真昼の弟は転生者で、呪術師兼ララライの看板役者です。でも推しの子は知らない模様   作:水の虎

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思いつき第二弾!
正直やりすぎたかなとか、キャラ崩壊してないかとか、心配です。
でもやりたくなっちゃったんだから仕方ない。




番外編 特級爆破物・椎名夕●

 

 

 

「────えっ、椎名さんって弟いるの?」

 

 

 突発的に始まったクラスでの放課後勉強会の中、女子の一人が声を上げた。

 そこには自分の隣人を中心に輪ができており、全員が少なからず驚きの表情を浮かべていた。

 

 

(そういや弟がいることは知ってるけど、真昼の口からあんまり話題に上がらないよな)

 

 

 他のクラスメイトより接点のある周も真昼の弟に関してはほとんど知らない。

 別に仲は悪くはないらしく、何なら毎年誕生日にはプレゼントも贈られているとも言っていたからむしろ良い方なのだろう。

 実際数は少ないが、弟のことを話すときの彼女は誇らしげで柔らかな雰囲気を纏っている。

 

 

 ちなみに何でそんな話しになっているのかと言うと、答えは彼女の手元にある。

 そこには現在進行形で着信を受けている真昼のスマホがあった。

 画面に表示されていたのは『夕』という一文字。

 それをたまたま覗いてしまった女子が、何度か噂になった真昼の親しい異性の友人なのではと聞いたのだ。

 真昼はそれを否定し、自身の弟だと告げたことで冒頭に至る。

 

 

(それにしても夕·········いや、まさかな)

 

 

「────それより椎名さん、未だに着信受け続けてるけど、出なくていいの?」

 

 

 真昼はやや逡巡した様子を見せ、いざ出ようとした瞬間、着信は切れた。

 彼女はそれを確認するとスマホをしまう。

 

 

「あれ? まひるん、折り返さなくていいの?」

 

 

 その姿を見た周の数少ない友人であり、かつ別の友人の恋人でもある少女────千歳が真昼に尋ねた。

 

 

「はい、弟は、夕は忙しい生活を送っているので、連絡に出れなかった場合に折り返してもそれに出られないことが結構あるんです。もしも重要な用向きならまたかけてくると思うのでその時に出ます」

「へぇ~······。ねぇねぇ! まひるんの弟って何やってるの────というより何で弟がいるって教えてくれなかったの、ね~まひる~ん!」

「ち、千歳さんっ? 別に隠すつもりはなくてですね······」

 

 

 

 千歳は真昼に抱きつくようにしてそんなことを聞き、真昼はそれにたじろぐ。

 ちなみに男子たちは、キャッキャッし始めた女子たちのやりとりを羨ましそうに眺めていた。

 

 

「お前は知ってたのか?」

「一応」

「へぇ~」

「······何だよ?」

「別にー。ちなみに会ったことは?」

「ない。何でも寮のある学校に通ってるらしい」

 

 

 勉強会の空気が薄くなり、クラスメイトたちの意識がその話題に集中しているのを見計らい、千歳の恋人である樹が話しかけてくる。

 周の答えに「ほーん」と相槌を打ちながら、彼も話題の渦中を眺めている。

 今は話の流れで件の弟の写真を見せて欲しいと言われているらしい。『天使様』なんて言われる真昼の弟であることを考えると、さぞや整った顔立ちなのだろうと周は思った。

 真昼は渋った様子を見せたが、見せるだけと念押しした上で了承した。

 まあ、流石に本人の了承なく第三者に渡すのは問題だから妥当だろう。

 

 

「────いっく~ん、と、ついでに周も見てみなよ~。まひるんの弟、すんごいイケメンさんだよ。いっくんには負けるけど」

 

 

 写真を見た女子たちが「流石姉弟とか」「遺伝子ってすごい」などと口々に言っているのを横目にしていると、千歳が周たちの方に真昼のスマホを借りてやってきた。

 ちなみに横には真昼も付き添っていて、クラスでは普段の関係を隠しているので何だかいたたまれなく、それを誤魔化す意味で水筒を取り出しコップに注ぐ。一応先程まで勉強会の参加者の男子たちにわからない部分を教えていたため、実際喉は渇いていた。

 写真を見せられて感嘆な声を出す樹を見るに、やはり顔立ちは整っているのだと伺える。

 

 

「······」

「?」

 

 

 飲み物を口にしながら考えていると真昼と目が合った。

 しかし何故か少し気まずそうな雰囲気を出しているのは気のせいか。

 

 

「周も、ほら────」

 

 

 真昼の様子にやや首を傾げつつも、コップの残りを呷り、スマホに目を向けた。

 

