寝落ち配信した妹の横でギターの練習してたら伝説になってた件について   作:五河 緑

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準備回です。少し短めになってしまいました。申し訳ありませぬ<(_ _)>
近々上げる配信回では、1話と同程度以上のボリュームでお送り致しますので、何卒御容赦を。


#2Vtuberな妹と何故かバズった俺

 

 後日。

 

「あの、おにぃ。ちょっといい?」

 

 リビングで夕飯のカレーをつついてたら、向かいに座っている妹が唐突に切り出した。

 

 

「今食ってんの。後にしてくれ」

 

「カレーなんかどうでもいいじゃん。大事な話なの」

 

「カレーなんかってお前、誰が作ってると思ってんだ」

 

 父母ともにワークホリックの典型みたいな我が家では両親が揃って家を空けることは珍しくない。

 必然的に食事も自分たちで用意することが昔から多かった。

 お袋からは、2人で協力しなさい、と仰せつかっているが生憎と目の前の愚妹が俺のためにキッチンに立った姿なんざ見たことがない。

 こいつは、ほっとけば冷食とインスタントラーメンとエナジードリンクだけでエネルギー補給を済ませようとする家事スキル0の女だ。

 今更だが、俺がバンドやってて家空けまくってた頃、こいつどうやって生きてたんだ?

 

「とにかくコレ見て」

 

 そんな愚妹は俺の考えてることなんざ露ほども気にかけることは無く、手にしていたスマホの画面をこっち向かって突き出してくる。

 表示されている画面はYou〇ube。恐らく、世界で最も知名度があり、利用者の多い動画投稿サイトだ。

 写っているのは、画面の右下に赤い髪をしたアニメチックな美少女のイラストがピコピコ動いている映像だ。真ん中の方には、いつぞやのパソコンの画面みたいに大量の文字列が忙しなく流れている。

 

「なんこれ?」

 

「Vtuber。知らないの?」

 

「いや、知ってるけどさ。急にこんなん見せられても分かんねぇよ。俺こういうの見ないし」

 

 Vtuber。今をときめく仮想アバターを纏った動画投稿者や配信者のことだ。

 厳密には、生配信を主体に活動するVtuberのことはVライバーと言うらしいが生憎と俺にはよく分からない、というのが正直なところ。

 昔からアニメとかラノベとかそういうのが大好物だった妹だが、最近はこういうのにハマってんのか。

 つくづく似ないな、俺たち兄妹は。

 

「いいから、黙って見てて」

 

 有無を言わせない雰囲気の妹がスマホの音量を上げる。途端に流れてくる低いギターの音色。

 演奏されているのは、今流行りのバンドが発表したばかりの新曲。この前、俺が練習がてらに弾いたのと同じ曲だ。

 滞ることなく、流れるように弦を弾く音が鳴り響く。

 よくよく聞いてみると、演奏者はまだ慣れてない曲を楽譜を見ずに空で弾いているのが分かる。公式の曲調とは偶に違う部分があるし、恐らく飛んだであろう所を自分の即興のアレンジで穴埋めしてる。

 悪くは無いが、悪癖でもある。咄嗟に譜面が頭から抜けた時なんかは有用だろうが、行き過ぎれば演奏全体のバランスを乱しかねない。

 いつも自分に言い聞かせていることだが、音楽は全体のバランス、調和が大切だ。ほんの少しの綻びが全体に波及する。

 俺も似たような癖があるから、あまり人の事は言えないがな。

 やがて演奏が終わり、ジャーンと最後の余韻が鳴り響く。奏者も余計なことをせず、しっかりと残心を意識している。

 まあ、及第点ってとこかな。

 

 

「悪くないじゃん。Vtuberってよく分かんねぇけど、音楽ガチの奴とかもいるんだ」

 

「悪くない、て……当たり前じゃん。これ弾いてんのおにぃなんだから」

 

「あ?」

 

 聞き捨てならないことを言う妹。間髪入れずにスマホから男の声が流れてくる。『じゃあ、次の曲ぅ。オリ曲で『こんなバンドやってられっか』行きまぁす』

 どこかで聞いた寒いMCもどきの声を聞いて、流石に察しがついてきた。

 

「これ、昨日のわたしの配信の……切り抜き。おにぃのギターと歌が入っちゃった奴」

 

「え?じゃあ、この端に映ってんのは……」

 

