真昼の弟は転生者で、呪術師兼ララライの看板役者です。でも推しの子は知らない模様   作:水の虎

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はい、描きあげました。
これも地味に期待に添えたか不安ですけど、まあ、やってやりました。
ちなみに会話文・地の文共に俺と僕が混ざってますけど、誤字ではないのであしからず。


第十七話○

 

 

 あれから何をどうしたのか覚えてない。

 気づいたら僕は町を歩いていた。

 何を標とすることなくただ彷徨い、先の見えない闇夜に呑み込まれていく。

 そうしてとある公園(・・・・・)に辿り着いていた。

 転がるように座り込み、空を見上げた。

 

 

(······何でこんなに動揺してるんだ僕は······?)

 

 

 所詮役者の活動だろ? そう思う一方で、未だに僕の心には棘が刺さったままだった。

 そのままぼんやりと空を見上げ続ける。

 今日の空には星どころか月もない。

 何もかも暗い帳が夜を覆っていた。

 

 

(────嗚呼、そうか······)

 

 

 ────僕にとって役者は人生で初めて何かを達成したものだったんだ。

 

 

 始まりはただ呪術を突き詰める延長線上、術式の理解を深め、より上手く使うためのきっかけ作りでしかなかった。

 でも、気づけば楽しさを覚えるようになって、もっと色んなことをしていきたいって思って、いつしかかけがえのないものとなっていた。

 真昼のためとか、未来のため、呪術のためとか関係なく、自分で自分を認められたのは実は役者としての自分が最初だった。

 

 

 だから、呪術師として還元できることはなくなったのに役者であることに拘った。

 だから、強さ以外を切り捨てようとしたのに、やめられなかった。

 だから、必要がないと言われてここまで心が揺らいだ。

 

 

「はは······ひでぇ······初志貫徹なんてクソほどできてねぇ·········フラッフラッじゃねぇか·········」

 

 

 でも今それも失いかけてる。

 きっと僕がこのままなら、次どころか永遠に役者として舞台に上がれない。

 まあしょうがないか。だって僕はこんなんなんだし。

 

 

 はは、はははは······。

 乾いた笑い声を漏らしながら、僕は背中を預けていた遊具か何かに手をついて立ち上がる。

 

 

「······」

 

 

 あの時から心が乾いているはずなのに、何かが一気にあふれ出してくる。

 

 

 ────あああああああああああああぁぁぁぁぁぁっっっっ!!!!!!!

 

 

 気づけば僕は喉が張り裂くように叫んでいた。

 

 

 そうしてまた力が抜けたように座り込み、俯いた。

 

 

(もう何もかもどうでもいいや······)

 

 

 既に立つ気力がなかった。

 所詮誤魔化していただけの、ハリボテ同然だった心には何もなかった。

 磨耗しきってしまった心には何もない。よしんばあったとしても、それを見つけられる気がしない。

 自分の感情の在処を、本心が何だったかを忘れてしまった僕には何もできない。

 いや、そもそもそんなもの本当にあるのだろうか?

 

 

 そんな思考に捕らわれ始めていたその時────

 

 

 ザリッ。

 

 

 誰かの気配を感じ顔を上げた。

 

 

「────夕?」

 

 

「·········ア、イ·········?」

 

 

 そこには、一番今会いたくない少女が立っていた。

 

 

  ○ ●

 

 

「夕!」

 

 

 座り込む僕に彼女は大声を出しながら駆け寄ってくる。

 

 

「夕、どうしたの!?」

 

 

 割とマイペースな彼女にしては珍しく、焦り、余裕のなそうなその姿を他人事のように眺める。

 

 

「別に何ともないよ·········。ちょっと気分が悪くなって休んでただけ」

 

 

 そうかぶりを降り、僕は立ち上がる。

 

 

「っ······っと」

「全然大丈夫じゃないじゃん」

「·········」

「ほら、とりあえずこっち」

 

 

 肉体的な疲労か、はたまた精神的なものか、よろけた僕をアイが支えた。

 そのまま目を逸らし、口を噤んでいたらアイが手を引いてきた。

 とくに抵抗はせず、されるがままにいるとベンチに座らせられた。

 

 

「はい、これ」

「······」

 

 

