寝落ち配信した妹の横でギターの練習してたら伝説になってた件について   作:五河 緑

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今回は主人公の過去話などが前半、後半はApex的なゲームの話です。
ゲーム内の戦闘描写がやや駆け足気味なのですが、実際のゲームをイメージして雰囲気で楽しんで頂ければと思います。




#12 無双する妹と爆弾魔な俺

 

「誰か2倍サイト持ってる人います?」

 

『俺持ってるよ。逆にバッテリー足りないわ。余ってる?』

 

「さっき沢山落ちてたから拾っといたぞ」

 

 AP〇Xレジェンダリー。

 60人のプレイヤーが広大なマップに放り込まれて熾烈な戦いを繰り広げるバトルロイヤル。

 しかし、序盤は意外と静かなことが多い。

 

 マップの各所に降下したプレイヤー達はまず地面に落ちている武器やアイテムを拾って戦う準備をする所から始める。

 強力な武器を探し、弾を防いでくれる鎧を探し、回復アイテムを貯め込む。

 落ちているアイテムの中には高倍率スコープや拡張マガジンといった武器を強化するものもある。

 

 この序盤で如何に強い装備を集めておくかがこのゲームの勝敗を決定づける大きな要因になる。

 

「おにぃは後方支援だからスナイパーかマークスマン。わたしは突撃するんでサブマシンガンとショットガンで固めます。獅子郷さんにはオールラウンダーで対応して欲しいので中距離戦できる武器でお願いします」

 

『あい、了解』

 

「あとおにぃは弾当てなくてもいいから牽制のために手榴弾沢山拾っといて。獅子郷さんは回復アイテム多めにお願いします。弾は連戦するわたしが持っておくので足りなくなったら言ってください」

 

 俺たちのチームは妹が舵取りを担い、武器集めの段階から最適解と思われる指示が飛んでくる。

 

 ……うちの妹、ゲームになると途端にリーダーシップ発揮して活き活きしだすよな。

 頭の回転も早くなるし作業効率も跳ね上がる。

 いつもこうだと助かるんだが。

 

『流石だよなぁアリアちゃん。やっぱゲームに対する熱量からして違うわ』

 

 プロゲーマーになり損ねたなんちゃってゲーマーとは格が違うな、と自虐ネタを言う獅子郷。

 

「あっ、すいません。……勝手に仕切っちゃって」

 

『いやいやいや!ごめんね、違うよ?そういうつもりで言ったんじゃなくって……めっちゃ助かってるよ!?』

 

 また要らんこと言って自爆する獅子郷。

 慌てて妹にフォローを入れに行っている。

 

『アリアちゃんホントに立派よ。こんなオッサン相手に物怖じせずにハキハキ喋れるんだから。なあ?』

 

「……ゲーム以外でもこんだけアグレッシブだと助かるんだがな。あと20代前半をオッサンて言うの止めろや」

 

『あの時の女の子がこんなに立派になって……俺も年食うはずだよ』

 

 あの時?と妹が首を傾げる。

 

『あれ?覚えてない?昔俺らのライブに来てくれたことあったじゃん?あの時何歳よ?小学生?』

 

「俺達のマスクにビビって大泣きしてたけどなコイツ。……言うて低学年ではなかったよな。そんなにビビるかってちょっと不思議だったわ」

 

『いや、あの暗いライブハウスで急に目の前に厳ついマスクつけたの4人も並んだら小学生女児は泣くだろ』

 

 思い出すのは高一の頃にやったライブ。

 当時、「構って構って」と煩かった妹を仕方なくライブハウスに連れて行き、ちょっとした悪ふざけでマスクつけて脅かしたらガチ泣きされてしまった。

 当の妹はあまり思い出したくない記憶なのか、めちゃくちゃ渋い顔している。

 

『この話してもいいのかな……。アリアちゃん、あの時ライブ終わった後に楽屋裏まで乗り込んできたんだよ』

 

「え?なにそれ?俺その話知らないんだけど」

 

『ヒビキはあの時、オーナーとPAさんに話しに行ってたからな。俺と残り2人のメンバーに話があるって妹ちゃんの方から来たんだぜ。……なんて言ってきたと思う?』

 

 話したくて堪らないのだろう。声音からもうニヤニヤしている獅子郷。

 そして当時のことを思い出したのか、妹が顔を真っ赤にして「ちょ、ま、やめ……」とテンパっている。

 

