ソードアート・オンライン~赤腕の槍使い~   作:G.S

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第九話:煮込まれウサギと手料理

 74層のフィールドにいた俺はあるMobがドロップしたアイテムをどうしようか考えていた。このフィールドでソードスキルの特訓をしていた俺はウサギ型のMobを発見した。スゴイ速度で逃げたそいつを仕留めたのだが…

 

「ラグー・ラビットの肉って…ウサギの肉なんていらねえんだよ」

 

膨大な経験値かレアアイテムが手に入ると思っていた俺は残念な気持ちになった。すぐ逃げるタイプのMobってそうじゃねえの?メタルスライムとか。それよりウサギの肉かよ…今までフレイジーボアの肉等の食材アイテムを手に入れたことはあったが使わずに売ってきた俺にはこいつの使い道は1つしか考えられなかった。

 

「売ろう。こんなアイテム持ってたって何の役にも立たねえよ」

 

まぁ、エギルのところにでも売りに行こう。どうせ大した価値の無いアイテムだからどこで売っても同じだろう…俺はエギルの店に向かった。

 

 50層アルゲード…まぁ賑やかな町だ。ここにある店に入ると店主のエギルと常連のキリト、そして《血盟騎士団副団長》アスナと知らない奴がいた。制服で血盟騎士団のメンバーだとは分かるがやっぱ知らないやつ奴だ。

 

「よう!キリトに血盟騎士団副団長の閃光様までいるなんてな。店の前の貼り紙に『現在血盟騎士団副団長様がご来店されてます』って書いておけよ。きっと客来るぜエギル」

 

「そんなことしたら野次馬が来るだけだろ?儲けが出ないんならやらねえよ」

 

我ながらいいアイデアだと思ったのだが却下されてしまった。

 

「私がどこにいようと貴方には関係ありません。タツヤさん」

 

俺を睨み付けているのは血盟騎士団副団長アスナと知らないやつ奴だ。どうやら俺は彼女に嫌われているようだ。まぁ理由は自分の言動を振り返って見れば見当がつく。俺は協調性があまり無いからな…ボス戦の時ならともかく普段は口を開けば相手を怒らせるような言動しかしない。攻略組の協調性を重視する連中からすれば俺は厄介者なんだろう。

 

「それで今日は何の用で来たんだ?タツヤ」

 

空気が少し悪くなったのを感じてエギルが俺に聞いてきた。

 

「アイテムを売りに来たんだよ。最近じゃいらないアイテムばっかり溜まりやがる。ここからここまで全部売るよ。いくらだ?」

 

「そうだな…」

 

そう言ってアイテムを見ていくエギル。しかしエギルの目があるところで止まった。

 

「お前これラグー・ラビットの肉じゃねえか!」

 

「「何だって(ですって)!」」

 

「え?これそんなにスゴイの?」

 

3人のあまりのリアクションに若干引いてしまう。副団長様のあんな顔なんて滅多に見れないであろう。

 

「ラグー・ラビットはS級食材なんだ!滅多にお目にかかれない代物だぞ!」

 

「へ、へぇ~」

 

ウサギの肉がS級なのかよ!開発者馬鹿なんじゃねえの?と思った俺はきっと悪くないだろう。

 

「キリトだけじゃなくてお前も手に入れるとはな…今日はラグー・ラビットのバーゲンセールか?」

 

「いや知らねえよ。それでいくらなんだ?早くこっちはコルが欲しいんだよ」

 

そう言うとエギルは考え込んでしまった。ものすごく悩んでいるようだ。

 

「じゃあ俺は帰るわ。アスナ今のうちに行こうぜ」

 

「えぇ…」

 

「そうだ!!」

 

あまりの声に驚いてしまった。エギル!お前の声は響くんだよ!心臓に悪いだろうが!…まぁここに心臓は無いんだけどな

 

「キリトお前俺には大分世話になっているよな?」

 

「あ、ああ。そうだな」

 

