寝落ち配信した妹の横でギターの練習してたら伝説になってた件について 作:五河 緑
その日は朝から妙な胸騒ぎがしていた。
何か大事なことを見逃しているような、今日これからとんでもない厄介事に出くわす予感がするような……。
この感覚には覚えがある。
防衛本能なのか第六感なのか、人生の中でも指折りのアンラッキーイベントが起きる直前はいつも無意識にその前兆を感じ取っていた気がする。
例えば高校入って意気揚々と軽音部を作って部員全員に逃げられた日の前日。
例えばドラマー……獅子郷がバンド抜ける相談しに来た日の前日。
例えば色男で有名だったうちのバンドのベーシストがストーカー化した女ファンに太ももナイフで刺されて病院送りになった日の朝。
最悪なイベントが起きる直前にはいつもこんな嫌な胸騒ぎがあった……気がする。
獅子郷とのAP〇Xコラボから2日。
今日はアートライブのボーカルレッスンコラボの日だ。
夢敗れて1度は音楽の世界から身を引いた俺が再び人前で音楽できる絶好の機会。
待ち焦がれていた筈だ。
なのに何でこんな胸がザワつくのだろう。
なぜ脳みその第六感あたりがガンガン警鐘を鳴らしているのだろう。
……まさか今日これから何か悪いことでも起きるというのだろうか。
「先生?大丈夫ですか?顔色が悪いようですが……」
ふと顔を上げると見知った顔があった。
長い黒髪に整った目鼻立ち。
着ている服は俺みたいな庶民じゃとても手を出す気にもなれないハイブランド品。
先週知り合った妹と同じアートライブ3期生のVtuber、蒼羽シズクだ。
「具合が悪いようでしたらスタッフさんお呼びしましょうか?」
辺りを見渡せば本日行うコラボに備えて数名のスタッフとマネージャーが機材を調整してる様が目に入った。
ここは先週のギターレッスンコラボでも使用したアートライブの社内スタジオ。
コラボ配信は間近に迫っている。
音楽活動を再開したい俺にとっても、方針転換の起点にしたいアートライブにとっても絶対に失敗できないコラボ配信だ。
「……ごめん、ちょっと考え事してた。大丈夫、問題ない」
「本当ですか?無理はなさらないでくださいね?」
「ホントに大丈夫。せっかくのコラボでお声掛けしてもらったんだ。体調も万全だし本当に大丈夫だよ」
精一杯の笑顔を浮かべてノープロブレムと伝えるがシズクの表情は依然として心配そうだ。
……当然だろう。今日のコラボに1番力を入れているのは恐らくシズクだ。
元々エメと妹だけで行うはずだったコラボ配信に飛び入り参加して、憧れてる先輩に声掛けてまで盛り上げようとしてくれている。
なんとしてでもコラボ配信を成功させたいという強い意志を感じる。
そんな中、一応コラボの目玉である教師役の俺が浮かない表情してたら気にもなるか。
……良くないよな。
前回のコラボ配信でもシズクは獅子郷の件でグダリかけた俺のフォローをしてくれた。
妹やエメには兄貴面、師匠面しているがシズクには現状頼りっぱなしだ。
やっぱり良くない。
何が悪い予感だ。
そんなものはただの迷信で、結局のところ自信のなさが引き起こしている錯覚に過ぎない。
そもそも俺はオカルトなんざ信じるタイプでもないし。
気合が足りていないだけの話だ。
持ってきているギターのセッティングを手早く済ませてピックを手に取り、ダウンストロークで思いっきり掻き鳴らす。
エフェクターをガンガンに効かせた聞き心地のいい音がアンプで増幅されて大音量でスタジオに響き渡る。
「最高のコラボ配信にしよう」
反響の余韻をバックに余裕のある表情を努めて作り、シズクに向けて拳を突き出す。
そんな俺を見てようやく安心したのかシズクも表情を和らげるが、俺の手を見て今度は怪訝そうに目を丸くしている。
「……ところでこの手は?」
「え?グータッチ」
「ぐーたっち?」
「拳と拳をこう……ちょんってする奴」
