真昼の弟は転生者で、呪術師兼ララライの看板役者です。でも推しの子は知らない模様   作:水の虎

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Q (羂索の)置き土産(であるカミキ)の置き土産ってなーんだ?


番外編 置き土産の置き土産●

 

 

 

 呪術師は人の死に触れる機会が多い。

 というより、呪術師ほど日常的に死がありふれた生業は少なくともこの日本ではそうないだろう。

 とはいえそういった理由で人より死というものを割り切れる人間ではあるが、人が死ぬことはやはりいい気分ではない。

 

 

「────」

 

 

 式が滞りなく終わり、会場の出口付近は人でごった返していた。

 ガヤガヤと音の塊となった喧騒は、その一つ一つの話に意識を向けなければ日常のありふれた一幕だ。

 しかし────

 

 

「椎名」

「どうも、金田一さん」

 

 

 おう、と相槌を打つのは劇団ララライの関係者である金田一。夕にとってかれこれ七年ほどの付き合いのある男だ。

 

 

「────葬式の後にこんなこと言いたかねーが······今年は厄年かね」

 

 

 普段なら世間話に興じているが、今回は場が場なのでお互い無言で会場を後にする人間を眺めていたところ、そんなことを金田一が呟いた。

 

 

「気持ちはわかりますが、わかっているなら口に出さない方がいいのでは?」

「それだけ姫川(・・)のことを俺は評価してたんだよ」

 

 

 姫川愛梨、それがこの葬式において弔われる人物の名だ。

 金田一が評価することから察せられるかもしれないが、彼女もまた一芸能人であり、夕同様ララライに所属する役者であった。

 実際、女優としての彼女の死を惜しむ声は多く、周囲の話を拾う範囲でもそういった話が複数聞こえてくるし、粛々と進んでいた先ほどの式中もすすり泣く声が時折耳に入るくらいだった。

 

 

「ところで────上原さんの方は何かないんですか?」

「·········ない······つったらまた語弊があんな。もちろん悼む気持ちはあるが、それでも一役者としてのあいつに対してはそこまで思うことはねーよ」

「金田一さんその辺は本当に辛口ですよね」

「そういうお前はどうなんだ?」

「特にこれといって」

 

 

 そう、実のところこの式は姫川愛梨、いや、ここではあえて上原愛梨と呼ぶが、とにかくこの式で弔われるのは彼女だけでなく、彼女の夫である上原清十郎もまたこの度不幸に見舞われた一人だ。

 

 

「────それより、お前も気をつけろよ?」

「······急に何ですか?」

「芸能界は昔から不審死が多い業界だ。この業界自体の性質っていうのもあんだろうが、それだけじゃ説明できないこともある。曰く付きのロケ地なんかに行った時に起こるのがそれだな。だからお前も気をつけておけ。·········まあそれも最近は少なくなってきたみたいだが」

 

 

 それ多分僕の影響です、とは言わなかった。

 実のところ夕が少しずつ売れ始め、仕事として色々と行くようになった当初はその先々で呪霊を見ることも多かった。

 他にも自分がのし上がるために他者を蹴落とそうとする者が呪詛師を雇うこともあったため、実のところ高専に入学して一年目はとにかく忙しい日々を夕は送っていた。その忙しさたるや、当時高校一年生だった真昼や周の高校の文化祭に行けないほど。

 今となっては大分その辺は改善され、夕を窓口として高専を経由し、呪い関連の事案は捌かれるようになった。

 ちなみに呪詛師の方はともかく、呪霊に関してはよっぽど曰く付きの場所でもない限り低級ばかりで、にも関わらずそれらを祓えば芸能界の相応の地位にいる人間に貸しを作れるとあって、呪術界────それも権力大好きな上昇志向の家の人間は好んでその依頼を受けるという裏事情もある。

 もっともその旨味のある依頼はちょくちょく窓口の夕が掠め取って自分の次なる仕事の布石にしているのだが。

 

 

「そんな訳だ、本当に気をつけろよ? カミキ(・・・)に続いて姫川、二人とも有望だった」

「暗に僕のことも有望って言ってくれてるんですか?」

 

 

 そんな返しに金田一はフンと鼻を鳴らす。

 

 

