真昼の弟は転生者で、呪術師兼ララライの看板役者です。でも推しの子は知らない模様   作:水の虎

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第四話○

 

 真昼が仮面を被り、己の不甲斐なさを突きつけられてからまた何年か経ち、来年には中学に上がるそんな時期────

 

 

 ────僕は一人の少女と出会った。

 

 

 彼女は生まれたっての生粋の嘘つきだった。

 

 

 少女はその瞳に星を携えていて、そして誰よりも愛に飢えていた。

 

 

 表面上の印象はまるで違う。それでも彼女は真昼に似ていた。

 愛されたいし、きっと愛したいとも思っていて、だけど臆病でその笑顔の下に本心を隠してしまう、そんな本質的に似通った印象を受けた。

 

 

 だからこそ、僕は彼女に近づいた。

 

 謂わば彼女は練習相手だった。

 当時接し方がわからなくなってしまった真昼と接する上での、そんな都合のいい練習相手。

 僕は真昼に対する接し方を彼女という鏡を通して知ろうとした。

 

 

 我ながら人として褒められることではなかったのは承知している。言い訳になるがその時の僕には余裕がなかった。

 思えばあの時までどこか創作物の延長線でしかなかった認識していなかった真昼という存在を、その時ようやく僕は一人の人間だと理解したのだろう。

 

 そこを境に必死になった。

 

 彼女が自分の知る記憶通りの道を歩まなかった時のために、あらゆる事態を想定し、僕は動いた。

 

 

 そんな打算から始まったのが、僕と彼女────星野アイの関係だった。

 さて、せっかくだから少しだけ僕と彼女の出会いを語ろうか。

 

 

 

 

 ·········ああ、でもその前に一つ

 

 

 

 

 

 スゥ────············

 

 

 

 

 

 

 ────世界観ッッッッッ!!!!!

 

 

  ○ ●

 

 

 進級して早二ヶ月。来年には中学に上がる今日この頃。

 梅雨らしい天気の下を僕────椎名夕は歩いていた。

 

 降りしきる雨の感触を手にした傘越しに感じ、季節と相まって身体を重く感じさせる。

 人によってはこの季節を好む人もいるだろうが、生憎と今世の僕はそれに共感できそうにない。なんせ────

 

 

『クキキキキキキキ······』

 

 

(この時期はこんなのをよく見かけるからねぇ······)

 

 

 日本国内の怪死者・行方不明者は年平均一万を越え、そのほとんどが人から出た負の感情である『呪い』の被害。その呪いが集積し、形を成したのが目の前にいる異形、通称『呪霊』だ。

 呪いに対抗できるのは同じ呪いだけ。その力を持って呪霊を祓うのが呪術師であり、そんな呪術師にとっての繁忙期となるのが今だ。

 

 まあ、正確には初夏がそうなんだけど、梅雨も初夏も大して変わらないだろ(暴論)

 

 

「······今日が雨でよかったよ」

 

 

 そんなことを頭の片隅にしながらポツリと呟く。

 

 僕はこの季節は嫌いだが、雨自体はそこまでじゃない。むしろ割と好きな方だ。

 何もかも洗い流していくような清い匂いも、物に当たって弾けるその音も。

 

 

 ────視界を遮ってくれるその白いカーテンも、僕にとってはありがたい。

 

 

 僕は目の前に立ち塞がる呪霊に向かって歩いていく。堂々と正面から。

 しかし、呪霊は僕に気づかない。この呪霊くらいになると人に害を与え始めるようになるが、一向にこちらに気づくことなく僕の接近を許す。

 

 

『キキ······』

 

 

 異形のその目はこちらを向いてはいるが、その焦点は合わず、あたかも別の何かを見ているようだった。

 

 

「まっ、僕がそう見せてるんだけどね」

 

 

 言うや否や腕を横に薙ぐ。それによってアッサリとその呪霊は消滅した。

 

 

「帰ろ」

 

 

 既に何百、何千と繰り返したことだ。とくに感慨も何もない。

 

 

「────」

 

 

 しかし、帰路に着こうとしたその足がふと止まる。

 すぐそこにある公園。植えられている木によって見えなかったが、帰ろうと足を踏み出したことで視線がズレ、その視界にブランコとそこに座る少女の姿が映る。

 

 

 最初に感じたのは既視感だった。

 だからからか、思わず身体は彼女の方に向いていた。

 先程の呪霊のように近づく僕に彼女は気づかない。まあ、彼女に関しては単に俯いているからというだけなのだが。

 

 

「どうしたんだい?」

 

 

 そう言って雨に打たれる彼女に声をかけると、伏せていた顔がこちらを向く。

 

 星がそこにはあった。こんな鈍い色の空であっても輝く、そんな星が。

 だが同時にその星はどこか濁っていた。輝きつつも、何かの拍子にこの空の色に染まってしまいかねない、そんな濁りがあった。

 

 

「大丈夫······────何でもないよ」

 

 

 彼女はそう笑顔で答えた。まるでスイッチでも入ったかのように。

 状況を考えれば何でもなくはないことが誰でもわかるが、彼女の笑顔には思わずその言葉を真実と思わせてしまう何かがあった。

 

 

「そっか」

 

 

 そうか。

 

 彼女も嘘つきなん(仮面を被っているん)だ。

 既視感の正体はそれだった。

 

 

「君も欲しているんだね。でも、それが本当なのかを恐れてもいる」

 

 

 半分は直感だった。でも何故か確信できた。

 彼女は真昼と同じだ。

 愛を欲し、けれど愛を恐れてもいる。

 

 

「えっ·········」

 

 

 僕の言葉に彼女は瞳の中の星を揺らした。

 それを見て思わず苦笑を浮かべる。

 

 

「隠すならちゃんと隠さないとダメだ? わかる人にはわかるから」

「······お兄さんは知ってるの?」

「知ってはいるよ。理解はできてないだろうけど」

「よくわからない······」

「君が欲しいものはそれだけ難しいものってことだよ。まあ、だからこそそれは何よりも尊いものなんだけどね」

「尊いって?」

「あ~、わからないか。そうだね······。すごい大切だったり、素晴らしかったりすること、かな」

 

 

 それを聞くと彼女は考え込む。

 

 

「······じゃあ、私はどうすればいいのかな?」

 

 

 そうして、道標を求めるように尋ねてきた。

 

 

「────きっとね、それを本当の意味でわかる人はそんなにいないよ。僕たちよりずっとずっと大人の人だってわからない人が多い。だから今はわからなくていいんだと思う。おっかなびっくりに手を伸ばしながら、ゆっくり探していきな。多分、本当の意味でそれを手にできるのは君みたいな子だから」

 

 

 彼女は再び考え込む。

 

 

「······私にできるかな」

「僕はできると思っているよ」

「そっか······」

 

 

 そう言って何かを噛み締める彼女。

 

 

「────ねぇ、お兄さん名前は?」

 

 

「夕だよ、椎名夕。君は?」

 

 

「私はアイ、星野アイだよ」

 

 

 名乗り合う僕たち。

 

 

「ねぇ、夕」

「何だい、アイ?」

「私に教えてくれないかな? 夕の知ってるっていう『愛』を」

 

 

「────···············分かった。でもとりあえず今日は帰ろうか。このままだと風邪をひくかもしれないしね」

 

 

 そうして僕たちは帰路に着いた。

 その道中でお互いのことを話しながら。

 

 

 

 

 ···············また一つ、嘘を重ねながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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