 

「~~! ゴホッゴホッ!」

「あまn────藤宮さん大丈夫ですか!?」

「ちょっ! 周どうしたの!?」

「お、おい······大丈夫か周?」

 

 

 ブフゥッ!と思わず口に含んだ液体を吹き出し、思いっきり周は蒸せた。

 三者三様に自分を案じてくるが、周は周で滅茶苦茶動揺していた。

 写真の人物には見覚えがあった。

 赤みがかった茶髪に、整った顔立ち。

 大胆不敵な笑みと、何故か滲み出る胡散臭さが特徴的な少年が写っていた。

 

 

 ────端的に言えば普通に知り合いだった。

 

 

「ケホケホ······────すまん椎名······それに樹たちもかかってないか?」

「はい、大丈夫です」

「俺も」「私も」

 

 

 まだ軽く咳き込みつつ、周は三人に謝罪した。

 幸いにもコップがあって周囲に飛び散ることはしなかったようだが、代わりに周の口回りは大変悲惨だ。

 

 

「────どうぞ」

「まひっ······ンンッ! 待て、それじゃあ椎名のが汚れる」

「私は気にしません」

「俺が気にする。自分のがあるから大丈夫だ」

 

 

 咄嗟に袖辺りで口元を拭おうとしたが、真昼からハンカチを差し出されたが丁重に断っておく。

 真昼には悪いが、ただでさえまだ気が動転したのが残って、思わず名前呼びが出そうになったのに、普段の接し方をされるとボロが出かねない。また、蒸せたようにして、誤魔化したが正直周はヒヤヒヤしていた。

 

 

「それで? 何で周は突然咽せたの? まあ状況からして写真以外に原因はないと思うけど」

 

 

 すると、こちらの事情を知っている千歳が気を遣って話題を移すべく尋ねてきた。

 

 

「それは────」

 

 

 ────ブゥーブゥーブゥー。

 

 

 周がしゃべろうとすると再び真昼のスマホが震え出す。

 

 

「······はい、もしもし?」

 

 

 千歳からスマホを返してもらい、少し距離をとると真昼は電話に出る。

 

 

『やあ、姉さん、元気してる? 突然ごめんね~』

「いえ、大丈夫ですよ。むしろさっきは出れなくてすみません」

『いいよいいよ、言った通り突然かけたのは僕だからね』

 

 

 漏れ出てくる気の抜けたような声に、周は言い様のない不安を覚えた。

 そして、その予感は的中する。

 

 

「······えっ、スピーカーですか? どうしてまた······」

  

 

 不思議と周の耳は『いいからいいから』と漏れ出た言葉を聞き取った気がした。

 真昼も真昼で根が素直であり、かつ電話の相手は間違いなくあの男。何だかんだで言いくるめられ、スピーカーのボタンを押した。

 

 

 

『────やあ! 藤宮ちゃん、そこいるかい? いるはずだよね? いるよね? 僕だよ』

 

 

 徐々に断定に近づいていく奇妙な言い回しをし、自身の友人である夕は電話越しに語りかけてきた。

 

 

「······」

 

 

 こ、応えたくねぇ······。

 周は内心でそう叫んだ。

 既に写真を見た先程の反応と今ので、クラスメイトたちからは真昼の弟と顔見知りということを察せられただろう。

 お陰で周にはクラス中からの視線が一挙に押し寄せていた。

 

 

『あれ? 藤宮ちゃん、聞こえてる? あれかな? そこにいると思ったのは僕の勘違いだったかな? なら仕方ない────』

 

 

 すると珍しく夕は潔く諦め────

 

 

『せっかくの機会だし、姉さんのクラスメイトに挨拶をしようか』

 

 

 諦めてなかった、むしろ爆弾を投げ込む気だと周は察する。

 

 

『────どんな「それ以上はやめろ」······いるじゃん』

「一応聞くが、何を言おうとしてた?」

『藤宮ちゃんに最初にした挨拶だよ?』

「俺はアレを挨拶とは認めない」

『ええ~! なんでよ? 役者として顔を覚えてもらうために必要って言ったでしょ?』

「既に所属劇団の看板役者の地位にいる期待の若手俳優が何言ってやがる」

『アハハ、それほどでも······あるね』

「はあ······というか話の流れで口にしたけど、役者だって言って良かったのか?」

『えっ、いんじゃない? というか何? もしかして姉さん、僕が舞台俳優やってるって話してなかったの?』

「それどころか多分クラス全員弟がいることすら知らなかったぞ······」

『······マジ? というか藤宮ちゃんも?』

「マジだ。俺がお前の姉と話すようになったのは最近だし、単に同姓なだけだと思ってた」

『確かに~。僕と姉さん双子なのに顔立ち似てないからねぇー』

 