「いい年した野郎のツンデレは需要ないですよ?」

「ったく、お前は殺しても死なさそうだな。死んでも化けて出てそんな軽口を叩いてきそうだ」

「化けませんよ失礼ですね。何ならそれに対処する人間ですらありますよ僕は」

「何を意味のわからないことを」

 

 

 一応事実であるのだが金田一は真に受けなかった。

 

 

「······それにしてもカミキくんね」

「カミキがどうした?」

「······いえ······別に」

「そうか」

 

 

 金田一は深くは追及しない。

 彼の中では何だかんだ夕とカミキはそこそこ仲が良かった、というよりカミキの方が何かと絡みにいく程度には夕を慕っていたとでも思っているのだろう。まあある意味では確かに執着して(慕って)いたのだが。殺し合う程に······

 

 

 もちろん夕にはカミキのことをこれっぽっちも悼む気持ちはない。

 少し前に行われた彼の葬式にも出席こそしたが、表向きはそれらしいポーズをとりつつ、内心は恐ろしいほど冷めていた。

 ちなみにカミキの死については表向き山での事故死として世間的には処理された。

 

 

「あー、それとなんだが······」

「どうしました金田一さん?」

「いや、前々からカミキにドラマの出演依頼が来てたんだよ。先方も結構強くカミキのことを使いたいって推してたんだが······」

 

 

 本人がお察しの通りである。

 とはいえ、そうなった一端は一応自分にあるからと内心でため息、顔には苦笑を浮かべながら夕は言う。

 

 

「つまり僕にそのドラマに出て欲しいと?」

「ああ······頼めるか?」

「いいですよ。ちなみにどんな役なんですか?」

 

 

「────サイコパスな殺人鬼だ」

 

 

 そんな答えに────

 

 

「滅茶苦茶(彼に)適役じゃないですか」

 

 

 と夕。

 

 

「そうだな。確かに(どっか頭がぶっとんでるお前には)適役だよ」

 

 

 と金田一。

 

 

 

 残念ながら彼らの考えは噛み合わなかった。

 

 

 

 

 

 なお後日────

 

 

 

 

『────続いてのニュースです。俳優の椎名夕さんが本日ドラマの撮影中に崖から転落しました。命に別状はなく、椎名さん本人は「役に入り込み過ぎました。僕の中の彼(カミキ)がそうしろって言ったんです。反省はしますが後悔はしてません。今度は事前にちゃんと言ってからやります」と述べているようです』

 

 

  ○ ●

 

 

「────あれ、金田一さん?」

「椎名? 何でお前が病院(ここ)にいんだ?」

「金田一さんこそどうしたんですか? はっ! まさか長年の不摂生が祟って何か病気に!? 大丈夫ですか? 何ならいい医者紹介しますよ。腕は確かなんで安心してください────無免許ですけど」

「······最後の一言がなければ考えなくもなかったよ」

 

 

 顔に手を当ててため息と共にそう答える金田一。

 しかし気を取り直して改めて夕に彼は尋ねる。

 

 

「それで本当にどうしたんだ? 確か今日お前はドラマの撮影だっただろ。それも最終回の」

「あれ? ニュース見てないんですか?」

「ニュース? どういうことだ?」

「ほら、あのドラマって殺人鬼を追う刑事の物語じゃないですか? それで今日の最終回の撮影で殺人鬼役の僕が崖に追い詰められるシーンがあったんですけど······」

 

 

 本来の台本なら夕(殺人鬼)は腹にナイフを刺して自殺するのだが────

 

 

「────それだけじゃリアリティーに欠ける気がしたのでアドリブで崖から転落してみました、って、あれ? 金田一さん?」

 

 

 金田一は頭を抱えた。

 何をどうすればその発想に行き着くのかすら理解できない。否、よしんば理解できてもそれを実行するあたり完全にイカれてるとしか思えなかった。

 

 

「はぁ·········別に身体は問題ないんだな?」

 

 

 たっぷりとため息をついて、そう確認してくる。

 

 

「そもそも僕は何の問題もないって言っているのに、その場にいた全員がどうしてもと言うので仕方なくこうして検査のためにここに来たんですよ」

「それが普通だアホ。そもそもリアリティーが無いから飛び降りるって何だ?」

「だってナイフで腹を刺したくらいじゃ死ねなくないですか?」

「死ぬわ」

 

  

