかり心苦しいが真実を突きつけてやろう。
「あのな、お前は好きって感情を勘違いしているんだ。率直に言っちまえば、キリトへの好意を代わりに俺に向けちまっている。謂わば俺は取っ替えの利く代価品だよ」
代価品というよりは劣化品の方が正しいのだがそれはさて置き、おそらく彼女にとって相手は誰でも良かったのだ。俺が選ばれたのはただ彼女の近くにたまたまいただけの話……それによって起きてしまった不幸だ。だから彼女の想いはただの勘違い…………
「違う!!!」
だが彼女はそんな俺の言葉を強く否定する。そして、まるで剣のように鋭い眼光で俺を睨みつけた。
「お兄ちゃんの代わりなんかじゃない!私はあなただからいいの!!あなただから好きになったの!!!」
捲し立てるような勢いで放たれた彼女の言葉に流石の俺も絶句してしまう。どうやら俺を好きになったという気持ちに嘘偽りは無いと思い込んでいるらしい。
どうやら俺は気づかぬ内に彼女にそれほどの想いを募らせてしまっていたようだ。全く……そういうのはそれこそキリトの役目だろうに…………
……仕方無い。彼女にそんな気持ちを抱かしてしまった責任はきちんと取るべきだろう。
「それでもやっぱ、お前の恋は間違ってるんだよ」
彼女の誤解を解くーーという方法ではあるが。
俺の冷淡な声に彼女は顔をしかめた。そして自分の想いを否定された彼女は噛みつくように反論しようとする。
「間違ってなーー」
「いや、間違ってる。そもそもお前が好きって言う相手なんざ端からいないんだ」
仮に……それこそ仮にだ。彼女が本当に俺の事が好きなのだと仮定しよう。だけど彼女が好意を抱いたのは俺では無い、そいつはタツヤというもうここにはいない人間だ。
「お前が好意を持っていたのはお前とこれまで一緒に戦ってたタツヤって人間なんだ。だが俺はそいつとは違う。お前だって見ただろ?情けなくて、自分勝手で無様で退屈で救いようがない最低最悪の屑野郎…………あれが本物の俺だ」
きっとタツヤという奴はそれこそ燃え尽きてしまったのだろう。キリトを送るため自らの命を燃やし、灰になって跡形も無く消えてしまったのだ。だから
「……じゃあ、あの時のあなたは何だったの?」
「さあな…………」
彼女の疑問に俺は曖昧に返す。……確かに何だったのだろう。俺にも皆目検討がつかないが、きっと俺は夢を見たかったんだ。あの頃の人らしい俺に憧れ続けていて……だからこの世界で必死に
なんて事は無い。俺は仮面を被っていただけの憐れな道化師だった。なんともつまらない結論だ。
「つまりお前は俺に幻想を抱いてたんだよ。もうそろそろ夢から醒めるべきじゃないのか?ついでに俺の事なんか記憶の中から消去しとけ」
恋に恋する時間は終わりだ、と残酷にも彼女に告げる。
大丈夫、真っ直ぐで優しくてちょっと男勝りなところもあるが可愛らしい彼女のような女の子をほっとく男なんてそうはいない。きっとすぐにでもいい相手が見つかるだろう。
だからこそ、俺なんて男に勘違いであれ一度でも惚れてしまったという汚点なんざとっとと消した方が彼女のためだ。
そう……俺は染み、真っ白なシーツを汚す染みだ。消えて無くなればいい。
しかしそんな俺の意思とは裏腹に彼女はまるで出来の悪い生徒に教える教師のように穏やかに語りかける。
「あなたは、やっぱり何も分かってないよ」
分かってないのはお前の方だ、と内心彼女に舌打ちをする。どこまでおめでたい奴なんだお前は、あんな俺を見ながらまだそれでも信じているのか?おめでたいを通り越して苛立たしい。
もうこれ以上話を続ける訳にはいかない。俺は彼女に乱雑に吐き捨てた。
「じゃあこう言えばいいか?お前が嫌いだ。二度と顔なんぞ見たくない。とっとと目の前から消えてくれ」
完全な拒絶の言葉ーー酷い人間だと思うが今さら何を、だ。これまでの行動を振り返れば俺が血も涙も無い人でなしであることは明白……善人ぶる必要なんて欠片も無い。
ーーもうこれで全て済んだ。後は彼女から怒鳴り声なり罵声なり貰って幻滅してくれれば万事解決だ。
しかし彼女は依然変わらず俺を見据える。まるで俺の心の中を覗き込んでいるように……
「…………それがあなたの本心なら、今すぐにでもいなくなるわよ」
彼女が言ったのはただそれだけの短い言葉。それでも、いやそれだからこそ彼女の鋭い真っ直ぐな言葉は俺の心にグサリと突き刺さる。
彼女の事が嫌い?二度と顔を見たくない?本当か?ーーーそんな訳がないだろ!だって彼女と一緒にいた時間はあんなにも楽しくて、嬉しくて、輝いていたのだ!嫌いになれる筈が無い!!
