真昼の弟は転生者で、呪術師兼ララライの看板役者です。でも推しの子は知らない模様 作:水の虎
先に二十話をお読みください。
文化祭が一時間を切った頃、夕は一人屋上で空を見上げていた。
真昼と周に何をこの後話すかをずっと彼は考えていた。
「マジで屋上にいたのか······」
というかどうやって入った?
扉を閉めながら周は尋ねてくる。
「この程度なら針金があれば誰でも開けられるよ」
「いや、普通に俺は無理だわ」
この学校は残念ながら屋上は解放されてない。しかしだからこそ第三者に聞かれずに話すのなら丁度良かったのだ。
それはわかるとはいえ、こうもあっさり言ってる夕の姿に周は微妙な顔をした。
「······姉さんは?」
「服装が服装だから時間かかってる。先に行ってていいと言われたから先に来た」
「そっか。ごめんね、せっかくの文化祭なのに」
「別にいいよ。大事な話なんだろ?」
「うん······」
「······お前もそんな顔するんだな」
意外そうに周はそう述べてくる。
少なくとも周は友人として付き合ってからずっと、椎名夕という少年のことを自信家で怖いものなし、常にスマートに物事をこなしていく人物だと思っていた。
でも、今は────
「お前のこと、知ってるようで何も知らなかったんだな······」
「失望した?」
「アホ、そんなもんで失望してるならもっと前からしてる」
「確かにね······」
苦笑気味に笑うその姿はやはり、周の知っている夕の姿とズレていた。
「────接する機会を絞ってたとはいえ、こうして長い間隠し通してられたのなら、僕の演技は捨てたもんじゃないのかな? ······まあ他ならぬ僕自身ですらその歪みに気づいてなかったんだけどね」
無意識の抑圧ってとこかな? と夕は言った。
「······お前はずっと······そうやって真昼のことを支えてきたんだな」
「······支えになってたのかな?」
「真昼自身が言ってたんだし、間違いないだろ。本当にお前は凄いよ」
真昼から聞いた限り、中学に入学する以前からずっとそれを続けていたと周は聞いている。果たして自分が同じ立場の時、それができただろうか。
「でもね藤宮ちゃん·········その裏で僕は大きな過ちをしていたんだよ」
「過ち?」
突然の告白に周は首を傾げた。
「────もう、五年も経つんだね······。あの日僕は一人の女の子に出会った」
ぽつりぽつりと語り始める夕の声に周は耳を傾けた。
「その子は、
夕は本来、これを話すつもりはなかった。きっと真昼がここにいたら彼は話さなかった。
しかし、ここには今周しかいないため、気づけば口を開いていた。
「当時の真昼は今よりもずっと繊細で、壊れやすかった。だから僕も接し方に迷っている時期だった。そんな時にその子に会って思ったんだ、利用できるんじゃないか、ってね」
顔を見るのが怖くて夕は俯いていた。
その様子はまるで、処刑を待つ囚人の懺悔のようにも見えた。
「そうして僕は彼女に近づいた」
彼女を真昼の鏡として使うために。けれど────
「でもいつからか、僕は彼女との関係に安らぎを得ていた。そしてつい最近そんな彼女に僕は救われたんだ」
気づけば彼女に惹かれていたのだ。
「都合のいい奴だよね? 何年も騙して接してたのに今さら何言ってるんだって自分でも思ってる······」
あの日彼女に救われたからずっとその事実が夕を苛んでいた。
「なのに······そんなの、報いを受けて当たり前なのに僕はそれが怖い。彼女が向けてくれた屈託のない笑顔が曇るどころか、それが向けられなくすらなってしまうんじゃないかって······」
だからこそ、夕は踏み出せない。
それを言葉にしてしまった時、もう戻れないから。
加えて────
「それにさ······利害から始まり、なり行きで関係を深めた。そんなの────」
────自分の両親みたいじゃないか。
もしかしたら自分もそうなってしまうのではないか、夕にとってそれが最も怖かった。
「────真昼と会って間もない頃、俺はあいつを可愛げないって言った」
今まで黙っていた周が口を開いた。
「······何が言いたいの?」
「でも、今はそれも愛おしいって感じてる。というより何で真昼がそんな風になったかを知って、弱い真昼の部分を知って、俺は支えてやりたいと思ったって言った方が正しいかな」
夕の疑問に構わず周は続けた。
「────今抱く愛おしいという気持ちも、あの時可愛げないって言ったことも嘘ではなかった。変わったのは距離と、そこからどう見えるかってことだ。だから夕がその娘に向けていたものだって同じだよ。離れていた距離が縮まったからそう思えるようになって、だからこそお前は苦しんでるんだと思う」
なら、と周は言って────
「それはお前の両親とは違うんじゃねぇの? 五年って言ってたか? それだけの時間をかけて夕はその娘のことを知っていった。それこそ、当初の感情を思い出して自己嫌悪してしまうくらいに。それは少なくともお前の両親にはなかったものだと俺は思う」
彼の両親には愛が、お互いを
でも夕は違う。
始まりが嘘でも、少しずつ歩み寄ってお互いのことを知っていった時間があった。
いつしか心から一緒にいたいと思えるようになるくらい。