 普通に死ぬわ、と金田一は繰り返した。だが悲しいかな、呪術師()からすればそれは比較的軽傷である。

 

 

 閑話休題。

 

 

「────それより金田一さんこそ本当に何でここにいるんですか?」

「······付き添いだ」

「付き添い?」

 

 

 首を傾げていると金田一に声がかかる。

 そしてその声の主の傍らには三、四歳ほどの男の子がいた。

 金田一がその男の子を連れてきた者と話している最中、夕はその子を観察していると────

 

 

「────」

 

 

 妙な既視感があった。

 けれどそれが何かはっきりとせず、もやもやとしている内に金田一は話を終えた。

 

 

「付き添いってその子のですか?」

「ああ、大輝っつってな姫川と上原の子どもだ」

「······なるほど」

「? どうした?」

「いえ、何も」

 

 

 そう応えつつ、夕は件の子ども────大輝の顔をまじまじと見る。やはり既視感は消えない。

 

 

 

「それよりその子がいるならいつまでも話してる訳にはいきませんね。時間的にも結構いい時間ですし、お互い帰りましょうか」

 

 

 しかし言った通り時間が時間なのでそう提案するが────

 

 

「大輝を体よく使いやがって。言っとくが今日の件は今度じっくり聞くからな」

「あはは」

 

 

 あっさりと狙いを看破され、誤魔化すように夕は笑顔を浮かべるのだった。

 

 

  ○ ●

 

 

「············」

 

 

 夜、アイたちが寝静まった家のリビングのソファーに身体を預けながら、夕は天井を仰いでいた。

 その手には一枚の紙切れが力無く握られており────

 

 

「────お前にもちゃんといるじゃないか······」

 

 

 再びそれを目の前に掲げる。

 当然、そこに記された結果は変わることなく、その事実をただ示す。

 

 

「何でそこに目を向けなかった······」

 

 

 やるせなさそうに呟く。

 それと同時に、知りたくなかったという気持ちも湧いてきた。

 数ヵ月越しに気づいた既視感の正体。最初はまさかと思った。

 けれど────

 

 

 

『私的DNA型鑑定

 

 

 結果∶生物的親子関係であると判断されます』

 

 

 

 これ以上ない証明がなされてしまった。

 

 

 

 

「────とんでもない置き土産だよ。恨むよまったく······」

 

 

  ○ ●

 

 

 その可能性に行き着いたのは本当に最近だった。

 

 

 カミキヒカルが今際の際に浮かべた表情と、あの人病院で出会った大輝の顔が、ある時重なったのだ。

 

 

 だから真実を知るために足を運んだ。

 

 

「────やあ、大輝くん。僕のこと覚えてる?」

 

 

 正直話したりした訳ではないため忘れられていると思っていたが、意外なことに彼は夕のことを覚えていた。

 無言で自分を見つめる彼の表情。それを見ていれば見ているほど彼の面影が浮かび上がってきた。

 

 

「ごめんね? 実は君に聞きたいことがあるんだ。······君のお父さんとお母さんのことなんだけど────」

 

 

 そう言いながら夕は大輝に触れ結界術を行使。一時の間だがこれによって呪術的な繋がり(パス)を簡易的に構築する。

 そして立て続けに────

 

 

(『追想』)

 

 

 自らの術式を大輝にかけた。

 本来は自分に対して使うことが多い『追想』だが、術式対象自体は他者も含まれる。

 

 

 想起させるのは彼の両親のこと。

 そしてそれを結界術で作ったパスを経由して自分にも共有させる。

 

 

(────······やっぱりか)

 

 

 大輝の記憶────彼の両親が心中を図る際の映像が流れてくる。

 それは、大輝が父親とされていた上原の子どもではないことがわかるものだった。

 カミキヒカルの訃報を受け、錯乱する姫川愛梨。その後彼女は上原に刺されていた。

 

 

 そこまで視て夕は『追想』をやめる。

 そして大輝にとって辛いこの記憶を思い出しづらくなるように術式を行使しておく。

 

 

「······」

 

 

 改めて大輝を見やると、彼の瞳には光が乏しかった。

 周りの人間は一度に両親を失ったことによるものと思っているだろうし、それは間違いではないのだろう。

 しかし事実と真実は違う。

 周りが把握している事実より数段重い真実を彼は抱えている。

 

 

(······どうしたものか)