でも、でもーーこれ以上俺はそんな明るい陽だまりの中にいる訳にはいかないのだ!
「あなたはあの優しいままのタツヤ君だって、私信じてる」
何で、何でそこまで真っ直ぐに俺を信じられるんだ!そんなに信じられたらーー本当にそんな気になっちまうだろうが!!俺だって少しはマトモな人間なんだって、あいつに赦して貰えるんじゃないかって希望を持っちまうだろうが!!!俺は心の中で暴れ続ける自分を抑えつけ、泣き叫びたい衝動を必死に我慢しようとする。
クソ!クソ!クソ!クソ!なんで……なんで俺はこんなにも苦しいんだ!!なんで泣きそうになるんだよ!!
昔よりも弱くなってしまった自分。こういう自分の弱さを痛感するたびに俺はいつも思う、やはり俺は暖かい場所に居すぎたんだ、と……
最初は偶々だった。偶然他人と関わってしまったばかりに俺はそんな暖かい場所に連れ出されてしまったのだ。最初の頃は面倒だ、厄介だぐらいにしか考えていなかったし煩わしいとさえ思っていた。しかし何時からだろうか……俺は自分から陽だまりの中に入って行くようになっていた。
何時死ぬかなんて誰にも分からない世界……死が誰の身近にもあった世界。そんな世界だから俺は暖かい場所を無意識に求めていたのだろう、まるで夜の灯に蛾が誘われるように。死ぬ前ぐらいは良い思い出で満たされたいと思っていたのかもしれない…………
そんな幸せを俺は二年間もの間享受してきた。その内に俺の心は脆く弱くなってしまったのだ。
だけどもうそんな時間は終わりだ。弱い自分では独りで生きるなんて出来ない。だからーーそんな自分とは決別するのだ。
そのためにはーー俺は彼女を冷たく睨みつける。彼女が俺をそんな夢に縛りつけようと言うのなら…………彼女は俺の敵だ。慈悲も容赦もしない。完膚無きまでに彼女を打ち倒そう。
「いいぜ、とっとと始めよう」
そして俺は彼女に宣告する。大丈夫、どうせ勝つのは俺だ。万が一にも彼女に勝機は無い。俺の中にあったのは自信ではなく確信。機械のように淡々と彼女のHPを削るだけの楽な作業だ、間違えようが無い。
ようやくーー夢から醒めれる。俺は心の中で掠れた笑みを浮かべた。
リーファside
ようやく決闘を受けてくれる気になったタツヤ君。だけど私を見る目はどこか冷たく、敵意に満ちているのにどこか空虚でーー私の知っているあのタツヤ君とはまるで違っていた。
例えるなら人形。姿形は私たちと何も変わらない筈なのに、空っぽで血の通っていないような……そんな冷たい瞳だ。私は初めて見る彼のその瞳に背筋が凍りつくような恐怖を感じた。本当は私が感じていたタツヤ君なんていなくてこれが彼の本性なのだと……そう感じてしまいそうなほど
でもーーその瞳の奥に私は泣いている彼を見たのだ。泣きたくて泣きたくて仕方無いのに、心を閉ざして必死にやせ我慢をしている彼の姿を……
彼が頑なに妹を拒んでいる理由は分からない。もしかしたら彼が胸に溜め込んできた想いは私なんかが思いもよらないほど暗く重い物なのかもしれない。
それでもーー逃げるのはだけは間違っている。だって逃げていたら何も手に入らないから。幸せも温もりも、いい事も悪い事も何にも手に入らないから。
