真昼の弟は転生者で、呪術師兼ララライの看板役者です。でも推しの子は知らない模様 作:水の虎
今回は本編で今のところほとんど出番がない真昼の番外編です。
番外編 椎名真昼○
私には双子の弟がいる。
名前は椎名夕。
双子といってもそこまでそっくりというわけではない。
まず髪色が違う。私は亜麻色で、夕は赤みがかった茶髪。
ハウスキーパーの小雪さんが言うには私たち双子はお互い片方の親にそれぞれ似たらしい。私はお父様似で、夕はお母様似。髪色から顔立ちに至るまで見事に片方ずつに寄ったみたい。
けどそのお父様もお母様も全然私たちに会いにこない。
夕はあんまり気にしていないみたいだけど、私はもっと会いたい。会って色々とお話したいし、お父様とお母様のことを聞いてみたい。一言でいいから褒めてほしい······。
それを一度夕に話したことがあった。夕は「そうだね······。二人とも忙しいみたいだけど、いつかそれができたらいいね。頑張ってね、応援してるよ真昼」って言ってたけど、他にも何かを言おうとしてるように見えた。結局他には何も言わなかったけど、その時の夕の顔が時々小雪さんがする顔と似てる気がした。
·········なんかもやもやする。
夕はお父様とお母様に会いたくないのかな?
それに夕は······何というか不思議だ。
まず、頭がいい。
学校のテストはいつも満点。私も今のところはずっと満点だけど、そのために結構勉強してる。
でも夕は私より明らかに勉強時間が少ないのにずっと満点だし、最近だと脳についての医学本や心理学の本をよく読んでいる。
それに運動もすごくできて、いつも二番の人よりもずっと差をつけてるし、夕自身はそれでもまだ余力があるって顔をしている。
他にも、まるで全部わかっていたのではと思うことがある。
本人に聞いても「たまたまだよ」と言ってるけど、絶対最初からわかってたと私は思ってる。
お父様とお母様に褒めてもらえるように頑張ってる私より色々できてちょっと複雑だけど、それでも私は夕が好きだ。
生まれたときからずっと一緒にいたし、お父様とお母様がいなくて寂しいって私が思っていると、それに気づいて傍にいてくれる。
夕のお陰で私は寂しくない。
·····でもやっぱり家族みんなでいたいな。
いつかお父様がいて、お母様がいて、夕もいる。そんな日が早く来てほしい。
○ ●
「どうして」
そんな疑問がこぼれる。
気づけば涙が頬をつたい、割れてしまった心が嗚咽と共に溢れてくる。
今家に誰もいなくてよかった。
胸の内を渦巻く激情とは裏腹に私はそんなことを考える。
それはこの気持ちが一周回ったからか、それとも先程突きつけられた現実をもっと以前から心のどこかで理解していたからか、今の状態を冷静に見ている自分がいた。
一言でよかった。
ただ、これまでの頑張りを認めて貰えれば、頑張ったね、なんてありきたりな一言でもあれば、それだけで十分だったのに······。
(私はいらない子······)
先程まで家にいた母親が向ける顔を見て私はわかってしまった。自分が望まれた存在ではないことを。
涙は止まったが、その分嫌なものが自分の中に留まるのを私は感じた。
グルグルと回る思考がこれまでの記憶をなぞり、自分が疎まれていたことを次々と突きつけてくる。
『ただいま~』
夕が帰ってきた。それに小雪さんも一緒に家に来たらしい。
二人のやりとりが聞こえてくるが、いつもと違って私はそれを歓迎できなかった。
二人のことは大好きだけど、もしかしたら二人も自分のことを、そう思ってしまった。
そんな訳ないと思う一方、本当に自分のことを否定されたらと思うと怖かった。
それに小雪さんのことを親の代替品のように思いたくないし、夕には双子とはいえ姉としてそんな姿を見せたくない。
だから意地と確かめることへの恐怖を胸に私はそれを笑顔で隠し、部屋を出る。
「ただいま真昼。珍しいね、真昼が小雪さんが来るのに部屋にいるなんて」
「おかえりなさい夕。ちょっと寝てたから気づかなかっただけ」
普段のように夕と接するが、夕は少し怪訝そうな顔を向けてくる。
それから逃げるように小雪さんの方に向かうが、その時チラリと夕の傍にある本が目に入る。
相変わらず難しそうな本だった。前に似たものを見せてもらったが、私はあんまり理解できなかった。
────もしも私が夕と同じくらい頭が良かったら······。
(────っ)
無理矢理その考えを消した。
いつもならそんなこと思わないのに、胸の奥にしまったものが夕への劣等感と共に押し寄せてきた。
それが顔に出たからか小雪さんには夕よりも心配させてしまった。
────その心配は仕事としての義務ですか?
そんな暗いものを隠すように私は淡く笑う。
いつも通りの日常のはずなのに、自分の心に空洞ができただけで何もかも空虚に感じた。
それでも、私はそれを押し殺すように笑った。
○ ●
乗りきった。
小雪さんが帰るのを見送ると、どっと疲れが押し寄せてくるのを私は感じた。
普段通りを装うことがこんなに疲れるとは思わなかった。
幸い夕は小雪さんが帰った後は自分の部屋で過ごすから、そこまでもう気を張る必要はない。
そう考えながらリビングに戻ると、夕はソファーの上でぼんやりとしていた。
小雪さんがいた時も何度か夕は上の空になって話を聞き逃していた。
必死に自分を取り繕うのに集中していたから、小雪さんが気づくまで私も気づけなかったけど、多分夕は私が何かを隠していることに気づいたんだろう。
しかし、いくら弟とはいえ今の自分に踏み込まれたくない。
だから、そんな夕の疑念を払拭するようにいつもの自分を心がけ、夕の身を案じる言葉をかける。
「真昼────昼間、母さんが来てたんでしょ、俺たちが来る前に?」
けど、帰ってきたのはそんな言葉だった。
夕は一瞬で私の核心をついてきた。
そしてそれで終わらず、夕は畳み掛けてきた。
「真昼。俺たちは、きっと望まれて生まれた訳ではなかったんだと思う」
やめて······
「多分、それに今日、真昼は気づいた」
やめてよ────!
すべてをわかったような夕の言葉が、今は耳障りだった。
気づけなかった自分を嘲笑っているようにさえ感じた。だけど────
「────真昼の弟に生まれて·········姉さんの家族になれてよかった。それが何よりも幸せだった」
えっ?
「僕たちは望まれた命ではなかった。それでもその命を願う人が、姉さんに生きて欲しいと思う人が少なくともここに一人いる。────大丈夫、僕は絶対にいなくならない」
「私は······生まれてきて良かったの?」
思わず夕に聞き返した。
「────うん」
たった一言なのに、それだけで止まったはずの涙が溢れ出すのを感じた。
────頑張ったね。
最後にそんなこと言われた瞬間、もう止まらなかった。
その夜、私はもう一度泣いた。
情けないくらい声を上げて。
お陰で少しだけ胸のつかえがとれた気がした。
まだこの刺は消える気がしない。
それでも、また明日から頑張れる気がした。
私と一緒にいて、私がここにいていいって言ってくれる家族がいるから。
頑張ろう。
だって私は椎名真昼。椎名夕の姉なのだから。
でも、この時の私は知る由もなかった。
夕が────
······この作品で今のところ一番不憫なのって真昼じゃね?