真昼の弟は転生者で、呪術師兼ララライの看板役者です。でも推しの子は知らない模様   作:水の虎

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戦闘シーンを入れたけど意外と早く更新できた。


はい、というわけでこれからしばらくガッツリ呪術廻戦になると思います。


第十一話○

 

 アイがアイドルになることを決意してから数ヶ月がたった。

 あの後も苺プロの斎藤社長は色々と動いて、中学生のアイドルグループを結成させたらしい。

 もちろんアイもその一人。

 ここ最近は歌やダンスのレッスンがどうだっただのと、よく電話で話すようになった。

 近々デビューライブも予定されているとあり、アイもアイで中々大変なようだ。

 

 

「まっ、それは僕も同じか」

 

 

 僕は僕で現在岐路に立っている。

 

 

「なんか言ったか、椎名?」

「いいえ、何でもないですよ~」

「······調子はどうだ?」

「お、心配してくれます?」

「主演にぶっ倒れられたら公演そのものが成り立たなくなる。コンディションを気にするのは当たり前だ。公演期間も折り返し、移動も多いスケジュールだからな」

「全国津々浦々とまではいかなくても、本州のドデカイ劇場は軒並み周りますからね~」

 

 

 一年前の今日、代役で公演に出てから僕は業界での評価を上げた。

 その後も中々の役をいくつかこなし、一年たった今僕は自らが主演の舞台公演の真っ最中だ。

 

 

 

「────実感わかないなー」

「珍しいな、お前がそんなことを言うなんて」

「僕を何だと思ってるんですか?」

 

 

 さあな、なんて適当に流してくる金田一さんにジトーと目を向ける。

 弱音とかではないが、ぼやきたくもなる。

 なんせ一年前まで無名だった自分がここまでの規模の公演の主役だ。しかも────

 

 

「わざわざ僕の事情を考慮して、稽古が夏休みに入ったら始まるように公演の時期を含めて調整って······期待のされ方半端なくないすっか?」

 

 

 生憎うちの中学は何の特徴もない公立の学校だからそこら辺の融通はそこまで効かない。

 まして一応僕も中学三年として受験を控えている。

 といっても既に学力は高校半ばあたりまで問題ないレベルなんだけどね(ドヤッ)

 進学先は誠城高校。言わずと知れた『天使様』の舞台だ。

 まあそれは置いといて、できる限り学業に影響のないように取り計われたのは事実。

 稽古期間はほぼ毎日稽古があるから、それがなかったら学校を休まねばならなかった。

 授業についていくならともかく、それをすると中々に出席日数がヤバかった。ただでさえ僕はちょくちょくこっち関連で休んでるから。

 とはいえ逆に言えば僕はそれだけ期待されており、その期待に応えられる演技をしなければせっかく上げた評価は地に落ちる。それが今の僕の立ち位置だ。

 

 

「────その割には深刻そうな顔が見えねぇが?」

「これでも役者ですから」

「これでももクソもなく役者だろ。他に何があんだ?」

「まったく、来年には華の男子高校生になる僕にその言い草は何ですか? 役者である前に学生で~す、若いんで~す」

「······お前が生徒になる教師に同情する。というかお前、実際は余裕だろ?」

「さてさて、どうでしょうかね?」

 

 

 はい、余裕です。ステゴロで呪霊と対峙するのに比べれば、評価が地に落ちる程度のプレッシャーなんて大したことない。だって失敗しても命はとられないからね!

 

 

 何より、黒閃を通して生得術式の理解を深めた僕は、演じることの何たるかを知ったんだと思う。

 僕にとってもはや演技と呪術は同義。

 ならこの程度、乗り越えられない道理はない。

 

 

  ○ ●

 

 

 そうして僕は一日一日と公演をこなしていった。

 公演中、公演後と観客の反応は良く、軽くネットの評価も覗いたがこっちも好評そうだったから、おおむね公演は盛況と言っていいのだろう。

 次が公演最終日。

 長いようで短くも感じた今日までを振り返りながら、僕は宿泊先のホテル周辺を散歩していた。

 

 

「ん? ────もしもし、どうしたの姉さん?」

『夕、今大丈夫ですか?』

「姉さんなら例え公演中でも大丈夫だよ」

『それはやめてください』

「冗談冗談」

 

 

 まったく、と電話越しに呟く声に安心感と懐かしさを覚えた。

 

 

『公演は順調みたいですね。明日が最終日ですけど体調とか崩してないですか?』

「うん、問題ないよ。むしろ回数をこなすごとに自分の演技が良くなっていくのを感じて、コンディションも最高って言えるくらいだね。何なら明日また姉さんに観に来てもらいたいくらいだよ。きっと明日は最高のパフォーマンスができる気がする」

