真昼の弟は転生者で、呪術師兼ララライの看板役者です。でも推しの子は知らない模様   作:水の虎

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今回は番外編です。

時系列は高専に入って一年目です。といってもアイとのやりとりしかありませんけどね!
ところでサブタイトルはシンプルに『お隣のアイドル様をいつの間にか駄目人間にしていた件』の方が良かっただろうか?
でも駄目人間にしていた、というのは何か違うような気もするし·····。
まっ、いっか!(適当)


それとしばらく投稿をお休みします(とりあえず一週間くらい?)
その間にまとめて描き上げる予定です。


番外編 知り合いのアイドル様がいつの間にかお隣になっていた件●

 

 

 背中越しに聞こえてくるテレビの音を耳にしながら、椎名夕はキッチンに立っていた。

 

 

 これだけの情報を聞けば、別におかしいところはない。ありきたりな日常の一ページだ。

 しかし彼は今年の四月頃から進学の都合で、生まれ育った家を出た。

 もっとも進学先の学校には寮があり、この部屋は彼の持つ一つの肩書の都合上借りたにすぎない。

 

 

 つまるところ、この男は現在一人暮らしのはずなのに、何故か料理をしながらテレビをつけている。

 一応言っておくが、夕は普段こそ結構ズレたことを意識的無意識的に抜かすが、割と育ちはいい。

 もしも今の様子を彼の双子の姉に見られたのなら、即刻指導が入ることだろう。

 

 

 だがそれは本当に彼一人しかいない場合の話。

 同居人ではないが、現在この部屋には彼以外の人間がいた。

 

 

「夕~、凄くいい匂いがするんだけど~、今日のご飯は何なの~」

 

 

 そんな間延びしまくった声を出すのが、テレビをつけていた張本人にして、現役アイドルの星野アイその人だ。

 ちなみに途中からテレビそっちのけで、夕の料理に気をとられていた。

 

 

「はいはい、もうできるから運ぶの手伝ってー、今日は鳥の照り焼きだよー」

「おー!」

 

 

 こちらに来て目を輝かせるアイを横目に夕は料理を手際よく運んでいく。

 そうしていざ実食となり────

 

 

「いや~やっぱり夕のご飯は美味しいね~」

「すっかりここに馴染んだよねアイ······」

「えへへ、ありがとう夕」

 

 

 微妙に噛み合わないやりとりをしているが、夕個人としても今の現状はそこまで不満はない。

 彼女が隣に越してきて、気づいたら入り浸るようになったが、やはり知ってる人間が近くにいるというのは夕としても結構嬉しかった。

 食事を一人で食べるより誰かと一緒の方が美味しいし、それを素直に感想にしてくれるのは彼にとっても作りがいがあるからだ。

 元々夕は人に尽くすのが結構好きだ。それは彼の姉である真昼への接し方にも現れており、少し抜けてるアイとの相性が実は良かったりする。

 

 

「────ところでアイは僕がいない時は食事とかどうしてたの?」

 

 

 元々この部屋は、高専の寮から役者としての活動等に赴くのが時間的に厳しいとあって借りた部屋だ。

 当然役者としての活動がなければ、彼はここではなく高専の寮で過ごすことになる。

 そうなればアイは自分で食事を用意しなければならない。

 

 

「あはは······」

「なるほど、まともにできてないのはわかった」

 

 

 乾いた声と笑顔を見て夕は察した。

 大方コンビニやスーパーの総菜かと当たりをつける。

 現役アイドルなのにその食生活は如何なものかと思うが────

 

 

「ちなみに料理の経験は?」

「ない!」

 

 

 案の定料理経験はなし。あっても小学校の家庭科レベルといったところだろう。

 とはいえそんな心もとないレベルでは肌に傷なり火傷なりをつけかねない。アイドルである彼女のことを考えると少し心配だ。

 

 

「アイ」

「何、夕?」

「役者の仕事はないけど、もう少しこっちに僕がいるから、良かったら一緒に料理しない? そこでついでに教えるから」

「······いいの?」

「流石に食生活が少し心配だからね」

 

 

