真昼の弟は転生者で、呪術師兼ララライの看板役者です。でも推しの子は知らない模様 作:水の虎
第二十四話○
朝、微睡みの中から意識が浮上した。
「·········」
もっとも身体は起こすことはできない。
世界一幸せな拘束具に繋ぎ止められているからだ。
「ん、んぅ······」
そこには誰よりも愛おしい少女がいた。
眠る彼女の寝顔はとても幸せそうで、見ているだけでこっちまで幸せになる。
付き合ってからよく一緒に寝るようになったが、彼女は抱きしめられながら眠るのが好きらしい。
季節は春。まだ朝は冷えるこの時期に抱きしめる彼女の体温は心地よかった。
とはいえ────
「アイ、そろそろ起きて?」
そろそろ起きないといけない。
なので僕としては名残惜しく、彼女には申し訳ないが、心を鬼にして起こすために揺する。
「────ん······あれぇ、ゆ~う~?」
「はい、おはようアイ。君は僕のそばだと本当によく寝るね?」
「······だって夕の近くにいると安心するんだもん。ふわぁ······おはよう夕」
「よく眠れた?」
「うん! バッチリ」
そう言って彼女が身体を起こすことでようやく僕も身体を起こす。
軽く伸びをして身体を解しているとアイがクイクイと服を引っ張ってくる。
「夕」
「はいはい────」
彼女の求めに応じて唇を重ねた。
「えへへ、おはよう夕」
「うん、おはようアイ」
二回目の挨拶だが、あえて触れずにそう返しておく。
もはや最近ではこれが当たり前だからだ。
こうして、今日もアイとの朝は始まった。
○ ●
「────それじゃあ僕は先に出るね」
身支度と朝食を済ませ、お互い家を出る時間となった。
「······うん」
「アイ」
少し寂しそうにする彼女を抱きしめる。
「ん。······またしばらく会えないの?」
「そうだね。こればっかりは仕方ないね」
「夕の学校は四年制なんでしょ?」
暗に後二年はこんな風になるのかと言いたいのだろう。
「うん。でも四年になると結構融通が聞くようになるらしいから、来年はもう少し一緒にいられると思う」
「本当?」
「本当だよ。······まあ、変わりに三年は
「むー」
「拗ねないでよアイ。その関係で役者の仕事を今年は抑えるから、差し引きとしては去年や一昨年とあんまり変わらないよ」
「わかってるけど······」
「とりあえず今回は長くても半月ぐらいだから我慢して?」
そう言って顔を覗き込むと彼女は頷いた。
「────じゃあそろそろ行くよ。アイも気をつけるんだよ?」
「うん。いってらっしゃい夕」
「いってきます」
そんなやりとりをして外に出る。
その際術式を使うのも忘れない。
最後に外に出た後、念を入れて周囲に人がいないかも確認する。
「······いくか」
そうして僕は歩き始める。
ここからは呪術師、椎名夕だ。
「もうすぐか」
とうとうこの年が来た。すべてが歪み始めるこの時期が。
だから今年は役者の仕事をかなり抑えた。
表向きは学校の実習があるとして。
(アイには悪いことしたな······)
僕はまだ呪術のことをアイはもちろん、真昼や周にも話してない。
この一年がどっちに転ぼうと、高専を卒業する前までには話すつもりでいる。
しかし今はまだ話す訳にはいかない。
「────ここを変えられるかは大きいぞ、椎名夕」
決意を再確認し、僕は新たな年を迎えた高専に足を向けるのだった。
○ ●
そうして高専に戻り、数日は任務をこなす日々に埋没していたところ、夜蛾先生から呼び出しを受けた。
「夜蛾先生、僕に頼み事っていうのはその二人についてですか?」
「ああ······。できればこの二人の指導をお前に頼みたい」
「七海建人です」
「灰原雄です!」
「椎名夕、三年の三級術師だよ」
二人の自己紹介に合わせて僕も名乗っておく。すると────
「そのことだが夕、話にあった通りお前は今日から二級術師だ」
「ええー······、僕はいいって言ったのにー」
「だが、向こうの業界もお前のお陰で大分こちら側の事情を知るようになってきた。それなのに窓口として動くお前の階級が低いのはやはり少し問題らしい。実際にそういう声も上がっているし、できれば準一級くらいになれと上から言われた」
「はあ······もうー、わかりましたよ······」
努力しまーす、とだけ僕は返事をしておく。
「······それで話を戻しますけど、この二人の指導ですか? 入学してそこそこ経ってるなら······いや、あの二人に指導なんて期待できませんね······」
「······ああ、お前の言う通りあの二人に頼んだが無駄だった」
頭痛そうに顔をしかめる夜蛾先生。
二人の方を見てみると、七海はその通りだと頷き、灰原も「あはは······」と愛想笑いするが、微妙に顔がひきつってる。
「わかりました。やるだけやってみますけど、あんまり時間は取れないんで期待はしないでくださいよ?」
「それでいい。とりあえずやれることをしてくれるだけでありがたい」
「了解でーす。じゃ、早速いこっか? 七海君に灰原君」
「はい」「わかりました!」
うんうん、ナナミンは既にナナミンだし、灰原は元気一杯だね~。
ある意味後輩らしい後輩だし、ちゃんと先輩しないとねー。
○ ●
「────あー、うーん·········なるほど······」
適当にかかっておいで~、と二人と組み手を行いおおよその実力を把握した。
感想としてはちょっとチグハグというか、所々基礎的な部分の抜けが見えた。
「あの二人の影響かな? 変な癖みたいのがついてるね」
「ハァ······ハァ······と、言いますと?」
「フゥ······フゥ······」
息を切らす二人を見ながらそう言う。
五条と夏油はどう考えても持ってる側だ。
おおかた大したことを教えずに、とりあえずで彼らを実戦的に扱き倒したのだろう。
二人も二人で何だかんだ真面目で、それに食らいついていったせいで全体的なまとまりが悪く、偏りが生まれてるっていうのが僕の印象だ。
「────なるほど」
「確かに五条さんとも夏油さんとも、基本的に今みたいなことしかしてませんでした。でも具体的どういうところがダメなんですか?」
指摘を受けて頷く二人。
それに僕は「ちょっと待ってね」と断ってから呪力を練り────
パチンッ!
