真昼の弟は転生者で、呪術師兼ララライの看板役者です。でも推しの子は知らない模様   作:水の虎

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良く言えばエピローグ、悪く言えば蛇足的なやつです。
駆け足になりましたが、これにて第二章も終わりです。



第二十三話●

 

 

 

『本当に久しぶりですね。最近全然連絡なくて心配しましたよ。何かあったんですか?』

「付き合ったばかりの二人の同棲生活に水を差すのはどうかと思った」

『ど、同棲って······! と、というより何で付き合ったのを知ってるんですか!?』

「弟としての勘」

『り、理由になってません!』

「勘を馬鹿にしちゃあいけないよ? まあ、単にそろそろ付き合ったかなって思ったからカマかけただけなんだけど」

 

 

 うっ、と真昼の呻く声が夕に届く。

 

 

「で、まあ、何で最近連絡がなかったかったって言うとまあ·········ちょっと不調、スランプ気味でね」

『不調にスランプ······演技のですか?』

「うん、それで焦って無理してた。連絡を忘れてしまうくらいにはね。お陰でその無理が祟ったよ」

『どういうことですか?』

「今日の朝、熱でぶっ倒れた」

 

 

 えっ! そんな真昼の驚く声が聞こえた。

 

 

『だ、大丈夫なんですか······?』

「うん、知り合いが看病してくれた。今はもう平気」

『······ならいいのですけど、本当に大丈夫なんですか? 夕は割と無理するんですから気をつけてくださいね? というより無理は駄目です』

 

 

 安堵した声、心配する声、そしてちょっと咎めるような声が電話越しに聞こえてくる。

 

 

「そうだね······今回は無理し過ぎた。流石に反省してる」

『え·········』

「滅茶苦茶意外そうな声を出すね? そんなに驚くことだった?」

『·········ええ、まあ······正直なところ。·········何かあったんですか?』

「うん。······後輩······うん、後輩みたいな奴がね、気づいたらすごい成長をしていたんだよ」

『後輩、ですか?』

「そう、後輩だ。まだまだずっと後ろにいると思っていたのにさ、そいつに色々気づかされた」

 

 

 そう言って夕は顔だけ振り返って部屋の方を見た。看病に疲れて眠ってしまった後輩(・・)の顔が浮かぶ。

 

 

「ずっと一人だと思っていた。いや、多分実際一人だった。そしてこれからも。僕が目指すものは、それを成し遂げるためには、一人で進んでいかないといけないんだと思う。それでも────」

 

 

 

 

 ────その先の景色を一緒に見てくれる人がいるんだって気づけたよ。

 

 

『夕······あなた······』

真昼(・・)

『っ!』

 

 

 息を呑む真昼の声が聞こえる。

 

 

「俺は·········僕は、進むよ、これからも。今はちょっと立ち止まってるけど、また同じことでもがき苦しむことがあっても、進んでいく」

 

 

 多分今年の夏は帰らない、と夕は伝えた。

 

 

「大丈夫、今度は無理しないよ。無理しようとしても誰かさんがさせてくれないだろうし。それにそうだね······せっかく宗教系の学校にいってるんだし、そこら辺の心の安定の仕方でも教えて貰うよ」

 

 

『······そうですか』

 

 

 真昼はその一言だけ口にした。

 きっと彼女は彼女で色々と察したのだろう。

 

 

「────それとこれだけは言っておく」

『何ですか?』

「この道は僕が選んだものだ。色々な事情があったのは確かだけど、最終的に決めたのは自分自身。だからその責任の所在は僕にある」

 

 

 そう、椎名夕は最初から、そしてこれからも独り善がりに進んでいく。矛盾を孕んでいたとしても、それが最善だと確信しているから、その先で笑いたいと願っているから。

 だから、彼はもうしばらくこのままであることを選ぶ。

 

 

「────まあ、気にしないでいい、って言っても気にするだろうからさ、一つ頼まれてよ」

『······わかりました』

「うん、ありがと。でも安請け合いしちゃっていいの?」

『ここまで来て茶化さないでください。それに安請け合いではないです』

「そっか······じゃあ遠慮なく頼むよ。────お願い、見守ってて、僕がまた舞台に立つのを、僕の方から会いにいくまでどうか······見守ってていて欲しいんだ」

