真昼の弟は転生者で、呪術師兼ララライの看板役者です。でも推しの子は知らない模様   作:水の虎

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さて、そろそろ夕も一歩踏み出してもらいますか。


第二十話●

 

 

 夕は少しずつあの後も以前の調子を取り戻し始め、役者としての活動こそ表立ってしていないが、稽古には顔を出すようになった。

 

 

 しかし、その心はまだ完全に晴れてない。 

 過去のわだかまりが、そのしこりが、彼の心に残り続けていた。

 

 

 そんなある日、真昼から誠城高校の文化祭に招待された。

 

 

  ○ ●

 

 

 誠城高校文化祭二日目。

 夕は開始時間からそこそこ過ぎた後に入場し、あてもなく校内をぶらついていた。

 

 

「────夕くん?」

「······志保子さん、それに修斗さんですか」

 

 

 そこには周の親である藤宮夫妻がいた。

 

 

「久しぶりね夕くん」

「はい、お久しぶりです志保子さん。修斗さんもご無沙汰です」

「うん、久しぶりだね椎名くん」

 

 

 夕は藤宮夫妻とは高校に上がる前から面識があった。

 最後に会ったのは去年の前半、丁度真昼と周が出会う少し前くらいのことで、それ以降は時々電話やメール等で話す程度だった。

 

 

「夕くんはこれから真昼ちゃんや周のクラスに行くのかしら?」

「·········いえ、これといって決めてません」

 

 

 正直夕はまだ少し踏ん切りがつかなかった。

 今日ここに来たのはあることを伝えるため。

 しかし、今の自分はまだ不完全であることを彼は自覚していた。

 

 

「良かったら一緒にどうだい椎名くん?」

 

 

 だが、ここで二人からそんな誘いの言葉がきた。

 

 

「······僕としては構いませんけど、お二人はいいんですか?」

「もちろんよ! 真昼ちゃんも夕くんももう私たちの子ども同然でしょ?」

 

 

 力強い志保子の言葉と、口こそ開かないが鷹揚に頷く修斗。対比するような二人だが、その様はどちらも夕の存在を受け入れることを雄弁に語っている。

 

 

「······ではお言葉に甘えて」

 

 

 そうして、三人は真昼と周のクラスへと足を運んだ。

 なかなかに盛況らしく、結構な行列が出来ている。

 列に並ぶことになるが、ここしばらくの近況を語り合っていたからか、体感的にはそこまで時間を感じず、あと二、三組で入店となっている時、志保子が切り出した────

 

 

「こうして会って話すのは久しぶりだけど良かったわ。聞いてたよりずっと夕くんが元気そうで······」

「······お二人にも心配をかけたようですみません。自分の未熟を恥じるばかりです」

「いいのよ。それよりごめんなさいね。この前二人が来た時に夕くんのことを聞いたら、ちょっとおかしくて······成り行きでそのままあなたのことを聞いちゃったの」

「いえ、それくらいなら構いません······。────やっぱり二人は僕のことを気にしてましたか?」

 

 

 できるだけ付き合ったばかりの二人に水を差さないようにと、今年は帰らなかったが、やはりこっちのことを察して色々と気遣わせたことを夕は理解する。

 

 

「────椎名くん、君は既に社会に出て、自分で稼いでいる。そしてよく周りも見えていて、私たちが君と同じ年齢だった時よりずっと大人だ」

 

 

 すると、今まで聞き役に徹していた修斗が口を開いた。

 

 

「でもね椎名くん、君はそれでもまだ子どもだ」

「······」

 

 

 それを黙ったまま夕は聞いた。

 

 

「頼っていいんだ。誰でもいい。私たちでもいいし、他の人だって構わない。周りの人に頼ることは、心配をかけてしまうことは恥ではないよ」

 

 

 今でなくてもいい、話したくなったら言ってきなさい。いつだってそれを聞いて受け止めると、最後に言った。

 

 

「ありがとうございます」

 

 