「?」
なんですかそれ、という箱入り娘らしい台詞を言うシズクに世間一般的に知られている結束感を高めるグータッチの意味合いを説明する。
「へぇ、素敵ですね。円陣みたいなものでしょうか。これがロックンロールというものなのですね」
「別にロック界隈限定のものじゃないけどな」
そんな他愛ない会話をしながらシズクと拳を軽くぶつけ合う。
彼女の手は色白く、細く、小さかったがぶつけてくるその小さな拳には確かな力が篭っていた。
それは彼女がVtuberという競争率の高い熾烈なエンタメ業界で高みを目指そうとする1人の挑戦者であることをヒシヒシと伝えてくる。
負けていられない。改めてそう思った。
……なんてことを考えていると。
「おにぃ!急にでっかい音出さないで!ビックリするでしょ!?」
「あー!シズクたそいいなぁ!あたしもHIBIKIさんとグータッチしたいっす!」
向こうで配信の段取りをしていた妹とエメだ。
さっき鳴らしたギターの音にビビってひっくり返った妹が抗議の声を上げている。
……相変わらずデカい音に敏感だなアイツ。
エメはエメでズレた所でテンション振り切れたらしく、駆け寄ってきてグータッチを求めてくる。
「ぐーたっち!ぐーたっち!」
「はいはい」
「うぇーい!」
先週同様にかつて物販で売った『共食いプレデターズ』のファンTを着て無邪気にはしゃぐエメを尻目にスタジオを見回す。
一つ気になることがあった。
「……なあ、噂に聞く白峰先輩ってのは?」
ある意味本日の主役ともいえる特別ゲスト。妹達の先輩にあたるVtuber、1期生の白峰ユキなる人物がスタジオ内には見受けられなかった。
「電車が止まってしまって遅れてくるそうです。今タクシーで向かってるみたいなんですけど、到着が配信開始時刻ギリギリになるそうで……」
「マジか、参ったな」
配信前に顔合わせと段取りの話し合いをしたかったんだが、やむを得ない事情があるならば仕方がない。
ぶっつけ本番でいくことになりそうだな。
「まあ、いいんじゃない?自己紹介とか配信の中でやればいいし。むしろおにぃも白峰先輩も新鮮なリアクション取れそうじゃん」
「なんかあったら、あたしらが間に入って場を回すから頼りにしてくださいっす!」
相変わらず配信者とは思えない楽観主義の妹とエメ。
だが今はそのポジティブさに少し救われる。
「……てな訳で配信まで少しあるっすね。あたしから1個提案があるんすけど」
「おう」
「HIBIKIさん白峰パイセンのことよく知らないじゃないっすか?顔合わせの代わりと言っちゃアレですけどコレ見て勉強するっす」
そう言ってスマホの画面に件のゲスト、Vtuber白峰ユキの配信アーカイブを表示するエメ。
「いいですね!白峰先輩、とっても素敵な方なんですよ!先生にも是非よく知ってもらいたいです!」
意外にも1番乗り気なのはシズクだった。
かなり心酔しているのだろう。
自分の推しを布教するオタク特有のキラキラした目でこっちを見つめてくる。
「シズクちゃん白峰先輩の話になるとクールキャラがどっか行っちゃうよね……」
生暖かい視線を妹が向けるがシズクはまったく意に介さないようだ。
エメのスマホを指さして、この回は神回で~その回の1:56:30の所が見所で~等と熱弁している。
……こうして見ると清楚系のシズクもウザかわ系のエメもさして変わらない『好き』に全力な普通の女の子に見えてくるから不思議なもんだ。
画面の中では白髪のお姉さん系キャラの立ち絵がアニメキャラさながらの萌え声でトークを展開している。
意図的に喋るペースを落としているようで、獅子郷が絶賛していたように非常に聞き取りやすいおっとりボイスだ。
…………地声ではなく萌え声で話しているからなんとも言えないが、なんか聞き覚えのあるような気がする声だな。
気のせいか?
