真昼の弟は転生者で、呪術師兼ララライの看板役者です。でも推しの子は知らない模様   作:水の虎

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第三話○

 

 あれからさらに数年がたった。

 

 術式による自己催眠のお陰で常にメンタル面では最高の状態で鍛練ができている。

 とりあえず基礎はすべてに通ずるだろうと、体術と呪力操作の鍛練をひたすら反復するようにしている。

 中学に上がって行動範囲や時間が増えたら、遠出して呪霊を祓いながら実戦の中でそこら辺をさらに鍛えたいと思う。

 

 

 さて、ここで少し話を変えて近況について語ろう。

 まず、真昼が料理を始めた。

 原作でも描かれ、絶賛されていた真昼の手料理、うまかったっす。

 

 

 いやホント、始めたてなのに普通にうまいんだよね。ハウスキーパー兼家庭教師の小雪さんの教え方がいいのもあるんだけど、真昼ってやっぱハイスペックだよなぁ~。

 ふふふ、着々と周の胃袋を掴む下地はできあがりつつあるぜ。

 

 

 

 

 多少普通の家庭とは違っていても今が幸せだった。

 これで十分とはいかなくても、納得してこのまま過ごせるくらいには。

 

 

 そう────

 

 

 

 

 

 ────少なくとも俺にとっては。

 

 

 ここしばらくは何の問題なく過ごせていたから忘れていたのだ。

 自分たちがどんな環境にいるのか、真昼がそれをどう思っているのかということを······。

 

 

 ある日のことだった。

 術式の理解や解釈を広げるために図書館で関連しそうな本を見繕った帰り、丁度小雪さんとバッタリ会って、そのまま一緒に家に入った。

 

 珍しく真昼は自分の部屋に籠っていた。

 育ての親といっていい小雪さんのことを真昼は慕っており、最近は料理を習い始めたのもあって小雪さんが来ると出迎えていたから少し不思議に思った。

 しばらくすると真昼は部屋から出てきた。どうやら寝ていたらしい。最近は勉強や他にも色々と頑張っていたからおかしくはない。小雪さんも無理はしないようにと、真昼のことを案じた。

 

 

 そこから始まる普段のやりとり。いつもの日常の光景だった。

 とくに変わりない普段通りの真昼。

 

 

 ······あまりに普段通り過ぎる彼女の姿がそこにあった。

 

 

 

 小雪さんは気づけなかったようだが俺は気づけた。伊達に双子として過ごしてはいない。真昼が何かを隠して取り繕っていることに。

 

 

 気になって二人から一端離れ、それを確かめるためにある部屋へと足を運ぶ。

 

 

 

 

 ······どうやら母親が来ていたらしい。部屋を覗いたら入った形跡があった。

 

 

 

 真昼と小雪のところに戻ると二人は談笑しながら料理をしていた。

 しかし、今の真昼は俺からすると見ていられなかった。

 年齢を考えれば真昼は確かに聡明だけど、それでもまだ子どもだ。子どもらしく感情の浮き沈みはある。それが心を許し、慕っている小雪相手なら尚更だ。

 

 

 

 だかどうだ、今の真昼は。

 本当は泣いていいのに、縋っていいはずなのに、それを隠して、普段の彼女を演じている······演じさせてしまっている。

 

 

 

 ────何をやっているんだ。

 

 

 

 父親と母親もそうだが、何よりも自分に怒りを覚えた。

 子どもにとって親の愛がどれほど重要なのかを理解していなかった。

 自分がいる環境が異常であり、何か一つのきっかけで壊れかねないことに気づけなかった。

 

 

 呪いを当たり前のものとしてしまったが故に、いつの間にか自分の感覚は麻痺していたのだろう。

 

 

 きっと、真昼はこれから仮面を被る。

 誰からも好かれる、天使としての仮面を。

 多分、俺ではそれを取り去ってやることはできない。

 演じて作った鎧の下で泣いて、悲鳴を上げながらも、いつもと変わらぬ笑顔を彼女は浮かべる。

 

 

 そうしていつか限界を迎えてしまうだろう。

 

 

 だから俺は────僕は、呪いをかけた。

 

 

 

 とびきり歪んだ呪いを真昼に·········姉さんに······。

 

 

  ○ ●

 

 