『なら安心です。ですが流石に明日の公演にいくのは難しそうですね······距離的に』

「わかってるよ。流石に前日の今日にそんなこと言うつもりはないよ。来るならいくつか県を跨がないといけないしね」

 

 

 真昼は既に初公演の日に観に来ている。

 最初は東京の劇場で交通の利便性を考慮したのと、一番最初に観て欲しいという思いがあったからだ。

 とはいえ、やはりベストのパフォーマンスになるであろう明日を観て欲しいという気持ちを口にしないではいられなかった。

 

 

「まあ、公演は映像でも残すみたいだから、データ貰えないか聞いてみるよ。良かったらそれで見比べてみて」

『はい、楽しみにしています』

「うん、楽しみに────ッッ!」

『夕?』

「······ごめん、ちょっと目の前を虫が横切って驚いた」

『······もしかして外で電話してるんですか?』

「うん、散歩しながらね」

 

 

 転ぶと危ないですよ、と注意してくる真昼に応じながら、僕は冷や汗を流していた。それを悟られないようにしながら、僕はこの会話を終わらせるように話の流れを変えていく。

 

 

『────そろそろお開きにしましょうか。では夕、おやすみなさい。明日も頑張ってくださいね』

「うん、ありがと。────おやすみ姉さん」

 

 

 無事に通話が終わり、スマホをポケットに押し込む。

 電話しながら歩いていた僕はホテルの近くの雑木林辺りまで来ていた。

 問題は────

 

 

「まったく······繁忙期は過ぎて落ち着いてくる頃合いのはずなのに······。────何でこんなのが残ってんだよ」

 

 

 しっかりしろよ呪術界、思わずそう呟いた。

 人手不足とは聞くが、これがいることで生じる被害を考えると、文句の一つもつけたくなる。

 

 

「はあ······────仕方ない」

 

 

 ────闇より出でて闇より黒くその穢れを禊ぎ祓え。

 

 

 印を組み文言を唱えて帳を降ろす。

 

 

「────よし」

 

 

 雑木林を帳が覆ったのを確認する。

 夜とはいえホテルからそこまで離れてない以上、自分を探しに誰かがやってくるかもしれないからだ。

 

 

『────』

 

 

「悪いけど、明日も忙しいんだ」

 

 

 ────おとなしく祓われろ。

 

 

 そう言って僕は特級呪霊へと駆け出した。

 

 

  ○ ●

 

 

 一応は人型と言えなくもない姿に、身体の至るところについた目、人間の顔にあたる場所は生気のなそうな顔をした仮面が覆っている。

 

 

 それがこの呪霊の特徴だった。

 

 

(気づかれた)

 

 

 グリンと首が動き、仮面が走り寄る僕を捉える。

 身体にある目はまだ閉じられているようだが、全部開いたら更に不気味に映るだろう。

 

 

『デ、デデデデデデデデデデデデデ······ナンデェェ!』

 

 

「────」

 

 

 こちらの存在に気づいた特級呪霊は身体にある目をいくつか開き、早速術式らしき鎖を飛ばしてきた。

 

 

『ナンデェェ!』

 

 

 最初の鎖を躱すが、次から次へと鎖が飛んできて、いくつかは弧を描いている。

 

 

(────今)

 

 

 冷静に鎖を見極め、回避した鎖の一つを呪力を纏った手刀で破壊を試みる。

 

 

(固いな······)

 

 

 しかし鎖は多少歪む程度で壊れることはなかった。とはいえ────

 

 

(特級である以上想定内。おおむねアイツの特徴も掴めた······)

 

 

 再び飛んでくる鎖を避けながら、特級呪霊について整理する。

 

 

(────術式は思ったよりシンプル。目で見た場所に鎖を飛ばすもの。鎖は目につき一本でその長さは最大で十メートル強。基本的には真っ直ぐ飛んでくるが、鎖が伸びきる前に目線が動くとそれに合わせて鎖も曲がってくる)

 

 

 シンプルな部類の術式だが、身体中にある目は死角を作らず、その目の多さもあって中距離のレンジはほぼ向こうに握られた。

 

 

『ズルイ······ズルイッ!』

 

 

(また増えたか······)

 

 

 そしてさらに閉じられていた目が開き始め、鎖の数は増える。

 

 

「······っ。流石にちょっときつくなってきたな······」

 

 

 増えた鎖に回避だけで対処が間に合わず、いくらかを手で弾く。

 壊せなくても歪ませることができるのは最初に確認した。なら弾くことくらいは訳ない。

 だが、全ての目が開いていないのにこれだ。全部開いたらこっちの対処できる範囲を越えてくる。

 