『はい、頼まれました』

「ありがとう、姉さん(・・・)

『はい。ですが一つ────』

「何?」

 

 

 すると真昼が何やら切り出してくる。

 

 

『男の人というのはあれですね────そうやって努力をあまり見せないで頑張るもの何ですか?』

「·········惚気?」

『どうしてそうなるんですか!?』

「いやだって、姉さんとそんな深い関わりのある男って僕と藤宮ちゃんだけじゃん。どうせあれでしょ? 藤宮ちゃんがここ最近頑張ってた理由が姉さんと釣り合う男になるためとか、そんな感じのことを付き合ってから聞いてそう思ったんでしょ?」

『うっ······』

「まあ、それはあれだよ。ほら、付き合いはしたけど、もっと綺麗だったり、可愛い自分を見て欲しいって姉さんだって思うでしょ? それと似たようなものだよ」

『というと?』

「姉さんと、それに藤宮ちゃんのことだから、ちゃんと自分の良い所悪い所、その全部を受け入れ、尊重してくれたから互いに好きになったんでしょ?」

『はい······』

「つまり、良い意味でも悪い意味でも自分のことを知られてる。なら取り繕ったりする意味は本来ない。でもやっぱり好きな人だからこそ良く見せたいって思うってことだよ。────もちろん家族としてだけど、僕は姉さんのことが好きだよ」

 

 

 ────だから誇れる自分でありたいし、そのための努力は欠かさない。

 

 

『なるほど』

 

 

 その説明に真昼も納得した声を出す。

 

 

「さて、じゃあそろそろ切るよ」

『わかりました。ですが今度はあまり連絡を欠かさないでくださいね?』

「うん、わかってる。今回は心配かけたよ」

『まったくです。今日連絡がなければ、夕の学校に直接行ってましたよ?』

「マジで連絡して良かった」

 

 

 思わず心の底から安堵した声を出して安心する夕。

 あそこと真昼は絶対に合わないどころか、彼女のこれまでの常識が粉々にされかねない。

 

 

『何でそんな風になるんですか? 宗教系の学校なら穏やかな人が多いと思うのですが?』

「あー、うん、そうだね。······まあ、あれだよ······。生徒はともかく教師の方がちょっとね? ほら、学校に行ったら教師と話すことになるでしょ?」

『変わった先生なのですか?』

「見た目が宗教系の学校にいるようにはとても思えないからね」

『はぁ··········』

 

 

 どこか釈然としない声をもらす真昼。誤魔化すために夕は夜蛾の印象を犠牲にした。

 

 

『────そうだ夕』

「どうした?」

 

 

 いよいよ本当に通話を終えるってなった時、真昼が不意に声をかけてきた。

 

 

『────お互い、いい人と出会えたみたいですね』

「······かもね」

 

 

 そうして通話を終わった。

 

 

「······これが姉の、いや、女の勘って奴かな? 多分バレたよね······」

 

 

 最後に夕はそう呟いた。

 

 

 これがあの日、夕と真昼の間にあった会話。

 そうして季節は夏が去り、秋も終わり、新年も越えた。

 一番星に救われた彼は────

 

 

  ○ ●

 

 

 ────改めておめでとうございます。監督として今回の映画の仕上がりについて教えてください。

 

 

「はぁ······ねぇよ、んなもん。俺が今回やったことなんて地ならしみたいなもんなんだからな。最低限の基礎さえ押さえて置けば、誰が撮ったって今回の映画はうまくいった」

 

 

 ────それはどういう意味でしょうか?

 

 

「どういう意味もクソもねえよ。今回はあの天才役者の一人勝ち······全部あいつが持っていきやがった。ったく、あれでカメラ演技初めてとかどうなってんだ?」

 

 

 ────やはり()の存在が大きかったと?

 

 

「······そうだよ。ある意味監督泣かせの奴だよあいつは。俺の頭ん中の画を再現するどころか、百二十点······いや二百点と言ってもいいくらいの最高以上を······監督である俺の想像以上のものを演じやがった」

 

 

 ────なるほど。ですが彼は当初不調が噂されていましたが、その事についてどう感じていらっしゃったんですか?