 自然に夕はお礼の言葉を口にしていた。

 こちらを一人の人間として、また同時に彼らにとっては一人の子どもとして見てくれた。

 それでいて決して押し付けはせず、こちらの意思を尊重してくれる。なるほど確かに周があんな風に育つのだと納得した。

 

 

 そうこうしている内に三人の番が回ってきて、入店することとなった。

 

 

  ○ ●

 

 

「·········」

 

 

 真昼と周のクラスの出し物はメイド喫茶だ。男子の方は普通に執事服だからメイド喫茶だと微妙にズレるかもしれないが、雰囲気は伝わるだろう。

 ちなみに夕が何故黙っているのかというと、スタッフとして出迎えた真昼と周にさっそく志保子が絡み始め、そのやりとりを眺めているからだ。 

 本人の内心は「おー、原作通りだ」と何だかんだ巡り合わせがなく見る機会のなかったそのやりとりを前に地味に感動していた。

 

 

「────ほーら、夕くんもそこで見てないでこっちに来たら?」

「そうですね。可愛いメイドと執事さんにさっそく甘えてみましょうか」

「誰が可愛い執事だ······」

「はてさて誰だろうね~」

「·········」

「どうした藤宮ちゃん?」

「いや、思ったより元気そうで安心した」

「······ん、心配かけた」

「いいよ、別に」

 

 

 そんな短いやりとりをしている間に真昼は注文で呼ばれたらしく、そちらへ向かっていった。

 

 

「あー、悪いけど案内は俺でいいか?」

「そこで文句をつけるほど質が悪くなった覚えはないよ」

「でも質が悪いのは自覚してるんだな」

「はは、言うね藤宮ちゃん。とりあえず席に案内して貰おうか」

 

 

 気を遣われたので、問題ないことを告げたらそう返ってきた。どうやら周は周で夕の扱いに大分慣れてきたらしい。

 そうして席に案内され、注文を取ると周は別の仕事に向かう。

 その姿を見ながら志保子に話しかけた。

 

 

「大分変わりましたね、息子さん」

「ええ、真昼ちゃんと·········あとは夕くんのお陰よ」

「姉さんはともかく、僕はただ振り回していただけですよ?」

「それでも······いえ、それが良かったのよ。あの頃の周に必要だったのはきっとそれだった。下手に気遣うのではなく、全力で感情を表現してぶつかることだったって今なら思えるの」

 

 

 かつてを振り返りながら語る志保子、それに修斗も頷く。

 

 

「あの時、周を君の公演に連れていったのは正解だった。君と出会って周はまた外に意識を向けられるようになった」

「そうね。確かに周があそこまでになったのは真昼ちゃんの存在が大きい。でも、そこに夕くんの存在だって欠かせなかったと私は思うわ。夕くんが周を外に連れ出してくれたから、きっと周と真昼ちゃんは出会えた」

 

 

 それは違う。

 時間がかかっても志保子と修斗の二人なら同じことができた。

 真昼と出会えたのも自分は関係ない、そう夕が否定しようとした時────

 

 

「確かにそうかもしれませんね」

 

 

 真昼が話に入ってきた。

 どうやら注文の品を持ってきたため、話を聞いていたらしい。

 

 

「周くんも言ってましたよ? 常に全力でぶつかってきた夕がいたから、今の自分がいると。その夕のあり方は演技にも反映されて、だからこそ多くの人が魅せられると」

 

 

 営業スマイルではない微笑みを浮かべ、注文品をテーブルに並べる真昼。そのままさらに続けて────

 

 

「────そしてだからあの日私を見つけたって周くんは言ってましたよ。私たちは夕がいたから繋がったんです。夕が周くんを外に引っ張り出したから、そしてあの日まで夕が私を支えてくれたから今があります」

 

 

 そんな真昼の姿に夕は眩しそうに目を細めた。

 

 

「······やっぱり恋は人を変えるね。似合ってるよ、姉さん」

 

 

 果たしてそれは服装のことか、それとも今の真昼のあり様そのものか。

 どちらかはわからない。それでも真昼はそれにまた微笑みを返す。

 その眩しさに惹かれたのか、夕は気づけば口を開いていた。

 