『「お兄ちゃんを取らないで」て言いに来たんだぜ。可愛くね?』

 

「……どういう意味だよ」

 

『ほら、あの時のお前ってさバンドに夢中で殆ど家にいなかったんだろ?「お兄ちゃんが遊んでくれなくなった」てアリアちゃん泣きながら抗議しに来たんだよ』

 

 微笑ましいよなぁ、と獅子郷は朗らかに笑っている。

 

「……あの時本当に怖かったんですよ?おにぃのバンドの皆さん、控え室でもマスクつけてたから」

 

 あのチキンな妹が単身でプレデターの巣に飛び込んで行ったのか。

 そりゃ驚きだ。

 一体何がこいつをそこまで突き動かしたのやら。

 

 確かにバンドを始めてからは家を空けることが多くなり、幼い頃はいつも一緒にいた妹のことも放ったらかし気味になっていた。

 思えばあの頃の妹は特に構ってちゃんが酷かった気がしたが、そういう事だったのか。

 

「……おにぃ中学の頃はずっと家にいてギター弾いてたじゃん。遊んでって言ったら一緒にゲームでも遊んでくれたし」

 

 でも高校行ったら途端に無視するようになってさ、と妹は頬を膨らます。

 

 …………。

 なんだろうな。

 いつもだダサTでぺチャパイの全く可愛げのない生意気な妹だが、たまにこういう顔を見せるから放っておけなくなる。

 

「……なあ、妹様よ。何か買って欲しいものあるか?」

 

「え?なんでもいいの?じゃあ、D〇RACERのゲーミングチェア!メッシュ素材でリクライニング180度の奴!ちょっと高いけど……」

 

「やっぱ嘘。前言撤回」

 

「おい」

 

 

 

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 コメント欄

 

 :可愛い

 

 :小学生にプレデターは泣くでしょ

 

 :構って欲しかったのかw

 

 :獅子郷、アリアちゃん見る目が完全に親戚のおじさんのそれなんよw

 

 :めっちゃテンパってて草

 

 :兄妹仲いいな

 

 :すげぇ恥ずかしそうw

 

 :可愛いw

 

 翡翠エメ【固定】:いいなー。あたしもこんなお兄ちゃん欲しかったっす

 

 :おねだり速攻却下ww

 

 :エメ公お前はギター練習しとけ

 

 :エメ、ちゃんと練習してんだろうなお前

 

 :あら

 

 :アートライブの娘?

 

 :チューニング覚えたか?

 

 :一曲くらい弾けるようになったんだろうな

 

 :これでサボってたら腹パンだぞ

 

 :処す?処す?

 

 :……なんか皆当たり強ない?

 

 :この娘なんか悪いことしたん?

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「ていうか、わたしだけ恥ずかしい過去掘り返されるの納得いかないです!」

 

 顔を真っ赤にして講義の声を上げる妹。

 

「獅子郷さん、おにぃもなんか無いんですか?恥ずかしい過去」

 

 あろうことか俺の事を巻き添えにしようとしてきやがった。

 

『えー、じゃあ俺とヒビキの出会った日の話でもする?』

 

「おい馬鹿。お前ふざけんなよ。やめろ」

 

「聞きたいです!」

 

 こんだけテンパるならさぞ面白い話なんでしょ、とやらしい笑みを浮かべる妹。

 そうだよ。傍から聞いたらさぞ面白い話だろうよ。

 俺からすれば最悪の黒歴史だがな。

 

『俺とヒビキが知り合ったのは高一の頃な。同じ学校、同じ学年だったんよ。当時、俺らの学校に軽音部って無くてさ。それで、音楽やりたがってたヒビキが名乗り上げて軽音部立ち上げた訳よ』

 

 思い出したくもない黒歴史が脳裏にフラッシュバックする。

 

『軽音部って人集まりそうなイメージじゃん?』

 

「そうですね。花形で高校生から凄い人気ありそうです」

 

『最初はさ、ファッション軽音部みたいな感じで沢山人集まったんだよ。でもな、部長のヒビキが「朝練あり、練習週7日、土日は朝から晩まで練習あり」て言い出したら全員ケツまくって逃げ出すっていう事態になったらしくて……』

 

 やめろ。やめてくれ。部活立ち上げて3日で部員全員に逃げられた過去とか思い出したくもない。

 

