真昼の弟は転生者で、呪術師兼ララライの看板役者です。でも推しの子は知らない模様 作:水の虎
意外と呪術路線にならなかったな······
前話との関係上、期間を空けたくなかったので駆け足気味に描きあげました。もしかしたら後日、カバッと変えるところがあるかもしれません。
ところで九話よりこっちの方が章の終わりっぽく感じるのは気のせいか······?
ちなみに今回は全部三人称です。
夕が戦っていた特級呪霊は、社会的に追い込まれて自殺した者の念から生まれた。
世間からの目に、声に縛られ、何もできないどころか、その鎖は命すらも絞めつけてきた。
何で自分だけがこんな柵を背負わなければならない、何でお前らにはこの鎖がない、何で自由に生きているのだと、歪んだ感情は死後呪いへと転じ、特級呪霊『怨鎖』は生まれた。
それは術式にも影響を与え、見たものに鎖を飛ばすようになった。
その鎖は物理的な強度はもちろん、拘束した相手の呪力の操作を著しく乱してくるという厄介な性質を秘めていた。
だが、忘れてはいけない。
その術式を使うのは人ではなく、呪霊。
警戒するのは術式だけでなく、使い手が呪霊という事実なのだ。
夕が見抜いた通り、仮面に捕捉されると身体の目が開き、仮面に見られている時間に応じて他の目も開く。
さて、ここで問題だ。
仮面は
視覚?
確かに正しい。
しかし、もう一つある。
それは聴覚、つまり音だ。
何せこの特級呪霊『怨鎖』は、世間からの
「────悪辣だねー。その見た目で音に対する感覚も鋭いなんて中々思わないよ」
身体中にびっしりある目にシルエットこそ人っぽいが、耳のないその姿からは、到底音を拾って対象を捕捉するとは気づけない。でも────
「なんか露骨に見えたんだよねー。それに特級の割に妙に悪辣さを感じなかった。まあ、実際はそのあり様自体が悪辣だったんだけど······」
そう言って地面に転がる『怨鎖』を見る。
『ナ、ン······デェ······!』
「言ったでしょう? 露骨だって。僕はこれでも役者────誰かを欺くことに関しては一家言ある」
既に仮面くらいしか残ってない姿を見下ろしながら夕は口を開く。
「とはいえ、半信半疑だったよ? だから試してみた。────自分の
その結果がこれだ。
騙し合いで椎名夕が優れていた、ただそれだけだった。
「まっ、相性が悪かったってことで諦めな。────術式でも、騙すってことでも、ね」
残った仮面を踏み潰し、完全にこの世から消滅させる。
「他人事には思えない呪霊だったな······まあ、同情はしないけど」
世間体、柵、生前にしかないはずのものに、死後もなお捕らわれた。
あるいはそれもまた、呪いと呼べるのかもしれない。
○ ●
「ふぅ······」
舞台が自分一人だけになり、夕はそっと息を吐いた。
先程までの余裕を持った表情とは違い、今の彼は神妙そうな顔を浮かべている?
「······術式反転がなければきつかったな」
やっぱ火力ねぇな僕、と呟き、顔をしかめる。
────術式反転・『霧散霧消』
幻術を生み出し操るのが夢幻呪法の順転。
反転させた夢幻呪法は、あらゆるものを打ち消す。
それこそが椎名夕の術式────夢幻呪法だ。
当然呪力やら本人の技量やらに左右されるのだが。
とくに反転は強力だが呪力効率は悪く、特級を正面から消滅させるとなるとごっそりと呪力を持っていかれる。
これでも最初の頃と比べれば大分効率良く使えるようになったが、それでもまだ甘い。
「やれやれ······どうにか呪力効率上げないとね。となると────黒閃かな?」
最初に黒閃を出して以降、夕は一度も黒閃を出せてない。
それが当たり前だが、反転をもっと実戦の場で使うなら、黒閃によって呪力の核心に近づき、より効率の良い呪力操作を身につけるしかない。
「うへぇ、しんど······帰ろ」
当面の鍛練の内容を想像して気分が沈みそうになったが、一先ずは明日の公演を終えてからの話だと思い、降ろした帳を解いて帰路につく。
「すごい············すごいッ! あれが、夕さんの輝きの正体···その根幹にあるもの!」
誰もいなくなった雑木林に響く声。
声の主の眼には怪しい輝きが灯っていた。
「もしもあの命を────その輝きを奪えたら·········ふふふ、あはははははははッ! いいッ! すごくいいッ!」
口元は三日月のように歪み、その身体は歓喜に震えていた。
「────楽しみだなぁ······」
それに気づくものは夕はおろか、誰もいなかった。
○ ●
あくる日。
────パチパチパチパチッ!
