真昼の弟は転生者で、呪術師兼ララライの看板役者です。でも推しの子は知らない模様   作:水の虎

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更新がしばらく遅くなるかも······。


第二章
第十話○


 

「────アイドル? へぇ······」

 

 

 向かいの席に座る彼女が発した言葉に僕はそう相槌を返した。

 

 

「驚いた?」

「半分半分かな」

 

 

 実際のところ、とうとう来たか、という印象だった。

 生憎と彼女がどういう経緯で、そしてどういう軌跡を辿ってアイドルになるのかを僕は知らない。でも、いずれそんな日がくるのだろうという予感はしていた。

 僕というイレギュラーがいることで、変化があるのではとも考えたが、それは杞憂だった。

 

 

「それで? 今日は何で呼び出したんだいアイ」

「ん~とね、今日これからそのスカウトしてきた人と会うんだ」

「うん?」

「これからスカウトの人と会うの。この店で」

「······何で僕を呼んだの?」

「ま、いいからいいから。ちょっと一緒に話し聞いてくれるだけでいいからさ」

「僕はアイの保護者じゃないんだけどなぁ······」

 

 

 突拍子がないというか何というか、うん。

 とりあえず僕は苦笑しながら遠い目をした。

 

 

「────あー、これ、どういう状況だ?」

 

 

 そこには金髪グラサンの男性がいた。

 

 

「安心してください。割りと僕も今似たような心境ですから。────とりあえず座りませんか?」

 

 

 困惑している彼にそう声をかける。

 ちなみに事の発端のアイは説明はせず、席を立ち僕の隣に座り直していたので、苦笑いを更に深めつつ向かいの席を僕の方で勧めて置く。

 

 

「あー、すまん」

 

 

 向かいの席に座るのを確認すると今度は横に座るアイに顔を向けた。

 

 

「被告人星野アイ、何か弁明は?」

「······えへへ」

「答える気がないってのはわかったよ」

 

 

 何故だろう、年を追うごとに煙の巻き方がうまくなっている気がする。

 毒気が抜かれてしまったので、それ以上の追及は諦める。決して彼女に絆されてきているとかではない。

 ······ないよね? 

 

 

「────どうも初めましてスカウトさん。アイの友人の椎名夕です。本日は彼女に呼び出され、つい先ほど貴方に会うことを告げられて絶賛困惑の真っ最中です」

「······苺プロダクション社長の斎藤壱護だ。······ん? 待て、椎名夕っ!?」

 

 

 名刺を差し出してくる斎藤さんだが、僕の名前を聞いて目を剥いた。

 

 

「······もしかして劇団ララライの?」

「ええ、ララライの椎名夕です」

「なになに? 夕ってそんなにすごいの」

 

 

 すると横でニコニコしていたアイが話しに加わってくる。

 

 

「あー、椎名君? 話してないのか彼女に?」

「僕は今のところ舞台でしか活動してないですし、一般的な知名度はそんなもんでしょう。逆に斎藤さんは僕のこと知ってたんですね」

「そりゃあ、この業界そういう情報は命だからな。期待の若手のことは噂であっても耳に入ってくる」

「光栄です。まあ、それは置いておいてそろそろ本題に入りましょう。アイ、そろそろ君もしゃべってくれない?」

 

 

 そう言うとアイは何かを考える顔をして、意を決したように口を開く。

 

 

「夕はさ、言ったよね。私の欲しいものを手に入れるには人と関わるしかないって」

「そうだね。少なくとも僕はそう思った」

「正直さ、最初はアイドルなんて断ろうと思ったよ。嘘つきな私には向いてないと思うから」

「······」

「でもさ、そんな時に夕のその言葉を思い出した。それに佐藤さんから嘘でも『愛してる』って言ってもいいって言われた。────ねぇ、夕、私はアイドルになれば『愛』を知れるかな?」

 

 

 そんなアイの問いに────

 

 

「知らないよ」

「えっ?」

 

 驚いた彼女に今日何度目かの苦笑を浮かべる。

 

 

「ただ、いい傾向なのかな? 少なくとも僕と会った頃のアイならアイドルになるなんて言わなかったと思うし、この数年でアイも変わってきてるってことだね」

 

 

 一度区切って改めてアイを見る。

 

 

「やってみてもいいと思うよ。見つかる云々は置いておいて、アイドルはアイに向いてると思うしね」

「夕······」

「ただ決めるのはあくまでもアイ自身だ。曲がりなりにも社会に出る訳だからね」

 

