真昼の弟は転生者で、呪術師兼ララライの看板役者です。でも推しの子は知らない模様 作:水の虎
本日もやさしい世界をお楽しみください。
風邪をひいて数日が経った。
初日の夜には個人的に万全だったが、大事をとってとアイに強引にさらに休まされ、僕はようやく今日外出を許された。
「────どうも金田一さん」
「······何しに来た?」
「そんな邪険にしないでくださいよ。ちょっと顔見せに来ただけですから」
「少しはマシになったみたいだな。けど言っとくがそれ······「わかってます」······ほう?」
先程まで手元から目を逸らさなかった金田一さんはようやく顔を上げた。
「別に先日のことをひっくり返せって言う気はありません。というかその逆のことを言いに来ました」
「逆?」
「言われた通りしばらく稽古は来ません。というより、演技そのものからしばらく離れてみます。そんなわけでとりあえずしばらく出演依頼全部断っといてください」
「·········この数日で何があった?」
「さあ? まあ、少なくとも悪いものではありませんでしたよ」
お陰で少し余裕ができた。だからしばらくはいっそそれを満喫してやろう。
「────じゃ、言いたいことは言ったので帰ります。ちょっとこの後行くとこあるんで」
「そうかよ······まあ息抜きになるんならいいんじゃねぇの? ────どこ行くんだ?」
金田一さんがそんなことを尋ねて来る。
だから僕はニヤリと笑って答える。
ただし行き先を言うのではなく、目的を答える。
まあ、つまるところ────
「デートです」
「はっ?」
ではこれで、と呆ける金田一さんを余所に僕はその場を去った。
「────お待たせ、アイ」
「うん。じゃ、行こっか」
○ ●
『────夕、デートしよ!』
『いきなりどうしたの?』
今日の朝、突然アイがそんなことを言い出した。
『ダメ?』
『少なくともあんまり積極的に賛成できる立場じゃないでしょお互い』
『そうだよね······。────ところで夕』
消極的な意見をしつつ、看病してくれた手前断りづらいと思っていたら────
『この一ヶ月連絡を無視されて悲しかったなー』
『うっ!』
『看病のことは気にしないでいいよ? でも、そっちについてはお詫びが欲しいなー』
強かなことを言いつつ、チラチラとこちらを見てくるアイ。
『······アイ』
『ふふ、なーに夕?』
『······デートしよう』
そんな経緯で今日、僕たちはデートをすることになった。
「────行き先、僕のお任せでいいの?」
「うん、普段夕が行ってるとこにいきたい」
と言われるが、中々に難しい注文だ。
普段自分が足を運びつつ、そこそこ楽しめる場所······。
「······普段って訳じゃないけど、一時期そこそこの頻度で言っていた場所がある。そこに行こうか」
「オッケー。さっそく行こうー!」
「待て待て待て」
手を引いて歩きだそうとする彼女を僕は止める。
「何、夕?」
「これ」
「何これ、日傘?」
「そう。もう夏だし、今日はとくに日差しが強いからね」
「おー、女の子みたいだね夕」
「逆にアイはもう少し気にしなよ。アイドルでしょ?」
二重の意味でそう言う。
「────これなら日焼け対策になるし、日傘で顔も隠れるから多少のスキャンダル対策になる」
「なるほどー。────はい」
「何で広げたものを僕に差し出すの?」
「一緒に使おうよ。だから夕が持って。私が持つと身長差で腕疲れちゃうから」
「······日傘で相合傘は目立たない?」
「でもそうしないと私だけ使うことになるじゃん」
いやそうなんだけど、スキャンダル対策でもあるのにそれをやるのは······まあいいか。今回はアイの要望にできるだけ沿おうと決めてたし、もともとこれ以外の対策も用意してる。
といっても割と反則技なんだけど。
(────夢幻呪法)
術式による認識阻害、これがもう一つの対策だ。