『俺は最初、軽音部とか興味なかったんだけどさ。開設3日で部員全員やめる軽音部の噂聞いて気になって見に行ったんよ。軽音部やってる第2音楽室』

 

 そしたら何がいたと思う?と獅子郷は心底可笑しそうに笑いを堪えている。

 

『部員全員に逃げられた男がギター持って床に座り込んで、この世の不条理を呪うオリジナルソングを弾き語りしててな』

 

 あれは爆笑した、と語る獅子郷。

 ふざけんな、何わろてんねん。

 

『その男がアリアちゃんのお兄さんってわけ。……その後なんやかんやあって元々ドラムやってた俺もヒビキの軽音部に加わってな。口下手なコイツの代わりに学内で音楽経験ある奴に声掛けてさ』

 

 そうして集まってできたのが『共食いプレデターズ』ってわけ、と締めくくる。

 

「……おにぃのバンドって軽音部が原点だったんだ」

 

「まあな。でも最後の方は殆ど学外での活動がメインになったから、部活って言っていいかは正直疑問が残るかな」

 

 あの年、あの学校、あの学年にあのメンバーが揃ったのは紛れもない奇跡だ。

 同じレベルの力量、同じレベルの熱量を持った上で皆異なる楽器を得意としていた。

 

 あの時、1人で熱くなって部員全員から逃げられなければ獅子郷と出会うことはなかった。

 あの時、獅子郷が俺のことを面白がって見にこなけれメンバーを集めることはできなかった。

 あの時、何か一つでも歯車が狂っていたら共食いプレデターズは結成されなかっただろう。

 

 バタフライエフェクトだ。

 

 アイツらと……共食いプレデターズと出会っていてなければ、きっと俺の人生はもっと薄っぺらいものになっていたに違いない。

 

 そう思えば、クソみたいな黒歴史ではあるがあの一連のやり取りもきっと俺には必要なプロセスだったのだと今なら受け入れられる。

 ……もっとも、だからと言ってこの話を人前でしたいかと言われたら別だが。

 

「別に面白い話でもないだろ」

 

『いやぁ、俺は面白いと思うぜ?特にあの時のお前の恨み節オリジナルソングの歌詞「やる気ねぇなら来るんじゃねぇ、音楽やるなら命かけろや」ってフレーズとお前の死んだ魚の目は今でも夢に出くるわ』

 

「おいやめろ。本当にやめろ」

 

「うわぁ……おにぃそれ完全に逆恨みじゃん」

 

 引くわぁ、と引き攣った表情を浮かべる妹。

 

 頼む放っといてくれ。

 あの時の俺はなんか尖ってたんだよ。思春期特有のアレだったんだよ。

 

 

 PCのマウスを操作し……ゲーム内でアイテムを集めながら俺は過去の思い出に必死に蓋をする。

 

 

 

 

 

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 コメント欄

 

 :草

 

 :週七はキツいって

 

 :そりゃ逃げるわ

 

 :ガチの中のガチだったか

 

 :呪いソングは流石に草

 

 :インパクト強い出会い方してんなw

 

 :誰もついてこれなかったのかww

 

 :呪詛w

 

 :熱量の差か

 

 :逆に獅子郷よくついていけたな

 

 :ガチ勢とガチ勢が引き寄せ合ってできたバンドなのね

 

 :これと同じレベルがあと2人残ってんのか……

 

 :ガチ勢同士は惹かれ合う

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 そんなしょうもない小話で盛り上がりながらアイテム漁りをしている間にもゲームは進んでいく。

 

 AP〇Xレジェンダリーは広大なマップを舞台としたゲームだが、ゲーム開始から時間が経つにつれてマップが徐々に狭くなっていく仕組みになっている。

 

 そうすることでマップ中に散らばった60人のプレイヤーは最終的にある1つの地点に集うようになっており、必然的に互いに戦わざるを得なくなるのだ。

 

 現在、ゲーム開始から20分近く経っておりマップもかなり狭くなってきている。

 道すがらいくつかのチームと鉢合わせたが、先陣を切る妹が尽く蹴散らしてくれたので大事には至っていない。

 

 ……こうして見ると妹の異質さがよく分かるな。

 

 3人1チームで成り立っているこのゲームでは連携が何よりも大事だ。

 そんな中で1人で3人と渡り合える妹はバランスブレイカーも甚だしい存在だろう。

 

