真昼の弟は転生者で、呪術師兼ララライの看板役者です。でも推しの子は知らない模様   作:水の虎

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ようやく······ようやくです。


第二十二話○

 

 

 

 いつからだろう、彼女に会うのに建前がなくなったのは。

 

 

 いつからだろう、彼女に会う日を心待ちにするようになったのは。

 

 

 いつからだろう、彼女に────

 

 

  ○ ●

 

 

 ようやく色々と言葉にできた僕は、帰り道を歩いていた。

 少しずつ近づく目的地に、否応もなく意識させられる。

 あの日意識しつつ、ついぞ言葉にしてこなかったことを、初めて口に出した。

 重いようで軽いその足取り、しかし確かにその時が近づいてくるのを感じさせた。

 そうして────

 

 

「着いちゃったか······」

 

 

 苦く、嬉しく、気が重く、そして決意も含んだ声が出た。

 きっと、彼女はいる。

 今日、明確に僕たちの関係は変わってしまう。

 

 

(それでも)

 

 

 ドアを開け、部屋に上がると、リビングへと向かう。

 

 

「あ、夕おかえり~」

 

 

 いつも通りの彼女の姿があった。

 

 

「────うん、ただいま、アイ」

 

 

「·········」

「アイ?」

「夕さ······」

「うん」

「何か変わった?」

 

 

 鋭い、と僕は思った。

 でもある意味当然でもある。

 彼女はここしばらくずっと僕の精神面の変化を見てきたのだから。

 

 

「そうだね。ちょっと姉さんのとこの高校の文化祭に行って来てさ、それがいい気分転換になったんだよ」

「へぇ~、ねえねえ、文化祭ってどんな感じだったの? というか私も行きたかったんだけどー」

「いや、アイは今日確かレッスンの日でしょ。それに姉さんの学校は防犯的な理由から通ってる生徒に招待されないと入場できないから、どの道アイは行けなかったよ」

「ぶぅ~······」

「ハイハイ拗ねない。夕食の時に文化祭の話はしてあげるからさ」

 

 

 はーい、と言いつつまだアイは納得してなさそうな顔をしていた。

 

 

「······手伝う?」

「大丈夫·········いや、やっぱりお願いしようかな」

「······珍しいね?」 

「そういう気分なんだよ」

「ふーん」

 

 

 目をパチクリさせた後、一先ず納得してアイも料理のために手を洗う。

 

 

(今は普通の会話が続けられそうにないからねー)

 

 

 多少無言になってもお互い作業してれば気まずくないし、完成するまでなら話題を今作ってる料理のことにして話せばいい。

 実際はそういう意図あっての申し出だった。

 

 

(周のことをとやかく言えねー··········)

 

 

 散々内心で場合によっては口に出してヘタレ扱いしてたのに、いざ自分の番になったらこうだ。

 

 

「────夕ー、何すればいい?」

「アイはスープをお願い」

「わかったー」

 

 

 そう言って手を動かし始めるアイを横目に僕も作業を再開する。ちなみに今日のメインはオムライスだ。

 

 

「······」

「どうしたの夕?」

「いや、大分料理が上手くなったなって」

「んふふ、夕に教えてもらったからね~」

「まあ、それまで結構目も当てられなかったけどね。流石にマンガみたいな失敗はないけど」

「······夕って時々昔のこと持ち出していじわるなこと言うよね」

 

 

 ごめんごめん、と笑いながら謝る。

 僕はもちろん、アイも何だかんだ手は止めず工程を一つ一つ終わらせていく。

 意外と話題には困らず、終始穏やかに調理が進んだ。

 僕は密かに安堵しつつ、いつも時間を噛み締めるように過ごした。

 

 

  ○ ●

 

 

「────ねぇ夕、本当に大丈夫? 帰ってきてからやっぱり変だよ?」

 

 

 夕食を終え、寛いでいるとアイがそんなことを言ってきた。

 

 

「·········そう、だね」

 

 

 それを聞いて僕はとうとう腹を決めた。

 

 

「────アイ、話があるんだ」

「······わかった」

 

 

 彼女は頷き、僕の隣に座ってくる。

 

 

「それで話って?」

「·········」

 

 

 とはいったものの、何から話すか少し迷った。

 しかし、切り出すとすればやはりあれからだろう。

 

 

「······前に、僕の両親のことを少し話したの覚えてる?」

「うん」

「あの時も言ったけど、僕はそれに関しては結構割り切れてた······。でも、姉さんの方は違ったんだ」

「お姉さんが?」

「うん。そのせいで姉さんはずっと心のどこかで愛というものを信じられていなかったんだ。本当は誰よりもそれを欲していたはずなのに」

 

 

 けれどそれは変わった。

 

 

「でもさ、最近になって······いや、もっと前かな。とにかく姉さんは愛せる人を、そして愛してくれる人を見つけた。まあ、つまり恋人だね、恋して姉さんは変わった」

「そっか、良かったね夕」

「うん、本当に良かった。今日会ってきたけど、姉さんはすごく幸せそうだった。一番ひどかった時期を知ってるだけに、喜びも大きかったよ」

 

 

 ふぅ······。

 そこまで言って一度息を吐き出す。

 ここからだ。

 

 

「······一番ひどい時期、その時の姉さんはアイに似ていた」

「私に?」

「そう、アイに似ていた。愛がわからなくなって、迷子の子どもみたいな、そんな感じだった。そして当時の僕はどう姉さんに接したらいいかがわからなかった。アイに初めて会った時はそんな状態が何年か続いてた時だった」