 

 

 十中八九この子はカミキの子どもだろう。一応この場でこっそり彼の髪か何かを採取して後日DNA鑑定をするつもりだが、そんなことしなくてもこれは本当であるという確信があった。

 

 

(────子どもは親を選べない······)

 

 

 自分がそうであったように、この子に落ち度などない。彼に罪は一欠片もありはしない。

 ならば、やることは······

 

 

「そういえばこれを聞いてなかったね────」

 

 

 実の父親の真実、そしてその父親を自分が殺したことを知ったら彼がどう思うかはわからない。

 もしかしたら恨まれるかもしれない。そうじゃなくても彼の心に強い影響を残すのは確かだ。

 それでも、夕はやれることはしようと思った。

 

 

 だから────

 

 

「少年────どんな人が好みかな?」 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 少し先の未来。

 

 とある公演に向けた稽古の休憩中、公演における主演級四人が雑談していた。

 

 

「────ってのが夕さんとの出会いだな」

「その時の姫川さんって四歳くらいですよね? なのにそんなこと聞かれたんですか?」

「あり得なくはないわね。私も初めて会った時されたし」

「ああ、そういえばそうだったな」

「せっかくだからお前もやったらどうだ?」

「やらねえよ。好き好んで第一印象を意味のわからない奴にしたくないし」

「あら、あんたにも第一印象を気にする心があったの?」

「逆にお前はあんまなさそうだよな有馬」

「はぁぁ!? ちょっとそれどういう意味よアクア!?」

「どういう意味も何もそういう意味じゃないのかな? かなちゃん?」

「うっさい! あんたはひっこんでなさい黒川あかね!」

 

 

 ギャーギャーと言い争い始める女性陣。それを呆れたような目で見つめる男性陣は既に止めることを諦めながらとりとめのない会話を続ける。

 

 

「そういや最近は会ってないけど夕さんは元気か?」

「そう思うんなら連絡ぐらいしたらどうだ? 父さん結構気にしてたぞ」

「へいへい、この公演が終わったら会いにいきますよ」

「そうしろ。まあ、もしかしたら公演観に来てそのままあっちから会いに来るかもしれないけどな。○○が観に来るって言ってたし、付き添いで母さん共々一緒に」

「おー、○○坊か。元気か」

「元気だよ。あとお前が不摂生な生活してないか確認しとけってこの公演決まった時に言われた」

「げっ」

「それで察せたよ」

「おかんみたいだよな○○坊。ルビーの方は全然なのに」

「────○○ちゃんの話?」

「あかねか。もういいのか?」

 

 

 そこには言い合いを終えた二人がいた。

 

 

「何だ、黒川はもう○○坊に会ってたのか?」

「はい、結構会ってますよ。連絡先も交換してて、時々献立のことを話し合ってます」

「アクア、こいつらまだ十代だよな? ○○坊に至ってはまだ中学にも上がってないのにこれって······」

「まあ、○○だからな。日頃からある意味英才教育受けて育って来たもんだし」

「その上どっかの生意気な双子と違って礼儀も弁えてるしね」

「生意気? 何のこと言ってんだ有馬?」

「そういうとこよ!」

 

 

 再び言い合いに発展しようというところで────

 

 

「そろそろ休憩終わるぞー」

 

 

 そんな一声によってその話は終わるのだった。

 

 

 




姫川大輝
この作品では未来で普通にアクアやルビーといった面々と家族ぐるみで交流がある。
それと、よくよく考えれば夕との関係が五条と伏黒の関係と同じ。
雰囲気がちょっと似てる? 二人(姫川と伏黒)だけど仲良くなれるかというと断言はできないっていうのが作者の感想。
女性関係の話は絶対姫川と伏黒は合わなそうだけど、案外そこら辺はドライに割りきって丁度言い距離感で接してくれる相手として重宝するか、普通に無関心かのどっちかだと個人的には思った。


椎名○○
その内生まれてくる第三子。なお本編では多分登場せず、いずれ描く(予定の)未来編で出演すると思う。
術師の才能があるが、多分椎名家の子どもの中で一番まとも。



一発ネタ


夕「俺は特殊な訓練を受けているからね。大輝なら本気で殴れる! 髪を金髪に染めたのは失敗だったね」

大輝「クソ親父め」←殴られた
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