 

 ついでに内面とかもほとんど正反対じゃねぇか、という言葉を周は呑み込む。

 

 

「ん?────あっ」

『どうした藤宮ちゃん?』

 

 

 気つけば完全にクラスの視線を独り占めしていた。

 ほとんどいつものノリで夕と話していたからだ。

 クラスメイトは普段の周からは想像しづらいやりとりと、その相手が真昼の弟で、かつ何やら俳優らしいという情報量の多さに驚いていた。

 ちなみに真昼はと言うと────

 

 

「······」

 

 

 思いっきり周の方を見ていた。明らかに視線が「どういうことですか?」と言っている。そんなものは自分が知りたいと周も視線で返しておく。

 

 

「夕、一回通話を切って俺のスマホにかけ直してくれ」

『なんで?』

「これ以上お前の投げ込む爆弾を警戒しながら話すなんて真っ平だ。そもそも俺に用があるなら俺のスマホにかけてこいよ。何で姉の方にかけた?」

『何かその方が面白そうだったから』

「この愉快犯が······」

 

 

 いいからかけ直してこいと言うと、夕は『しょうがないなー』と言って真昼のスマホの通話を切った。

 

 

「────」

 

 

 相変わらずクラスメイトたちからの視線は維持され、周は針のむしろとなっていた。普段から真昼はこんな感じの視線にさらされていたのか、と現実逃避気味に場違いなことを周は考える。

 

 

「あー、すまん······」

 

 

 とりあえずそれだけ言って周は教室から逃げるように抜け出した。

 

 

  ○ ●

 

 

『出るの遅いよ~』

「うるさい、移動してたんだよ」

『いや、移動中に出れば良くない?』

「放課後でスマホ使うのは許可されてるけど、公共の場で話すのはあんまし良くないだろ······」

 

 

 真面目だね~、と夕の声が聞こえてくる。

 周は人気のない校舎裏まで移動して、一先ず安心したのか露骨にため息をついた。

 

 

『どうしたのため息なんてついて? 何か疲れることでもあった?』

「それはわざと言ってるのか? それとも本気か?」

『どっちだろうね。まっ、改めて久しぶり、藤宮ちゃん』

「ああ、久しぶり、夕。相変わらず変わってないな」

『ひどいな、これでも日々成長してるよ。お陰で引っ張りだこ』

「ああ、また近々公演らしいな。ついこの前別の公演やったばっかなのに大丈夫なのか?」

『余裕余裕、僕を誰だと思ってんの?』

「そうかよ······」

 

 

 やっぱり変わってねぇな、と周は思った。

 常に余裕を崩さずに大胆不敵で胡散臭く笑っている、そんな友人の顔がありありと想像できた。

 

 

「────それにしてもまさかお前と椎名が姉弟とは······」

『さっきも聞いたけど、本当に気づいてなかったの?』

「まったく。正直お前関連のことではそれが一番驚いた」 

『ちなみにそれまでの一番は?』

「お前の挨拶じゃない挨拶······正確にはそれをしているのが新進気鋭の役者だったという事実」

『別にあれくらい普通だと思うけどなー』

「普通じゃねぇよ······どこの世界に『どんな女が好みだい?』なんてことを初対面の挨拶にしてる奴がいるんだよ? というかそのあたりがお前の姉とお前との血縁を見出だせなかった最大の理由だ」

 

 

 世間は狭いというか、まさか想い人の弟がぶっ飛んでる友人だったという事実に頭を抱えたくなる周。

 

 

『────ところでさ藤宮ちゃん』

「何だ?」

 

 

 そんな中、夕が何かを切り出してくる。

 

 

『僕って複数のスマホ持ってるんだよ』

「それがどうし────いや待て······お前まさか······」

『うん、別のスマホで姉さんにまたかけて、今藤宮ちゃんにかけてるスマホはスピーカー』

「おまっ! 何してくれてんの!? というかどこから聞かれてる!?」

『藤宮ちゃん疲れたようなため息をついた少し前あたりから』

「つまり最初からじゃねぇか!?」

『アハハハハ!』

「笑い事じゃねぇよ! 何のためにこっちが教室抜け出したと思ってんだ! 俺がお前の挨拶を遮った意味が結果的になくなってるじゃねぇか!?」

『大丈夫、ちゃんとこの後改めてするから。心配してくれてありがとう』

「心配はしてるけど断じてそっちの意味の心配じゃない! 本気でやめてやれ、椎名が羞恥とかその他諸々で死ぬぞ!」

『アハハ、藤宮ちゃんたらやっさし~い』

 

 

 ケラケラと笑う夕の声を耳にしながら、周は真昼に同情した。こいつ、無敵か?