 アイはそれでも少し悩んだが、最後には頷いた。

 それからしばらく、夕がこちらにいる時は彼の指導を受けながらアイは料理を一緒に作った。

 最初は結構失敗を重ねたアイだったが、半年もすればある程度の料理を作れるようになり、一年もすれば自分で作った料理を夕に振る舞うことも増えた。

 でも、この話はここまで。

 これから語られるのは、ちょっと距離の近めな二人の、お隣同士のお話。

 

 

  ○ ●

 

 

「花火大会?」

「うん! 明日近くであるんだけど一緒に行かない?」

「アイ────却下」

「えー! 何でよ夕~、行こうよ~」

 

 

 今日も今日とて二人は夕食を共にしており、そんな中でアイはそんな誘いをしてくる。当然夕は断るものの、アイは食い下がってくる。

 それに夕は「あのねー······」とため息をつく。

 

 

「僕、役者。君、アイドル。スキャンダル、ダメ、絶対。オーケー?」

「何でカタコトなの?」

「ハイハイ話を逸らさないで。真面目に考えてリスクが高すぎるよ」

「ぶぅ~······」

 

 

 拗ねたようにアイは唇を尖らせる。

 それを見ながら夕は考える。

 

 

(·········とりあえず行くのは却下。明らかにリスクが大き過ぎる。とはいえ流石にそれだとなー。何か妥協案は··········)

 

 

「────ベランダからなら多分花火見れるでしょ。それを一緒に見るのは?」

「·········いいの?」

「······まあ、それくらいならいいよ。それならリスクもほとんどないし」

 

 

 少し驚いた顔を見せる彼女に、夕は肩をすくめる。

 丁度夕食を食べ終わったので「ごちそうさま」と一言添えて席を立ち、食器を流しに持っていく。

 

 

「夕」

「ん?」

「ありがと」

「······どういたしまして」

 

 

 そうして、翌日となり────

 

 

「ただいま」

「おかえり夕。ちょっと遅かったね、どこ行ってたの?」

「買い物。あと、何か斎藤さんに呼び出されて一緒に食事してた」

「むぅ······私はついさっきまでレッスンしてたのに、夕と社長は優雅にお店でご飯食べてたの?」

「僕は無実だ·········って言いたいけど、今回は少し原因があるね。ほら、アイ以外のB小町のメンバーと色々話し合ったでしょ? その件でね」

「あー······何、バレたの?」

「うん、バレたバレた。まあ、別に悪いことしてた訳じゃないから、特に何も······いや、花火のこと云々でちょっと言われたね······」

「ふーん」

「お嬢さん、貴女も無関係じゃないんだからもう少し興味持って······?」

 

 

 などと会話をしつつ、夕はテキパキと準備していく。

 ベランダにイスとテーブルを出し、食べ物や飲み物を広げる。

 

 

「お~、これ屋台のやつ? 買い物ってこれだったんだね」

「せめて雰囲気くらいはあった方がいいでしょ?」

 

 

 準備を終え腰を落ち着けると、花火が上がるまで時間がまだあるため、二人は談笑しながら飲み物片手にそれぞれ摘まんでいく。

 屋台の定番ところは大抵揃っているのでそこそこの量ではあるが、普段あまり口にしないもの故の珍しさか、結構な速度で減っていく。

 

 

「────もう少し買ってくるべきだったか······」

「そうだね~。というか、大体のものは一つしか買ってないのに、何できゅうりだけ十本くらいあるの?」

「いいじゃん、きゅうりの一本漬け美味しいし」

「まあ、私も嫌いではないけどさ~」

「種類あるから何でもかんでも複数個買うと持ちきれなくなるからね。僕の気分と独断により、これだけ多く買った」

「夕って時々好みが渋い時あるよね」

「そう? 例えば?」

「う~ん······あ、ほら! この前冷房ガンガンにかけた中で鍋食べたでしょ? 夕長ネギ滅茶苦茶多く入れてたじゃん」

 

 

 そんな会話をしていると────

 

 

「あっ······」

「おっ······」

 

 

 一筋の光が上がり、空ではじけた。

 

 

 ドン、ドドドン、とそこからいくつもの花火が夜を彩っていく。

 