「······小雪さん?」

「おや坊っちゃん、今お帰りですか?」

「はい、ちょっと図書館に」

「坊っちゃんは本が好きですねぇ」

「まあ、嫌いではないですよ。······小雪さんはこれからうちに?」

「ええ、良ければご一緒にいいですか?」

 

 

 帰り道で小雪さんに会った。断る理由もないので共に家へと向かう。歩きながら雑談をするが、小雪さんはうまく話を振ってくれる。

 ありがたい。前世を持って転生したとはいえ、元来の自分はあまりコミュニケーションが得意とは言えないから。

 

 

 

「────坊っちゃんは将来何に成りたいとかあるんでしょうか?」

「将来、ですか?」

 

 

 不意に小雪さんがそんなことを尋ねてきた。先程までは図書館で借りた本について話していたから、予想外な話題の変化に少し首を傾げる。

 

 

「ええ。坊っちゃんは大人でもあまり読まないような本をよく読んでいますから、何か将来なりたいものでもあるのかと」

「ああ、そういうことですか」

 

 

 小雪さんの補足に我ながらなるほどと思って、改めて今自分が持っている本を見る。脳の仕組みやら、心理学やら、それに関する本のタイトルがそこにはあり、苦笑する。術式が幻術を操るものだから、これらの本を片っ端から網羅しようとしているが、確かに普通の子どもはこんな本を好んで読まないだろう。それこそ特別な理由でもない限り。

 そこまで考えて、さてどう答えようか悩んだ。

 呪術のことを話すのは当然アウトだし、かといってパッとそれらしい言い訳も思い付かない。

 

 

 

「······別になりたいものとかはありませんね。この本とかも少し前に似たような本を試しに読んでみたら意外と面白かったから、取ってみただけですし······。でも────」

 

 

 

 だから、本心を少しだけ話す。

 

 

 

「────でも、今みたいな日々が続いてくれればいいとは思います」

 

 

 なりたいものがないのは本当だ。

 呪術師を目指すのは真昼を守るための手段でしかない。

 願うのはただ、この日常が未来でもあることだけ。

 

 

 

 ······というか、結局子どもらしくないことを語ったせいで誤魔化せてなくね?

 あれ、なんか小雪さん頭撫でできたんだけど。何か思うところがあるのかな?······いや、うん、うちの家庭あれだし、普通にありそうだな。

 

 

 微妙な空気になったけど、一応は誤魔化せたかな?

 

 

  ○ ●

 

 

「ただいま~」

 

 

 というわけで帰ってきましたよ我が家。

 

 

「······あれ、真昼は、部屋かな?」

 

 

 小雪さんが来るときはいつも出迎えに来るのに今日は真昼がこなかった。

 靴はあるから外出しているわけではないし、どうしたのだろう?

 小雪さんも同じことを思っているのか首を傾げている。

 とりあえずいつまでもここにいても仕方ないので、玄関を上がりリビングに向かう。荷物を下ろしたところで真昼も部屋から出てきた。

 

 

「ただいま真昼。珍しいね、真昼が小雪さんが来るのに部屋にいるなんて」

「おかえりなさい夕。ちょっと寝てたから気づかなかっただけ」

 

 

 原作では敬語がデフォの真昼のタメ口。こういう会話をしていると改めて自分が真昼の弟になったのだと実感できる。だが────

 

 

「······」

「······夕?」

「······いや、なんでもない。ちょっとボーッとしてた」

 

 

 違和感があった。普段の真昼とは少し違う、そんな感じがした。

 じっと見続けたせいで首を傾げる真昼にかぶりを振るが、真昼の視線が俺から離れたところでもう一度真昼を見る。

 まるで間違い探しでもしているような感覚だ。

 明確に何が違っているとは言えないが、脳が何かが違うと訴えかけているようだった。

 視線の先では真昼が小雪さんと話している。

 どうやら俺と似たようなことを聞かれ、俺に言ったのと同じ答えを返しているようだ。小雪さんも最近真昼が色々なことを頑張っているのを知っているからか、「お身体にはお気をつけくださいお嬢様」と真昼に言って、それ以降はとくに気にした様子もなく真昼と接していた。

 

 

「········」

 

 

 思い過ごし方だろうか?