だから彼には彼女と向き合って欲しい。彼女のために、そして何より彼自身のためにも。きっと彼は余計なお節介だと、ほっといてくれと言うかもしれない。それでもーー
『好きな人には幸せになって欲しいからーー』
だから私が彼の背中を押してあげるんだ。彼が私の背中を押してくれたように。だからーー
『絶対にーーーー負けない!!』
私は強く剣を握り、彼の目を見据えるのだった。
「とっとと始めよう」
そう言って俺は武器を構えて穂先を彼女に向ける。対照的に彼女は武器に手を掛けてはいるが真っすぐ見詰めるだけだ。そんな彼女に俺は苛立ちながら言う。
「おい、早く武器を構えろよ」
「私は全力でやりたいの。あなたの左手が元に戻るまで待ってあげる。ついでにHPも全回復して」
ああ、そうか。どうやら彼女は律儀にも俺の左手が部位欠損状態から回復するまで待ってくれるらしい。ここで拒否しても頑固な彼女は聞かないだろう。面倒ではあるが彼女の言葉に従おう。
そしてようやく治った俺の左手の部位欠損状態。ついでに俺はストレージからポーションを取りだし一気にそれを飲み干す。ゆっくりと回復していくHP、準備は整った。お互いに武器を構えて睨み合う。リーファは真っ直ぐな瞳に強い意志を覗かせて、対する俺はどこを見ているのか分からないような空虚な目で。
開戦の合図はリーファの袈裟斬りだった。トップスピードで放たれたそれを槍を手元に戻して防いだ後にお返しにと胴体目掛けて一突き。だが彼女はその軌道を剣でずらすとそのまま滑り込みながら胴斬りを行う。それを横に跳んでかわし、槍を横に振るい彼女の喉元を斬り裂こうとする。
「はあああ!!」
しかし彼女はしゃがんで難なくそれを躱す。そして切っ先を俺に向けながら突っ込んで来た。だがーー
「えっ?!ーーーかはっ!」
彼女の驚愕の声。それは彼女が俺に辿り着く前に地面に倒れた事によって起きたものだ。
簡単な話、俺が槍で足払いをしたのだ。さっきの薙ぎ払いはこれを行うためのフェイント。彼女が突っ込んで来る事は分かり切っていたためにやった事だ。そして俺の目の前には無防備にも仰向けに倒れ込んでいる彼女の姿があった。
そんな彼女をほっとく理由などなく、俺は槍を頭上高くまで上げる。そして未だ動けない彼女の腹部目掛けて無慈悲にも思いっきり降り落とした。
「ごほっ!!」
ハンマーのように重たい衝撃に目を見開きくぐもった苦痛の声を上げる彼女。そんな彼女を一瞥する事なく俺は二発目に入ろうとする。しかし彼女も黙ってそんな事を許すような人間ではない、彼女は仰向けの状態から翅を出して後ろ向きに翔ぶ事によってそれを避けた。
離れる距離に訪れる静寂……それに堪えかねて性懲りも無く彼女は再び俺に突っ込んで来る。
案の定彼女は俺の思った通りに動く。突き、胴斬り、袈裟斬り。突きをを体をずらして躱し、胴斬りと袈裟斬りを槍を盾にして防ぐ。
そして次に放たれるのは彼女渾身の最速の頭を狙った斬り下ろし。当たれば致命傷になるだろう。あくまで当たればーーの話だが。
「う、嘘?!」
だがそんなものは当たる筈が無い。分かりきった攻撃なんていくらでも対処が出来る。俺はただ彼女がそれを放つ前にその軌道を読み取りそこに槍を沿えただけの事。だが彼女は目を見開いて驚嘆している。自分の最高の一撃がいとも簡単に防がれたのだ、動揺するのは当たり前だ。