「······」

 

 

 アイは無言で耳を傾けてくれている。

 今、彼女は何を思っているのだろうか。

 

 

「······僕が初めてアイと出会った時、思ったんだ。君を通して、姉さんの心の状態を知れるんじゃないかって」

 

 

 ────それが僕が君に近づいた理由だよ。

 

 

 僕はそれを口にした。

 

 

「でも、でもさ·········いつからか僕はアイと過ごす時間が大切になっていた。その時間が、仮面を被っていた僕にとって数少ない安らげる時だった」

 

 

 もう戻れないから、僕はひたすら口を動かす。

 例え拒絶されるようなことがあっても、想いだけでも伝えられるように。

 

 

「思えばとっくに僕はアイに惹かれていた。だからあの日、蹲る僕を見られて、失望されるって思うと同時に、もしかしたら僕を受け入れてくれるんじゃないかと期待もした」

 

 

 そして実際に彼女は────

 

 

「そんな僕にアイは寄り添ってくれた。僕の弱い部分も好きって言ってくれて本当に嬉しかった。でも、ずっと騙してたのにこんな都合のいいあり方が許されるのかとも思った」

 

 

 改めて横に座るアイに身体を向ける。

 

 

「ごめん、アイ。ずっと君のことを騙してて、利用してたのにそばにいたいと思って······。だけど、少なくともこの気持ちは絶対に嘘じゃない。僕はアイのことが────」

 

 

 ────好きだ。

 

 

 言ってしまった。

 我ながらひどい告白だ。

 その顔も、内容も。

 

 

「っ······」

  

 

 くちゃくちゃになってしまった顔を見せないように僕は俯いた。

 

 

「······夕、顔を上げて?」

「······」

 

 

 言われた通りに顔を上げると、そこにはあの日からずっと変わらない星の輝きがあった。

 

 

 ────綺麗だな······。

 

 

 もしかしたら見納めになるかもと思いながら、彼女の言葉を待つ。

 

 

「────私は許すよ、夕のこと。そもそも許すとか以前に怒ってなんてないしさ」

「アイ······」

「でも、きっと夕は気にするだろうから、改めて言うよ。────私は夕を許す」

 

 

 それにさ、と彼女は続けて────

 

 

「私はその嘘に救われたよ。だから私はここにいる。確かにそれは嘘なのかもしれない。それでも、それはすっごく暖かくてさ、嬉しかったんだよ? きっとその嘘は私にとって────」

 

 

 ────始まりの愛だった。

 

 

「夕、嘘はね、本物に変わることだってあるんだよ? それは夕がいたから気づけたこと。そして、そうやって私は『愛』を知ることができた」

 

 

「·········本当に、いいの? 僕は「夕」······」

 

 

 アイは僕の名前を呼んだ。

 それはまるで「しょうがないな」と言うみたいに。

 

 

「────私も夕のことが好きだよ? でも、だからこそ私に罪悪感を持ったまま、その気持ちを言うんじゃなくてさ、その分も私を愛してほしいの」

 

 

 ダメかな?

 そう、彼女は瞳で訴えかけてきた。

 

 

「···············欲張りだね、アイは」

「うん、星野アイは、欲張りなんだよ?」

 

 

 思えば片鱗は随所にあったなと思う。

 でも構わない。

 だってそうしたいと思う自分がいるのだから。

 だから────

 

 

「アイ────」

「うん」

 

 

 

 

「僕は君が好きだ。椎名夕は、星野アイのことを、愛している」

 

 

 

 

 

「うん············うん! 私も夕のことを愛してる!」

 

 

 涙混じりに返事をするアイ。

 そのまま僕たちは抱きしめ合った。

 

 

「······わかる、わかるよ夕。今の言葉は、この『愛』は、絶対嘘じゃないって言えるよ」

「うん······そうだね······ッ」

 

 

 気づけばお互いくしゃくしゃになって泣いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「────二人ともひどい顔だね」

「うん······でも、悪くはないよ。むしろ心は満たされてるから不思議だね」

 

 

 ようやく落ち着いて後、僕たちはそんなことを言い合った。

 変わらず、互いの背中には腕が回っていて、自分とは異なる温もりを感じられる。

 

 

「······泣かせるつもりはなかったんだけどな」

 

 

 そっとアイの涙を拭いながら、苦笑する。

 

 

「本当だよバカ······話をしている時、ずっと不安だったんだよ?」

 

 

「······ごめん。でも、それを話さないと前に進めないと思ったから」

 

 

「うん、わかってる。夕にとって必要なことだったんでしょ?」

 

 

「そうだね。でも、お詫びって訳じゃないけど、代わりに何でもしてほしいことを言ってみてよ」

 

 

「いいの?」

 

 

「もちろん」

 

 

 

 

 

 

「────じゃあ、キスして?」

 

 

 

 

「······わかった」

 

 

 抑えきれないアイへの想い、けれど決してそれで傷つけないように彼女に触れる。

 

 

 

 

「あっ······」

 

 

 

 そんな吐息すらはっきり聞こえる距離で────

 

 

 

「愛してるよ、アイ」

 

 

 

 あとはただ、その唇と自分の唇を重ねるだけだった。

 

 




その頃の······いえ、今回は無粋ですね。
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