流されている配信アーカイブはどうやらキーボード演奏配信らしく、トークの合間にキーボードの音色が聞こえてくる。
人気曲のカバー曲が主のようだが時折即興でオリジナル曲を弾いたりして視聴者を楽しませている。
…………。
……それにしても白峰ユキが即興で奏でているこのフレーズ、どういう訳かどこかで聞いたような感覚に陥る。
デジャヴとでも言うのだろうか。
ある程度のレベルまで楽器を極めてくると作曲やアレンジの際によく使うフレーズの癖みたいなものが奏者ごとに決まってくる。
白峰ユキの奏でるオリジナル曲にはどことなく既視感を感じた……ような気がした。
あくまで気がしただけだ。
頭の奥底で記憶のドアがキリキリと音を立てて開きかけてはすぐに閉じてしまった。
「白峰先輩の演奏ってホントにすごいんですよ!曲調の表情がしっかりしてて!たまに間違えることもあるんですけど、詰まらずに堂々と最後まで弾いていて演奏に自信が満ちてるっていうか……多分、経験者じゃないとミスしたと気付けないくらい滑らかで!アドリブとか即興のアレンジも恐れずに挑戦してて、ホントにそういう所からも奏者としての自信と実力を感じられるんです!」
流れる白峰ユキの配信を前にシズクが興奮気味に早口で推しポイントを捲し立てている。
さっきまでのお淑やかで静かなキャラは完全に崩壊している。
「……推しの話になるとシズクたそってヤバいスイッチ入るっすよね」
少し引き気味に言うエメをジト目で眺める妹。
「おにぃに首ったけなエメちゃんは人のこと言える立場じゃないとおもうけどなぁ」
それはそう。
食い入るように白峰ユキの動画を見ているシズクにスマホを明け渡して俺の隣に腰を下ろすエメ。
知り合ってからある程度時間が経ってきたせいか、最近妙に距離感近くなってきたなコイツ。
その時、ふとエメの手……指先が目に入った。
そこに気になるものを見つけて思わずエメの手を取る。
「ふぇっ!?なんすか!?」
急に触られて素っ頓狂な声を上げるエメ。
「おにぃ!アイドルはお触り厳禁!てか、未成年相手は犯罪でしょ!?エメちゃんはダメだかんね!?」
妹がやかましいが無視する。
それよりも今はエメだ。
「……指大丈夫か?」
エメ指先には物の見事にタコが出来上がっていた。
ギター初心者がなる指だ。
「……いい指になってきてる。ちゃんと練習してるんだな」
素直に感心して褒めるとエメは照れたように頬を赤く染めた。
「ま、まあ、そりゃ勿論っすよ?なんたって?ずっと憧れてた人が教えてくれてるんっすから……あ、でもHIBIKIさんはタコないっすね?」
「こんだけ長くやってるともう指先固くなってくるんだよ」
試しに自分の指先をエメの掌に押し当ててみる。
ほー、へー、ふーん、などと言いながら興味深そうに人の指先を弄るエメ。
「やっぱあたしってまだまだなんすね」
「……年季が違うからな。安心しろ最初はみんな同じだったよ。俺も爪割れたりとか酷かったし」
懐かしき初心者時代を思い返す。
当のエメは爪が割れるくだりを聞いて、うへぇネイルできない~、などとボヤいている。
なんだか微笑ましかった。
ネットでは依然としてニワカロッカーと呼ばれているが、俺から言わせればもう立派なバンドガールだ。
「頑張れよ。エメならきっといいギタリストになれる。……俺なんてすぐに追い抜けるさ」
「えー?それは無理っすよ。あたしの中でHIBIKIさんってそんなに小さい存在じゃないっす。…………でも、そんくらいの気持ちで喰らい付いていくっす!」
「おう。応援してる」
そんなこんなで4人で白峰ユキのアーカイブ流し見したりすること十数分。
ついに件の待ち人が到着した。
スタジオ出入口のドアが開きスタッフが少し騒がしくなる。
「すいませーん!遅くなりました」
「白峰先輩!」
ヒールの音を鳴らして慌ただしくスタジオに入ってきた人物に真っ先に反応したのはまたしてもシズクだった。