エギルは笑顔で話しているがあまりの迫力にキリトが後ずさる。普通笑顔とは相手を安心させたりする効果があるのだがこいつの場合は例外だ。

 

「ちょうど俺腹減っててよ。S級食材を使った料理を食ってみたいだが」

 

「いや~アスナが半分も食べるからお前の分は無いと思うんだけど…」

 

「いいや。肉は2つもあるからよ。俺達の分もあるはずだぜ」

 

エギル…お前どんだけウサギの肉食いたいんだよ。

 

「ということでお前は俺にラグー・ラビットの肉を使った料理を提供してもいいと思うんだけどな~。まさか1人だけで美味しい思いしようなんて考えてねえよな?」

 

「…悪いアスナ、人数増えるけど大丈夫か?」

 

「えぇ!?…うん。大丈夫だけど…」

 

エギルの懇願という名の脅迫にキリトは屈したようだ。まあ、俺も金入るし別にいいんだけどな。

 

「じゃあエギル、こいついくらで買い取って「何言ってんだ?お前も食いに来るんだろ?」はあぁぁ!?」

 

この強面店主は何を言ってんだ?

 

「今コルがピンチなんだよ!どうでもいいから買い取れよ!」

 

「いいか!コルはいつでも稼ぐことが出来る。でもな!S級食材はいつ手に入るんか分からないんだぞ!このチャンスを逃す手は無いんだよ」

 

S級食材について熱く語る雑貨屋店主。しかし俺が行くってお前が言ってから一気に副団長様の機嫌が悪くなっているぞ、あと隣の知らないやつ奴も。怖いんだけど!

 

「いいって俺は!大体料理なんて腹に入れば全部同じだって…」

 

「つまりそれは私の料理がそこらのNPCの料理と同じってことですか?」

 

…あれ?もしかして今地雷踏んじまったのか?さっきなんかと比べようが無いほどに副団長様が不機嫌になってしまった…ヤバイ!これはマジでヤバイ!フロアボスより怖いんだけど!

 

「そこまで言うのなら見せてあげます…!私の料理はNPCの料理などとは比べることも恐れ多いほど格が違うと!」

 

そこには後ろから炎が出ているのではないかと思えるほど熱くなっている副団長様がいた。…なんか今日1日でこいつを見る目が変わった気がする。つかお前ら料理で熱くなりすぎだろ…

その後俺は店を閉じたエギルと共に副団長様のホームに行くことになったのだが…

 

「アスナ様!こんな素性の知れぬ輩をホームに誘うなどやめてください!」

 

声を荒げて叫んだのはあの時店にいた知らない奴だった。本当に誰だコイツ?ボス戦にいたっけ?

 

「問題ありません。ともかく今日は帰りなさい。副団長として命じます」

 

知らない奴はまだ何か言いたそうな顔をしていたが何も言わずにその場を去った。

 

 副団長様のホームは綺麗に片付いていて可愛らしい小物類等があるなど意外に女の子らしい部屋であった。そのホームで彼女は白色のエプロンをしてキッチンで何かをしていた。そこには攻略の鬼と呼ばれる凛々しくて恐ろしいほど強い副団長様はいなく、料理が好きなだけの普通の少女がいた。

彼女はアイテムから本日のメインディッシュであるラグー・ラビットの肉を取り出した。…明らかにウサギの質量を越えた大きさの肉であったが…

 

「この世界の料理って簡略され過ぎてるからつまらないわ」

 

「確かにな。もうちょっと手間暇かけないと作った気にならないよな」

 

「そうか?料理なんてそんなもんだろ?」

 

「そんなわけ無いだろ。毎日カップ麺食ってた訳じゃないんだし」

 

「…」

 

「「「嘘だろ(でしょ)…」」」

 

なんだよお前ら!そんな信じられないような物を見る目で俺を見るなよ!