 

「·········綺麗だね」

「だね」

「────ありがとね、夕」

「ん」

 

 

 短く返事をし、夕は花火を見上げる。アイもそれに倣い、その後は特に何も言わずに花火の軌跡を目に焼き付けた。

 無言の時間。その空間を、花火の光と音がただただ満たし続けた。

 

 

  ○ ●

 

 

「────トリック・オア・トリート!」

「·········」

「あれ······? 夕どうしたの? 何かテンション低くない?」

「あー·········うん······ちょっとハロウィンにはトラウマみたいなものがあってね······」

「ハロウィンのトラウマって何? もしかしてカボチャアレルギーで見るのも駄目なやつとか?」

「いや、普通に料理で何度かカボチャ出してるでしょ·········まあ、物凄く個人的なことだから気にしないで······────はいこれ、お菓子」

 

 

 用意していたお菓子を差し出すと、アイは目を輝かせる。

 それを夕は苦笑しながら見つつ、本人は微妙な気分だった。

 

 

(下手すれば十年以上先で、ハロウィンは地獄の象徴になるかもしれないんだよねー·········。そもそも象徴どころかそのまま地獄になる可能性も十分あるし······)

 

 

 椎名夕、今年高専に入学した呪術師の卵にして、未来を知る転生者。

 その事実を前に、今年のハロウィンは否応なしにそれを意識させ、どこかテンションを上げきれない。

 ちなみにその結果────

 

 

「というか夕、滅茶苦茶お菓子作ってない? どうしたのこれ? あと、どうするのこれ?」

「·········トラウマに対する現実逃避をしようとしてたらこうなった。何か適当に包むから明日にでも苺プロの事務所に持ってて配って」

「でも、それでも消費しきれる?」

「·········まあ、何とか、頑張って、全部食べるよ。作った以上はね」

 

 

 大量に作ってしまったお菓子に少し遠い目をする夕。

 

 

「────ん~! やっぱり美味しい♪」

「·········アイ? 何してるの?」

「もぐもぐ·········あれ? 食べちゃ駄目だった?」

「いや、別にいいけど······」

「ならいいじゃん。私も食べるの手伝うよ」

 

 

 そう言ってご機嫌そうにアイはお菓子を口にしていく。

 

 

「·········大丈夫なの? 色々······」

 

 

 何がとは言わない。しかし当然何を意味してるのか理解したアイは不機嫌そうな顔を浮かべる。

 

 

「······夕、こういうのはね、後のことは考えないんだよ」

「······さいですか」

「夕」

「はい」

「喉が渇いたな~」

「······すぐに用意します」

 

 

 笑ってない目でそう言われ、逆らうことなく夕はお茶を用意する。流石に失言だったと彼も反省した。

 

 

「♪~~」

 

 

 お茶を入れると、また上機嫌そうな顔に戻ってアイはお菓子を頬張る。

 その顔を見て、夕も少し顔を綻ばせた。

 

 

  ○ ●

 

 

「誕生日おめでとう夕」

 

 

 洗いものが終わった後、一度席を外したアイはプレゼントとケーキを手に戻ってきた。

 

 

「·········ありがと?」

「何で疑問系なの?」

「いや、そういえば誕生日だったなって······」

 

 

 誕生日当日に姉である真昼にプレゼントが届くように何日か前に色々と済ませたため、既に夕の中では自分の誕生日は終わった認識だった。

 きっと今日の今頃、周に祝われているであろう姉の姿を想像していたところ、まさかのアイのサプライズに夕は驚いた。

 

 

「まあ私たち出会って長いけど、何だかんだ間が悪くてお互いの誕生日祝ったことはなかったからね」

「······そうだね······開けてもいい?」

「うん」

 

 

 渡された箱の包装をとり、開けてみると────

 

 

「·········ボールペン?」

「うん。夕って結構台本とかに色々と書き込んだりするでしょ? だからいいかなって思って」

「······確かにありがたいね。それにこのボールペン、かなりいいやつでしょ?」

 

 

 消耗品であるし、そこまで拘りもないため、わざわざ高いものを自分から買ううことはないが、こうしていい物を贈られるとやはり嬉しい。

 

