真昼の弟は転生者で、呪術師兼ララライの看板役者です。でも推しの子は知らない模様 作:水の虎
ただでさえネタで書き始めたのもあって中々進まない······。
転生してからざっと十二年、本当に色々あった。
真昼の弟になったと理解した転生半月。
現実逃避をしつつ、ここが『呪術廻戦』の世界でもあると半ば理解した転生二ヶ月。
初めて呪霊を祓い、呪術師を目指した転生半年。
······己の無力さと不甲斐なさを突きつけられた転生9年。
そして······
オイ、コラ······
テメェだよ······
○ ●
「世界観ッッッッッ!!!!!」
────転生12年、椎名夕、魂の叫び。
「いきなりどうしたの、夕?」
僕の叫びに訝しげな表情を向けてくるのは、
先に言っておこう。
彼女は悪くない。
『推しの子』
人気マンガの一つで、アニメ化して放送された第一話は瞬く間に反響を呼び、視聴者の脳を焼いたらしい。
そう、『らしい』だ。
残念ながら前世の僕は視聴していない。
だが、アニメ本編同様に話題を呼んだ主題歌、そのミュージックビデオは動画サイトで視聴していた。
ここまで言えばわかるだろう。
そのミュージックビデオに登場していたアイドルらしき少女と彼女────星野アイはそっくりなのだ。
初めて会った時は雨、その次は風邪、また他にもその時の彼女の精神面が普段と違ったことによるバイアスみたいなものがあった。
その後の交流でも彼女の顔に何度も既視感を覚え、今日ようやくその事実に気づいた······気づいてしまった······。
「······いや、何でもないよ、アイ。ちょっと世界の不条理を前に叫びたくなっただけだから······」
「······本当に大丈夫?」
「大丈夫大丈夫。よく考えたら、僕にはまったく関係ないことだって気づいたから」
ならいいけどさ、と返事をする彼女に苦笑を返しながら僕は心を落ち着ける。
そうだ。究極的にここがどれだけクロスオーバーをしている世界であっても、僕がやるべきことは変わらない。
そう言い聞かせるのにも慣れたものだ。
流石に今世の暮らしにすっかり馴染んだ状況で、さらに世界観を重ねてきたことには動揺したが問題はない·········と、願いたい。
「それよりもアイ、手が止まってるよ」
そう言うと向かいに座る彼女は不満そうな顔を浮かべる。
「むぅ······、夕が叫んだからじゃん」
「ハイハイ僕が悪かったよ。ほら、手伝ってあげるからそれを終わらせるよ。何がわからないの?」
今、僕はアイの学校の宿題を見ている。
何度目かの交流、いざ会いに来てみればそこには手つかずの宿題に絶望している彼女がいて今に至る。
「────」
「······」
躓いていたところをしばらく説明すると、再び彼女は手を動かし始める。
それを横目に僕は僕で本を広げる。
そのまままたそこそこの時間が流れ────
「やっと終わったー······」
「お疲れ様」
力を使い果たしたアイは机に突っ伏す。
本から顔を上げ労いの言葉をかける。
「何でこんなことしないといけないの~」
「大丈夫だよ。それに関してはきっと似たようなことをみんな思ってるから」
「夕も?」
「もちろん。むしろ勉強なんて年を重ねていくうちにそんなものばっかり学ぶようになっていくよ」
前世の経験に基づいた私見を話す。
数学の証明とか、サインやらコサインやら、他にも色々と何なん?
古典の文法とか、化学式とか、何でその道に進むつもりもないのにやらないといけないのかと思ったのは数知れず。
少なくともそれをまともに使った記憶は僕にはない。
「でも夕、勉強できるじゃん」
「そりゃあ僕はアイより年上だしね。アイが今やってた場所くらいできるさ」
ちなみにアイは僕の二つ下だ。
「······まあアイの場合、もうちょっと頑張らないと中学は大変そうだけどね」
「ほえ? 夕もまだ小学生だよね? 何でそんなことわかるの?」
「普通に中学の範囲を前もってやってるからだよ?」
「······やっぱり勉強できるじゃん」
まあ、先取りしてやっておくと後で楽だからねぇ。
今世はやることが山積みである以上、いちいち勉強に時間をかけたくないから、数年前からちょくちょく先の範囲を進めてる。
やる気が起きなくても、自己催眠を促せば最高のモチベーションになるし、今世の両親は優秀とされる部類の人間で、大抵の勉強は苦もなく頭に入るのは幸いだ。
「────そういえばさっきから何を読んでたの?」
そうして、しばらくはアイの愚痴に付き合っていたが、ふとアイが僕の手にしていた本に興味を向けてくる。
「ああ、これ? 台本だよ。今度ちょっとだけど出番があるんだよね~」
「もしかして前話してた劇団······なんだっけ?」
「ララライだよ、劇団ララライ」
僕は少し前からララライという劇団に入っていた。
もちろん役者とかを目指すというわけではなく、ただ術式の理解を深める一環に過ぎない。
僕の術式の本質は多分人を欺くことにある。