 現に獅子郷も『アリアちゃん本戦出てくんねぇかなぁ』とボヤいている。

 

 今のところ順調だ。

 特に大きな問題もなくゲームは終盤に差し掛かっていく。

 生き残っているのは、残り3チーム。

 

 妹曰く、ラスト3チームになったら迂闊に戦闘を始めてはいけないらしい。

 仮にどこかのチームと戦い始めたら、残った1チームが必ず漁夫の利を狙って最悪のタイミングで乱入してくるからだそうだ。

 理想は、残り2チームが戦闘を始めて互いに潰し合うシチュエーションを作ること。

 そしたら、あとは弱った方を一方的に倒して無事にチャンピオンの座を勝ち取れる。

 

 ……エキシビションマッチでそんな殺意マックスの作戦は如何なものかと思ったが、コレがAP〇Xの定石らしいので致し方なし。

 

 装備もここに来るまでに最高の状態に仕上げてきた。

 あとは期を伺って奇襲をしかけるだけ……と思ったその時だった。

 

 スパンッ

 

 デカい銃声がなった後、妹のキャラのライフポイントが全損した。

 妹の操っているキャラがその場に倒れ込む。

 

「は?」

 

 久々に聞く本気で機嫌を悪くした時の妹の声。

 

『やばい、スナイパーだ!』

 

 獅子郷の声でようやく俺も何が起きたか把握する。

 どうやら妹は、遠距離から相手を一方的に撃てる狙撃銃で頭を撃ち抜かれたらしい。

 

 AP〇Xではライフポイントを全て失うと『ダウン状態』になる。

 この状態になると攻撃できずアイテムも使えなくなり、ただ地面を這うことしかできなくなる。

 

 この状態で更に攻撃を受けてトドメを刺されると完全に『死亡状態』になり、ゲームから脱落して敗北となってしまう。

 

 しかしトドメを刺されない限りはゲームオーバーではなく、仲間が近くに行って『蘇生処置』を施せば再びライフポイントを回復して復帰することができる。

 

 妹はスナイパーライフルで頭を抜かれて今『ダウン状態』だ。すぐさま駆け寄って蘇生すべきなのだが……。

 

 当然、敵のチームもそれを見逃すつもりはない。

 

『詰めてきた!』

 

 頭に1発お見舞して『ダウン状態』に追い込んだ妹にトドメを刺すべく敵チームが3人揃って迫ってきていた。

 途端に横殴りの雨のように飛来してくる銃弾の嵐。

 

 あわや蜂の巣にされそうな所を、地面を這う妹を庇いながら遮蔽物となる岩の影まで移動する。

 

 獅子郷が必死に抵抗しているが、3対1。多勢に無勢だ。

 

 まずい。こういう時はどうすれば……。

 

「おにぃ!手榴弾!投げまくって!」

 

 思考が止まりかけていたところに、妹の声が飛んでくる。

 

 ……あいつこんなデカい声出せたんだな。

 

 妹の指示に従い、これまでに拾ってきた手榴弾を片っ端から敵向かって投げつける。

 派手に爆発する破砕手榴弾、辺り一面に火を撒き散らすナパーム弾みたいな手榴弾。

 尋常ではない量の爆発物が飛んできて、敵チームも流石に攻め手を止めて後ろに引いて行く。

 

「起こしてっ!」

 

 敵が後ろに下がったタイミングで再び妹の声。

 駆け寄って妹のキャラに『蘇生処置』を施して起こす。

 しかし、敵も黙ってそれを見ている訳では無い。

 すかさずフルオートでライフルを乱射してくる。

 

 敵の銃弾を食らいながらも妹を起こす『蘇生処置』は止めない。

 攻撃を受けた俺のライフポイントもゴリゴリ削られていく。

 そして。

 

「おにぃ、ナイスッ!あとは任せて!」

 

 蘇生が終わり、妹のキャラが立ち上がると同時に俺のライフポイントがゼロになり、今度は俺が『ダウン状態』に追い込まれる。

 しかし問題ない。

 こっちの最高戦力が戦線復帰した。

 

 獅子郷も無事だ。

 3対1でよく抑え込んだなアイツ。

 

「獅子郷さん!カバーありがとうございます!下がって回復してくださいっ!」

 

 小型の回復アイテムで最低限ライフポイントを回復した後、得物のサブマシンガンを携えて妹が遮蔽物から飛び出す。

 

「野郎……さっきはよくもやりやがったな」

 

 いつものぐーたら引きこもり女からは想像もできないような獰猛な声が聞こえてきた。

 

「ぶっ〇してやる!」

 

 溢れんばかりの殺意を振りまいて妹のキャラが突進していく。

 

 ……大丈夫これ?炎上しない?