 

「────お~······やっぱり高いだけあって書きやすいな」

 

 

 試しに少し使ってみると、確かに普段使っているものより書きやすかった。

 

 

「気に入ってくれた?」

「うん。ありがとうアイ。でも本当によかったの? こんな高いやつ」

「夕にはいつも助けられてるから」

「······そっか。ならありがたく使わせてもらうよ」

「良かった······でも、あんまり頑張り過ぎるのは駄目だよ? 今年に入ってから夕結構忙しそうだし。無理して倒れたら大変だよ?」

「心配してくれてありがとう。ちゃんとそこら辺は見極めてやってるから大丈夫」

 

 

 役者として名を上げ始め、また呪術師としても動く夕は今年に入ってからかなり忙しくしており、それ故にアイの目にもそう映ったのだろう。

 それに苦笑しつつ、夕はプレゼントのボールペンを置いて、ケーキに手をつける。

 

 

「·········もしかしてこのケーキもかなりいいやつ?」

 

 

 食べてみて、明らかにそこらの市販のものよりいいものだとわかった。

 

 

「うん。この前の仕事の時に教えてもらったの。どう? 美味しい?」

「美味しいよ。でもアイは食べてないの?」

「あはは······結構お財布にきつくてね?」

「別にそこまでして高いの買わなくて良かったのに」

「いいの。いつも助けられてるし、こういう時じゃないと夕は受けとってくれなさそうだから」

「いや、よっぽどのものじゃなければ普通に受けとるけど······」

「本当かな~?」

 

 

 何でそこの信用がないのか、と首を傾げつつ、夕はフォークの先のケーキをアイに向ける。

 

 

「え? 夕、これは······?」

「普通に一口食べないかなって」

「いや、でも·········」

「結構夕食でお腹一杯だから、一口と言わずにもうちょっと手伝って?」

「·········もう。さっき言ったのはそう言うところだよ?」

 

 

 とは言いつつも、アイはそれを口にして顔を綻ばせる。

 

 

「いつか絶対にまとめてお礼するんだから······」

「例えば?」

 

 

 何となく負け惜しみのようなセリフを吐くアイに聞き返すと、「うーん」と指を顎に当てて考える。

 

 

「────夕が悩んでたりしたら悩みを聞いたり、風邪で寝込んだら看病してあげたり?」

「楽しみにしてるよ」

「あー! 本気にしてないでしょ!」

「そんなことないよ」

 

 

 冗談めかしに笑う夕にアイは抗議する。

 まるでじゃれ合うようにやりとりをする二人。

 初めて双子の片割れと離れた年の誕生日。

 しかし今年の誕生日も、誰かと笑い合う、そんな一日を夕は過ごすのだった。

 

 

 なお、お返しとばかりに五日後のアイの誕生日を夕は祝い、プレゼントとしてハンカチと変装用の眼鏡を贈ったらしい。

 

 

 




その頃(誕生日前後)の天使様

最近、弟とは違う意味で手のかかるお隣の世話を焼き始めた。果たしてその出会いは何を意味するのか?
誕生日には弟以外の異性からのプレゼントに少しドキドキした人。
弟は痒いところに手が届くような絶妙なチョイスで贈ってくるため、それとはまた違う方向性でのプレゼントに胸がちょっとキュンとした。
ちなみに今年の弟のプレゼントは欲しいと思ってた砥石。相変わらず届かなかったところに手が届くものを贈ってくるなと思った。


その頃の駄目人間さん

遂に運命の出会いを果たしたかもしれない人。
少しずつ駄目人間を脱却しつつある?
ちなみにプレゼントは親友カップル以外にも、とある看板役者に相談したとか。


椎名夕
そろそろ周からプレゼントを贈られてるかな~と考えてた人。
実は周のプレゼントを際立たせるためにこれまで彼が贈りそうな路線のプレゼントは避けてたため、地味に毎年プレゼント選びに難儀してた。


星野アイ
結局自分の誕生日でまた恩を積み上げられた人。
彼女が恩を返せるのはあと半年くらい先?
隣人の牙城はまだまだ固い。
 


 
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