跳ね上がるように立ち上がり、件の人物のもとまで駆けて行く。
「シズクちゃん、ごめんねぇ!電車止まっちゃってさぁ!ホントもう……」
「大丈夫です!配信開始には間に合ってますので大丈夫ですよ!先輩!……あっ!キーボード持ってきてくださったんですね!?」
「勿論よー!可愛い後輩のお願いだもんね。無下にはできないわよ。気合い入れてシンセサイザー持ってきたわ」
2人は本当に慣れ親しんだような距離感でやり取りを交わしている。
シズクの後を追うように妹とエメも駆け出す。
「お疲れ様です!」
「お疲れ様っす!」
事務所の先輩に律儀に頭を下げに行く2人。
「おぉ!アリアちゃんとエメちゃんもお疲れ様、ごめんね遅くなっちゃって。今日はよろしくね。……お?エメちゃん、そのシャツめっちゃ懐いじゃん」
「え?シャツっすか?」
「あーごめん。こっちの話」
怪訝そうに首を傾げるエメを優しく押しのけてスタジオの中ほどまで歩みを進める白峰ユキ。
遠目にはよく見えなかった彼女の顔がハッキリと認識できるようになる。
……朝から妙な胸騒ぎがしていた。
何か知らんが嫌な予感がしていた。
虫の知らせだか第六感だか知らんが兎に角、なんかヤバい気配は感じていた。
俺はさっきそれをしょうもないオカルトだと断じて考えないようにしていた。
……撤回する。
オカルトってあるんだな。
こういう時の胸騒ぎって不思議とよく当たるもんだ。
「あ!白峰先輩、紹介しますね。うちのおにぃ……じゃなくて兄です!ご存知だと思いますけどギターやってまして、歌も上手いんですよ!今日は先生をやってくれることになってまして……」
…………。
うん。妹よ、悪いがその紹介はいらないかな。
そんなん無くてもその人は俺の事よく知ってるだろうから。
でもって俺も彼女のことはよく知っている。
女性にしてはやや高めの身長。
少しウェーブのかかった甘栗色の髪。
ややツリ目気味の目元が整った顔立ちに美人というよりも怖いという印象を与えている。
髪型や化粧の仕方など、記憶の中とは異なる点がいくつかあるがそれでも一目で分かった。
脳内を駆け巡る青い記憶。
甘酸っぱい記憶の残る高校の教室。よく屯ってた近所の公園。共に観客を沸かしたライブハウスのステージ。
俺の人生の中で最高の出会いだった4人のメンバー。
その中に彼女はいた。
苛烈な性格を源泉とする音楽への溢れんばかりの情熱を余すことなくキーボードに叩きつけていた、俺の知る限り同年代で最高峰のキーボーディスト。
『共食いプレデターズ』の誇るアドリブ狂、荒れ狂うキーボード奏者がそこにいた。
「…………」
「…………」
思えば予感はしていた。
例えばさっき見せてもらったVtuber白峰ユキのキーボード演奏。
即興オリ曲で多用していたフレーズはアイツがよく好んで使っていた旋律だった。
例えば配信中の白峰ユキの声。
…………いや、あれは分からんな。
確かにどことなく似ていたし、どこかで聞いたような気もしたがいくらなんでもイメージと掛け離れている。
先程見たVtuber白峰ユキの喋り方は、意図的にペースを落とした非常におっとりとしたものだった。
俺の記憶の中にいるキーボーディストのアイツの口調とは大きく掛け離れている。
……アイツ基本的に巻き舌がデフォだったからな。
口癖なんて「どつくぞボケ」だぞ。声音だってもっとドスが効いていた。
あんなん分からんて。
「あれ?どしたのおにぃ?」
「白峰先輩?」
しばし無言で睨み合う俺と白峰の様子を怪訝に思ったのか妹とシズクが心配そうに俺達の顔を覗き込んでくる。
果たして、先に動いたのは白峰の方だった。
「初 め ま し て、アリアちゃんのお兄さん」
ズイっと伸ばされる手を無意識に握る。
途端に万力で締め付けるような圧力が右手にかけられる。
「お初にお目にかかります。アートライブ1期生、白峰ユキと申しますー。今日は仲良くしましょーねー♡」
…………なんでキレ気味なの?