 僕を座らせたアイはすぐそこの自販機で飲み物を買うと、戻ってきて僕に差し出す。

 無言でそれを受け取ると、彼女は隣に座ってくる。

 

 

「────落ち着いた?」

「······別に元々取り乱していたわけではない」

「嘘。私がここにきたのは叫び声が聞こえたからだもん」

「······何でアイドルがこんな深夜に出歩いてんだよ」

 

 

 まだ未成年だろ、そんな悪態をつくが────

  

 

「夕だって未成年じゃん」

「······」

 

 

 当然のことながらそう返される。

 

 

「じゃあ何でそもそも出歩いてるんだよ? しかもこんな公園の近くを」

 

 

 役者として動くために僕が借りていた部屋はここから結構な距離があるし、この近くにコンビニはない。散歩にしても、何かを買いに出かけるにしても何故この近くにいたのか気になった。

 

 

「────夕のせいじゃん······」

 

 

 しかし返ってきたのはジト目のアイのそんな言葉だった。

 

 

「いや、俺のせいって······」

「だって最近全然会ってくれないし────」

「いや、それは······」

「ならせめて電話って思って電話しても出ないし────」

「だから······」

「極めつけにはメールしても一ヶ月以上返信がないままなんだけど、何か?」

「·········」

 

 

 確かにあの日から彼女と会うのは避けていたし、それを含めて色々なものを忘れようと任務とかを入れまくったからプライベート使いのスマホはまったくと言っていいほど見てない。

 思わず目を逸らす僕だが、ふとあることに気づく。

 

 

「────いや、でも·········それと出歩くこととは関係なくね?」

「────」

「な、何だよ······?」

 

 

 再びジッとこちらを見てくるアイに僕はたじろいでしまう。

 

 

「────だったらせめて思い出にちょっと浸ろうって思ったの」

 

 

 そう言ってプイッとそっぽを向くアイ。

 いや、思い出って······。

 そんな僕の様子に彼女は仕方なさそうにため息をつく。

 

 

「·········もしかしたらと思ってたけど、本当に気づいてないの? ここ、私と夕が初めて会った公園だよ」

「えっ?」

 

 

 予想外過ぎる言葉に思わず周囲を見回す。

 夜となって大分印象は異なるが、確かに見覚えがあった。

 

 

「────あの時とは逆だね。今度は夕が嘘をついて、それに私が気づいた」

「······」

「前にも言ったけど、夕がいたから今の私がいる。あの時が私にとっての始まり。だからここに来たの」

 

 

 まさか本人がいるとは思わなかったけど、と彼女は空を見上げながら言う。

 星の見えない夜の代わりとばかり、いや、それ以上に彼女の瞳は輝いていた。まるで夜空の星たちすべての光がその両目に宿ったかのように。

 

 

「だからさ夕、今度は私の番だよ」

 

 

 ────聞かせて? 夕が今何を思ってるのか。

 

 

 ······違うな、星がすべて集まったというより、何物にも負けない一番星が彼女なのか。

 場違いにもそんなことを思った僕は、気づけば胸の内を吐露し始める。

 

 

 まるで星に願いを込めるように────

 

 

  ○ ●

 

 

「俺はさ、アイ────」

「うん」

 

 

 自然と口は開くが、さて何を話すか、何から話していいかわからなかった。

 でも、不思議と次の言葉はスルリと出てきた。

 

 

「大した人間じゃないんだよやっぱり······」

「······」

 

 

 無言の彼女に促されるようにぽつりぽつりと僕は語る。

 

 

「でもある時、欲しいものが見つかった······いや、違うな。どっちかと言うと失いたくないものかな? それ以外は何もいらなかった。ただそれだけを求めて僕は走り出した」

 

 

 それがきっと俺の原点。

 

 

「·········だけど、順調に進んでいたつもりだったけど、全然そんなことはなかった。突きつけられたんだ、自分の至らなさ、不甲斐なさ、そして弱さを」

 

 

 ────だから仮面を被ったんだ。

 

 

「仮面?」

「うん、仮面だ。その時が来るまで決して外れない仮面。それがあれば何でもできる気がした。何にでもなれる気になった。······まあ、実際は虚勢みたいなものだったんだけど」

 

 

 本当の自分はきっと弱くて、情けなくて、何もできない。

 

 