 

 

「そりゃあもちろん、いい気はしなかったさ。まるで俺の映画をリハビリ代わりの当て馬にされたようなもんだからな。······まあ、結果的にそれは杞憂で、未来ある役者の一人と縁を持てたから結果オーライなんだがよ」

 

 

 ────ありがとうございます、五反田監督。最後に一言お願いします。

 

 

「この映画を天才役者の復活に捧げる」

 

 

  ○ ●

 

 

 ────椎名夕不調。

 

 

 劇団ララライの看板役者にして、期待の若手俳優である彼のその噂は数ヶ月前からささやかれていた。

 

 

 とある公演のキャスティングに名前が挙がりながらも、ララライ側はそれを断り、その後の出演依頼にも彼は応えず、舞台から遠ざかった。

 

 

 やがて業界全体にその噂が広まりきった中、彼の映画主演が決定した。

 

 

 背伸びし過ぎ、舞台と映画は違う、オワコン決定などと一部から言われた。

 

 

 しかし、今の彼を見て、それを信じられる者はまずいない。

 

 

 映画の撮影が終わり、試写会を終えた椎名夕の周りには多くの取材陣で溢れていた。

 

 

『おめでとうございます。前評判を覆す圧巻の演技でしたね?』

 

 

「ありがとうございます。今回は本当に多くの方に支えられました。それを返すことができる演技となっていたのなら幸いです」

 

 

『何ヵ月前からか噂されていた不調、それに関してお聞かせいただけませんか?』

 

 

「申し訳ありません。それに関しましては身体的、精神的なものが重なった故のものとだけ······。ですが、そんな自分を温かく迎えてくださった五反田監督を始め、関係者の皆様には改めてお礼申し上げます」

 

 

 多くの記者からの質問を椎名夕は捌いていき、次が最後の質問となった。

 

 

『────では最後に今の気持ちを誰に伝えたいかお聞かせください』

 

 

「······」

 

 

 ある意味定番と言えるその質問に、しかし椎名夕は沈黙した。そして彼は少し考えるようにして口を開いた。

 

 

「······正直、自分としましても、様々な想いが胸の中にあり、まとめ切れませんが、まずは今日まで見守っていてくれた姉に感謝を伝えたいですね。自分が不調故に心配をかけたであろう中、信じて見守ってくれたことは本当にありがたく、力になりました。この場を借りて改めてありがとうと言わせていただきます」

 

 

 そう言って一度、区切るように彼は口を閉じ────

 

 

「冒頭でも言いましたが、今回は本当に多くの方々に助けられました。キャスト陣やスタッフ一同の皆様はもとより、友人知人に同じ劇団の先輩後輩同僚など、数えきれない支援をいただき、時間が許すなら全員に感謝の言葉を述べたいところですが······」

 

 

 流石にそれは無理ですよね、と苦笑して記者たちを見回す。

 

 

「────そうですね、ではもう一人だけ。不調の自分に気づきを与えてくれたとある後輩にお礼を。自分の周りには多くの人がいて、その人たちに育まれ、支えられ、そして見守られていたこと、そんな日々の大切さに気づかせてくれたその後輩に、あの日から追いかけてきてくれてありがとうと言わせていただきます。────最後に改めて関係者の皆様へ、本当にありがとうございました」

 

 

 その言葉に周囲から拍手が起こる。

 しかしそんな中、再び椎名夕は口を開いた。

 

 

「────すみません、一つ忘れていたことがありました」

 

 

 彼はそう言いつつ、目を閉じて俯く。

 そして────

 

 

 

 

「これを見ているすべての人にお聞きします────どんな人が好みかな?」

 

 

 

 

 椎名夕は笑った。

 顔を上げ、目を開いたそこには、大胆不敵で、なのに胡散臭さの隠せない笑みを浮かべた彼がいた。

 

 

 




地上波デビューした挨拶?の反応


隣人カップル
ある意味いつも通りに戻った彼の様子に安堵しつつ、頭を抱えた。

高専メンバー
腹を抱えてゲラゲラ笑うもの、それやるかと思うもの、顔をひきつらせるもの、ため息をつくものと多種多様。

元祖の人
心配かけさせやがって馬鹿弟子が、と言っている一方でその顔には隠しきれない笑みがあった。

苺プロ
とうとう地上波でやりやがったと全員が思う中、一人だけ優しそうな微笑みと、嬉しそうな声で「おかえり」と言っており、マジかよって愕然とした。
 
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