 

(······仕方ない)

 

 

 ────夢幻呪法。

 

 

 己の術式でもって一度姿を眩ませる。

 

 

「さてと······」

 

 

 どうするかと考える。

 本来ならこのまま自分を見失った呪霊に近づき、近接戦で主導権を握るべきなのだが。

 

 

「あの目全部の視界に干渉すんのはしんどいなぁ······」

 

 

 実際、今は木の裏に隠れ、最低限の幻術の使用しかしてない。

 ついでに言えば、人とは色々と異なる部分のある呪霊には幻術が効きづらい時がある。下手に幻術を過信して近づいたら反撃にあったとか笑えない。

 更に相手は特級。

 火力に乏しい僕じゃ一撃で祓うことは難しい(・・・)

 

 

「────あれ? 目が閉じてきてる······そう言えば最初も僕のいる方の目が開くんじゃなくて仮面が先にこっちを向いたんだっけ」

 

 

 木の裏から顔をそっと出して相手の様子を窺っていたらそんな変化に気づいた。

 

 

「試してみよ────!」

 

 

『ナン、デェェェェェェェェェ!!!』

 

 

 木の裏から飛び出すと即座に仮面が僕の方を向き、身体の目が開く。

 

 

「知らんがな······夢幻呪法────」

 

 

 呪霊の叫びを雑に受け流し、今度はすぐに術式を使った。

 

 

「────なるほどね······」

 

 

 僕は今のでこの呪霊の行動メカニズムを完全に掴んだ。

 あの呪霊の身体の目は仮面に連動している。

 最初に仮面が対象を捉え、仮面に近いところの目がいくつか開く。そこから時間経過、それも仮面に捉えられている時間に比例して身体の目は開いていく。

 逆に言えば、仮面に捕捉されなければ身体の目も開かず、鎖が飛んでくることもない。

 ならば話は早い。

 あの仮面に捉えられることなく、近づいてドデカイのを入れる。何ならそれで仮面そのものを破壊してしまえばいい。

 僕の術式なら可能だとほくそ笑んだ。

 

 

 

(さて────じゃあやりますか。さっきより呪力を幻術に使ってるし(・・・・・・・・・・・・・・・・)、ちゃっちゃっと祓っちゃお)

 

 

 さっきとは別の木の裏に隠れながら、心のなかで呟く。

 最後にもう一度倒す算段を頭のなかで反芻し、僕は動く。

 大胆不敵、なのに胡散臭い、そんな笑みを張り付けて。

 

 

「────っ!」

 

 

 木の裏から飛び出す。

 ただし今度は幻術で仮面に捕捉されないようにしながら。

 今日一番の呪力で肉体を強化し、瞬きをしたらもう目の前にいる、そんな速度を出した僕は仮面とは反対から飛びかかる。

 

 

「終わりだ────」

 

 

 拳を握り、呪力を込め、腕を振りかぶる。

 

 

 

 

 

 

 ────グルリ。 

 

 

「は?────」

 

 

 何で?

 そう言う暇もなく目が開き、鎖が飛んでくる。

 

 

「ッ────このっ!」

 

 

 避けきれず、身体が拘束される。鎖を何とか引き千切ろうとするが、そう簡単にはいかない。

 

 

『ナンデ────』

「クソッ!」

 

 

 数秒かけて一つ鎖を引き千切る。

 

 

『ズルイ────』

 

 

 しかし、その間にまた目が開き、鎖が絡みつく。

 

 

「ッ────!」

 

 

『ジユウ、ズルイ────』

 

 

 もはや、僕はもうほとんど身体を動かせない。

 

 

『ナンデ、ナンデ。ナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデ────』

 

 

 そして遂にすべての目が開いた。

 

 

『ナンデェェェェェェェェェェッッッッッ!!!!!!!』

 

 

 呪霊は叫ぶ······いや、呪う。

 でも────

 

 

 

 

 

「ああ、やっぱりか」

 

 

 

 

『ッ!?』

 

 

 消える。

 

 

 鎖────ではなく、それに拘束されていた僕が(・・)

 

 

「悪いね、それは残像(ニセモノ)だ」

 

 

 

 そして僕の方が一枚上手だ。

 今さら気づいても、もう遅い。

 

 

 

 

「────術式反転・『霧散霧消』」

 

 

 

 

 

 





その頃の駄目人間さん


明日は最終日を迎える舞台公演を観に行く。
その日に知り合う少年と長い付き合いになるとはまだ知らない。
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