真昼の弟は転生者で、呪術師兼ララライの看板役者です。でも推しの子は知らない模様 作:水の虎
最後のは三人称です。
「むー······」
「そんなにむくれてどうしたんだい?」
如何にも不満です、と言わんばかりの顔をするアイ。いや、理由は大体わかるけど······。
「だって最近全然会えないじゃん!」
「悪かったよ。あんまりこういう言い方したくないけど、ここ最近忙しかったんだから仕方ないって思ってくれない?」
「ダメ」
「さいですか······」
どうやらお姫様は許してくれないらしい。まあ、確かにここ最近は完全に僕が原因で会えてなかったし仕方ない。忙しいのは本当だったけど、それは僕の事情だしね。
「そんなアイさんに朗報です。珍しく今週だけでなく、来週も予定が空きました」
その言葉にアイは目を輝かせるが、簡単に機嫌が直ったと思われたくないのか必死に取り繕ってる。彼女にしては随分下手な演技だ。
「ふーん。それで······?」
「そしてここに何やら二枚のチケットがあります」
もうソワソワが隠せてないな。何だかんだで付き合いも大分長くなってきたし、その様子を可愛いと思う僕がいる。
「────良かったら一緒に行かない?」
「いく」
即答に苦笑を浮かべつつ、頭の中の予定表に来週の予定が追加された。
そうして一週間後、僕はアイを迎えに施設に顔を出した。
「夕!」
「おはよう、アイ。先週と違って今日はご機嫌だね」
「······夕のいじわる」
「ハイハイ、拗ねない拗ねない」
唇を尖らせるアイの頭を撫でながら、顔見知りの職員と目があったので軽く会釈していく。
「じゃあ行こうか」
既に先週会ったときに今日のことは話していたので、特に何も言われることなく手を振って見送られた。
最寄りの駅からいくらか電車に乗り、そこからさらにバスに揺られると目的地に着いた。
「────そういえばさ、何でプラネタリウムなの? 夕って星とか好きだったっけ?」
不満というわけではないが、そんな疑問がアイから飛んでくる。
アイの言う通り今日はプラネタリウムに足を運んでいた。
「別にそういう訳じゃないよ。ぶっちゃけ今日誘ったのはただチケットを貰ったってだけだからね~」
「······チケットを貰わなかったら?」
「今日は普通に家でダラダラしてたかな?」
アハハ、また拗ねた。
プクゥーっと膨らんだアイの頬を突っつくと、負けじと僕の頬に指を伸ばしてきた。
というかちょっと力強くない? イタッ! ちょ、アイさん!?
「······でもまあ、チケット貰った時には真っ先にアイの顔が思い浮かんだよ。アイと星ってなんか結び付くからね」
「そうなの?」
軽くじゃれ合いつつ、そんなことを言うとアイは首を傾げた。
「うん、初めて会ったときは雨の日なのに綺麗な星を連想したからね」
「へー、そんな風に思ってたんだ」
そうやってしゃべっていると周囲が暗転し、人工の輝きだけが空間を彩る。
「······綺麗」
暗転した世界でアイが呟く。
気になってこっそり横を向くと、今浮かぶ輝きに負けない星が彼女の瞳にあった。
今見える星の輝きは、実際はそれ以前に発した光りによるもの。
星々はそれこそ、幾星霜の時間を経てもその輝きによって存在を示す。
だからこそ、今日の出来事もまた、僕の記憶に残り続ける気がした。
○ ●
「あなたは進むのですね」
────そこにあったのはどんな想いか。
「ですが、わかっていますか? その先に何が待つか」
────すべてを綯い交ぜにしたような何かがあった。
「願いとは純粋なものです。だからこそそれは混ざり合うことはなく、一つしか存在し得ない」
────しかし何故だろう。すべてがあるのに、そこには諦観が見てとれた。
「それはいつか歪みを持ち、そこから生じた矛盾はあなたを蝕む毒になる」
────嗚呼、そうか。あるいは彼も······。
「それでも······それでもなお、私たちは幻視してしまうのですね」
────そう、そんなもしもをそれでも······願ってしまうのだろう。
「────よし、いいぞ椎名」
「────·········どうも、金田一さん」
どうでしたと意味を込めて僕は笑みを浮かべる。
「······」
「金田一さん?」
「なんでもねえよ。······本当になんも言えねぇくらい、お前の演技は問題なかったよ」
「おー、最近メッチャ金田一さんが褒めてくる。何か怖い」
「お前はいちいち減らず口を叩かないと死ぬのか?」
「減らず口? 何言ってるんですか?」
しかめっ面する金田一さんに首を傾げると、顔に手を当ててため息を吐かれた。
「お前は······いや、もういい。とりあえず休んでろ」
「御意~」
何かを諦めたような金田一さんに言われ、比較的年齢が近く、仲の良い同僚たちのもとに歩き出す。
「────そういや珍しくお前は明日も稽古に来るんだったな?」
が、そんな思い出したようなことを言う金田一さんに呼び止められ、足を止める。
「えっ、もっと稽古に出てこいっていう催促ですか?」(はい、何かありました?)