 

「────姉さん、この後会えない? できれば藤宮ちゃんも交えて」

 

 

  ○ ●

 

 

 その後、他のお客のことも考えて、三人はそこまで長居はしなかった。

 忙しそうにする真昼と周に軽く手を振り、店を出ると相変わらず賑わう文化祭の雰囲気そのまま廊下だった。

 そんな人がごった返す中を歩いていると、ふと志保子と修斗の動きが目についた。

 ごく自然に修斗が志保子をエスコートし、彼女が歩きやすいように気を配っている。

 

 

「────あら夕くん、どうしたの?」

「······いえ、お二人は本当に仲がいいんだなって」

 

 

 じっと見ていたことに気づいた志保子が首を傾げてきたので、苦笑混じりに返した。

 

 

「ふふ、ありがとう夕くん。夕くんならいい人と出会えるし、きっと私たちに負けないくらいいい夫婦になれるわ」

「······僕には多分無理ですよ。それは姉さんと息子さんに言ってあげてください」

「それはどうして?」

 

 

 かぶりを振る夕に志保子が尋ねてくる。

 

 

「······僕は性格的に、後は職業的にも多分隠し事が多いですからね。きっといずれそれで破綻しますよ」

「·········」

 

 

 今度は寂しそうに笑う夕を志保子がじっと見る。

 

 

「────夕くんは隠し事がない夫婦がいい夫婦って思ってる?」

「え? まあ、おおむねそんな感じですね······。隠し事がないって言うよりは、お互いのことを理解し合ってるっていう方が個人的なニュアンスは近いですけど······」

 

 

 そう、と志保子が相槌を打つ。

 いまいち意図が読めず修斗の方を見ると軽く微笑まれたため、余計に困惑する夕。

 

 

「夕くんは私たちのことをそんな感じに見てるみたいだけど、案外そうでもないのよ? ね、修斗さん?」

「そうだね。私たちもお互いのすべてを理解している訳じゃない。それでもこんな風にやれるものだよ?」

「でも、ならどうやって······?」

 

 

 純粋な疑問を夕は投げかけた。

 

 

「確かに理解不足で不仲になる夫婦······まあ、夫婦に限らずそうなる関係はあるんだろうね、悲しいことに」

 

 

 ふむ、と少し考えるようにして修斗が話し出す。

 

 

「でも、理解することはすべてを知ることではないんだよ。そもそもどんなに仲が良い関係でもすべてを知ることは多分できないよ。けどね────」

 

 

 さらに続けて彼は言う。

 

 

「私はそれでいいと思うんだ。重要なのは知ることではなく、知ろうとすること、理解することをやめないことだ。逆説的な考えかもしれないけど、その人を好きだと思うから知ろうと思えるんだ。だから知ろうとすることはきっと『愛』だよ。知らなければ愛を与えられないからね」

 

 

「知ることも、『愛』·········」

 

 

「うん。その人が好きだから、知ろうとするから寄り添えるんだ。重要なのはその気持ちを持ち続けることだよ」

 

 

 夕はその言葉を噛み締めた。

 

 

「·········ありがとうございます、修斗さん、それに志保子さんも。何か見えた気がします」

「いいのよ」

「そうだね。少しでも君の助けになれたのならよかった」

 

 

 その後、夕は二人と別れた。

 新たな気づきを得た彼の心は、また少し晴れた。

 

 

 




藤宮志保子・藤宮修斗

藤宮周の両親で、呪術・天使・推しの子の三つ(かぐや様を含めれば四つ)の世界観が重なる中でも、数少ないまともな大人で親。
実は夕の挨拶にほぼノータイムで答えたツワモノ夫婦。いずれ真昼と周もそうなる可能性あり。
夕は東堂とは違い、答えの方ではなく反応の仕方を重視して見ているが、ノータイムで答えた際の圧倒的夫婦感に一瞬呑まれたらしい。
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