真昼の弟は転生者で、呪術師兼ララライの看板役者です。でも推しの子は知らない模様   作:水の虎

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さて、一歩一歩未来を変えていきましょうか。


幕間②○

 

 

 

 ある冬の日の高専にて────

 

 

「本当にいいの、センパイ?」

「構わないよ五条」

 

 

 僕と五条は向かい合っていた。

 

 

「ふーん。じゃあ────いくよ?」

 

 

 初速から高速道路を走る自動車なんて目じゃない速度を叩き出す五条。

 

 

「っ────」

 

 

「流石だねーセンパイ。でも、術式ありの俺を相手にするのはやっぱ厳しいんじゃない?」

 

 

「さあ? それは······どうかなッ!」

 

 

 突っ込んできた五条の初撃を避け、続く第二、第三の魔の手も捌く。

 

 

(ッ────重た·········)

 

 

 内心で僕は思わず毒づく。

 五条は攻勢ではありつつも、今のところ術式を使ってない。

 しかし、彼の攻撃に対処する僕の腕は僅かに痺れていた。

 

 

(五条家の相伝である『無下限呪術』······それを実用レベルで使用を可能にする『六眼』。ここまでのものなのか······)

 

 

 単純な呪力による強化はしかし、『六眼』がそこに加わるだけで並みの術師なんて比較にならない実力を······パフォーマンスを発揮する。

 ここに彼の術式による攻撃も可能であり、カウンターを決めようにも『無下限』の壁に阻まれる。

 なるほど、確かに最強だ。

 例えこの時点でも、十分彼は頂にいるのかもしれない。

 けれど────

 

 

(その頂はまだ低い。少なくともやりよう次第では僕でも届く)

 

 

 だからそこをつかせて貰う。

 

 

「ッ······『蒼』!」

 

 

 先程から攻撃すべてをずっと捌かれ続けて業を煮やしたのか、とうとう術式を使用してきた。

 無限の収束から生み出される引力、しかし────

 

 

「甘い」

 

 

「······!?」

 

 

 そんなものは警戒してる。

 そして伊達に一年近く付き合ってきたのだ。この状況でどの辺りに『蒼』が発生するかは大体見当はつく。

 ならば、ずっと気を配っていれば発動からの僅かなラグの間に効果範囲から脱出するくらい、強化された身体能力があれば不可能じゃない。

 

 

「ちっ······このっ!」

 

 

 ならばと『蒼』を使いながら近接戦での足止めを図ってくる五条。

 けれど、単純な肉弾戦なら僕に分がある。

 それらを掻い潜りつつ、再び『蒼』の効果範囲から脱出。

 

 

「────もっと遠慮せずにきなよ五条」

「ッ────!」

 

 

 余裕そうな表情を見せる僕に五条はムキになるが、より単調となる攻撃では結果が変わらない······というわけでもない。

 

 

(多いな······)

 

 

 発生する複数の『蒼』。

 小細工をねじ伏せる圧倒的な力。

 五条悟にはそれが確かに備わっている。

 

 

(······やっぱりまだまだ経験が足りないね、五条)

 

 

 高専に入学してから諸々の関係で対人の、呪詛師相手の任務を受けることが多かった。

 中には危うく死にそうになる場面もあったし、その度に自分の足りない部分を足していった。

 けれど五条にはその両方の経験が乏しい、というより後者に至っては皆無なのではないか。

 

 

(術式反転────)

 

 

 『蒼』の力場に捕らわれた僕に五条が向かってくる。

 けれど────

 

 

 ────『霧散霧消』

 

 

 それは打ち消される。

 

 

「なっ······!?」

 

 

 目前で消滅した『蒼』に五条の目が見開かれる。

 その致命的な隙を自由になった僕は逃さない。

 

 

「くっ······」

 

 

 懐に入るが、遅れながらも五条は反応し、身体を捩って『無下限』を展開。

 けれどそれは絶対じゃない。

 彼は最強であっても無敵の存在ではない。

 術式とてそれは同じ。最強の盾であっても無敵の盾にはなり得ない。

 

 

 ゴッ!

 

 

 『霧散霧消』を纏わせた僕の掌底が五条の『無下限』を貫き、そのまま彼の顎を捉え、強く脳を揺らした。

 

 

「────ふぅ·········しんど······」

 

 

 倒れ伏した五条を前に、僕はそう一言だけ呟いた。

 

 

  ○ ●

 

 

「────というわけで五条、君には僕の指導の下、『反転』の習得を目指してもらいます」

 

 

 意識の戻った五条に開口一番僕はそう言った。

 

 

「·········」

「あれ? どうした五条、聞こえてるよね?」

「······いや、聞こえてるけどさ······センパイ何がしたいの?」

「今言ったじゃん」

 

 

 何言ってるんだこの子? もしかして頭でも打った?