 

 敵に向かって突撃する妹のサブマシンガンが火を噴く。

 本来であれば凄まじい反動で弾がバラけるはずなのだが、絶妙なリコイル制御で全ての弾丸がレーザービームのごとく真っ直ぐ飛んでいく。

 全弾、頭に貰った敵の1人が一瞬でダウンに追い込まれる。

 

「次ぃ!」

 

 弾を全て撃ちきったサブマシンガンからサブウェポンのショットガンに武器を持ち替えて、乱射。

 胴体に散弾をもろに食らった2人目の敵が爆散する。

 

 ラスト1人。

 

 敵も負けじと銃を撃ち返すが、傍から見ても訳分からんキャラコンで妹は被弾を最小限に抑える。

 

 今度は妹の反撃。

 ジャンプ、スライディングを駆使しながら弾を避けつつ確実にショットガンを相手に叩き込んでいく。

 敵のライフポイントも恐らくあと少し……という所で妹のショットガンも弾切れを起こす。

 

 ここまでか、と思った次の瞬間。

 妹の近接攻撃……アッパーカットが直撃し、最後の敵のライフポイントを木っ端微塵に吹き飛ばした。

 

 AP〇Xには他のFPSゲーム同様に近接攻撃のパンチが実装されている。

 射程は短く、威力も低い上に隙も多いが武器や弾がなくとも即座に出せる攻撃方法。

 まさしく、最後の手段だ。

 それが見事に決まった形になる。

 

「しゃあっ!3タテ!」

 

 アドレナリンでハイになってる妹がガッツポーズ。

 しかし、喜んでいる暇はない。

 あと1チーム残っている。

 残り2チームになったことで、そのチームも決着をつけに駆けつけてくるだろう。

 

『アリアちゃん!ラスパ来た!』

 

「獅子郷さんおにぃ起こしといてください!おにぃ、起きたらスキャン入れて!あと敵の死体から手榴弾拾っといて!」

 

 今しがた倒した敵の死体から弾と防弾鎧を回収した妹がサブマシンガンの弾倉を交換しながら前に躍り出る。

 

 獅子郷が『ダウン状態』の俺に近づいてきて『蘇生処置 』を施す。

 

 立ち上がると同時に敵が迫ってきている方向に向けて、俺のピックした索敵キャラの特殊能力であるレーダースキャンを放つ。

 

 敵の姿が壁越しにハイライトされて浮き彫りになる。

 すかさず妹と獅子郷が場所を炙り出された敵に殺到する。

 その間に俺は回復だ。

 

 ラストバトル、交戦開始。

 

 またしてもファーストキルを飾ったのは妹だった。

 サブマシンガン掃射からの近接ショットガン。持てる手段を余すことなく使い、確実に1人を持っていく。

 

 しかしこちらも無傷では済まない。

 妹が敵チームの1人を片付けている間に、獅子郷が残り2人に挟み撃ちにされていた。

 数的不利に抗えず獅子郷がダウン。

 

『ごめんアリアちゃん、相打ちに持ってけなかった!ガスおじは鎧削り切ったよ!』

 

 敵2人はダウンした獅子郷を無視して妹の方に向かう。

 

「させるか」

 

 弾切れの妹はすぐには応戦できない。

 せめて時間を稼ごうと、スナイパーライフルを撃って牽制。

 ヘッドショットを恐れた敵の足が止まる。

 

 敵の注意がこちらに向いた。

 アサルトライフルの銃弾がこっちに殺到してくる。

 回復したばかりのライフポイントが一気に削られる。たまらず、遮蔽物の後ろに隠れてやり過ごす。

 

 敵の意識が再び妹に向くがもう遅い。

 

 リロードを終えた妹のサブマシンガンが唸る。

 獅子郷との戦いで既に手傷を負っていた敵の1人が一瞬でライフポイントを消し飛ばされて倒れる。

 

 これで敵はあと1人。

 

 俺はライフポイントが残り僅かで戦力にならない。

 妹と最後の敵との実質一騎打ちだ。

 