★★★
「特別コラボ企画!『アートライブ 3rd 音楽教室コラボ』!」
「第2回は『目指せ、棒読みオンチ脱却!ボーカルレッスン!』っす!!」
「メンバーは前回に引き続き私たちアートライブ3期生の3人でお送りいたします!」
色とりどりに煌めく背景をバックに赤髪、緑髪、青髪の美少女……紅アリア、翡翠エメ、蒼羽シズクが笑顔を振りまきながら高らかにコラボ配信開始を宣言する。
「今回も先生として元バントマンである我が家のおにぃをお呼びしてますっ!」
妹の紹介と共に弦にピックを走らせてキレのあるストロークを奏でる。
「うちの妹の棒読みを矯正していきたいと思いますんで、今回もよろしくお願いします」
ギターの旋律に合わせて登場したガスマスク男の立ち絵が俺のおじぎに合わせて身体を前後に揺らしている。
「そして!なんと、なんと!今回は更に特別なゲストにお越し頂いております!」
恐らく過去一でテンションが高まっているシズクが目を爛々と輝かせながら今回の主役の紹介を行う。
「私の大、大、大尊敬しているアートライブ1期生の大先輩!白峰ユキ先輩ですっ!」
シズクのテンション振り切れた呼び掛けに応えるように白峰の指が鍵盤に走る。
かつて共に凌ぎを削ったキーボード奏者が奏でる旋律。
シンセサイザー特有の脳髄を貫くような電子音がアンプによって増幅されて場を支配する。
「はいどうもー!アートライブ1期生の白峰ユキでーすっ!音楽配信ってことでお邪魔させてもらってまーす!今日はよろしくねー!」
配信画面上、俺の立ち絵であるガスマスク男の隣に白髪ロングの美少女がポップする。
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コメント欄
:おぉ!
:始まった!
:みんな可愛よ
:タイトルよw
:棒読みw
:頑張れー!
:この子らみんな歌苦手なん?
:安定のお兄さん
:最近すっかりレギュラー
:やっぱギターいい音すんな ー
:ボーカルレッスンだけどギターも弾いてくれる感じ?
:これが噂の事故ギター
:今日いつもに増して人多いなぁ
:2clock 3clockのとこの人たち来てくれてるみたい
:シズクちゃんテンションたっかw
:シズクたそウキウキじゃん
:白峰パイセン!?
:告知であったけどマジで来るんか
:ホントにユキちゃん大好きだよなぁシズクちゃんw
:シズユキてぇてぇ
:めっちゃ尊敬してるもんな
:おおぉ!!
:きちゃ!
:キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!
:音かっけぇぇぇ!
:エグww
:かっこよ
:シンセサイザー?
:エレクトロニック、マジかっけぇ
:やべぇw
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「おにぃと白峰先輩は初対面だよね?どう?おにぃ?同じ音楽ガチ勢Vtuberへの第一印象は?」
新鮮なリアクションを求めているであろう妹がウッキウキの表情で尋ねてくる。
……あと俺は別にVtuberになったつもりは無いぞ。立ち絵とか頂いちゃってますけども。
「…………」
「…………」
いや、どうすんのこれ。
白峰がスタジオに到着して、あの後すぐに配信開始時刻になったためろくに話もせずに今この瞬間まで来てしまっている。
当たり前だが俺から白峰に対して第一印象もクソもない。
言いたいことがあるとすればキャラとか喋り方が過去とまるで違っていて困惑していることぐらいか。
ていうかなんで久しぶりに再会して出てくる言葉が「初めまして」なんだよ。
配信上でなら分かるけど、なんで妹やシズクにも元同じバンドのメンバーのこと隠すんだコイツ。
ドッキリか?後輩に対するドッキリのつもりなのか?