 

 

『────さて、そろそろ休憩時間も終わりだねぇ······』

「休憩中に連絡してきたのかよ······」

『そだよ~お陰でいい息抜きになったね』

「はあ······そっちについては頑張れよ、そっちについては······」

『ありがとう、でも含みのある言い方だね?』

「······わかってるだろ? わかってるよな? わかれ」

『もちろん······フリでしょ?』

 

 

 絶対違うからな! その叫びを言うと同時に通話は切れた。

 ツゥーツゥーという電子音がやけに頭に残るなか周は呟く。

 

 

「────戻りづれぇ······」

 

 

 不幸中の幸いとして、まだ学校にいるため真昼のことを名前呼びしていなかったとはいえ、少なからず彼女との関係を邪推するものが現れるのではないか、そんな不安を抱きながら周はとぼとぼと教室へと足を向けた。

 

 

  ○ ●

 

 

 しばらくして周は教室に戻った。 

 

 

「────お、周、帰ったか」 

 

 

 すると友人の樹が話しかけてきた。

 

 

「······あ、ああ······」

 

 

 正直周としてはいきなり詰め寄られることも視野に入れていたが、それがなくて一先ず安心する一方、クラスメイトから向けられる目が不可解だった。

 

 

「何か······全員から反応に困る視線を向けられているんだが······」

 

 

 少なくとも敵意のようなものはなく、何となくむず痒く感じるような視線に周は困惑する。

 

 

「ああ、それは椎名さんの弟がな」

「おい、待て、あいつ何をした何を言った?」

 

 

 わかっていたがやっぱりやらかしていった、と思うなか、樹の口から語られたのは思ってもみないことだった。

 

 

「······まあ、お前のことをちょっと······な」

「マジで何を言ったんだ!?」

 

 

 自分の知らないとこで自分について語られたと知って思わず叫ぶ。しかし────

 

 

「いや、全然悪いことは言ってなかったぞ。むしろお前の友人の俺からすればよく言ってくれたと思いすらしたね」

「······本当に何言ったのあいつ?」

 

 

 樹だけじゃなく、他のクラスメイトたちにも目を向けるが、帰ってくるのはどこか微笑ましそうな視線で、周は何が何だかわからない。

 

 

「ま、周はいい奴ってことだよ」

「どういうことだよ······って、何で全員頷いてんだ······やめろ、よくわからないが見るんじゃない」

 

  

 居たたまれなさを感じてそう言うが、それからしばらくの間、周はそんな視線に晒され続けた。

 

 

  ○ ●

 

 

 時は少し遡り、周が戻ってくるまでの間の話。

 

 

『う~ん、ちょっとやりすぎたかな?』

「どう考えてもやりすぎです」

 

 

 弟の呟きに真昼はすかさずそう言った。

 

 

『でも姉さんも通話を切らずに聞いてたじゃん。······しかもクラスメイトの押しに負けてちゃっかりまたスピーカーにしてるし』

「そ、それは······」

 

 

 そこを指摘されると真昼としても何も言えない。想い人と弟が何を話しているのか気になるという本心を、弟が迷惑をかけないか見るためという建前や、周囲のクラスメイトからの要望という状況に流され、盗聴の真似事をしてしまったからだ。

 

 

『────ま、大丈夫大丈夫、藤宮周はそんなことで人を嫌わないよ』

 

 

 文句は垂れるだろうけどね~、という夕の言葉が自己嫌悪していた真昼の顔を上げる。

 

 

『第一、普段はもっと過激に僕が振り回してるから大丈夫大丈夫』

「それはそれでどうなんですか」

 

 

 思わずいつもの調子で真昼は弟の発言にツッコム。最初の『ちょっと』は嘘か。

 

 

 

『────そうだね、ついつい甘えちゃうんだよね』

『夕?』

 

 

 普段の弟とは違う何かを感じ、思わず名前を呼ぶ。

 

 

『────ちょっと昔話をしようか。僕と藤宮ちゃんが初めて会ったのは、僕が初主演した公演最終日。そこで落とし物を拾って届けてる彼を見つけたんだ。わざわざ本人が気づかなかったそれを人混みの中に入っていって、落とし物の窓口に届けるんじゃなくて、追いかけて渡しにいってたんだよ? 優しいよね? ちょっとそれが目について話しかけてきたみたら、滅茶苦茶警戒されたけどね~。警戒心の高い猫みたいだったよ。 まあ、その後何だかんだ連絡先を交換して、後日会って話して、そこから交流を始めたってわけ』