何で俺が彼女の攻撃を正確に読む事が出来るのか。それはこれまでの経験と勘とーーーこれまで一緒に組んで来た事に由来する。彼女と組み過ぎたばかりに容易に先読み出来てしまうのだ。だから俺は絶対に負けない。後出しじゃんけんで負ける人間がいないように。
そのまま彼女は俺から大きく距離を取り、こちらを睨みつける。だがその様子に先ほどまでの気合いは見られない。彼女も俺に自分の攻撃が通用しない事を悟ったのだろう。俺はとっとと諦めてくれないものかと彼女に視線を送る。
「まだまだ!!」
しかし彼女はまだ諦めるつもりはないらしい。先ほど喪失した筈の気合もよく見れば戻っている。タフな奴だ……ウザい程にな。こういうのは精神的動揺とかに強い部類の人間に違いない。
仕方ない……俺は彼女目掛けて走り出し、始めて自分から仕掛ける事にした。
「ーーくっ!!」
突きの連続。突然、俺から攻めた事に驚いた彼女は防戦一方になった。流石の彼女でも何度何度もしつこく自分に迫り来る穂先を躱し切る事など出来ず肩や脚などを貫かれる。
このままでは嬲り殺しだ、そう感じた彼女は翅を広げて戦いの場を地上から空へと変えようとする。おそらくは自分の有利な場所で俺と戦いたいのだろう。つまりは俺が彼女に誘いに乗る事を祈っての行動ーー
「えっ?!きゃああぁぁぁぁ!!」
だがーーそんな彼女の意思を無視して俺は彼女を撃ち落とした。放たれた火球は翅を焼き、そのまま彼女は地面へと落下する。これで彼女は数分は翔べない。俺は彼女が落下するであろう場所に走り止めを刺そうとする。ただ墜ちる事しか出来ない彼女には避ける術などなくこのまま串刺しにして終わりになる筈だ。
だけど彼女はーーそんな俺の突きを剣で弾いてみせた。
馬鹿なっ!最初に感じたのはそんな驚きだった。だって俺の槍に完璧にタイミングを合わせるなんて……
「言ったでしょ…!あなたの事なんて簡単に分かるって!!」
そう自信満々に告げるリーファ。その様子は嘘をついているようには思えなくてーーー。落ち着け、あんなのはただのまぐれだ。偶々彼女の剣と俺の槍が当たってしまっただけの事。もうこんな事は二度と起きない。そう自分に言い聞かせて俺は再び攻める。薙ぎ払いーーと見せかけての振り落とし。こういうフェイントに弱い、ましてや疲弊し切っている彼女では避ける事も防ぐ事も出来ないであろう一撃。
それでもーー彼女はあっさりとそれを防いだ。力を込めて押しても彼女はビクともしない。一体どこにそんな力があるのか……。ここまでの戦いで彼女にそんな余力が残されている訳が無いのに……
「どうしたの?さっきまでの勢いが無くなってるよ?」
「…………うるせえ」
こちらに不敵な笑みを浮かべる彼女を睨みつけながら苛立たしく吐き捨てた。そして彼女を押し潰すために俺は全体重を槍に込める。彼女の剣の上に俺の槍が乗っかっているという状況や体格差から俺が圧倒できる筈なのだ!筈なのに……!!
『なんで少しも動かないんだよ!!!』
彼女はあの体勢から一ミリも動いていない。俺の全力に彼女は耐え続けているのだ。有り得ない!有り得ない!有り得ない!!この馬鹿力が…………!!!