 

 

「何で俺がおかしいみたいな顔してんだよ······。突然術式ありで勝負吹っ掛けてきて、負けた方は勝った方の言うことを何でも聞くってなったのに、俺にしかメリットのないこと言われれば流石におかしいと思うわ」

 

 

 おー、脳揺らされた後なのに滅茶舌回るなー。

 

 

「んー、まあ、それは秘密。それも含めて今回の勝負の対価ってことで」

「······」

「え~、まだ信用できない? 単純に五条が強くなってくれれば、僕にもメリットが来ると思ってしてることなんだけど」

「だったら普通に教えてくれれば良くない? つーかセンパイ『反転』使えたとか初耳なんだけど······」

「そりゃあずっと黙ってたからね」

「何で?」

「え、だってバレたら面倒じゃん」

 

 

 できれば極力『反転』のことはまだ秘密にしておきたい。

 

 

「······夜蛾は? 確かセンパイをスカウトしたのあいつでしょ?」

「あの人も知らないよ。知ってるのは僕に特級相当の呪霊を祓える力があるってことだけ」

「呪霊に術式が効きづらいってとこまで嘘かよ」

「効きづらいのは本当だよ? まあ、相手が特級呪霊でも幻術をかけられるけど。────それに僕が嘘つき何て今さらでしょ?」

 

 

 役者だぜ僕?

 そう嘯いてみせる。

 

 

「······センパイって役者って言っとけば何でも誤魔化せるって思ってない?」

「まさか~·········。────それで? どうしてもって言うなら無理には求めないけど······」

 

 

 ────どうする五条?

 

 

「······約束は約束だしやるよ。言った通り俺にはメリットしかないしさ」

「それが聞けて安心したよ」

 

 

  ○ ●

 

 

「────で、指導って何すんの?」

「まあ、ぶっちゃけ呪術って普遍的な考え方よりも個々人の感覚の方が重要だからねー。正直できることなんてその感覚を言語化してやることぐらいしかできないんだけど······」

「できんの? 硝子みたいのは勘弁してよ?」

 

 

 どうやら感覚を言語化すると言ったせいで家入のことを思い出したらしい。

 

 

「はは、確かに完全に家入は感覚的だよね~。ヒューとやってヒョイ、だっけ? あれには驚いたよねー」

「マジで俺にはサッパリだったけど、センパイはわかったの? 同じことができる側として」

「それが家入の中でのイメージと一致してるかはわからないけど、何となくのイメージはできたよ」

 

 

 マジかよ、と五条はぼやいた。

 

 

「これに関しては本当に役者としての経験がいきたよ? 演出家の頭ん中を再現する演技をやることに比べれば簡単簡単。早速僕なりの説明してくけどいい?」

「────センパイ」

「何だい、五条?」

「硝子のイメージを話すの? センパイのじゃなくて?」

「あー、それねー······」

 

 

 んー、と僕は唸った。

 

 

「────多分だけど僕の反転のイメージって五条と絶望的に合わないと思うんだよね」

「センパイさっき呪術は個人の感覚が大事だって言ってたじゃん。せっかくだからセンパイのイメージを教えてよ」

「······わかったよ」

 

 

 でもわからないって文句つけないでよ?

 そう前置きして僕は端的にただ一言────

 

 

「愛だよ」

「はっ?」

「愛だよ、愛」

「······何言ってんの?」

 

 

 言ってみたけどやっぱ通じなかった。

 まあ、流石に端折り過ぎたけど。

 

 

「反転に限らず、呪力に対するイメージの根幹は、僕にとっては愛なんだよ五条」

 

 

 本来負の感情から生まれる呪力は文字通り負のエネルギー。故にそれと愛を結びつけるのは難しい。

 だが、悲しみや怒り、羞恥や後悔、そんな感情が無から生まれるなんてありえない。

 その源泉を何かと考えた時、僕はやはり愛と答える。

 悲しみや怒りは自分や誰かに対する理不尽などへの反応で、羞恥や後悔はプライドや信念といったもの故。

 それらを抱かせるのは何かしらへの執着だ。

 自分か他人か、その違いはあれど、そこには必ず愛があると僕は思っている。

 