 

「べ、別にカップ麺だけじゃねえし。スーパーでサラダとか買ってたし」

 

こう見えても健康には気を付けていたからな。しかし彼らの眼差しは変わらず、エギルが呆れたように口を開いた。

 

「そういう意味じゃねえよ。たまには美味しいもの食べたいとか思わなかったのか?」

 

「別に…あんなのはただの栄養補給だよ。美味しいとかはどうでもいい」

 

そう…ここ数年何を食べても美味しいなんて思わなかった。あの狭い安アパートで1人で食う飯なんかに味なんて感じなかった。

ただ食べないと動けなくなるから食べていただけ…

 

「そんなことを言う貴方を美味しい!って感動させてあげるわ!覚悟して待ってなさい!」

そう言って彼女はキッチンに戻っていった。今は副菜を作っているようだ。

 

「あいつって普段はあんな感じなのか?キリト」

 

「まあな、意外だろ?」

 

「ああ、まあな…」

 

攻略の鬼みたいな人物だと思っていたのでもっと殺伐とした印象を持っていたのだが、意外に普通の人物であったので驚いた。…少しぐらいならボス戦でサポートをしてもいいかなっと柄でも無いことを考えてしまった。

 

「はい!出来たわよ!」

 

そう言って目の前に本日のメインのシチューと副菜が出される

シチューの蓋を開けた瞬間に温かな湯気が部屋中に広がる。その匂いに早くも3人の目が輝く。

 

「「「いただきます!」」」

 

「…いただきます」

 

食事の前の挨拶なんて何年ぶりだろうか…まずはメインのシチューを一口食べる。噛めば噛むほど肉汁が出てその濃厚な味が舌と喉を通り過ぎる。

 

「!…うまい!」

 

素直にそう感じてしまった。料理の味を感じることなんて久しぶりな気がする。

 

「なんだこれは!スゲーうまいぞ!」

 

「流石S級食材は格が違うな!」

 

「すごい美味しいわ!」

 

他の3人もこの味を絶賛していた。それからは次々とシチューが彼らの胃袋の中に消えていった。

 

「あ~美味しかった。私これまで生きてきてよかった~」

 

「流石はS級食材だな!他の肉とは全然違ったな!」

 

「まあこれもアスナが料理スキルをコンプリートしてたからだな。お前らアスナに感謝しろよ。特にお前だキリト」

 

「確かに美味しかったな…」

 

確かに美味かったがそれはS級食材を使っていたからとか料理スキルがコンプリートしていたからではない。それはきっと…

 

「みんなで食べたからあんなに美味しかったんだよな…」

 

どんな美味しい料理を食べたとしてもきっと1人で食べていたら何にも感じなかった。キリトにエギル…ついでにアスナと食べたからあんなに美味しいと感じたのであろう。

 

「「「………」」」

 

どうやら俺の独り言は大きかったらしい。周りの視線が一気に向けられた。俺は自分が言っていたことを思い出し、すごく恥ずかしくなった。きっと顔は真っ赤であろう。

 

「ははは!タツヤお前良いこと言うじゃねえか!お前のそういうところいいと思うぜ!」

 

「貴方がそんなこと言うなんて…意外だわ」

 

「確かにお前にその言葉は似合わないよな」

 

三者三様の言葉が聞こえてくるがそれどころではない!あんな言葉を言ったことを記憶から抹消したいくらいだ…頭をガーン!とやれば記憶が消えるかも…そんな思考になりそうだったのを止める。とにかく口止めしなくては!