 相手も相当の手練なのだろう。

 妹と同じように素人目には理解すらできないキャラコンで被弾を抑えている。

 

 この距離では埒が明かない、そう思ったのだろう。

 

 熾烈な銃撃戦を繰り広げながら両者は一気に距離を詰めていく。

 現実世界なら殴り合いした方が早そうなくらい近距離になるまで接近。

 双方とも武器をショットガンに切り替える。

 この距離で散弾を急所に撃ち込まれたら、どちらも一撃で沈む。

 先に相手の胴体から上に攻撃を当てた方の勝ちだ。

 ジャンプ、スライディングを駆使して互いに相手の射線を躱しながらゼロ距離で撃ち合う。

 動きの読み合いだ。

 

 果たして、先に攻撃を相手に当てたのは妹だった。

 

 妹のショットガンが敵の片足に直撃する。

 だが足では決定打にならない。

 恐らくライフポイントを3分の1ほど残して敵は依然として立っている。

 

「やばっ誘われた!?」

 

 妹の悲鳴。

 攻撃を当てて一瞬気が緩んだ隙をついて、敵のショットガンが妹のキャラの頭を捉える。

 ライフポイントが消し飛び妹はダウン。

 どうやらこの勝負、敵側に軍配が上がったらしい。

 

「くそっ!」

 

 おい、くそとか言うなアイドル。

 あと台パンすんな。

 

「誰か忘れてないか?」

 

 妹との熾烈な撃ち合いを制して気が緩んだのであろう、敵の足が一瞬止まる。

 どうやら俺のことは完全に眼中にないようだ。

 地面で這いつくばってる妹目掛けてさっき敵の死体から回収した手榴弾を投げ込む。

 

 地面に転がる爆発物に気付いた敵が慌てて距離を取ろうとするが遅い。

 

 BOOOM

 

 無慈悲な破砕手榴弾の爆風がダウンしている妹もろとも敵を飲み込む。

 既に満身創痍だった敵のライフポイントは呆気なく吹き飛び、死体は面白い体勢のまま明後日の方向にフライアウェイしていく。

 

 ……汚ぇ花火だ。なんてな。

 

『おっしゃ!よくやったヒビキ!』

 

 響く獅子郷の歓声。

 チャンピオン獲得だ。

 

 ファンファーレと共にリザルト画面に切り替わる。

 表示されている与ダメージやキル数を集計したスコアは、妹がダントツの1位。次いで獅子郷、俺の順だ。

 まあ、援護担当としてはよくやった方だと思いたい。

 

「ヒヤヒヤしたぁ……」

 

『だよな。アリアちゃん落とされた時はもうダメだと思ったぜ』

 

 額の汗を拭いながら椅子にもたれ掛かる妹。

 獅子郷も興奮収まらない様子だ。

 

 なんにせよチャンピオンだ。

 最初は得意ではないゲームで足を引っ張ってしまうかと杞憂したがなんとかなった。

 

 今回は妹に感謝だな。

 俺も色々やったが結局、最初から最後まで妹の作戦勝ちだ。

 

 

 

 

 

 

 

 ------------------------------------------------------------

 コメント欄

 

 :おぉ!

 

 :ナイス!

 

 :ナイスチャンポン!

 

 :爆殺www

 

 :マジでキャラコンエグいなw

 

 :アリアちゃん本戦出ないの?もったいない

 

 :グレでフィニッシュ!

 

 :アリアちゃんガチになると声変わりすぎでしょw

 

 :台パン怖かったンゴ

 

 :獅子郷も3対1で抑え込めてたのすげぇ

 

 :いいチームじゃん

 

 :これで本戦出ちゃえば?

 

 :ラスト相手も凄かったな

 

 :最後の人2clock 3clockのガチの人でしょ

 

 :本戦出ないのマジでもったいない

 

 :アリアちゃんのお兄さんマジ爆弾魔

 

 :おめでとう!

 

 :チャンポンおめ!