 

「────とまあ、そんな感じだよ。ほら、愛憎は表裏一体って言うでしょ?」

「······」

 

 

 一応、そうやって説明したが、やはり五条の反応は芳しくない。

 

 

「······とりあえず僕が思う家入の中での反転のイメージを話すよー」

 

 

 なので、本来の路線に話をさっさと戻していく。

 

 

「まあでも、僕が家入のイメージを割とすんなり受け入れられたのは、今言った僕のイメージと通ずる部分があったからなんだよね。とくに『ヒョイ』の部分は実は結構いい線いってるって思ってる」

「えー······」

 

 

 もはやこの時点で五条は微妙についてこれてない。

 

 

「言ったでしょう? 愛憎は表裏一体って。『ヒョイ』っていうのはひっくり返すことなんだって思ってる」

「ひっくり返す······」

「そう。反転のイメージで一番使われる例がマイナスとマイナスのかけ算だからね。どうしても反転の習得を目指す時はそのイメージでやってる奴が多いんだろうけど、僕は呪力をぶつけ合うというよりひっくり返すって方が合ってるって思うんだよね」

 

 

 さっきの例で言うなら、呪力という負のエネルギーには常にその源泉たる愛、つまり正のエネルギーが内包されてる。

 だからそれらを概念的にひっくり返すとでも言えばいいのか?

 

 

「それでどうする? とりあえず試してみる?」

「······まあ、硝子の説明よりはイメージが掴みやすかったし、やってみるよ」

 

 

 そう言って、トライを始める五条。

 しかし────

 

 

 

 

 

 

「できねー·········」

「できないね·········」

 

 

 一時間ほど色々と試してみたが無理だった。

 

 

「······まあ、何度も言うけどこればっかりは当人の感覚、一番自分で納得できる解釈を探すしかないからねー」

「·····これからどうすんのセンパイ?」

「今日無理だったらしばらくは反転をお前の前で使う機会を定期的に設けるから、『六眼』で視てどうにか何かを掴んでー」

「適当だねセンパイ」

「······僕の場合割と早い時点で自分に合う解釈を見つけられたからねー。そんなに習得も時間かからなかったんだよー·········そういえばさ────」

「んー?」

 

 

 ふと気になったことがあった。

 

 

「御三家とかって術式の用途に限らず、そこら辺のことは何かしらの記録に残してないの? 個人のイメージとはいえ、何かしら参考にできることはあるかもしれないのに」

「そもそも反転自体できる奴が希少なんだよセンパイ。少なくともここ最近の五条家で反転使えた奴いねぇーし」

「あー、御三家って愛とかなさそうだもんねー。ならしょうがない」

「誰も彼もセンパイ理論で反転習得する訳じゃねぇよ、むしろそれでできるようになる方が少数派だよ······」

 

 

 何か呆れたように五条が言ってくる。

 失礼な奴だ。愛は偉大なのに。

 少なくとも僕にとってはずっとそうだった。

 初めて呪霊を祓った時も、真昼にそいつが近づくことに対する怒り、ひいては彼女への愛が呪力を引き出すトリガーになった。

 そして反転術式も一時期使えなくなってしまったが、アイへの想いを自覚し、再び使えるようになった。

 

 

(······でも五条には合わないよねー。予想通りと言えば予想通りだけど、こいつに特定の人間に対する執着なん、て······?)

 

 

 いや待てよ。

 

 

「ねぇ、五条」

「なに?」

「お前夏油と初めて会った時どんなことを思った」

「前髪」

「そういう意味じゃないよ。もっとこうあるでしょ? 何かこいつ胡散臭いなとか、意外と沸点低そうだなとか。入学初日、結構派手にぶつかったて聞いてるよ?」

 

 

 今は互いのことを認め合う二人だが、初めて会った時はそりが合わず一回殴り合ったらしい。かと思えばどこぞの少年マンガのように翌日には仲良くなってて驚いたらしい(家入談)

 

 

「────あの時のお前の心の変化をイメージすれば案外いけるんじゃない?」

「······やってみる」

 

 

 まるで今日一日のもやもやがなくなったかのような顔をする五条。

 どうやら彼にとってもなかなか納得できるイメージだったらしい。

 

 

 

 

 

 

「······マジでできたね」

「······マジでできたよ」

 

 

 お互い顔を見合わせた。

 あらかじめつけておいた手の甲の傷が治っていくのを目の当たりして、改めてその事実を認識した。

 

 