言葉は出さずに眉だけ潜めて、「なんでこの状況に持ち込んだ?」と視線だけで問い掛ける。
伝わったのかどうか知らんが、白峰はニヤニヤした笑みを浮かべながらこっちを見ている。
……あの目はよく知っている。
アイツがあの顔してる時は大抵その後にこう言う、「だってこの方が面白いでしょ?」と。
稀代のアドリブ好き。予期せぬハプニングやそこから生まれるドラマをこよなく愛する生粋のスリルジャンキー。
俺たちのキーボーディストは、そんな頭のネジが5、6本ぶっ飛んだイカレアーティストの極地みたいな奴だった。
そんでもって、ステージ上でアドリブしても1つの音楽やパフォーマンスに昇華させることができる程の実力も兼ね備えているから尚タチが悪い。
「おにぃ?」
「え?あ、うん。凄い良い演奏だったと思う。今のだけでも実力が伝わってきたっつーか……」
「えー?おにぃなんか反応薄くない?」
「……圧倒されてるんだよ」
棒読みでそう言うと、今度は件の白峰がニッコニコの笑顔で口を開く。
「えー?わたしなんて大したものじゃないですよー。まだまだ修行中の身です♡」
「……いやいや、十分凄いですよ」
「あっ!そう言えばアリアちゃんのお兄さんてバンドやってらっしゃったんですよね?キーボードの方もいらっしゃったとか」
「……いましたね」
「この間の配信でも話してましたもんね?なんでしたっけ?少し変わった方だったとかなんとか」
「……あれはちょっと誇張表現が過ぎましたね。実際は凄いいい奴でしたよ。はい」
「爪の垢がなんでしたっけ?」
「………………あれは、失言…でしたね。はい、すいません。2人共とても優れたキーボーディストだと思います。はい、ホントに」
全身から滝のような汗が吹き出る。
……この女、あのこと根に持ってたのか。
「そうなんですかぁ?なら良かったでーす。いやぁ、それにしてもいつかお会いしてみたいですね。ねぇ?お兄さん?」
…………鏡でも見りゃいつでも会えるんじゃないすかね。
「……そうですね。2人共すごいハイレベルな奏者だと思うのですぐ仲良くなれますよ」
「えー本当ですかぁ?お兄さんってばお上手ー!」
立ち上がって俺の隣まで来る白峰。
背中をバシバシ叩いてから肩を組んでくる。
「いやぁ、それにしてもお兄さんのギターも凄いよかったですよ?話し方もとても理知的でわたしビックリしちゃいました」
「……あざす」
「やっぱ楽器やってる人に悪い人っていないですよねー?」
「…………特にキーボードはいい人揃いデスモンネ」
「お兄さん分かってるぅ!」
「「HAHAHAHA」」
肩を組んで朗らかに笑う。
白峰は爽やかないい笑顔を浮かべているが、俺の方は引き攣ってとんでもない表情になっている事だろう。
そんな俺と白峰の様子に驚いたようにポカーンと口を開けているアートライブ3期生の3人。
「なんか一瞬で仲良くなったっすね」
「おにぃそんなコミュ強だったっけ?」
残念ながら俺の危機的心中までは察してくれないようだ。
「長いこと楽器やってるとね、お互いの演奏見れば相手がどれだけ音楽に熱意ぶっ込んでるのか分かるもんなのよ。同じ道の求道者ならもう立派なマブダチよ」
ねー?と同意を求めてくるから「そうっすね」と適当に頷いておく。
……というか「マブダチ」とか言ってるけどいいのかコイツ。おっとり優しいキャラはどうすんだよ。
素行悪かった頃の片鱗漏れてんぞ。
「おっといけない。喋りすぎちゃった♡ごめんね、シズクちゃん。場回してもらっていい?」
「あっ、はい!えっと、という訳で本日は特別ゲストをお迎えしつつボーカルレッスンをしていきたいと思います!」
先生お願いします、というシズクからのバトンタッチを受けて取り敢えず今日やる事の概要から伝えていく。
そんなこんなで2回目のコラボ配信が幕を開けた。
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コメント欄
:一瞬で打ち解けてて草
:なんか今日のユキちゃんグイグイいくね
:忘れがちだけどユキちゃん結構コミュ強よね。コラボとかでもガンガン喋ってくし
:お兄さんちょっと押されてる?
:楽器やってる人に悪い奴はいない。ハッキリわかんだね
獅子郷レオン/【2clock 3clock公式】:
白峰さんやっぱいい声してるよな~癒されるわ。ヒビキは先生頑張れよぉ!
:草
:獅子郷じゃん
:獅子郷来てるやんw
:昨日のVtuber杯見ましたっ!
:準優勝おめでとう!
:獅子郷もドラムやんねーの?
:獅子郷、ユキちゃん推しなん?
:今度獅子郷も音楽コラボ入れてもらいなよー
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御愛読ありがとうございます。
宜しければ感想を頂けたらと思います。