なんとなく気分で指を鳴らし、術式を発動。
「ええぇっ!?」
「これは······」
「僕の術式は幻術を生み出し操るもの────」
驚く二人に自分の術式を明かす。
そこには僕自身はもちろん、幻術によって再現された二人の姿もあった。
「口だけじゃなくて、こうやって見て説明した方がわかりやすいからね。というわけで今からさっきの流れを全部なぞって、その都度色々説明してくよー」
「「·········」」
それに二人は顔を見合わせ────
「「お願いします!」」
珍しく七海までもが、テンション高めで頼んできた。
「あいよー。じゃあまずはね────」
「······なるほど。ではここの動きは────」
「あっ、そこは僕も気になった」
「あー、そこはね────」
一つ一つ幻術を動かし、彼らの改善点を指摘し、時に投げかけられてくる質問にも答えていく。
そうして────
「うん、とりあえずこんなところかな」
「ありがとうございます、椎名先輩。とても勉強になりました」
「はい、すごいわかりやすかったです! 椎名さんの術式は凄いですね。こんなそっくりの────あれ?」
灰原が幻術に触れようとしたが、その手はすり抜ける。
「視覚にしか作用しないからねそれは。まあ、やろうと思えば実体を持たせて触れることもできるけど、説明する分にはそれだけで十分だったからね」
「そんなこともできるんですか?」
「もちろん。そして二人も説明の間休めたから、ここからは第二ラウンドだよ」
「何を······ッ!?」
今度は幻術で過去に戦った呪霊を再現。
「さっきので学んだのは対人的な立ち回り。でも僕たち呪術師の本業は呪霊相手だ」
いい反応だ、と咄嗟に距離をとった二人を褒めながら次やることを説明する。
「最初に言ったけど七海も灰原も癖がついてる。あの二人に食らいついていくためか、立ち回りが対人を相手にするような動きが多かったしね。人を相手にした時ならそれでいいけど、使い分けられないのはちょっとよろしくない。というわけでそこも色々とやっていこうか」
呪霊の中には明らかに異形の姿のものがいる。それらに対人思考で望むと手痛い反撃を食らいかねないから、ついでにそれもここで改善しておこう。
「────ただし今回は実体も持たせてる。攻撃が当たれば普通に痛みもあるからね気をつけてね? というわけで、第二ラウンドはこの幻術の呪霊と戦ってもらいます」
その後、戦いを終えた二人にまた幻術による戦いの再現を見せ、色々と指摘をするのだった。
······ところで夜蛾先生、何で突然卒業後の進路を聞いてくるんですか?
七海建人
最初は緩めな態度の夕を少し疑ってたが、きっちり良いところも悪いところも指摘して、五条と夏油の百倍はためになることを教えてもらい評価を改める。
夕のことは普通にいい先輩だと思うが、あの二人と意気投合してるところを見ると、ノリのいい彼が巻き込んでこないかちょっとだけ不安になる。
今のところ全幅とまではいかないが、信用も信頼も尊敬もしている。
灰原雄
幻術を使って視覚的に滅茶苦茶わかりやすくして色々と教えてもらって勉強になり、こちらはストレートに凄い先輩という評価になった。
夕の料理を食べて感動。生意気な後輩と違って素直でいい子なので七海共々あの二人に内緒で、よく料理を差し入れられて餌付けされた。
夜蛾正道
実は途中から様子を見ていたが、安全に呪霊との戦いを本格的に学べるその方法に、卒業後に高専の教師になってくれないかと本気で考えた。