真昼の弟は転生者で、呪術師兼ララライの看板役者です。でも推しの子は知らない模様 作:水の虎
今回の話は番外編にして、さくさく本編を進めようと思いましたが、箸休め回としてやっぱり入れることにしました。
······タイトル変えた方がいいかな?
『────ねえ、夕? 夕が心から笑えた時、本心を見せられる時ってどんな時? それがわかればきっと夕は取り戻せるよ、心だって、何だって······ね?』
自分のずっと後ろにいると思っていた少女が、気づけばすぐ近くまで来ていた。
いつまでもといかなくても、まだまだ時間がかかると思っていたのに、その夜、蹲っていた僕を引っ張り上げたのは彼女だった。
そんな彼女に魅せられて、もう一度前を向いて歩けるようになった。
あんなにも重たかった心は、以前よりずっと軽くなり、また一歩踏み出そうと思った今日の僕はしかし────
「あー············」
身体が滅茶苦茶重たかった。
一夜明け、朝になった僕を最初に出迎えたのはとんでもないほどの気だるさだった。
ピピピピッ
「·········」
電子音がなり、体温計を取り出す。表示された数値は三十九度、まごうことなく風邪だ。
「────夕~、熱測れたー?」
アイが部屋に入ってくる。
「ん·········」
「あちゃー、完全に風邪だね」
差し出した体温計を見てアイが呟く。
間違いなくここ最近の無理が祟った結果だろう。
幸いにもしばらく予定は何も入ってない。
きっとアイがいなかったら適当に今日も任務を入れて、無茶してどっかでぶっ倒れていたんだろうなと思う。
「────夕·········聞いてる夕?」
「ん、なに······?」
「食欲はあるかって聞いたの?」
ぼんやりと考えていたら、アイの声を聞き流していたらしい。食欲·······。
「·········少し」
「オッケー、ちょっとお粥作ってくるね」
「ごめん」
「いいよいいよ、夕はゆっくり休んでて。あっ、水とかここ置いとくよ」
「ん······」
再び出ていくアイの背中を見送る。
すると、また眠気が押し寄せてきて────
○ ●
「あ、起きた?」
「んぅ······アイ?」
「ふふ、今日の夕は随分とユルユルだね~」
「······からかうな」
「あ、戻った」
どうやらいつの間か眠っていたらしい。
「······どれくらい寝てた?」
「二時間くらいかな」
思ったより身体はすっきりとしていた。頭もさっきより全然回る。
「────お粥、食べれそ? 食べれそうなら温め直して持ってくるけど」
「······食べる」
「はーい、じゃ、ちょっと待ってて」
そうしてしばらくしてアイがお粥を持ってくると────
「はい夕、あーん」
「·········」
「あれ? 食べないの夕」
「いや、自分で食べられるんだけど······」
「むっ、私に食べさせられるのは不満?」
「いや、不満というより······「あーん」······話を聞いてくれ」
「ほら、いいからいいから」
引きそうのない彼女の様子に僕は折れた。
「·········」
「どう?」
「······うまい」
「熱くはない? 一応少し冷まして持ってきたけど」
「ん」
「はい、また口開けて」
「······」
結局すべてアイの手で僕は食べさせられた。
風邪のせいもあって上手く取り繕えないのに、さっきまで寝てて中途半端に思考力が戻ったから、すごい困った。
「ご馳走さま」
「うん、お粗末様」
「······アイ」
「何?」
「美味しかった、ありがとう」
「······」
「ど、どうした?」
「······昨日も思ったけど、夕ってそっちが素だったりするの?」
お礼を言ったらジッと見つめられ、そんなことを言われた。
「······わからない。昨日も言ったけど、素の部分と演じてた部分が混ざっちゃったから······」
風邪のせいとはいえ、正直言われるまでまったく意識していなかった。
多分しばらくは僕と俺や、今のような口調が時折混ざるだろう。
「······そっか」
アイもそう相槌を打つだけで、後は何も言わない。でも優しそうに笑いかけてくるから、何かムズムズする。