拍手喝采というのをこれ以上なく表していた。
終幕した後もしばらく拍手は鳴り響き、劇場は未だに現実と空想の狭間にあった。
「······終わった~······」
主演、椎名夕は壁にもたれ座りながら天井を仰ぎ見た。
改めてすべてが終わり、今日までのことを振り返る。
「······当初の想像とは随分と違う場所に来たなぁ」
もちろん今でも当初の想いは薄れていない。
だが、描くビジョンが少し変わりつつあるのを彼は心のどこかで感じていた。
思えば昨夜特級呪霊を祓ったことだってそうだ。
以前の自分ならあそこで交戦する選択はしなかっただろう。
様々なリスクを天秤にかけて、きっと放置していたはず。
「────強くなったのかな······少しは」
それでもやはり、夕から不安は消えない。
いずれ待ち受ける地獄を知っているから、どうやっても楽観的になれないのだ。
けど少しずつ変わり始めてきている、望んだ未来の光景、そこにあるのは────
「まったく·········誰の影響なのかね·········」
それを知るのは本人のみ。
────多分ここが一つ目の岐路だ、選択の時は近い。
そんな直感を夕は抱いた。
その選択の結果はあと半年もすれば明らかになる。
だが願わくば、その道に幸があることを祈らずにはいられない。
○ ●
「······すごかったな······」
少年────藤宮周は呟いた。
彼は今日が最終日の舞台公演を観にきていた。
ちょっとした事情で人間不信気味になったことを心配した両親に気分転換として連れてこられたのだが、結果としてそれは正解だった。
生で舞台を観るのは初めて、しかしそんな素人から見てもわかる圧巻の演技に、気づけば周は引き込まれていた。
「椎名、夕」
特に際立っていたのが主演の少年。調べたら自分と同い年と知って驚いた。
主演だから目を惹くのでなく、彼だから惹かれる、故に彼が主演、そんな事実を如実に表していた。
────天才。
事前に耳にしていた評価を思い出す。
個人的に周はあまりその言葉は好きでなかった。まるで本人がしてきた努力を軽視しているように思えるからだ。
しかし、椎名夕に関してはそれがしっくりきた。むしろ彼に対しては陳腐なくらいだとさえ思えた。
端的に言えば周はたったの一回で魅せられたのだ。椎名夕という役者に。
(────にしても父さんも母さんも遅いな······迷ってんのか?)
両親は公演が終わると父は電話がかかってきて、母は化粧直しに席を外した。
周はそれを待っていたが、些か遅すぎないか? と感じ始めた。
「まあ、こんな人混みだからな······」
自分の前を通り過ぎていく人を眺め呟く。
最終日にも関わらず、いやあるいは最終日だからか、販売された席のチケットは完売したらしい。実際この公演のチケットを取った母親も結構取るのが大変だったと溢していた。
(────あっ)
前を通り過ぎる人を見ていると、不意に周は一人の女性のポケットから何かが落ちるのに気づいた。
女性はこの人混みのせいか落とし物に気づいてないようで、そのまま人の波に流されていく。
「······」
周は一瞬思案するも、すぐに人混みの中に身を投じる。
無理矢理流れに逆らって横切るために、人から顔をしかめられるが、周は気にせず落とし物のところまで進むと、サッと拾い上げて人混みから抜ける。
「······眼鏡ケースか」
それは品のよさそうなデザインの眼鏡ケースだった。
(────まだ追い付けるはず)
周は再び人の流れに身を投じ、うまく隙間を抜けながら前に進んでいって────
「あの!」
「はい?」
「これ、落としてましたよ······」
女性は「えっ?」と言ってポケットに手を入れて確認する。
「────あ、ありがとう······よかったぁ······」
女性はお礼を言ってくる。その顔は本当に安堵していた。
「いえ、気づけてよかったです」
「うん、本当にありがとう。これ、お母さんから貰った大事なものなんだ······本当にありがとう」
本当に大切なものだったのか、深く頭を下げてくる女性にちょっと周は慌てた。
「────ふぅ······」
その後、女性といくらか言葉を交わすとその場で別れた。
思った以上に感謝されたからか、少し気疲れをした周はそっと息を吐き出し、小休止する。
(······戻るより、連絡した方が早そうだな)