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 エンディングだ。

 ゲーム画面を閉じて留めなく流れるコメント欄をバックに3人の立ち絵が並ぶ。

 

『いやぁ、アリアちゃんマジで上手いね。あんまお役に立てなくて申し訳ないわ』

 

「とんでもないですよ。スナでダウン取られた時、獅子郷さんが1人で戦線支えてくれなかったらアレで終わってました。マジ感謝です」

 

 互いに謙遜し合う獅子郷と妹。

 獅子郷はともかく妹もあんな風に人を立てるコミュニケーションできたんだな。

 家の中でもあれくらいお淑やかだと助かるんだが。

 

「おにぃもナイス。蘇生と爆殺良かったよん」

 

「お役に立てたようで何よりだよ」

 

 まあ楽しそうだからいいとするか。

 

『いやぁ、にしてもこの面子でまたやりたいなAP〇X』

 

「ですね。……じゃあそれまでにうちのおにぃはビシバシ鍛えとくんで」

 

『そいつは楽しみだ』

 

 なにやら知らないうちに今後のことが決まりそうな雰囲気だ。

 まあ、それもいいのかもしれない。

 ここんとこ音楽以外で何かに楽しみを見出すことなんて殆どなかった。

 たまにはこういう息抜きも必要だ。

 

「獅子郷さんは明日、Vtuber杯の本戦ですよね?」

 

『だな。アリアちゃん出ないのはマジで勿体ねぇ』

 

「それは仕方ないですよ。……でも今回エキシビションマッチ出れたから希望出てきました。次は出場できるように頑張ってみますよ!」

 

 だから今日は声掛けて頂いて本当にありがとうございます、と妹は満面の笑顔で感謝を伝える。

 

 今までアートライブは箱内で完結するコンテツ内容を展開してきていた。

 それにより外部で開催されるイベントへの参加機会を逃してきていたが、それもこれからは変わるようになるかもしれない。

 

 コメント欄を見る限り、今回のコラボも好意的に受け取ってくれているファンの方が多く見受けられる気がする。

 これがアートライブ……ひいては妹やエメ、シズクの追い風になってくれればと願うばかりだ。

 

『そういや、明後日はアートライブの方でボーカル練習する配信あるんだよな?』

 

「そうですね。うちのおにぃが先生になって色々教えてくれるんです」

 

『ヒビキ歌うまいもんなぁ。頑張れよー、セ・ン・セ・イ?』

 

「はいはい」

 

 一々おちょくりやがって。

 

『そんな訳で、明後日はガチモンのバンドマンが歌教えてくれるらしいから皆見に行こうなー。マジでこの人歌上手いから。俺が保証すっから』

 

「その前に明日はVtuber杯本戦だよ。うちのリスナーも総出で応援に行こうね☆」

 

 互いに近々行われる大規模なコラボ配信の宣伝をする。

 これこそ箱の垣根を超えたコラボの醍醐味だな。

 

 

 

 

 ------------------------------------------------------------

 コメント欄

 

 :はーい

 

 :お疲れー!

 

 :コラボ良かったよ!

 

 :ボーカル?

 

 :Vtuber杯次はアリアちゃんも出れるといいなぁ

 

 :獅子郷さん頑張れ!

 

 :応援行きますっ!

 

 :バンドマンのレッスンて何気に貴重では?

 

 :ギター練習コラボもよかったんで是非見てみてね

 

 :普通に面白そう

 

 :乙リア!

 

 :またAP〇Xやってよ

 

 :獅子郷のバンド時代小話もっと聞きたい

 

 :大会頑張ってー!

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「あ、そうだ。告知ついでにおにぃにも1個伝えとかなきゃいけないことあったわ」

 

「ん?なんだ?」

 

「明後日のボーカルレッスン配信の面子なんだけどさ、前回と同じわたしとエメちゃんとシズクちゃんに加えてもう1人参加するんだって」

 

 今朝マネちゃんから連絡来たんだよねー、と妹。

 1人追加?

 残る3期生、紫マムシか?

 

「今日の配信、応援に来てくれてた1期生の白峰先輩。なんかシズクちゃんが凄い勢いで誘ったらしくてさ」

 

 

 

 

 

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 コメント欄

 

 白峰ユキ【固定】:皆さん、優勝?おめでとうございます!

 

 白峰ユキ【固定】:アリアちゃんからもありましたけど明後日のボーカル練習配信、わたしも飛び入り参加させていただきます!

 

 白峰【固定】:首洗って待っていて下さいね♡先生?

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御愛読ありがとうございました。
よろしければ感想をお聞かせください。

執筆速度が不安定で申し訳ありません。今書いている次話もなる早で仕上げますので何卒ご声援をお願い致します。
皆さんの感想を精神安定剤にさせて頂いております。
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