「そうやってまた歩き始めて、そうだね······ちょっとだけど自分を認められるようになったんだ。何一つ顧みるつもりはなかったはずなのに、気づけばそれを求め始めてる自分がいた」

 

 

 でも、それは果たしてどっちの自分によるものだとも思った。そしてそれから目を背けて進み続け────

 

 

「いつしか自分がわからなくなっていた。でも、せめてもう少しだけとそれを続けて、遂にその時がきた」

 

 

 夢は覚め、現実に晒された。

 

 

「気づいたときには手遅れだった。混ざりきってしまって、何が何だかわからなくなって、自分の本心すらわからなくなってしまった」

 

 

 嘘と真、その境界線が見えなくなった。

 

 

「それでも、唯一、自分の存在意義があった。まだやることがあって、そのためにまだ止まるわけにはいかない······そう思う一方でそれは僕じゃなくてもいい、誰だってできることなんじゃないかとも思った」

 

 

 必死にそれを押し殺して、脇目も振らず走ったが────

 

 

「やっぱり僕じゃなくても、必ずしも僕じゃなくていいんだってどんどん思えてきて、何で自分がここにいるんだろうってなった」

 

 

 ────ただ、それだけの話だよ。

 

 

 つまらないだろ? そう言わんばかりに締めくくった。

 

 

  ○ ●

 

 

「·········」 

「·········」 

 

 

 夏を向かえた夜の公園。

 すべてを語り終えた僕たちの間には沈黙が流れていた。

 

 

「────これが僕という人間だよ、アイ。情けないでしょ? 君に散々愛とは何だと教えていたのに、実際は自分の心一つままならない男·········失望「してないよ」······何で?」

  

 

 遮るようなアイの言葉に思わず彼女を見る。

 

 

「私は夕みたいに頭良くないし、馬鹿だから、思ったことだけを言うね」

 

 

 そう前置きして彼女は口を開く。

 

 

「────初めて会ったとき、夕は言ったよね。私たちより大人の人でも『愛』をわかっている人はほとんどいないって」

「······そんなこともあったね」

 

 

 というかよく覚えてるね、と言うと彼女は微笑み、続けた。

 

 

「実際私もアイドルをやって、色んな人を見てきてわかった。確かに夕の言う通り、みんな『愛』をわかってないんだって。でも、みんなそれをわかったふりをする(・・・・・・・・・)。わかっている風に振る舞って、嘘をついて誤魔化してる。だからみんなわからなくなっちゃうんだと思う」

 

 

 ────今の夕とちょっと似てない?

 

 

 彼女はそう切り出してくる。

 

 

「────私もさ、それを知って余計にわからなくなった。『愛』ってそんな曖昧なものでもいいのかって」

 

 

 すると、彼女は突然立ち上がる。

 

 

「でもさ────でも······私は考えたんだ。それが見つかった時のことを」

「見つかった時のこと?」

「うん」

 

 

 空に向かってアイは手を伸ばす。

 

 

「────それがどういうものかわからない。でもそれが見つかった時、心から私が『愛』をわかる時が来たら、その時は夕と一緒にいたいと思った」

 

 

 手を下ろし、後ろに組むとクルリと上半身だけこちらに向けてくる。

 

 

「『愛』も、夕の言ってる本心もさ、きっとそれを一緒に見たい、共有したいって時、一番大きく輝くと思うんだ」

 

 

 気づけば彼女は、アイは僕の目の前に来ていて、その両手を頬を添えてきた。

 

 

「そうやって考えて私は『愛』がわかった。私にとっての『愛』が······。夕といる時、私は私の中の『愛』を感じる。それがきっと私にとっての本当の『愛』」

 

 

 視界一杯に広がる星が僕を射貫くのを感じる。

 

 

「────ねえ、夕? 夕が心から笑えた時、本心を見せられる時ってどんな時? それがわかればきっと夕は取り戻せるよ、心だって、何だって······ね?」

 

 

 それを聞いて、僕は────

 

 

「誰と一緒に······どんな時に······」

 

 

 真っ先に浮かぶのは生まれた時から一緒にいた自身の半身とも言える双子の姉。

 そうだ、ただ真昼が笑って、幸せになって欲しいと思った。

 そして彼女の隣には周がいた。

 やってみると、案外色々と思い浮かんできた。

 中にはどこぞの最強コンビや、彼らに振り回される先輩、その横でやれやれと首を振っている未成年喫煙者もいた。

 そしてそんな中で自分の隣には────

 

