真昼の弟は転生者で、呪術師兼ララライの看板役者です。でも推しの子は知らない模様 作:水の虎
ありがとうございます。これも皆様のお陰です。
実のところ番外編の『特級爆破物・椎名夕』の中であった夕が真昼に本音(と見せかけた嘘)の描写から十五話のラストのシーンができあがりました。あれ実は夕本人さえ気づいてないけど、実はやっぱり嘘ではなく、無意識のSOSだったんですよね。
だからこそ、思いつきで描いたのは間違いありませんが、十五話の夕との温度差を感じて欲しく、二つの番外編と一緒に投稿した経緯があります。
つまり何が言いたいかって?
十五話のラストは当初まったく想定してなかったのに、滅茶反応良くて、果たして今回描いた話が期待に添えるのかプレッシャーがエグかった!
今回、初めて作者はプレッシャーを感じながら描きあげました。
だ、大丈夫ですよね······?(震え声)
真昼の······姉さんの心は救われた。
良かった······本当に良かった。
なのに······。
────何で僕は笑えてない······?
鏡を見る。
そこには僕の顔があった。
そう、
確かに笑顔は作れてる。
でもそこには心がなかった。
身体に刻まれたプログラミングが表情筋を動かしただけ。
ただ、写真を張り付けただけの作り笑い。
もちろん僕だって必要に応じてそんな笑顔を作ることはある。
でもそれは意図的にそうしていただけ。
今はちゃんと笑おうとしている。
真昼が、姉さんが救われたことを喜ぼうと······。
なのに心が、感情が、動かないのだ。
浮かべる表情とそれらが一致しない。
今まで連動していたものが空回りし、離れてしまったのに、そのまま置いていかれたような感覚だった。
「は、はは·········」
思わず乾いた声がもれる。
声だけじゃない。
気づけば全身が乾いていくのを感じる。
────何やってんだろ、僕······。
○ ●
「────ん······」
気づけば朝を迎えていた。
寝た覚えはないが、いつの間にか意識を失っていたらしい。
窓から差し込む朝日に目を細め、時間を確認すると、いつも起きる時刻と寸分変わらなかった。
(······こういう時でも身体はいつも通り動くのか────)
ぼんやりとそんなことを考えていると、ふと気になったことがあった。
「────·········そっか」
試しに呪力を練り、流してみると淀みなく身体を巡るのを感じる。
それに僕は頷くと、そっと立ち上がった。
「なら十分だね────」
真昼が、その心が救われた今、僕に心はいらない。
でも、まだやるべきことは残っている。
いずれ訪れる地獄と、いつ何時でも世に蔓延る理不尽、それから真昼の命を守る。
────まだ折れてはいられない。
強く、強く、ただ強く。
だから僕は、再びそれに手を伸ばす。
「夢幻呪法······」
────拡張術式・『追想』
上書きされる想い、しかしそれは心の表層を覆うだけ。
でもそれで構わない。
仮初めの心でいい。
「────さあ、行こう。ここからは一人だ」
浮かべた笑顔が鏡に映る。
その笑みは────
────とても歪なものだった。
○ ●
それから僕は、時間の許す限り任務を受けた。
止まってる暇はない。一秒でも速く、強くならないと。
それが僕の存在する意味······。
────本当に?
そもそも僕がいなくたって真昼は救われた。
実際に僕がいて何が変わった?
「······それでも」
そしてそれはこっちでも同じ。
僕がいて何ができる?
僕じゃ未来の地獄は変えられない。
仮にいい方向へと進んでも、それは僕以外の誰かのお陰。
椎名夕がいる意味などない。
「ッ────『追想』!!!」
────誤魔化すなよ。
「うるさい黙れ······」
────本当はわかってるんだろ?