「────とりあえずおめでとう、五条」

「ん」

 

 

 珍しく言葉にしてこそいないが、五条は感謝の意を示す態度をとった。

 まあ何はともあれ、こうして無事五条は反転を習得したのだった。

 

 

  ○ ●

 

 

「────ふぅ······」

 

 

 すっかり遅くなった帰り道を歩く。

 あの後、五条はもちろん、任務から帰ってきた夏油からも夕食をねだられ、そこそこの時間を拘束されてしまった。

 ちなみに五条は反転習得のことを夏油に話さなかった。

 別に僕が反転を使えることと、教えたことを言わなければ話していいと言ったが、まだまだ不完全な反転を見せるのはプライドが許さないらしく五条は話さなかった。

 

 

(結構遅くなったし、もう寝てるかな?)

 

 

 元々任務の報告で高専に行ったら丁度五条一人だけだったから、昼間あんなことをしたのだが、本来は明日も役者としての活動があり、報告書を出してすぐ帰るつもりだった。

 お互い立場的に時間が合うことが少ないから、できるだけ時間を彼女のために使おうと思ったが、今後のために今日ばかりは五条の方を優先した。

 

 

「······これでどれだけ変わるかね」

 

 

 そう思いながら鍵を開け、部屋に入る。

 

 

「────おかえり、夕」

「······起きてたんだ、アイ」

「うん、寝ようと思ってたけど、帰ってくるってメッセージあったから」

「そっか······ごめんね」

「いいよ。それよりお風呂は? 一応沸かしておいたけど······」

「ありがとう。寒かったし、入らせてもらうよ」

「うん、いってらっしゃい」

 

 

 そんなやりとりをして見送られるが────

 

 

(あの分だと多分出るまで待ってるよね······)

 

 

 愛されてるという自覚で嬉しくもあるが、それで寝不足にならないか少し心配だ。

 だからできるだけ手早く、しかし身体はしっかり温めるように心がけながら入浴を終えた。

 

 

「────やっぱりか······」

 

 

 そうしてリビングに戻るとアイがうつらうつらと船を漕いでいた。

 

 

「アイ······アイ?」

「んぅ······」

「·········とりあえずベッドに運ぶか」

 

 

 起きそうにない彼女を抱え、寝室に運ぶ。

 

 

(無防備だなー)

 

 

 ベッドに寝かせ、顔にかかった髪をそっと払いながら思う。

 一応交際した男女とはいえ、もう少し警戒してくれないとちょっと心配になる。

 

 

「────ゆう?」

「あ、起きた? 自分の部屋戻れそう?」

「·········」

「アイ?」

「ここがいい」

「······ここで寝たいってこと? でも何で僕に抱きついてるの?」

「一緒に寝たいから」

「さては最初からそれを狙ってたね」

 

 

 身体を起こした彼女が胸に顔を埋めて体重を預けてくるのをとくに抵抗せずに受け入れる。

 

 

「駄目だった?」

「いいや。でも、なら最初から先にこっちで寝ててほしかったな。その方がアイもいい睡眠ができただろうし」

 

 

 別に一緒のベッドで眠るのは初めてじゃないし、それを言ってくれれば後からでも普通に同じベッドに入ったと思う。

 そんなことを思いながらベッドに入ると、アイがもぞもぞと身体を寄せてくる。

 

 

「ゆう」

「抱きしめる?」

「うん··········あったかい」

「お風呂入ってきたからね」

「ゆう」

「もっと強く抱きしめる?」

「う、ん······」

 

 

 既に瞼はほとんど閉じられている。

 しかし、彼女は温もりを求めるように離れようとしない。

 それでもやがて────

 

 

「······」

「おやすみ、アイ」

 

 

 彼女は眠りについた。

 けど結構ガッチリくっつかれてるから離れられない。

 もっとも離すつもりはなく、起こさない程度に抱きしめ直す。

 

 

(この一年が大きな分岐点になる。────それでも、この温もりだけは絶対離さない)

 

 

 決意を新たに僕も目を閉じる。

 少しでも良き未来を願って。

 

 

 

 




次回は本編ではなく会話集③を投稿します。
ちなみに当然彼が登場します(というより第十二話以降、彼の出番はそこしかない)
できれば彼の話を見る前に第二十三話の夕のコメントを見直しておくことをオススメします。

では少しネタバレという名の予告を一つ

役者として再び返り咲いた夕。彼のコメントを聞いたカミキの思いは如何に······




────次回、カミキ死す!?



······お楽しみに
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