 恐る恐る画面の右下でさっきから身動き1つとらない美少女のアニメキャラを指さす。

 途端に頬を少し赤くして目を逸らす妹。

 

「それ……わたし。アートライブっていう大手事務所の3期生なの」

 

 ウッソだろお前。

 

「え?お前、Vtuberやってんの?」

 

「……なに?おにぃも配信者に偏見とか持ってるタイプ?」

 

「いや、別に偏見って訳じゃないけど。Vtuberって……お前が?マジ?」

 

 絶句している俺の視線から逃げるようにそっぽを向く妹。

 改めてスマホの画面に目を向ける。

 

『【神回】アートライブ切り抜き!! 紅アリア、まさかの兄バレ!?プロ級ギタリスト兄のゲリラライブ開催!!』

 

 動画のタイトルはそんな感じだ。

 この紅アリアってのが妹の演じているVtuberのことか。……つーか似てねぇ。胸盛りすぎだろ。なんだこのお姉さん系アニメキャラ。バインバインじゃねぇか。

 目の前のリアル妹の胸に目を向けると、ダサTの下で控えめな突起を主張しているBカップ前後の胸囲が見える。

 

「……なに?」

 

「いや、なんか、かけ離れ過ぎじゃね?このキャラとお前」

 

「うっさいな。いいでしょ別に。リアルにはない魅力を持ってるのがVのいいとこなんだから。……てか、今どこ見て判断した?」

 

 両手で自分の胸を押さえ隠しながら半眼で睨みつけてくる妹。

 あーはいはい。コンプなのね。そんで、自分の演じるVのキャラデザをこんなにしたと。

 良かったよ。年中ダサT着て女子力なんざ皆無だと思ってた妹に欠片レベルでも女子らしい感性が残っててお兄ちゃん、むしろホッとしたわ。

 

「わたしのことは別にどうでもいいの!再生数とコメ欄見て」

 

「……は?」

 

 妹に言われて再び目線をスマホに落として思わず固まる。

 再生数85万回、高評価7000越え、コメント数800越え。

 コメ欄をタップすれば、そこには俺のギターと歌唱力、俺の作ったオリ曲に対する忌憚のない感想が赤裸々に並んでいた。

 

 

 

 

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 コメント欄

 

 :アリアのお兄さん?めちゃくちゃギター上手くね?

 

 :プロの人かな?

 

 :あの変態変拍子曲1回もミスらずに弾くのやばww

 

 :野生のプロw

 

 :オリ曲普通に良くない?

 

 :デビューとかしてんのかな

 

 :放送事故のはずが最強の撮れ高になってて草

 

 :2曲目の奴、めっちゃ好きだわ。

 

 :また配信来てくれねーかなー

 

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 めちゃくちゃ絶賛されてるぅ……。

 えぇ……?

 

 改めて再生数の方にも目を向ける。85万回。85万回である。85回ではない。85万回だ。

 俺もバンドやってた頃、MVのような何かやライブハウスでの演奏を撮った動画なんかをYou〇ube に投稿したことはある。

 したことあるからこそ分かる。この再生数がどんだけ化け物じみてるかが分かってしまう。

 

「な、なあ、妹様よ。俺の目がイカれてなきゃ、ここに85万回って書いてあんだけど?……もしかしてあれか?これアレか?ドッキリって奴か?」

 

「安心して、おにぃの目はイカれてないし、ドッキリでもなんでもない。昨日の配信……おにぃのギター音入った動画が1晩でバズったの」

 

 マジかよ……。

 

「トゥイッターとかでもめっちゃ拡散されてるし……今朝のトレンドだって、ほら」

 

 

 

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 日本のトレンド

 

『Vtuber』

 

『アートライブ 3期生』

 

『紅アリア』

 

『紅アリア 兄』

 

『こんなバンドやってられっか』

 

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「いや、本当にマジかよ……」

 

 思わず声が漏れる。

 指先もなんなら少し震えてる。

 

 俺の作った曲が、俺達が歌っていた曲がこんなにも大勢の注目を集めている。

 その事実に言い様のない高揚感が湧き上がってくる。

 枯れかけていた音楽への情熱が再び湧き上がってくるのを感じる。

 

「おにぃ。ギター1本で日本のトレンドとったおにぃを見込んでお願いがあります」

 

「あん?」

 

 未だ興奮が収まらない俺に妹が両手を組んで迫ってくる。

 こいつにしては珍しく横暴な我儘ではなく、丁寧に頭を下げてのお願いだ。

 

「これから、わたしと一緒に配信に出てくださいっ!」

 

 ……は?