とはいえあんまり派手に使えないから、日傘とかで顔を隠して、足りない部分のみ術式で補完するようにしたのだ。
「────これでいい? というか何でそんな近いの?」
「だって顔を隠すためでもあるんでしょ? だったらできるだけ身体を寄せていた方が隠れるじゃん」
「······暑くないの?」
「別に~」
ならいいんだけどさ、と僕は相槌を打った。
もう何も言うまい。
そうして僕たちは目的地に向かい、歩きだした。
○ ●
「お~、ここが夕が昔よく行ってったところかー」
「らしくないと思ってる?」
「ちょっとねー」
まあ、そうだろうな。
実際通ってた理由は結構あれだし。
「それにしても花畑か~。ここまで大きいところは初めて来たよ」
「小学校の頃とかの課外授業とかは? こういう自然公園的なとことか行かなかったの?」
「あー、あったねそういうの。でも私のとこはなかったな~。夕の通ってた小学校はあったの?」
「ここではないけどあったね。まあ、そういうのって課外授業って言いつつ、実質遊びみたいなものだからね。子どもの遊べる遊具とかの多い場所だったよ」
そんな思い出話をしながら僕たちは花に囲まれた道を歩く。歩きながらわかる範囲で咲いてる花について解説していく。
「────滅茶苦茶詳しいじゃん夕」
「通ってたら、そこそこ知識は付いてくるよ」
「そういえば何でここに通い始めたの?」
「たまたま花畑で会話する、みたいな感じの演技をすることになったから」
本当は単なる呪術の鍛練です。
ほら、原作の五条の戦意を削いでたお花畑さんのアレあるでしょ?
再現できないかって、しばらくここに通ってたんだよね~。
幸いアイにも嘘はバレてない。実際そういう演技をしたことはあるしね。
「────さて、時期はちょっと過ぎてるけど夏薔薇の方はどうかな?」
「時期過ぎてるの?」
「うん。でも今年の気候的に例年より開花は遅くなっててもおかしくはないはず」
そう言って薔薇エリアに足を運ぶと予想通りの光景が広がっていた。
「お~、やっぱり薔薇って何か見応えあるよねー」
「まあ、王道ではあるからね」
綺麗に咲いていた薔薇を見てアイも感嘆の声をもらしていた。
それを見て、一先ず退屈はしてなさそうで安堵する。
「────せっかくだし写真撮る?」
「えっ、いいの? 夕ってそういうの結構嫌がるじゃん」
「そりゃあスキャンダルとか考えるとね。でも今日はお詫びの意味でのデートだから折れるところは折れるよ。幸い今は人もあんまいないし」
ちゃんと周囲からの認識を誤魔化すし。
「じゃあ撮ろう!」
「はいはい」
日傘を一度畳み、スマホのカメラを起動するアイ。
「······何で日傘を差してる時よりくっつくの?」
「いいじゃんデートの記念なんだし。────ほら、夕、笑って笑って」
さらに身体を寄せてくるアイ。季節的に薄着とあって色々と毒だ。ただでさえ最近色々と自覚したばかりなのに。
「────んふふ、ふふふ」
写真を撮り終わると、何かすごいご機嫌なアイができあがった。
「······スマホ見たままだと転ぶよ」
「はーい」
そう言ってスマホをしまうが、ご機嫌なのは変わらない。
いや、それはいいんだけど、そのせいでまだ微妙に足取りが覚束ない。
しかし────
「♪~~」
「······」
よく晴れた日に花に囲まれた彼女はすごい絵になっていた。
パシャ
思わずスマホでその様子を撮影してしまった。
「ん? 夕、もしかして写真撮った?」
「あ、ごめん、つい······すぐ消すよ」
「ふーん······いいよ別に。思わず撮りたくなっちゃうくらい私が可愛いかったんでしょ?」
「······そうだね」
「ふえ?」
「何その声? 自分で言ったんでしょ? 確かにすごい絵になってた」
「そ、そうなんだけど······」
「嫌なら消すけど?」
「大丈夫だから!」
そんな無理しなくていいのに······。まあ、ありがたくアルバムに加えさせてもらうんだけど。
まだ若干顔の赤い彼女を見て、口を開く。