 

「お前ら絶対に、絶対にさっき俺が言ったことを忘れろよ!」

 

「「「どうしようかな~」」」

 

「忘れろよ!」

 

「「「でも…」」」

 

「わ・す・れ・ろ・よ」

 

「「「…はい」」」

 

俺の懇願を奴らは聞いてくれたようだ。よし!口止め成功!内心ガッツポーズをとってしまった。

 

それからはアスナが入れた紅茶を飲みながら穏やかな時間が流れた。

 

 

「キリト君!あ、あのさ…」

 

「どうしたんだ?アスナ」

 

急に声を上げたアスナに驚くキリト。しかしキリトの疑問にえっと…その…などしか返せないアスナ、おそらく俺たちにはあまり聞かれたくない要件なのだろう。

 

「おいエギル。もうそろそろ客が来る時間じゃないか?」

 

「まだ大丈夫だよ。それよりアスナ悪いが紅茶をもう一杯もらっていいか?」

 

だ・か・ら・俺たちはお邪魔なんだよ。俺はエギルの襟首を掴んで扉に向かう。現実では絶対に不可能であるが筋力値さえあれば可能な行為である。

 

「あぁ!あと一杯!あと一杯だけ飲ませてくれーー!!」

 

「さっさと行くぞエギル!…あとアスナご馳走さま。美味かったよ。この恩はいつか返すわ」

 

そう言って俺はアスナのホームを出てエギルの店に戻ったのだ。

 

 

 アスナside

 

私はキリト君と組んで明日64層の迷宮区に行こうと考えていたのだが言い出せないでいた。

 

「おいエギル。もうそろそろ客が来る時間じゃないか?」

 

タツヤさんはそう言ってエギルさんの襟首を掴んで扉に向かった。後ろから聞こえる野太い悲鳴は無視しているようだ。

 

「アスナご馳走さま。美味かったよ。この恩はいつか返すわ」

 

そう言って彼らは出ていった。本当に今日は珍しい事ばかり起きるわ…

 

「意外だったろ?」

 

キリト君が急に聞いてきた。おそらくはさっきのことだろう。

 

「えぇ…まあ」

 

「さっきタツヤも同じことを言ってたよ。アスナの意外な面を見たって」

 

そうだったんだ…料理に集中してて全然気付かなかった。

 

「でも彼のことやっぱりあまり好きにはなれないわ。口は悪いし、協調性無いし…」

 

「まあそこは否定はしないけどさ。あいつああ見えて面倒見良かったりするんだよ。でもあの見た目と口調だから結構親しい奴しか分からないんだよな」

 

「…キリト君たちに接するみたいな感じで私たちにも接してくれればいいのに。そうすれば少しは他の人と友好的な関係を築き上げれると思うのに…」

 

ボス戦での彼は壁プレイヤーとしての役割を十分に果たしているのだがその言動のせいで血盟騎士団の中ではあまりいい印象を持たれていない。…青竜連合の人達とはなんやかんやで仲良くやっているのだからこっちとも仲良くやって欲しいのだけど…

「まぁ、あいつ自分から人と関わろうとすることなんて滅多に無いからな」

 

…それは君に対しても言えることだけどね。意外に似ているのかも。

 

「でもアスナに対しては少しは心を許したみたいだな」

 

「え!嘘!あれで?」

 

「あいつさっき呼び方変わってただろ?副団長様からアスナって」

 

「…確かに」

 

そういえばそうだった気がする。あまりにも小さい変化だったから分からなかった。

 

「何かあったら相談してみろよ。きっとなんやかんやで相談に乗ってくれるぜ」

 

「…そうかな?」

 

相談に乗ってくれるあの人が想像つかないんだけど…

 

「そういえばさっきアスナ何か言おうとしてただろ?」

 

「あぁ!えっとね…」

 

さっきは他の人がいて言えなかったけど今は二人きりだから言えるわ。もしかしたら彼は私が他の人がいると言いづらいのだと思ってエギルさんを連れて帰ってくれたのでは…まさかね。そんなわけ無いか。

 

「久しぶりに私とコンビ組みましょ!」

 

ともかく今はこの鈍感な人に振り向いて貰うために頑張らないとね。私はパーティー申請を彼に突き付けるのだった…

 

 

 




急に始まる74層ボス戦、みんなを守るためにキリトとタツヤの隠していたスキルがボスに牙を剥く!
次回「ユニークスキルとエクストラスキル」にレディーゴーー!!
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