 しかし、どうにも真昼が何かを隠しているように感じる。

 

 

 ······まさかな。

 

 

 そう思いつつもリビングを出て、普段足を向けない部屋に足を運ぶ。

 

 

「────来てたんだ······あの人」

 

 

 なるほど、原因はそれか。

 よく考えれば答えは簡単だろうと思いながら俺はリビングに戻る。

 改めて戻って真昼を見てみると、それは顕著だった。

 違和感が明確なものとなり、その原因がはっきりしたからか、今度はすぐに真昼の異常に気づけた。

 表面上は変わりない。

 

 

 

 そう、あまりにも────

 

 

 

「いつも通り過ぎる······」

 

 

 ボソッとこぼした言葉は真昼にも小雪さんにも届かなかったが、それは自分の中に何度も反響する。

 

 

 正直叫びたかった。

 今すぐそれをやめろと叫んで、泣いてもいいんだって真昼に言ってやりたかった。

 でも、真昼が今やっていることはきっとある種の防衛行動だ。無理に引き剥がしてしまえば、それをきっかけに壊れてしまいかねない。

 しかしそれを続けても、どこかで必ず折れてしまう時がくる。

 

 

 ────不甲斐ない。

 

 

 俺は自分の至らなさに、気づいてやれなかったことに、怒りを覚えた。

 きっと俺は本当の意味で真昼を救ってやることはできない。

 何もできない、その事実を噛み締めながら俺は真昼を見つめるのだった。

 

 

  ○ ●

 

 

 気づけば時間が流れ、小雪さんが帰っていった。

 きっとその間の俺は終始上の空だったことだろう。

 何を話したかはほとんど覚えてないが、真昼にも小雪さんにも大丈夫かと聞かれた覚えがある。

 

 

「夕、本当に大丈夫何ですか?」

 

 

 玄関まで小雪さんもを見送りにいった真昼が戻ってきた。

 大丈夫じゃないのは真昼の方だろ、と言えればどれほど楽だろう。

 でもそれはできない。

 

 

 俺は呪術師。

 できることは呪うことだけ。

 

 

 だから俺は────

 

 

 

 

 ────真昼に呪いをかける。

 

 

「真昼────昼間、母さんが来てたんでしょ、俺たちが来る前に?」

「っ······!?」

 

 

 思ってもないことを、しかし確かに自分の心を揺さぶることを聞かれて、真昼は動揺する。

 

 

 ······やはり母親のことは鬼門か。

 そんなことを思いながら仮面の綻びが生まれた真昼を見る。

 やっぱりまだまだその仮面は完璧ではない。

 だからこそ簡単に揺らいだし、だからこそ簡単に壊れてしまいかねない。

 ならば────

 

 

「真昼。俺たちは、きっと望まれて生まれた訳ではなかったんだと思う」

「あっ······」

「多分、それに今日、真昼は気づいた」

「······」

 

 

 声にならない声をもらす真昼に構わず続ける。

 きっと、あと一押しでその心は折れる。

 そこに付け込むように呪いの言葉を吐く。

 

 

「でも······でも、それでも────俺は、僕は生まれてよかったと思ってる。真昼の弟に生まれて·········姉さんの家族になれてよかった。それが何よりも────」

 

 

 ────幸せだった。

 

 

 俺ではなく僕。

 真昼ではなく姉さん。

 椎名夕は仮面を被る。真昼と同様に。

 家族はここにいると。

 自分が隣にいると。

 その隣で自分も同じものを背負うと。

 折れかけた真昼の心に毒のように染み込ませる。

 

 

「僕たちは望まれた命ではなかった。それでもその命を願う人が、姉さんに生きて欲しいと思う人が少なくともここに一人いる。────大丈夫、僕は絶対にいなくならない」

 

 

 ひどい奴だと思う。

 それでも僕は呪いをかける。

 愛という呪いを、真昼に『姉』という呪いをかけた。

 もしもどこかで折れてしまう時が来ても、僕という弟のためにと、そうやって立ち上がる理由を与えるために。

 きっと椎名夕の『姉』という新たな仮面を得た真昼の仮面はより厚く、壊れづらいものになるだろう。

 

 

 

 

 嗚呼、本当にひどい奴だと思う。

 

 

 

 

 

 

 ────だって、いなくならないなんて、嘘だから。

 

 

 

 

 

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