 話が突拍子無さすぎて変な声が出た。

 

 

「見たらわかると思うけど、今うちの界隈はおにぃの話題で埋まってるの。これチャンスなの!」

 

 未だ要領を得ない俺に妹はお構い無しに捲し立てる。

 

「わたし達、アートライブってアイドル売りしてて箱推しを推奨してるの。あ、箱推しって分かる?グループメンバー全員を推してくれるファンってことね。何が言いたいかっていうと、まだデビューして1ヶ月のわたしにファンがついてるのは『アートライブ』ていう箱のお陰なの。安定して人が集まってくれるのは嬉しいんだけど、わたしだけのファンとは正直言えない感じで……このままだと先細りしてくの見えてるし……ここいらで、起爆剤が必要なの……!」

 

「待て待て待て。長いわ。どうした急に」

 

 興奮した犬みたいに迫ってくる妹をステイステイと押し留める。

 急に箱だの起爆剤だの言われても理解が追いつかん。爆弾の話でもしてんのかい。

 人にものを頼むんだったら、内容は分かりやすく簡潔に、起承転結ハッキリさせろや。

 

「……最近、配信者として伸び悩んでるので今話題になってるおにぃをゲストに呼んで集客したいです。あわよくば、わたしもバズりたいです」

 

 よし、ようやく理解できる程度の説明をしてくれたな。

 聞けば、想像以上に俗物的な言い分ではあるが。

 

「ゲストってな……急に言われても困るわ。つか、お前事務所に所属してんだろ?いいのか、勝手にこういうの決めて?」

 

「……マネージャーから許可はもう取ってます。おにぃがバズったの知ってたし、話題性あるからって。あと家族だからリスクも少ないし」

 

 根回し済みか。

 ……てか、なんだマネージャーって。もう一端の芸能人気取りかよ。

 

「ねぇ、おにぃお願い。一生のお願い。一緒に配信出てよ」

 

 懇願するように涙目の妹。

 ……騙されんな。こいつお得意の泣き芸だ。今まで何度これに騙されてきたことか。

 つーか、こいつの「一生のお願い」てフレーズも聞いたの何回目だ?こいつの一生は、何個あるってんだ。

 

「おにぃお願い。今朝トゥイッターで告知もしちゃったの!今夜の配信でおにぃ呼ぶって言っちゃったの!なんなら、おにぃに弾いて欲しい曲のリクエストも募集しちゃったの!これでおにぃ来なかったら、わたし信用無くしちゃう!」

 

 

「おまっ!?何勝手なことしてんだよ!?」

 

「だっておにぃ断らないと思ったんだもん!いいの!?おにぃの妹がネットで一生嘘つき呼ばわりされちゃうよ!?いいの!?」

 

 このアマっ。今度は自分を人質にとってきやがった。

 

「おにぃ、本当にお願いします。今夜配信出てくれたら、一つだけおにぃの言うことなんでも聞きます」

 

 ……今、なんでもって言った?

 

「……ごめん嘘。なんでもはやっぱ無理」

 

「あ?」

 

「……おっぱいまでなら、触っていいよ?」

 

 アホか。

 貧相な胸を張って謎のドヤ顔を浮かべる妹の頭にチョップをかます。

 

「あー!今叩いた!配信出てくれなかったら、ママに言いつけてやる!おにぃに乱暴されたって言いつけてやる!いいの!?」

 

 今度は脅迫かよ。

 ほんとブレねーな、こいつ。

 

「わーった。出るよ。出りゃいいんだろ」

 

 その言葉にパァッと顔を輝かせる妹。現金なヤツだ。

 まあ、流石にトゥイッターでもう出すって言っちまったなら仕方が無いか。

 こいつとしても絶対に引っ込みつかないだろうし。

 

 ……それに思いのほか、俺も乗り気なのかもしれない。

 

 昨日、自分の音楽を図らずも人前で披露しちまった時も存外悪い気はしなかった。

 妹が見せてきた切り抜きやトレンドで自分の曲が褒められてるのを見て高揚した。

 

 不完全燃焼だったバンドマンとしての自分に、もう一度火がついたような気さえする。

 

 上等だ。やってやるよ。

 

 かくして、何故かバズった俺はVtuberの妹の配信に出演する羽目になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




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