 

「······」

「夕?」

「────ッッッ!」

 

 

 脳裏に浮かんだそれを知覚すると、思わず飛び退いていた。

 

 

「ええ! ちょっと夕! 何で急に離れるの!」

「······アホか。よく考えたらさっきまでの体勢、撮られたら一発アウトだよ」

「へぇ~······ふーん」

「······何だよ?」

「────もしかして、私のこと意識した?」

「······」

 

 

 ペコッ!

 そんな彼女に僕はデコピンをかました。

 

 

「いったぁ! ······夕、何するの!」

「調子に乗りすぎ」

「む~、何さ! さっきまであんなに落ち込んでた癖にー!」

 

 

 キィィ! というオノマトペが見えそうな怒り方をする彼女に僕は久方ぶりに苦笑した。

 

 

「まだちょっと年齢が足りないね。せめて十六歳になってから出直して来なさい」

「へぇ······つまりあと一年したらしてくれるんだ?」

「さあ、どうだろうね?」

 

 

 自然と(・・・)煙に巻くような笑顔が浮かんだ。

 

 

「むー、夕のポーカーフェイスずるくない?」

「これでも役者だからね。アイドルとはいえ、妹分(・・)にこの分野ではまだまだ負けないよ」

「妹分·········」

「おや、どうしたんだいアイ? 何か言いたそうな顔をしてるね」

「ふーんだ! 夕のバーカバーカ!」

 

 

 子どもかよ、と不満げに走り出した彼女を見て思った。

 

 

(まったく······)

 

 

 妹分だと思っていた(・・・・・)

 けど、どうやら違っていたらしい。

 早くなる脈が、高まる体温が、高揚する心が(・・)、如実にそれを示す。

 

 

 真昼は恋をして、呪いを解いた。

 そして、今僕もまた────

 

 

 まだ微妙に心に色々と追いついてない。でもすぐに追いつくと確信した。

 

 

(────呪い合うとはよく言ったものだね······。恋は呪いを解くかもしれないけど、それと同時に新たな呪い()を植え付けてくる)

 

 

 アイが走り出した方に僕も歩き出す。

 

 

「·········ッ────」

 

 

 彼女もすぐに走るのをやめ、僕が来るのを待っていたらしく、前を歩く彼女はチラチラとこっちを見てくる。

 歩幅を大きくし、足を気持ち早めに動かす。

 

 

「────果たしてこれを隠し通せるかね」

 

 

「? 何か言った夕?」

「何でもないよ」

 

 

 並んだタイミングで彼女がそう言ってくるが、そっとかぶりを振る。

 まだ、言えない。

 少なくともゆっくりと、これに関しては考えなければいけない。

 

 

(この期に及んで······まさか更に隠し事が増えるとはね······)

 

 

 それでも、不思議と悪い気はしなかった。

 そうして見上げた空には、少しずつ光が顔を見せ始めていた。

 

 




はい、という訳でとうとう主人公はアイドル様によって救われ(脳を焼かれ)ました。
まあ、話数で言えば数話なんですけどね。
とりあえずしばらくは投稿頻度は落ちると思います。
あ、でも近日中に会話集が投稿できるかもしれません。
まっ、そこら辺はすべて作者の気分です(適当)



椎名夕

この度無事に立ち直ったけど、何か更に隠し事が増えた人。まだ完全じゃないけど、そう遠くない内に元に戻る一方で、新たな呪いを宿し、割と頭を抱えてる。
ヘタレだと? うるさい、色々と整理させろ馬鹿。お互いの立場のこととか、未来のこととか色々あるだろ。
このように認めてるのか、認めてないのかイマイチ判断がつかない呪術師兼看板役者。


星野アイ

告白どころかプロポーズ染みたことを言ったのに、流された上に妹分扱いされた人。そこら辺を含めた不満をぶつけるかのように埋め合わせとして、後日滅茶苦茶主人公を振り回した。
別にいいもん。まだまだ時間はあるし、最悪は······。
十六歳になったら何を仕出かすか、色々と予想のできない(できる)現役アイドル様。
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