「黙れといった!!!」
内から湧いてきた何かにがなる。
「それでも僕は······僕は······!」
進むしかないないんだ、この道を·········。
○ ●
「────夕、最近任務をよく入れてるそうだが大丈夫なのか?」
「······ええ、問題ありません」
「聞いた話、役者としての活動と平行しているそうだが?」
「確かにそれは事実ですが、ちゃんと自己管理はできてます」
「······そうか、お前がそう言うなら一先ずは納得しておこう。だが、今のお前は俺からすると無理しているように見える。何かあったらすぐに言え」
「······はい、ご心配いただきありがとうございます、夜蛾先生」
会話を終えると僕は席を立つ。
(まっ、確かに身体は絶不調だけどね······)
だけど、呪力に対する感覚は今までにないくらい研ぎ澄まされている。
どうやら一致しなくなったのはプラス方面の感情だけで、負の感情については問題ない······というより、一層うまく扱えるようになってる気がする。
────都合がいい。
僕の心にあるのはそれだけだった。
そのお陰もあってか、ここ最近は黒閃が割と出るし、連続してできたこともしばしばあった。
呪力の核心に近づき、僕はより深い場所へと行ける気がした。
────もっと先に······。
○ ●
「······センパイ最近何かあった?」
「残念ながら取り立てて面白いことはなかったよ残念ながら」
「いや、そうじゃねぇよ────」
じゃあ何を聞いてるの? そう言おうとする前に五条が口を開いた。
「────センパイ、疲れてんのか知んねぇーけど、いつもと違って何か変だぞ?」
まあ、何がって言われるとわかんねぇーけど、そんな五条の言葉に僕は驚いた。
「·········五条、お前····································いつの間にそんな人を気遣えるようになった?」
「キレるよ?」
「冗談だよ」
ったく、と不機嫌な顔して僕の作った料理を頬張る彼を見つめながら、僕は内心で少し動揺していた。
(流石に五条に気づかるのは、些か気を抜きすぎたか······)
夏油が任務でいなくて良かった、そう思いながら気づかれないようにため息をつく。
(明日はララライで稽古あるし、いつもより気合い入れよう)
そんなことを考えながら僕は後片付けを行う。
少しずつ綻びが生まれているのに気づかぬまま······。
○ ●
「椎名、止めろ」
今日何度目かの金田一さんの声が飛ぶ。
「······珍しいな、椎名がこんなに止められるなんて」
「確かに。もしかして調子でも悪いのかな?」
「どうだろ? でも確かに最近忙しそうではあるよね。稽古終わったら直帰してるし······」
そんな同僚たちが話し合う声が聞こえる中、金田一さんが僕に近づいてくる。
「────椎名、お前今日は帰れ」
「······理由を聞いても?」
「わからないか? 今のお前は明らかに精彩に欠いている。今日のところはとっとと帰って休め。無駄にしかならないことをやって無理して倒れられたら敵わん」
「······わかり、ました」
そうして僕は荷物をまとめると、帰路についた。
けど、休むつもりはない。
「────ここか」
その夜も僕は任務を受けた。
既に崩壊は始まっているのに······。
○ ●
「っ·········」
不甲斐ない、まったく不甲斐ない。
まさか準一級を相手に今さら負傷するとは。
「ッ!?────椎名三級術師、大丈夫ですか!? その傷は······」
「大したことはありません。呪霊も祓えました。報告と違って三級ではなく、
補助監督にはそう伝える。ここで準一級を祓ったなんて言うと面倒だ。
「で、ですが······」
「すみません。明日の稽古にこれで参加するわけにはいかないので早く高専にお願いします。家入に治療をお願いしたいので」
「······わかりました、すぐに」
補助監督も僕の事情を理解しているからか、すぐに車を出してくれる。
「────はい、これでいいっすよ夕先輩」
「うん、ありがとう家入。助かった」
「いえいえ大丈夫ですよ~······ところで夕先輩、私プリンが食べたいです」
「わかったわかった、今度作るよ」
やりぃ、と言う家入に僕は苦笑を浮かべる。
「────あ、でもそんなすぐじゃなくていいですよ? 先輩最近疲れてるでしょ? 顔に出てますよ」
「······」
「先輩?」
「いや、何でもないよ······。心配してくれてありがとう家入。お言葉に甘えて時間が空いた時に作らせてもらうよ」
それだけ言って僕は逃げるようにその場を去る。
○ ●
(────反転術式が使えなくなってる······)
負傷したのは不甲斐ないが、それでもその反省を次にいかそうと反転術式の治癒を行使しようとしたら何故か使えなかった。
呪力は相も変わらず淀みなく身体を巡らせられる。
なのに何故か反転術式が急に使えなくなったのだ。
────どうにかしないと。
そんな思いに突き動かされ、既に深夜になった高専を抜け出し、僕は反転術式の使用を試みる。だが────
「ッッッ·········!!!」
できない。
なんで······?