減らず口(確信犯)を叩き過ぎて本音と建前が逆になった。
「違えよ、明日新入りが来るから、お前が色々教えてやれってだけだ。年齢的にお前が一番近いからな」
しかし、金田一さんは僕のこんなのに慣れたのか、軽く一蹴して要件を告げてくる。
「なるほど、了解しやした」
「ああ、呼び止めて悪かったな」
今度こそ同僚たちのもとに向かう。
「新入りね~······」
はてはてどんな人かね。
「────初めまして。カミキヒカルです」
あくる日、僕はこれまた特徴的な眼をした少年と出会った。
○ ●
────天才。
劇団ララライの創設者の一人、金田一敏郎の頭にそんな言葉がよぎる。
初夏を迎え、着々と夏が存在を主調し始めた今日、ララライの役者たちの公演が行われていた。
公演を控えた出演者のアクシデントがあったが幸いにも代役は見つかり、無事に公演を行えた。
────圧倒的なまでの爪痕を残して。
「······化けたなんてもんじゃねぇな」
この業界に人生の大半を捧げてきた金田一は、才能の存在を理解している。
その残酷さも含めて理解しているつもりだった。
椎名夕。
今回の公演に代役として出演し、観るものすべてにその才覚を叩きつけた張本人だ。
この数ヶ月、彼の成長を間近で見ていた。
元々才能はあったし、じっくりと時間をかければ上澄みの役者になれる、そういう評価をしていた。
だが、それは一度壊された。
突然、本当に突然、化けたとしか言えないほどの急成長を見せたのだ。
それでも金田一は驚きつつも、まだ冷静だった。
この業界に限らず、あらゆる分野で突如として化ける、そんな存在は必ず出てくる。椎名夕もその類いだったと思っていた。
だからそれを踏まえて代役に彼を抜擢したし、通常よりも稽古の時間が少ない中で、彼は文句のつけようのない演技までもってきた。
しかし、そうして迎えた今日の公演で夕は金田一の認識をもう一度壊した。それこそ粉々にしたというくらいに。
「参ったな、まったく······」
思わず顔に手を当てて呟く。
手の下の顔は人様には見せられないくらいニヤケている。
夏の近づく今日、しかし金田一の身体は寒気のような震えがあった。
長くこの業界にいる自分すら理解の及びきらない才能、その未知への畏怖とそれを間近で見ていけるという歓喜、それが彼の身体を包んでいた。
「────どうしたんですか金田一さん? もしかして客足がよくて収益期待できそうなんですか? ギャラは期待してますぜ」
公演を終え、金田一の方に歩いてくる夕。
その態度は到底会場中の人間すべてを呑み込みかねない演技をしていた役者には見えない。
「······椎名か。演技良かったぞ」
「本当マジで最近どうしたんですか? 明日にでも死ぬんですか?」
金田一はあまり人を褒めない。だからこそ夕は最近の金田一の様子にちょっとひいていた。だって、突然めっちゃ褒めるんだもの、と。
「テメェは年齢相応に賛辞を受けとれねぇのか?」
「ハハハ、金田一さんおもしろーい。こんな業界で表面上の言葉にいちいち一喜一憂なんてしてたら疲れますよ?」
「······本当に可愛くねぇな」
普段通りに見えるが、演技の後で感情の発露がいつもより大きくなっているせいか、二倍増しに腹がたった。
「······おい椎名。お前最近何かあったのか?」
「ララライでの活動が増えました」
「そういうことじゃねぇよ······」
天然なのかわざとなのか、夕は基本的に話をよく引っ掻き回す。そのせいで話の出鼻を挫かれることはよくあることだ。
「ここ最近お前の成長はめざましい。今のお前なら数年後にはうちの看板を背負うこともできると思ってる。だからこそ興味があんだよ。お前がここまで化けた理由ってのがよ」
「······化けたなんて失礼ですね······なんて言いたいところですけど、まあそうですね、自分でも自覚はあるんで今回は何もいいません」
「ほう? それで、理由は何なんだ?」
意外にもアッサリ金田一の言い分を受け入れた彼だったが、しかしそこで終わらないのが椎名夕。
ニヤリと笑い、滅茶苦茶腹立つ声で言った。
「教えな~い」
「······」
ドスッ!
真顔の金田一の手刀が夕の脳天に刺さった。
「っ~~!」
頭を抱えて蹲る夕。
完全な自業自得だ。
「っ、たぁ。ひどくないですか金田一さん? ちょっとのお茶目くらい許してくださいよ」
「お前の言うちょっとは俺のちょっとではない」
「ひどっ······。まあきっかけがあったのは確かですけど、詳しいことは秘密です。ただ色々あって自分の演技の根幹に近づいたと言うか、それに自分の認識やら技術やらが追いついたと言うか······まあ、そんな感じです」
「そうか」
金田一は知る由もないが、夕の急成長のきっかけは黒閃を使ったことに起因する。
黒閃によって呪力の核心に近づき、それに併せて彼の中の生得術式への理解が深まった。
元々術式によって最適化されていた彼の脳は、演じるということを、人を欺くということを本能的な面で理解していた。
そこにさらに黒閃が加わり、その理解が表出し、意識的に行えるようになった。
それこそが彼の成長の正体だ。
「まあ、お前が成長してくれるのはこっちとしてもありがたい。そのまま天狗なんかにならずに精進しろ。ついでに減らず口やその他諸々直せ」
「無理です。でも精進はします」
身体の前にバッテンを作り即答する夕。
「······そうかよ」
そう言って金田一は帰り支度をするために歩き出す。後ろからは慌てて着いてくる夕がいて、その様子に呆れを滲ませつつも頬は緩んでいた
金田一は確信していた。いずれ椎名夕は俳優として天辺を取ることを。
(まっ、クソほど、苦労はさせられそうだがな)
どれくらいの時間が必要か。いや、こいつなら俺の予想をさらに超えてきそうだな。となると無意味な予想か。
そんな予想ができるけど予想ができない未来を幻視した金田一の足はとても軽いものだった。
────そしてそれから一年後、それを示すかのように夕主演の舞台が決定した。
「────どんな女が好みだい?」
「······いや、初対面で聞くことか?」
なお、その公演の最終日、会場のどこかではそんな会話があったらしい。
質問を受けた少年はさらに一年後、とある少女と出会う。
彼がそれに答えられるのはきっと、二年くらい先の話になるだろう。