「とりあえずこれとか片してくるね。────あ、夕」
「何?」
「────私はどっちの夕も好きだよ」
·········何でそんなこと言って出ていくんだよ。
「ッ·········ホントしんどい······」
これは全部風邪のせいだ。
ベッドに寝転び、腕で顔を覆いながら必死にそう言い聞かせた。
○ ●
「────あれ? 熱がぶり返してきた?」
しばらくベッドの上で悶えていたらアイが戻ってきた。
「·········ちょっと水を飲んだらむせただけ」
「そうなの? ならいいけど」
「·········そういえばアイは今日レッスンとか予定入ってないの?」
話を逸らす意味で尋ねる。
ふと思えば彼女の予定をまったく聞いてなかった。
「ん? 休んだよ、レッスンあったけど」
「はっ?」
「大丈夫大丈夫、ちゃんと佐藤社長に連絡はしたから」
「ねぇ······何て言って休んだの?」
「『夕が風邪で看病するから休む!』って」
「頭痛い······」
「えっ、大丈夫?」
「そっちの意味じゃない」
もはや斎藤さんの言い間違いにツッコム気すら起きない。
というか斎藤さんは斎藤さんでそんなあっさり認めるなよ。あんた「スキャンダルだけには気をつけろ! アイにはそういうのを期待できない」とか言ってたじゃん。
······でも待て、アイの性格を考えると────
「斎藤さんはそれに何て言ってたの?」
「それだけ言って切ったからわかんない!」
はい、予想通りこの娘押しきりましたね。いや、そもそも押し合いにすらならなかった。恐ろしい領域展開だ(現実逃避)
「······今度菓子折り持っていって謝ろ」
「ほーら、風邪ひいてるのにそんなこと考えてないで」
看病はありがたいけど、今こうなってる原因は君だよ?
起こしていた身体をベッドに倒され、布団をかけさせられる。
あれ? そういえばこの状況······
「────こんなところまで同じになるとは······」
「同じって何が?」
「いや、初めて会った日の翌日にアイも熱出したでしょ? 僕がお見舞いに行ったのは翌日ではないけど」
「あー、確かにね。あ! なら手を握って頭撫でてあげようか?」
「いいよ、僕は······って、話聞いてた?」
「いいからいいから」
言ったそばから頭を撫でてきた。せめてもの抵抗で手は握らせない。
「·········」
「ほら、無理しないで寝ていいんだよ? ふふ、こんなところも同じだね。大丈夫、私は帰らないから」
「······帰るも何も隣だろ」
そう言い返すが、声に力はなかった。
また自分の意識が微睡むのを感じる。
「────おやすみ夕。いい夢を」
意識が落ちる直前、そんなアイの言葉が聞こえた気がした。
○ ●
「んぅ······」
ふと身体の一部分に重さを感じて目を覚ました。
その正体は────
「······本当に帰らないとは」
そこにはベッドに突っ伏すようにして寝ているアイがいた。重さの正体は微妙にこっちの身体に乗っかっている頭だったらしい。
今は夕方であることを考えると、六、七時間くらいそばにいてくれたようだ。
「ん······ゆぅ······」
労うように髪を優しく撫でるとそんな寝言を言うから、思わず苦笑してしまう。
「────」
いつの間にか握られていた手をそっと離し、ベッドから降りて代わりにアイを寝かせる。
身体はすっかり軽くなっていた。
そのまま僕はスマホを手にしてベランダに出る。
「········」
目的の番号にかけ、そのまましばらく呼び出し音に耳を澄ませていると────
『夕? 夕ですか!?』
いつもより少し慌てた声で真昼が出た。ここ一ヶ月まったくといっていいほど連絡をとってなかったことで心配されていたみたいだ。
「────久しぶり、姉さん」
お隣のアイドル様にいつの間にか駄目人間に······
まだ駄目にされてません! ·········多分
その頃の隣人カップル
夏休みに突入。プールに実家への帰省(挨拶?)と予定は満載。
去年はかなり早くに帰ってくる時期を報告してきた弟からの連絡が遅く、姉の方は心配していた。今日連絡が来なければ高専に突撃訪問をしていた可能性があり、それを聞いた弟は滅茶苦茶安堵した。