 

 言えるだけのことを言うとそれを聞いてアイは目を閉じた。

 

 

 

 

「────······佐藤さん。私、アイドルやってみるよ」

 

 

 そう告げるアイの瞳を見て思わず僕は頬を緩めた。

 そこには今までで一番強く輝く、星があったから。

 

 

 

 

「·········了承してくれたのはありがたいが、俺は斎藤だ」

 

 

 絞まらないなぁ·········。

 

 

  ○ ● 

 

 

「すみません、僕の分も出してもらって」

「いや、大丈夫だ。むしろこれくらいは払わせて欲しい。お陰でスカウトも成功したしな。······ただ────」

 

 

 こちらに視線を向けてくる斎藤さん。

 

 

「お前たち二人の関係って結局なんなんだ?」

「? 最初の自己紹介で友人だと言いませんでしたっけ?」

「そうなんだが······」

 

 

 視線の行方は僕······ではなく、その背中で寝息をたてるアイに向いている。

 

 

「距離感、おかしくないか?」

「そうですね」

「自覚はあんのかよ······」

「決して意図していませんでしたが、出会いが出会いなだけに懐かれていまして」

 

 

 そう言って肩越しにアイの顔を見る。

 

 

「······まあ今回は許してあげて下さい。アイなりに今回の件は色々と考えて、あまり眠れなかったんだと思います」

 

 

 アイドルになることを了承した後、軽く今後の話しをしていたのだが、言った通り緊張がとけたのか、すぐにアイは眠気に負けてしまった。

 

 

「······わかった。とりあえず納得しておく。けど彼女もこれからアイドルになる以上、異性関係は爆弾同然だ」

「ええ、会うときは気をつけます」

「·····」

 

 本来なら会わない方がいいんだろうが、多分こっちがそれをしても彼女の方はそれを無視して突撃してくるだろう。

 なんとなくアイの人となりを理解したのか、斎藤さんも何も言ってこない。

 

 

「────ではこれで。また後日連絡するように彼女には伝えておきます」

「ああ、頼んだ」

 

 

 店を出て別れる僕ら。  

 

 

「────」

 

 

 アイを背負い直し、僕は歩き出す。

 

 

 転生して十五年目。

 転生者故の勘なのか、少しずつ何かの歯車が回り始めているのを感じた。

 この世界はきっと僕の知る歴史からズレた道を歩んでいる。

 重なりあった少なくとも三つの世界観に、僕というイレギュラー。

 それがどう影響を及ぼすのか。

 果たして僕は描いた未来にたどり着けるのだろうか。

 そんな思考が巡る。

 

 

(やってやる)

 

 

 それでも終着点はとっくに定めている。

 なら後は、そこにどうたどり着くかだけだ。

 

 

「んん······。────ゆう?」

 

 

「おはよう寝坊助アイさん。自分で歩けそうかい?」

「んー······このままがいい」

「君もアイドルなるんだから、あんまり男と距離が近いのはよくないよー」

「······ゆうだから」

「答えになってなくない?」

「そういえば······佐藤さんは?」

「話を逸らしたね······。アイが寝ちゃったからお開きになって店の前で別れたよ。ちなみに距離云々はあの人からも言われたよ。あと斎藤さんね。これからお世話になるんだからせめて名前くらい覚えてあげな」

「わかったー······」

「わかってないね」

 

 

 そうは言いつつ僕は僕で彼女を背負い続けてる。

 我ながらこの数年で彼女に甘くなったものだ。

 少しだけ斎藤さんがアイをスカウトした理由がわかる。

 自分で言うのもあれだけど、スカウトしようとしたアイドル候補に距離の近い男がいるのに、それでも尚もアイに固執した理由。

 意識しなくても滲み出る星野アイという少女のカリスマ性。

 人を惹き付ける天性のオーラは、いつだか彼女に話したが、星を連想させる。

 

 

「────夕。」

「なんだい?」

「私、頑張るから」

 

 

「······うん、応援してるよ。────星のようなアイドルさん」

 

 

 




その頃の天使様


最高学年になり、進学先の高校を探している。
彼女のパソコンには『高校 カリキュラム 水泳なし』と打ち込まれていたとか。




その頃の駄目人間さん


未だに心の傷はあるが、両親のお陰でマシになりつつある。
数ヶ月後にとある舞台公演を観に行くとか。

 
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