そんな俺の動揺など露知らず彼女は俺に問い掛ける。全く持ってこの場に関係が無いであろう事を……
「何でそこまで自分を追い込むの?」
その言葉に俺は何も返さない。追い込む?意味が分からない。俺はただ逃げているだけだ、追い込んでなどーー
「すごく苦しいのに我慢なんかして、心を閉ざしてーーどっからどう見ても追い込んでるよ!!」
違う!俺は苦しくなんか無い!!そんなものは持ち合わせていない!!俺は何にも感じない、感じる必要も無いのだ!!!知ったような口で……!!!俺の頭は怒りで一杯一杯になる。
「自分を追い込まないで!辛いなら私があなた支えるから!だからーー」
「黙れぇぇぇぇぇ!!!!」
その言葉が限界だった。怒り心頭の俺は大声で叫びながら彼女を槍で突き飛ばし睨みつける。仮面は剥がれ、その目からは彼女に対する憎悪の感情が滲み出ていた。
「何が支えるだ!冗談も大概にしろ!!大体お前みたいな奴に俺の気持ちなんかが分かってたまるか!!!」
ああそうだ。彼女みたいな眩しい人間が俺みたいな奴を理解出来る筈が無い。彼女のような真っ直ぐな人間には俺みたいな臆病者の気持ちなんてーー
「分かるよ。私だって逃げようとしたんだから」
しかし彼女は俺にそう返す。そしてポツリとそれでいて俺に聞こえるように呟いた。
「お兄ちゃんに好意を伝えたらこの関係が壊れちゃうんじゃないかって怖くてずっとこの感情から目を背けてきた。だけど私ずっと辛かった、自分に嘘をつき続ける事が……」
でもね、そう言って彼女は俺に優しく語り掛ける。その表情はどこか少し明るかった。
「そんな我慢もついに限界が来ちゃってお兄ちゃんに酷い事を言っちゃった。それでもね、今なら言って良かったと思うの。だってそのお陰で私はお兄ちゃんと元に戻れた」
そして彼女は強く俺を見詰め返す。真っ直ぐ透き通るような瞳で俺を見詰める。
「だからあなたにも正直になって欲しい。あなたの本心から彼女と向き合って欲しいの」
その言葉はスッと俺の心に入り込む。そう……本当は俺だって紗夜と向き合いたかったのだ。向き合って謝って昔みたいな兄妹に戻りたかったのだ。彼女の言葉に俺がこんなに動揺してしまうのは彼女が俺の本当の願いを知っているからなんだ……
「あなたはきっと人一倍臆病なだけ。もし一人で進むのが難しいなら私も手伝ってあげるから」
その上彼女はそんな俺の願いを手伝ってくれると言う。こんな俺の願いを、だ。嘘偽りの無い真っ直ぐな彼女の言葉。ああーーなんて優しい言葉なのだろうか…………
「…………ありがとう、リーファ」
「タツヤ君…………」
俺は心から彼女に感謝する。いくら感謝してもしきれないほど彼女には感謝している。きっと俺という人間の人生はリーファという心優しい少女に会えただけでも幸福だったのだろう。相変わらず、俺は人の縁には恵まれているらしい。今も昔も変わらず…………
きっとこれは、神様が俺なんかにくれたささやかな贈り物なのだ、と俺はどこぞにいるかは知らない神様って奴に感謝する。----本当に、ありがとうございます。
「でも、もう俺は戻れないんだ。ごめん」
「タツヤ君!!」
でももう俺は戻れない。時間が戻らないように彼女との間の絆も戻りはしない。昔読んだ小説に出て来た
だからーー俺は再び仮面をつけよう。自分の感情を誤魔化し自分を偽り……独り悲しく生き続けよう。俺にはそんな道しか残されていないのだから。
そして俺は未だこちらに悲痛な表情を向ける彼女に槍を向けて走り出した。
リーファside
彼が強がっているだけだと確信した私。だからこそ彼に色々と揺さぶりを掛けた。彼の想いを吐き出させるためにわざわざ彼の攻撃に耐えてみせたり、彼に真実を突きつけたのだ。その度に少しずつ彼の心の鎧が剥がれて行っく。だから私は『やっぱりあなたと彼は同じなんだ』と思えて内心嬉しかった。それで一時は彼を救えたんだと思ったんだ…………
