今回はいつもより短いです。
それではどうぞ。
私桐ケ谷直葉はお兄ちゃんである桐ケ谷和人のお見舞いに来ていた。お兄ちゃんは茅場晶彦という人が起こした事件…通称SAO事件により意識が目覚めない状態であった。
「お兄ちゃん…こんなに痩せ細ちゃって…早く起きてよ」
この病院でも多くの人が亡くなった。亡くなった人の家族の大きな泣き声が聞こえるたびに私のお兄ちゃんもいつかそうなってしまうかもしれないという不安が頭をよぎった。それから数十分ぐらい病室に置いてある椅子に座っていたがお兄ちゃんが起きる気配は無かった 。もうそろそろ帰らないとお母さんが心配するだろう。
「じゃあ私もう行くね。また明日も来るから」
そうお兄ちゃんに言って私は病室から出ると足元に何かが当たった感触がした。
「?缶コーヒー?」
足元に当たったのは缶コーヒーだった。
「ごめんなさい!大丈夫でしたか?」
そう言ったのは車椅子に乗った髪の毛が黒色で瞳も黒色の私より少し年上ぐらいの女の人だった。多分お兄ちゃんと同じくらいの歳だ。
「うん、大丈夫。はい。これあなたのだよね?」
そう言って彼女に缶コーヒーを手渡す。
「ありがとう!あなたは誰かのお見舞いに来たの?」
「あ、はい。お兄ちゃんのお見舞いに…あなたは検査ですか?」
そう言うと彼女は首を横に振った。
「いいえ。私も兄のお見舞いよ。これは兄の好物なの」
そう言って手にある缶コーヒーを見せる。
「そうでしたか。お兄さんご病気なのですか?」
言った後に少し聞き過ぎてしまったかもしれないと後悔したが彼女の方は気にしていないようでホッとする。
「違うの。兄はちょっと事件に巻き込まれちゃって目が覚めないのよ。SAO事件って知ってる?一時期ニュースでよく流れていたでしょ」
この人も家族をあの事件に巻き込まれたんだ…
「はい。私のお兄ちゃんもその事件に巻き込まれているので…」
「そうだったの…ごめんなさい。あまり人には言いたくなかったわよね」
そう言ってその人は頭を下げた。
「気にしていないから大丈夫です。だから頭を上げてください」
「…ありがとうね。」
そう言って彼女は微笑んだ。その笑顔は女の私でも見惚れるような笑顔だった。よく見てみると綺麗な人だ。水に濡れたような長い黒髪にすらりとした手足、瞳は吸い込まれそうな黒色で…なんか緊張してきた…
「?どうしたの?もしかして具合が悪いの?」
どうやら思ったより長く考え込んでいたらしい。心配そうな目でこっちを見ている。
「だ、大丈夫です。そういえばお兄さん飲めないのにどうして缶コーヒー買ったんですか?」
緊張して話を変えようとしてみたがよく思ったら配慮に欠けた質問だったかもしれない…しかし彼女は特に気にした様子もなく答えてくれた。
「これはね兄さんの病室に置いておくの。兄さんが起きた時にすぐに渡せるようにね。でも病室を出る前には私が全部飲んじゃうの。おかげでこの缶コーヒー気に入っちゃった」
「…仲良いんですね」
ふと出た私の言葉に彼女は少しだけ悲しそうな顔をした。
「…そうでもないわ。昔はすごく仲が良かったのだけど急に距離を置かれてしまってね。どうにかして元の仲のいい兄弟に戻ろうとしたのだけど駄目だったわ。両親が亡くなってしばらくすると家を出ていってしまうし…」
「そうだったんですか…ん?ご両親が亡くなったって…ごめんなさい。思い出したく無かったですよね」
「いいえ。気にしなくてもいいわ。あなたはお兄さんとは仲が良かったの?」
「…いいえ、私も同じ感じです。急にお兄ちゃんとの関係がぎくしゃくしてしまって…」
「そうなの…なら戻って来たら一緒に仲直りしましょうよ!そして今までの分甘えちゃいましょ!」
そう言って彼女は元気に笑った。彼女の言葉と笑顔に私も笑顔になった。
「そうですね!戻って来たら楽しみです」
「ええ!私もよ」
そして私たちはお互いに笑った。よく考えると病院に来て笑ったのは今日が初めてかもしれない。
「良かった。あなた病室出てからさっきまで暗い顔していたから心配だったの。やっぱり笑顔の方がずっと可愛いわ」
「気を使わせちゃったみたいですね。ありがとうございます…って!私が可愛い?!」
心配してくれたことよりも後半の言葉に驚いた。か、可愛いなんて初めて言われたかも。
「ええ、あなたは自分が思っているよりもずっと可愛らしい女の子よ。そういえばあなた時間大丈夫かしら?あまり遅いとご両親が心配しないかしら?」
時計を見ると病室を出てから30分以上経っていた。だいぶ長話をしてしまったようだ。
「もうこんな時間!ごめんなさい引き止めちゃって。あなたはまだお見舞いにも行ってないのに」
「いいえ。引き止めたのは私の方だからあなたが謝ることはないわ。私もあなたと話せてすごく楽しかったし」
「私もあなたと話して楽しかったです。今日はありがとうございました。また会えるといいですね」
「そうね。また会いましょう。」
「それじゃ…あ!私桐ケ谷直葉って言います」
「直葉ちゃんね。そういえば私あなたに名前言ってなかったわね」
そう言って彼女は車椅子に座りながら佇まいを正してお辞儀をした。
「初めまして。紗夜。三ケ島紗夜です。」
これが後に私の親友となる三ケ島紗夜との初めての出会いであった。
74層攻略に向けて武器と防具の整備に行こうとしたタツヤはアルゴからのお使いで始まりの町に行くことになる。
次回「武器と防具と鼠のお使い」にレディーゴーー!!