真昼の弟は転生者で、呪術師兼ララライの看板役者です。でも推しの子は知らない模様 作:水の虎
「づ~が~れ~だ~」
「大丈夫?」
あんまり大丈夫じゃないですね、はい。
宣言通り半月ほどでアイの下に帰った僕だが、帰るなりソファーに突っ込んだ。
「去年も一昨年も春頃は大変そうだったけど、夕の学校は春が忙しいの?」
「······うん、春は新しいことが一杯あるからねー。その関係で色々あるんだよー」
呪霊の発生とか被害とか任務とか、この時期の呪術師は忙しい。
しかも上の都合のせいで二級になってしまったから、担当する任務も面倒なものが増えてしまった。
「そっか······うん」
「アイ?」
何やらふんす、となるアイに何だとソファーに押しつけてた顔を向ける。
「────今日は私が夕を甘やかします」
「ええぇ······」
「むっ、不満なの?」
「いや、そういう訳じゃないよ。けど甘やかすって何するの?」
「うーん······ご飯を作ってあげたり、マッサージとかしてあげたり?」
突然言い出しただけに具体的なことはとくに決めてないらしい。
「気持ちはありがたいけど遠慮しておくよ。疲れてるのは僕だけじゃないからね。アイだってアイドルとして頑張ってるのに僕だけ甘えてられないよ」
休日で仕事の疲れを休めたいのはわかるが、それを理由に相手に何もかも任せてしまうのはいけないと僕は思う。
甘えすぎてしまわないように、日頃からそこら辺は気をつけていないとと思いながら、僕は身体を起こすが────
「もうこれは決定事項です!」
「ちょっ、アイ!?」
空いたスペースにアイが滑り込み、僕の頭を抱え込むようにしてを腿に乗せてくる。
「······あのさアイ、駄目ではないけどせめてもう少し穏やかにできなかったの? 落ちたりしたら危ないでしょ今のは······」
「言ったって夕はしないでしょ? ならこうするしかないじゃん」
「いや、そうかもしれないけどさ······」
「それに何だかんだ今の夕は抵抗してないからいいでしょ?」
「······」
反論できずに押し黙る。
そのまますっかりアイのお気に入りになった、頭を撫でる、をやってくる。
「♪~~」
「······そんなに楽しい?」
「うん、楽しいし、嬉しいよ? 夕は最近甘えてこないからね~。あの時はよく甘えてたのに」
「できればそれ忘れてくれない?」
「ふふ、ダ~メ」
瞳の星をキラリとさせながらウインクしてくるアイドル様に、僕も抵抗を諦めた。
「······でも食事とかは僕も作るよ。流石にそこまで甘えられない」
「もう·····別にいいのに」
「嬉しそうな顔してちゃ説得力ないよ?」
たった半月会わなかっただけなのに、このやりとりが懐かしく、そして嬉しいと思う。
「────ねぇ、アイ」
「何?」
だからからか、そんなことを聞いてしまった。
「もしも······もしも欲しいものがあってさ······でも何かを失う覚悟を持たないとそれが手に入らない。そして失うかもしれないものは命より大事だと思えるものって時、アイならどうする?」
「ん~······その欲しいものはさ、どれくらい欲しいの?」
「·········少なくとも簡単には諦められない。命より大事だと思えるものへのリスクを理解しても、すぐには決断できないくらいには」
「────なら全部私は欲しい」
アイは言い切った。
「それぐらい大事に思えるなら、それも、そして命より大事なものだって、両方欲しい。私は欲張りだから全部欲しい」
「·········そっか·········アイらしいね」
「私だからね」
本当に彼女らしい答えだった。だから────
(頑張らないとね······)
そう思いながら、しばらくはアイにその身を委ねた。
○ ●
それからまたしばらくの間、呪術師として、役者として、そしてアイの彼氏としての日々が続いた。
いよいよ一つ目の分かれ道まで三日を切ったその日、僕は真昼と周の下を訪ねていた。
「────ごめんね突然押しかけちゃって?」
「別に大丈夫だけど、何かあったのか?」
「しばらく忙しくなりそうでね。顔見せるのが難しくなる前に顔を出しておこうかなって」
「役者の活動か?」
「それもあるけど、一番近くにあるのは学校の実習かな」
「そんなのがあるのか?」
「うん」
ちなみに真昼は僕が帰ってきた影響か張り切ってキッチンに向かった。
手伝いを申し出たが、三人だと狭くなると断られ、周は僕の相手をしろと言われ、今はこうして二人で話している。
「ところでさ、周」
「何だ?」
「────指輪の資金貯まった?」
「ッ·········何で知ってんの?」
「バイト始めたって聞いたから、もしかしたらそうなんじゃないかって」
思わず周は声をあげそうになったが何とか堪え、小声で聞いてくる。
もちろんただの原作知識なのだが、周はそれを信じたらしく────