 

 

「······」

 

 

 周らしいと真昼は思った。その様子がありありと彼女は想像できた。

 

 

『割と最初から振り回してたんだけど、何だかんだ付き合ってくれるし、少しずつ軽口を叩き合うようにもなった。······主演をやって以降、僕と対等に口を聞いてくる同年代の人って全然いなくってさ······だから、嬉しかったんだよね』

 

 

 滔々と語る夕。

 

 

『この業界に入ったことは後悔ないけど、だからこそわかった······そうやって接してくれる人間はすごい希少なんだって。姉さんも少しわかるでしょ?』

「······そうですね」

 

 

 真昼も芸能界にこそ身を置いてないが、それでも夕の言いたいことはわかった。それに苦しみ、そしてそれを周に救われたから。

 

 

『······やっぱ姉さんと同じ高校にいくべきだったかなぁ······。そうすれば藤宮ちゃんもいるし、楽しそうな青春になったんだろうね······ちょっと羨ましいな······』

「夕······」

 

 

 思わぬ弟の言葉に何をかけるべきかと真昼は悩む。それでも意を決して声をかけようとするが────

 

 

『なーんてね! 冗談冗談! どう? 騙された? 信じちゃった? 流石僕、我ながらナイス演技だったね!』

「ゆ、夕······あなた······」

『僕が弱音なんて吐くわけないじゃ~ん。いつだって役者は人を欺く生き物だからね』

 

 

 先程とは別人と思えるような変わりように、もはやどこからが本心だったのかはわからない。

 

 

『まあ、でも、藤宮ちゃんがいい人なのは本当だよ? だってこんな僕に振り回されながら今日まで友人でいてくれたしね~』

 

 

 それに関してはクラス全員が心の中で頷いた。

 この会話の中で唯一それだけは真理だった。

 

 

『ちょっと不器用、ぶっきらぼうな、警戒心の高い人だけど、みんな仲良くして上げてね~』

 

 

 一応何だかんだで友達想いなのか、とクラス全員がそれを聞いて思うなか、最後にこの男は爆弾を投下する。

 

 

『それじゃあ最後に一つだけ────どんな人が好みかな?』

 

 

 いつか答えを教えてね~、そう言って通話を終わる。

 クラス全体の時間が止まり、全員の心が一致する。

 

 

 ────帰ってきたら優しくしてあげよう。あと、マジで好みを聞いてきたよ、と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方その頃。

 

 

「さて、これで姉さんと藤宮ちゃんはより接しやすい環境になったかな? あとはお詫びとか言って今度の公演のチケットを送れば······いや、でもあの二人だしな。あっ、姉さんと藤宮ちゃんに二枚ずつあげよう。そうすれば姉さんは千歳を、藤宮ちゃんは樹を誘うから多分四人で来るよね。となると二人ずつで分かれる配置の席をとってと────うん、これでよし」

 

 

 

 

 

 




椎名真昼
この度弟がいることが発覚。同時にその弟はヤベェ奴と認知され、翌日には学校全体に広がっていた、可哀想な人。
実はこの世界での彼女の天使ムーヴの要因はいくらか弟によるもの。原作より心の傷は少ないが、心労的には割とトントン。
尚、想い人に弟が自分より早く知り合っていたことを知ってちょっと嫉妬した。
身内がアレで想い人にどう思われるか不安になったが、滅茶苦茶同情されて家で物凄い甘やかされ、急接近した。
あとこの一件を機に想い人と学校で話しやすくなった。クラスメイトたちもヤベェ奴の被害者の会ということで同情の目を向け何も言わない。
プラスマイナスで言えば一応プラスで結果オーライ。


藤宮周
この度ヤベェ知り合いが想い人の弟と知る。
なお、クラスメイトたちの様子を見て、お前何した? ってなってる。
家では改めて想い人から謝罪されたが、同情して滅茶苦茶甘やかした人。
学校で想い人と話す機会がより増えて少しヒヤヒヤしたが、クラスメイト(主に男子たち)からも何も言われない事実に改めて「あいつ、マジヤベェ······」と、認識を強めた。
想い人と急接近できたが、周囲からのアレコレを気にする心労で、こっちはプラスマイナスで言えば限りなくゼロ。
着実に外堀を埋められてる事実にはまだ気づいてない。


クラスメイトたち
確かにあれはヤバいと思った。日常的と言わなくても、接する機会の多い二人の気苦労を察した。後日さらに変人エピソードを聞き、真昼と周には同情の目が向けられ、二人で話していてもとくになにも言わなく(言えなく)なったとか。

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