焦りと困惑が脳裏をよぎる。
「────随分と荒れているね」
「······九十九さん?」
「久しぶりだね、夕」
「······お久しぶりです。帰ってきてたんですね」
海外に行っていると聞いていたから素直に驚いた。
「高専での生活はどうだい?」
「それ、去年あたりに高専に入学したと知った時も言ってましたよ?」
「師匠に近況の一つでも聞かせろまったく······」
「······」
やれやれと呆れた様子を見せる九十九さんに僕は口を噤んだ。
「何があった?」
「別に何も······」
「それは何もない人間が言うことじゃないよ」
「······ちょっと疲れてるだけですよ。役者としての活動と呪術師としての任務に」
「以前は片方に集中できるように被らない予定を組んでいると聞いたが?」
「どっちも今が重要な時期なんですよ······」
「役者の方は知らないが、呪術師としてもか? 確かに繁忙期と言えば繁忙期だが、夕はそこまで色々と削ってまでやる男じゃないだろ? 呪術師としての自分は所詮手段の一つと割り切ってきたはずだ」
目を逸らす僕に九十九さんはそう言ってくる。
「────うるさい」
「夕?」
「ちょっと一時期手ほどきしてたからって僕の何を知ってるんですか? 知った風な口を聞かないでください。僕は強くならないといけないんです。·········そうしないと、僕は······」
「お前·········」
「話は終わりです。僕はもう行きます」
これ以上話してたら余計なことを言いかねない、そう思った僕はその場を立ち去ろうとする。
「────今のままだと遠からずの内に死ぬぞ」
背中に声がかかる。
「それが? とっくの昔に覚悟済みです。呪術師なんですから」
「······止まるつもりはないんだな?」
「ない。もう止まれないんですよ。この道を進むことだけが、そこに殉じることだけが今の僕の存在意義です」
それだけ言って今度こそ僕は立ち去る。
「────今のお前に呪術師は向いてないよ······夕」
もう何を言われても無視して行こうとしたのに、その言葉が一瞬僕を縫い止めた。
その否定は想像以上に僕の心を揺さぶった。
「·········ッ」
それでも、揺れる心を押さえつけ、僕はその場から逃げ去るのだった。
○ ●
「────椎名、ちょっと来い」
あくる日、ララライの稽古に参加していた僕は金田一さんに呼び出された。
ついてこい、と言って歩き出す金田一さんの背中を追うと、誰もいない部屋に連れてこられた。
「────単刀直入に言う。椎名、次の公演はお前を外す」
「·········はっ?」
予想外の言葉に僕は呆ける。
「何でッ!?」
「元々、お前がここのところ公演に立て続けに出てたことを問題視する声があった」
「でも! どの公演も最高以上の結果を出しました!」
思わず僕は食い下がった。
「そうだな、俺も、いや俺だけじゃなく全員がそれを認めるところだ。今回の公演もお前ならって声もあったし、俺もどっちかと言えばそっちよりだった」
「なら!」
「────けど最近のお前を見て、それはやめておいた方がいいと思い始めた。そして今日······」
それを確信した、その金田一さんの言葉に納得がいかず、さらに詰め寄ろうとすると────
「普段のお前ならここで軽口の一つや二つ叩いてるはずだぞ?」
「ッ!!!」
「この際はっきり言うぞ────今のお前なら
「ぁ、っ······」
「別に攻めてる訳じゃねぇ。お前だって人間なんだから疲れだってする。不調やスランプにだってなる。とにかく今は休め。稽古にもしばらく
金田一さんが何かを言ってるが、そのほとんどが僕の耳に入らなかった。
────いてもいなくても変わらない。
────来なくていい。
この言葉が耳から離れない。
そっか僕は·········
まさかのとどめを刺したのは金田一。
さて、暗い話はここまでで、次回、あの人が登場します。
冒頭でも触れましたが、今回の話が皆様の期待に添えていたら幸いです。
次回の投稿は早ければ今日の深夜中、遅くても明日の昼過ぎまでには出せると思います。
その頃の隣人カップル
既に熟年夫婦の域に達している。未だに主人公に交際のことは伝えられてない。
しかし、ここ最近彼から連絡が一切なく違和感を覚え始めてる。
その頃のアイドル様
連絡しても返信が来なくてガチで落ち込み始めている人。
彼との邂逅は秒読み状態。
果たして彼女は·········。