「お前の察しの良さが時々俺は怖い······」
「はいこれ」
「······これは?」
顔をひきつらせる周に構わず、僕はあるものを渡す。
何かって? そんなの決まってる。
「ちょっとした縁で知り合った人がやってる店だよ。もちろん指輪も扱ってるよ」
「·········」
いい笑顔で言ったら、いよいよ周は頭を抱えた。
「ちょっとした縁で何でそんな人の紹介状みたいのが出てくんだよ······」
「まあ······ちょっと危ないところを助けたから?」
以前呪術絡みのゴタゴタで縁ができ、そのままとくにそれを使ってこなかったから周に譲ることにした。
「·········お前のあれこれを気にしてたら疲れそうだし、一先ずもらっておくよ」
そう言って周は何だかんだで受け取った。
「────そういえばお前の方はどうなんだよ?」
「何のことやら僕にはさっぱり~」
「嘘つけ。明らかに棒読みじゃねぇか」
「うん、嘘だよ」
「······ならお前こそ必要なんじゃないかこれ?」
反転して僕のことを聞き出そうとしてくる周。
しかしここで────
「二人とも何の話をしてるんですか?」
随分盛り上がってましたけど、と言いながら真昼がやってきた。
「いや、それは······」
「私に言えないことを話してたんですか?」
周は真昼の登場に動揺した。今話してた話題が真昼に秘密にしている指輪繋がりから生じたものだからだろう。
「お互い、可愛い相手を持ったって話してたんだよ姉さん」
「なるほど·········ですが、私を除け者にしないでください。私も夕の相手のこと聞きたいです」
「まだ具体的なことは話してないし、話す気もないよ」
周に助け船を出したら、それを聞いた真昼が不満そうな顔を浮かべた。
「やっぱり芸能界の方なのですか?」
「まあね。周には今言ったけど、今年は学校の方で実習が多くてさ。その関係で役者としての活動は減らしたけど、学校の方が落ち着いたら落ち着いたで今度はまた役者の仕事が来るからね。予定のすり合わせを考えると紹介できるのは一年くらい先かな? 二人だって受験あるでしょ?」
言った通りアイの方の予定のすり合わせは必要だ。
以前彼女からも真昼と会いたいと言われたが、諸々のことを含めて考えるとやっぱり会わせられるのはそれくらいの時期になるだろう。
「そうですね。そうなると予定を合わせるのは結構難しそうですね。私と周くんは比較的融通は効くでしょうけど······」
「悪いね。僕が今の学校を卒業する前には何とか紹介できるようにするよ」
「楽しみにしてます。ですが無理はしないでくださいね?」
「しようとしたら多分止められるからしないよ」
ならいいのです、と満足そうに頷く真昼。
「ですが······いい加減名前くらいは教えてくれていいと思うのですが?」
「それは秘密~。その方が会った時面白そうだからね」
「結構有名人なのか?」
「どうだろうね~? もしかしたら二人とも知ってるかもよ~?」
煙に巻いたら何やら二人はぐぬぬ、といった顔をした。
「────でもそうだね······少しヒントを出そうか。その方が二人とも誰かを考えて、会った時の驚きが増しそうだし」
それを言った瞬間、真昼も周もバッ!と顔を向けてくる。
何故だろう、姉と義兄の二人が何だか彼女を連れてくる息子のような目で僕を見てくる。
あるいはそれだけ、以前の僕の不調のことを気にしてたのだろうか?
だからそれを支えてくれたアイに会いたいのかな?
そんなことを頭の片隅で考えながら、僕は口を開いた。
「まず年は僕より下で二つ違い。身長は姉さんより低いね。後、誕生日が結構近い」
特定できそうでしきれない範囲で情報を開示する。
「年下なんだな······」
「えっ、何、変?」
「いえ、変ではないですけど······」
「正直勝手なイメージだが、最低でも同い年、もしくは普通に年上だと思ってた」
示し合わせたように言葉をバトンタッチしながら二人は言った。
「────あっ! もしかして以前電話で言ってた後輩の方ですか?」
「ああ······それに前のインタビューでも後輩に助けられたとか言ってたな」
おー、見事に勘違いしてるな。
多分ララライに所属してる役者の人とかだと思ってるんだろうけど、実際は現役アイドルだからね。
でも芸能界入りを後押ししたのは僕だし、広い意味では後輩で間違いないよね!
そんなこんなで夕食を三人で共にし、僕は久しぶりの我が家に泊まるのだった。
藤宮周
後日紹介された店にいったら明らかに店のグレードがヤバかった。敷居が高過ぎて帰ろうとしたら既に夕から話を聞いていたらしく、何か滅茶苦茶VIP対応された。
これ明らかにちょっとの縁じゃないよね? 命を助けたって言われても信じるぞ?
椎名真昼
弟の彼女に色々と想像を膨らませた。
実はちょっと妹という存在に憧れていたのかもしれない。
今から妹(未来)と会うのが楽しみ。