周はまた人の流れに逆らって戻るよりスマホで連絡を取った方が早いと考え、簡単な経緯と共に自分が劇場の出口付近にいることをメッセージにして送った。
「────見てたよ、優しいじゃん」
すると、横から声をかけられた。
「えっ? あ、ああ······」
「固いね? まあ、突然話しかけられたら当たり前か······。うん、ならまずは挨拶だね────」
周は目の前の少年の不思議なペースに何も言えなかった。
「────どんな女が好みだい?」
「······いや、初対面で聞くことか?」
というかそれ挨拶? と首を傾げた。
「僕にとっては挨拶だね。役者として顔を覚えて貰いたくてね、やっぱりインパクトは大事だよ」
「······生憎俺はそっちのことは詳しくないけど、役者だとそれが当たり前なのか?」
話しかけてきた役者を名乗る少年はフードを深目に被っているが、それでもわかるほどニヤリと笑う。
「いやこんな挨拶してるのは役者の中だと多分僕だけ」
「おい」
思わずそんな声が出たが、少年はカラカラと笑って受け流す。
「うんうん、いいね。無事に砕けてきたようで何よりだよ」
「何なんだよ、あんたは······」
疲れたような声を出す周とは対照的に、少年はニコニコとしているのが雰囲気からでも伝わってくる。
「さてさて、名残惜しいけどそろそろ行かないと。────良かったら連絡先交換しない?」
「······突飛が過ぎないか?」
「そうかな? 僕は君と長い付き合いになると思うから遅いか早いかの違いだと思うよ」
「何を根拠に······」
「勘」
「駄目じゃねぇか」
「えー、いいじゃん。あ、もしかして僕が本当に役者か疑ってる? よしわかった、このフードを取ろう。名前も名乗るからネットか何かで確認してね~」
いや別に、そう言う前に少年はフードを取った。
「────僕は椎名夕、劇団ララライ所属の役者だよ」
「··················································は?」
赤みがかった茶髪に整った顔立ち、浮かべる笑みは大胆不敵に見えるが、なんとなく胡散臭さも覚える少年────椎名夕。
「はいコレ、僕の連絡先。さっきから呼び出しの連絡が滅茶苦茶来てるからそろそろ行かないと────」
そう言って夕はメモらしきものを渡してくる。あまりの事態に呆然とし、思わずそれを受け取ってしまう。
夕も夕で時間がないのは本当なのか、些か落ち着きがない。
「────そうだ、まだ名前を聞いてなかったね」
挨拶はしたのにね~、と笑うその様子に、実はやっぱりそこまで急いでないんじゃね? と思った。
「それで君の名前は?」
「······周、藤宮周だ」
「藤宮周だね────うん、覚えたよ」
何が嬉しいのか、夕はうんうんと機嫌良さそうに頷く。
「じゃっ、僕は行くよ────じゃあね、藤宮ちゃん」
「お、おい······!」
駆け出すその背中に思わず声をかける周。
それが届いたのか、はたまた別の理由か、いくらか進むと夕は止まって振り返る。
「それと、ちゃんと連絡ちょうだいねー!」
社交辞令とかじゃないからねー! それだけ言うと今度こそ夕は走り去っていった。
────そうして、また季節は巡る。
椎名夕
この作品の主人公。
転生者にして、呪術師兼ララライの看板役者(になった)の少年。
術式の関係上か、彼の呪術師としての実力と役者としての実力は連動している。
そのため幼少期までは割と普通だったが、そこから徐々に年を重なるにつれ、言動がぶっ飛んできた。
果たしてイカれたから呪術師(と連動して役者)としての実力が上がったのか、それとも実力が上がったからイカれたのかは神のみぞ知る······。
周と会った時の内心
(アレ? なんか見覚えあるな······って、周じゃん! ここで話しかけない選択は僕にはない! さあ! 君の好みは? ······かー! 周らしい反応! それでいい、二年後には答えられるようになるからね! ······ヤッベ、金田一さんから鬼みたいに着信来てる。クソ······せめて連絡先をプリーズ、藤宮ちゃん!)
その頃のアイドル様
もうすぐデビューライブが控えている。
レッスンは大変だけど、ある目標のために頑張っている。
休憩中はネットで夕の評価を覗き、「そうでしょ、夕は凄いんだよ」となっているとか。
次回、時系列が一気に飛びます。