それを人は······
「────そうですね」
すると、そこで真昼がやってきた。
「姉さん······」
「それに女性として私は言わせてもらいますが、必死に距離を縮めていって意識させて、相手が振り向いてくれるのはすごく嬉しいことなんですよ?」
「でも······」
「大丈夫です。夕がそんなに想う相手なんです。きっと受け入れてくれるはずです」
「······根拠は?」
「姉として、そして女としての勘です」
「姉さんらしからぬセリフだ······」
思わず夕から肩の力が抜けた。
「恋したからこそわかるのです」
「いや、僕は別に······」
「あら、あんなに悩んでいる様子だったのに違うと?」
そう言って真昼は通話中のスマホを見せた。
「妙に遅い上に、タイミング良く来たと思ってたけど······」
「いつだか、夕も同じことしたでしょう? それに私がいると夕はすべてを話さない気がしたので、周くんに協力してもらいました」
まさかの二人の一手に夕は項垂れる。
「────ごめんなさい夕」
「いや、いいよそれ「違うんです」······」
先ほどと違い、どこか悲しそうな顔をする真昼。
「貴方に頼ってばかりで、甘えてばかりでごめんなさい。私は姉失格です」
「違うよ。それは僕が選んだことだ」
「だとしても、例えそれが夕の選んだことだったとしても、せめて苦しんでいる時に寄り添うことはできたはずです。夕がいつか私にしてくれたように。······なのに私はそれができなかった」
「────気づいてあげられないで、本当にごめんなさい」
頭を下げてくる真昼。
そんな行動を夕は止めさせようとするが、それより早くまた真昼が動いた。
「······姉さん?」
「私は大丈夫です······もう大丈夫ですから────」
────どうか夕も自分のために生きてください。
夕を抱きしめながら、真昼はそう言った。
「────大丈夫だよ、姉さん」
「夕?」
「僕はもうとっくの昔っから、自分のために生きてる。わかりづらいかもしれないけど、自分のために生きてきたよ。今はまだ詳しく言えないけど、ちゃんといつか言うから······僕のやろうとしたことが何か。────だから言った通りもう少しだけ待っててよ」
「······約束ですよ? いつまでも待ってるんですから」
「はいはい」
苦笑しながら応じるその様子は、いつか見た夕の姿と重なった。
「────ちなみにその時は藤宮ちゃんと一緒だよね?」
「えっ? そりゃあ、まあ······お前がいいって言うなら聞くけど······」
「そっか······なら安心だ。その時二人は結婚してるんだから」
「ゆ、夕? さっきから何を言って······」
「ん? だって
「いや、それそっちの意味かよ! というかそんな時間かかるのか!?」
「別にいいでしょ? それとも何? 姉さんと結婚しないつもり?」
「いや、別にそういうつもりじゃ······」
慌てふためく二人を見て、夕はニヤニヤと笑った。
「────さて、すっかり別の話題に時間をとられちゃったね」
「最後あたりはお前の悪趣味なとこのせいだよ······」
「ひどいなー。────まあ、それで、二人に話したいことなんだけどさ······」
一呼吸置いて夕は言った。
「────僕、映画の主演をすることになった」
「······マジ?」
「マジ」
「本当何ですか、夕······?」
「うん、本当だよ。思ってた舞台とはちょっと違うけど、ちゃんと見守っててよ?」
「────ええ、もちろん。ね? 周くん?」
「お、おう」
まだ驚きから回復しない周と、嬉しそうに笑う真昼。
そんな二人を見て夕もまた笑った。
「それと最後にこれも言わないとね」
「何ですか?」
「姉さん、それに藤宮ちゃんも────どんな相手が好みかな?」
「「────」」
それに二人は顔を見合せ────
「ここにいる藤宮周くんが────」
「椎名真昼が────」
「「私(俺)の好みです(だ)」」
「······うん、遅くなっちゃったけど、改めておめでとう、二人とも」
その答えに夕はまた笑った。
「これからもよろしくね、藤宮ちゃ······お義兄さん?」
「おい、やめろそれ。何か鳥肌が立つ」
「しょうがないなー。じゃあ────改めてよろしくね、周?」
「······ああ、よろしく、夕」
「────む、まるで私が除け者です」
何故か真昼が拗ねた。
「義兄さん、姉さんのことは任せた」
「だからそれやめろって言ってるだろ」
「はいはいわかったよ、周ちゃん」
「何でそっちにもまたちゃん付けすんだよ······」
「姉さんー、さっきから義兄さんがわがままなんだけどー」
「ふふ、確かに周ちゃんは可愛らしいですね」
「男に可愛いは褒め言葉じゃないって何度も言ってるだろ」
「まあまあ、いいじゃないか周ちゃん?」
「だから······」
そんな会話しながら三人は屋上の出口に向かう。
「······」
「夕?」
「どうしたんだ?」
突然立ち止まる夕に二人は振り返った。
「······もう一つ、言い忘れてたね。姉さん、周────」
────僕にも好きな人ができたよ。
その頃のアイドル様
相変わらず夕の部屋に入り浸り、彼の帰りを待っている。
帰ってきた彼から────