だけどーー駄目だった。彼はまた仮面を被り直してしまった。深く、深く…もう二度と外さないように。そのまま彼は無感情を貼りつけたまま槍を振るう。その槍戟を私は受けるだけで精一杯になる。彼が強いからとかじゃなくて、彼の姿を見ていたら悲しくて戦う気なんて無くなってしまったのだ。
そのまま私は攻撃する事無く彼の攻撃を受け続ける。傷は増えていき、戦意を喪失した私は遂に剣を構える事さえ出来なくなり手をおろす。そして最後に私はーーー胸を貫かれた。
減少していくHPを見てこれで終わってしまったのだと思った。結局私には彼を助ける事なんて出来なかった。自分の無力さが悔しくて悔しくて……私は涙が出そうになるのを堪えたくて顔を俯かせる。風前の灯火のHP、どう頑張っても私にはもう無理だと思った。
そんな時、彼の声が聞こえた。掠れるようなか細い声だったけどはっきり聞こえたのだ。
「---------」
その言葉はーー私が無くしてしまった闘志を奮い立たせるにはあまりにも十分なものだった。
ようやくーー終わった、俺はそう確信した。槍に貫かれているリーファは抵抗せず諦めたように顔俯かせている。これで彼女のHPはすぐにも無くなり俺の勝ちだ。俺は独り寂しく安堵した。
確定した勝利、変わらない結末……だからだろうか、最後にどうしても俺は彼女に言いたい事があった。それは俺が彼女に贈る最後の本心からの言葉ーー
「…………ありがとう。さようなら」
たった一言、それだけを伝えたかった。彼女に贈る手向けの言葉。だけど俺は気づかなかったのだ。その言葉がーー彼女の闘志に再び火を灯すなんていう事は…………
「うおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」
顔を上げた彼女の顔にあったのは不屈の意志。彼女は喉が千切れんばかりの雄叫びを上げなから一歩一歩と前に進む。突然の事に俺は慌てるが今更足掻いたところで同じだ。貫通継続ダメージによる敗北から槍で貫かれての終わりに変わるだけ……結果に何も変化は訪れない。だから俺は槍を引き抜こうとしてーーーーー
『なっ?!こいつ……!!』
引き抜く事は叶わなかった。俺の槍はピクリとも動きはしない……彼女がそいつを強く握り締めているせいで、だ。彼女は不快感に顔を歪めながらもその槍から手を外そうとしない。まるで絶対に逃がさないとでも言っているように……
その間にも彼女は俺に近づいて来る。緩慢に、それでいて力強く……一歩、一歩と近づいて来る。俺はそれを黙って見ている事しか出来なかった。
そして結末はあっさり訪れる。最初は右腕が斬り裂かれた。次には胴体が切断され俺の体は戦う事も逃げる事も出来ずに宙を舞う。
自分が想い描いたのとは全く異なる結末、有り得ない終わり方、絶対に勝てる筈の戦いでの敗北。それでも、彼女に負けた理由なんて俺が一番分かっている。至極当然な理由だ。
彼女は全力だった。全身全霊で俺と向き合っていた。端から逃げているだけの俺が勝てる道理なんて無かったのだ。それこそ最初から勝敗は決まっていたのだろう。
つまりーーー
「うおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」
『この戦いに向ける覚悟の違い、か……』
そうして眼前に迫り来るのは鋭い刃。彼女の意志を具現させたかのようなその真っ直ぐで綺麗な太刀筋に、俺はあっさりと敗北を認めるのだった。
これを書いていて思った事を一つ、『あれ?主人公ってリーファだっけ?(笑)』
という事で今回はリーファが大活躍でした!そして彼女の説得(物理)も発動です。大丈夫、タツヤはこれからが本気ですから(笑)
それでは次回予告です。
決闘に負けタツヤはリーファからのお願いを聞く事となる。そして現実ではキリトとアスナに迫り来る魔の手がーー
次回「押される背中と現実での戦い」にレディーゴーーーーー!!!!