「もう少し行ったところでソフトクリームが買えるよ。この暑い中結構歩いたし、そこで休憩しよう」
「ソフトクリーム? 食べる!」
見事に花より団子になった。
そこもそこで可愛くもあるんだろうけど。
「────はいこれ」
「ありがと~。綺麗な色してるね」
「花の着色料で染めたんだって。前来たときなかったから買ってみた」
日陰のベンチで休ませたアイの元に戻ると、予想通りの反応をした。
「へぇー、じゃあさっそく────お~、何の花かはわからないけどちゃんと花の香りがするー」
「······うん、美味しい」
上がった体温が少しずつ下がるような感覚を味わいつつ、食べ進めていく。
「······んー」
「どうしたのアイ?」
「確かに美味しいけど、夕が前作ってくれたやつの方が美味しい」
「嬉しいことを言ってくれてるけど、まだ一応店の近くだからそれ以上は口チャックしよう」
「────そういえば夕って誰に料理習ったの?」
僕の忠告に生返事した後、そんなことを尋ねてくるアイ。
「······小雪さんっていうハウスキーパーの人」
「ハウスキーパー? 夕の家ってお金持ち?」
「そこまでじゃないよ。ただ、普通とは言えない家庭ではあったね」
「······もしかして聞いちゃダメな奴だった」
なんとなく何かを察したアイが少し申し訳なさそうな顔をしていた。
「大丈夫。僕はそこら辺普通に割り切ってるから。それに、以前聞かせてもらったアイの家庭と比べれば僕なんて大したことないよ」
そっとかぶりを振って、問題ないと伝える。そうして僕は軽く自分の家庭について語った。
「────うちの両親はお見合い的なあれで結婚して、気の迷い的な感じで僕たちを産んだんだ」
「僕たち?」
「ああ、そういえば言ってなかったね。僕には双子の姉がいるんだ」
「そうなんだ······」
ずっとアイには言ってなかったことのため、彼女は少し瞠目していた。
だけどそれを見て、僅かに自分の心がチクリとするのを感じる。
「········まあ、そうやって生まれた僕たちの子育ては人を雇って丸投げしてたんだよ。両親共に仕事人間みたいだったからね」
そっとささくれ立つ心を沈めながら、僕は語る。
「────夕」
「何────っ!? ·········あの、アイさん何を?」
何故か無理矢理膝枕状態にされた。
「つらそうな顔してるよ」
「······別に僕はそのことを気にしてないよ」
実際、ネグレクト染みたことを
「······夕ってさ、人のこと頼るの下手だよね」
「·········」
「私には見せてよ、そういうところ。今さらでしょ?」
「······アイだから見せたくないんだけどね」
「むっ、何それ?」
「何でもないよ」
「本当に強情なんだから······罰としてこうします」
何故か頭を撫でてきた。
······これ罰?
「夕」
「ん?」
「頼っていいんだからね? 少なくとも私はいつでも力になるよ」
されるがままでいると、アイがそう言ってくる。
「······うん」
そのまましばらく僕たちは無言の時間を過ごした。
○ ●
「んー! すっかり夕方になったね」
「そうだね」
グッと伸びをするアイにそう相槌を打った。
「······何かごめん。最後の方はちょっとグダグダになった」
「別にいいよ~。私としては夕のことを知れて嬉しかったし」
知った内容はデートで知るには些か重めなものだったと思うが、アイは気にしてないようだ。
「夕」
「何?」
「また一緒にどこか行こうね」
「·········うん。またいつかね」
今は彼女の言葉に甘えよう。
そう思いながら、僕たちは夕焼けに染まった空の下を歩きだした。
その頃の隣人カップル
なんとなく夕の状態は察した。でもその近くに自分たち同様に弱さを受け入れ、支えてくれている人がいるようなので安心。心配する気持ちはゼロじゃないけど、彼を信じて待つことにした。
ちなみに最近プールデートしたらしい。