そしてただ人を欺く、騙すだけなら超常的な力は必要ない。
役者というものは、その演技でもってあたかもそれが真実と思い込ませる。いや、この場合思い込ませてしまう、というべきか。
だから僕はそこで人を欺くことはどういうことかを一から学ぶことにしたのだ。
「夕は役者さん目指してるの?」
おっと、丁度タイムリーな言葉がアイから飛んできたな。
当然呪術のことは話せないので、興味はあるけどどうだろ? って感じで答えておく。
アイもアイでそこまで興味はないのか、ふーん、とだけ相槌を打つだけだ。
それに苦笑を浮かべ、僕は適当な話題をアイに振る。
そうして今日も僕らは何気ない会話に興じるのだった。
○ ●
「じゃあまたね。また一週間か二週間後に来るから」
「······うん。バイバイ、夕」
別れの言葉を交わし、僕はアイのいる施設を後にする。
季節はアイと出会った梅雨の頃から移り変わり、冬の始まりを迎えようとしていた。
日が短くなってきているため、小学生の身ではあんまり遅くまでいるわけにもいかず最近は早目に帰路に着いているが、それにアイはちょっと不満そうだ。
彼女に会いに施設を訪れるのは月に二、三回。真昼には劇団の稽古ということにして、主に休日に足を運んでいる。
真昼にはアイのことを教えていないし、アイにも真昼のことは教えていない。
本質的な部分では同類な二人。
会えば仲よくなる可能性は大いにあるかもしれないが、もし二人のうちどちらかを選ぶことになったら僕はアイを切り捨て真昼をとる。
だから二人は会わせない。あくまでアイは真昼の鏡、そのスタンスを崩すつもりはない。
「·········一体いつまでこれを続けるのかね」
沈みゆく夕陽を見ながら独りごちる。
彼女が求めた愛を教えてという願いだが、生憎と僕とてそこまで理解できているわけではない。
とはいえ、既に朧気になりつつある前世で自分は人並みの愛情を受けていたし、今世でも真昼に家族としての愛を感じている。
だから僕なりに愛とは何かを言葉にし、彼女に伝えているつもりだ。
しかし、アイはそれを聞いて理解はしても、多分共感はできていない。
生まれ育った環境故か、アイは圧倒的に共感性というものが欠落している。きっとそれが彼女の中で愛に対する認識を邪魔しているのだろう。
だからこそ、彼女は人と関わるしかない。
結局のところ愛を含めた感情、それらに対する価値観を育むのは人との関わりの中でしかできない。
その結論に至ってから僕は毎回、アイに最近の出来事を話してもらって、その際の心の動きを推測し、彼女に教えている。
······まあ、話の流れでそのまま雑談に興じてしまうことがここ最近増えてきているが。
結局のところ、アイの日常にどれだけ彼女の心を動かし、その心に爪痕を残せる何かがあるかどうかだろう。僕が教えられるのはその時に彼女が関わるものへの接し方くらいしかない。
それが今日まで接した中で得た僕の考えだ。
(一先ずはこのまま定期的な交流を続けよう······)
幸いにもアイとの関係は良好と言える。
このまま彼女の変化を観察し続け、真昼に対してフィードバックしていくものを見つける。
そうやって自分のやることを改めて僕は再定義した。
とはいえ·········
「この分だとロクな死に方をしないんだろうなぁ······。まあ、呪術師である以上当然なんだけど」
いつか報いが訪れることを理解しながら、それでも僕は歩みを止めない。
決めたのだ。
すべてを欺いて、自分の欲する未来にもっていくまで、この嘘を貫き通す。
例えその結果、自分の守りたい人を傷つけることになったとしても。
「────」
そんないつも通りの決意をしていたが、僕は足を止めた。
一応は理由はある。
しかし、普通なら足を止めなかった。
なんせ前から歩いてきた通行人がいただけなのだから。
けど────
「やぁ、少年────」
この人は普通ではない。それとは対極の位置にいる人だ。
高身長な金髪の女性。
僕と話せる距離までくると、彼女も足を止める。
「────どんな女が
夕焼けをバックに、やたらいい笑顔でそんなことを尋ねてきた。
(うん、あらゆる意味で普通じゃないね······)
内心でそう評価したところ、不意にいつかの記憶が蘇る。
『俺は絶対関わらないからな!』
なッ なッ なッ なッ────
(────············)
かくして僕は、
ただのネタです。
「どんな女が好みかな?」
「太陽みたいな笑顔。完璧なパフォーマンス。まるで無敵に思える言動。────吸い寄せられる天性の瞳」
「······なるほど。つまり────」
「僕のことかな!」←五条
「········」
「········」
太陽みたいな笑顔 → 確かに真夏の太陽みたいに鬱陶しい
完璧なパフォーマンス → 完璧な戦闘パフォーマンス
まるで無敵に思える言動 → 滅茶苦茶あってる
吸い寄せられる天性の瞳 → 六眼