真昼の弟は転生者で、呪術師兼ララライの看板役者です。でも推しの子は知らない模様   作:水の虎

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決めた、もう好きにやってやる。元々結構好き勝手してたけど。


第九話○

 

 中学生になった。

 ······いや、正確にはなっていたというべきか。

 何故か春先ぐらいから九十九さんの扱きのレベルが上がり、必死にそれに食らいつき続けたら滅茶苦茶時間が過ぎていた······具体的には年末あたりまで。

 

 まあ、ありがたいんよ? お陰様で準一級の呪霊ならギリギリステゴロで祓えるようになったし。

 

 

 そんなわけで本日は九十九さんに何故か富士の樹海に連れてこられていた。

 

 

「······えっ、どういうこと?」

 

 

 いや、マジでどういうこと?

 

 

「実地訓練さ。これまでの成果をここで見せてもらう」

「なるほどなるほど、なら納得······すると思いますか?」

 

 

 選定場所おかし過ぎん? 樹海やぞ? 自殺・心霊・怪奇の揃った名所じゃねぇか!

 

 

「つべこべ言うな、いくぞ」

「ちょっ、九十九さん、離して! 待って! ホントマジで待って! 止まってぇぇぇっっっ!!!」

 

 

 僕の叫びは届くことなく、そのまま樹海の奥に引きずられていく。

 

 

「────いたぞ」

 

 

 九十九さんが言う先にはヤバそうな呪霊がいた。

 

 

「初陣がアレって厳し過ぎませんか?」

「何を言っている。お前は私に会う前から呪霊を祓っていただろ。初陣なんてとっくに済ませたはずだ。アレは特級に近い一級といったところだ。一年の集大成には丁度いいだろう」

 

 

 僕の申し出をにべもなく切り捨てる九十九さん。どうやらマジでアレとやらせるらしい。

 ······まあ、腹を括るか。これぐらいできなくて、望む未来を手に入れるなんてできない。

 

 

 ─────やるか。

 

 

 

「あ、それと術式はナシで祓え」

 

 

 九十九ォォォッッッ!

 

 

 呪霊に向かって走り出した瞬間に後付けでとんでもないことを抜かしやがった!

 あっ、呪霊が気づいた······。

 

 

 チクショオオオオゥゥゥ! やってやるぅぅぅっ!

 

 

  ○ ●

 

 

「────な」

 

 

 

 

「────きろ」

 

 

 

 

「起きろ、椎名!」

 

 

 

 

「······金田一さん?」

「起きたか椎名」

 

 

 どうやら僕は寝ていたらしい。

 

 

「······夢か」

「夢?」

「ああ、気にしないでください。ちょっと懐かしい夢を見ていただけです。まあ、といっても半年くらい前のことですから、懐かしいと言えるかは微妙ですけどね」

 

 

 あるいはそれだけこの半年の密度がすごかったということか。

 

 

「────すみません金田一さん、起こしてもらって」

「構わねぇよ。ここ最近はお前に負担をかけちまったからな。そうなるのも無理はねぇ」

「どうも。他の皆さんはもう?」

「ああ、先にいったよ。お前も急げ」

「気遣ったと思ったら急げって矛盾してません?」

「そんな減らず口叩けるならもう大丈夫そうだな。ほれ、いい加減時間ないぞ」

「あいあいさ~」

 

 

 適当に返事をして車を降りると、僕も先に行った人たちに合流すべく向かう。

 

 

 遡ること半年前、九十九さんに連れられて富士の樹海で特級に近い一級呪霊との戦いで勝利した。

 それを見届けた九十九さんからは「教えられることはすべて教えた」と言われ、約一年に渡る師弟関係に一先ずの区切りがついた。

 

 

(予想以上の成果だったよね~。黒閃の成功と反転術式の効率上昇······うん、最高って言っていい成果だ)

 

 

 先の一級呪霊との戦いの終盤、術式の使用を制限したことで決め手に欠けた中で繰り出した拳は空間を歪ませ、黒く弾けた。

 土壇場での黒閃の発生により、呪力の核心へと近づいた僕はそれによって一級呪霊を祓うことができた。

 尚、泥試合でボロボロになっての勝利のため、戦いの後に反転術式を使ったら九十九さんには驚かれた。

 そもそも反転術式を獲得した経緯は激しさを増した体術の訓練でボロボロになったせいだ。真昼に怪しまれることのないように必死になって練習して習得したが、クソほど呪力の効率が悪く、数が多いとはいえ打撲やアザくらいの傷を治す程度で呪力が空になったくらいだった。

 だが、黒閃の成功というステップを経てそれはかなり改善した。

 黒閃経験者とそうでないものでは、呪力に対する理解が天と地とはよく言ったものだ。流石に大げさだと思っていたが、反転術式の今の効率を考えると決して誇張ではないことがわかる。

 

 

 そんな死線を経て、少し余裕のある日常に戻れると思ったら、今度はララライの活動が忙しくなった。

 元々、術式の幻術の質を高めるために始めたことだが、これが存外僕には向いていたらしい。才能に関してもある部類だと思うし、今ではララライの活動を楽しんでる自分がいる。

 少しずついい役も貰えるようになり、それに比例して稽古時間も増えて、学業と呪術も併せると中々にハードだった。

 そしてつい先日、公演を控えていたララライの役者がアクシデントで出演できなくなり、その代役に抜擢された。

 とはいえ、本当に公演が迫ってる中でのアクシデントだったため、稽古できる時間は本来必要であろう時間の半分程度。幸い出来のいい今世の頭はすぐに台本の中身を記憶し、残りをすべて稽古にあてられたから間に合った。

 

 

 そんなわけで今日、公演当日に至る訳だ。

 

 

「夕さんが来ました~!」

 

 

 そう言って共演者たちの輪に突撃していく。

 

 

「来たか、夕」

「椎名くん大丈夫? あんまり無理しちゃダメだよ」

「いや言いたいことはわかるけど、公演当日なんだから多少の無理はしてでも出て貰わないと不味いだろ。······椎名、ちゃんとやれるんだよな?」

「バッチリです」

 

 

 最後の発言者には残り二人から、「うわ、サイテー」とか「人としてどうなの?」などと、じゃれ合いに似た野次のようなものを飛ばされているが、まあ問題ないだろう。

 

 

(さてと────)

 

 

 僕はここ最近板につき始めた笑顔を浮かべる。

 大胆不敵で、なのにどこか胡散臭さが滲み出るような、そんな笑みを張り付ける。

 

 

『スタンバイお願いしますー』

 

 

 いよいよ声がかかり、それまでの空気を消してそれぞれ役者の顔になる。

 

 

「いくか」「うん、行こう」「ああ」

 

 

「────行きますか」

 

 

 こうして新たに幕が上がる。

 

 

 




一応あえて区切るならここで第一章は終了です。
次あたり二、三話挟んだら、高校に進学します。
主人公の進路は果てして······。
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