真昼の弟は転生者で、呪術師兼ララライの看板役者です。でも推しの子は知らない模様   作:水の虎

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もしかしたら期待してた展開とは違うかもしれません。


ですがこの章、夕の見せ場はまだあります。


一先ず星漿体関連の話はこれと次の話の最初にちょっと触れて終わりです。


第二十八話○

 

 術師殺し・伏黒甚爾。

 本来持つはずだった呪力と術式の代わりに類い稀な身体能力を得た天与呪縛のフィジカルギフテッドの持ち主。

 彼と似たような人間はいるらしいが、呪力が完全にゼロなのは彼のみで、それによって得た肉体は文字通り破格の性能であり、一周回ったその五感は呪霊の存在すら捉えられる一種のバグ。

 生家である禪院家ではその力が認められなかったが、裏の世界ではその能力をもって数多の呪術師を葬り去り、術師殺しの異名を得たのがこの男。

 

 

「ふッ!」

 

 

「っ────何だテメェ、出会い頭に意味のわかんねぇこと聞いてきたかと思えば」

 

 

「不法侵入者が何言ってんの?」

 

 

「まあそれもそうか······だが生憎テメェには用はねえ。さっさと行かねぇと星漿体に追いつけねぇからな。ガキ、時間もねぇから今すぐそこどきゃ殺さないでやる」

 

 

「お優しいね、流石色男」

 

 

 距離を詰め掌底をかましたが、当然のように受け止められる。

 暗に邪魔しないなら死なないで済むぞ、と言ってきた。

 

 

「────あはは·········でも、まあ·········無理」

 

 

 答えは決まっていた。

 

 

「そうかよ······なら────ッ!?」

 

 

(逃がさない······)

 

 

 一度距離をとろうとする伏黒甚爾に僕はピッタリついていく。

 

 

「チッ······!」

 

 

「────」

 

 

 迎撃しようとする彼の腕や足を掻い潜り、さらに懐に潜り込む。

 

 

 この男の持つ術具が発する呪力を『六眼』で視れる五条すら、完全に捕捉しきれなかった超スピード。距離をとられて一度スピードに乗られれば僕では対処が後手に回る。

 だからこそ、ゼロ距離でのインファイトを選択した。

 そして何より、この近接戦闘でこそ、アレ(・・)がいきる。

 

 

「『幻想剣』」

 

 

「甘えよ······」

 

 

 術式で生み出したシンプルな西洋剣での斬撃はしかし躱される。

 当然と言えば当然だ。先程まで徒手格闘での攻防、それも不意をついて主導権を握り続けてやっと互角だったのに、剣なんてリーチのあるものを使えば手が回りきらないのは当たり前だ。

 とはいえ単純な殴り合いで劣る以上、いずれ握った主導権を引き戻されてジリ貧になるのは明らかなのだ。

 

 

(······だからこっちから仕掛けた)

 

 

 あえてわかりやすい剣という武器を持ち出し、自分の術式のミスリードをすると共に、こちらが焦って勝負を急いたと思わせる。

 

 

「────!」

 

 

 ほら来た。

 致命的な僕の隙に合わせたカウンター。でもね────

 

 

「────はっ·········? ッッ!?··············クソが······!」

 

 

「悪いね、こちとら役者。演技には自信があるんでね」

 

 

 この攻防を制したのは僕だった。

 流石に急所は無理だったが、太もも辺りに『幻想剣』が深々と刺さった。

 

 

「······誘ったってか?」

 

 

「そういうこと」

 

 

「だがそれだけじゃ説明がつかねぇ······あの攻撃は明らかにお前じゃ避けられるタイミングじゃなかった······」

 

 

「さあねぇ? まっ、寝不足で手元が狂ったんじゃない?」

 

 

「·········なるほどな。テメェの術式、最初は物理系かと思ったが違うわけか。実際は認識とかに干渉するってとこか?」

 

 

「へぇ······根拠は?」

 

 

 余裕を崩さずにそう尋ねるが、少ない情報で即座にその答えに行き着いた伏黒甚爾の分析力に僕は舌を巻いた。

 

 

「別に大したことはねぇよ······。まずその剣。刺されたのに血はでねぇし傷はない。既に抜かれたのに未だに刺さっている感覚がある。多分視覚化したそれに触れることで、脳にまんまその認識を意識させてんだろ? 強い暗示、それを未だに脳が刺されたと思ってから痛みがひかねぇ」

 

 

 正解だ。

 『幻想剣』は彼の言う通り斬られたり刺されたりすると、それをされた相手の脳が実際にそうなったと強く思い込む。たとえ既に剣が抜けていようとも、しばらくは脳がその認識を継続してしまう。

 

 

「────そしてそこまでわかれば攻撃が当たらなかったのも説明がつく。大方俺の視覚に干渉したってところだろ? でもまあ、それなら······」

 

 

 ダンッ!

 

 

「ッ!」

 

 

 未だに足の痛みがあるだろうに、一切落ちない超スピードで距離を詰めてくる。

 

 

(一歩で潰せる距離じゃねぇだろ······!)

 

 

 恐らく片足がしばらく使えない以上機動力は落ちるが、直線の移動ならもう片方でも、そのスピードを発揮させられるだろう。そして────

 

 

「おらよ!」

 

 

「ぐっ······っ、はっ!」

 

 

「────そこだ!」

 

 

(もう『幻引』を攻略したか······でも────)

 

 

 無意識に処理される視覚情報への幻術の展開、それによって相手の行動を引っ張って攻撃を外させるのが『幻引』。

 人が本能的に避けてしまう色やその並びなどの情報を視覚に刷り込むそれは近接戦のような場では大いに力を発揮する。

 以前は使う際にそこそこの集中が必要で、このレベルの相手と殴り合いしながら使えなかったが、最近ようやく平行しての使用を身につけた。

 しかし、視覚にしか作用しないそれは、視覚に頼らない存在には効果がない。

 

 

「役者っつったか? 随分特徴的な匂いの香水使ってんな!」

 

 

「────うん、だって今日のためにつけてきたからね」

 

 

「何?」

 

 

 僕は懐から今つけている香水の瓶を取り出し割った。

 すぐにその匂いは辺りに充満する。

 

 

「っ······テメェ」

 

 

「視覚を潰したら嗅覚(そっち)に頼ると思ったよ。だから君を思ってこの香水をつけてきたんだよ。感謝してよ? 僕はこんなきつい匂いの香水好きじゃないんだから」

 

 

 実際のところ、普段から匂い対策として香水を持ち歩いてたが、今回はこの男が相手とあって特に強い匂いのものを持ってきていた。

 これで再び状況はイーブンか、少し僕が不利といったところか。

 まあ、切る手札を抑えてるから、上出来だろう。

 するとそこで────

 

 

「黒井ッ!」

「理子様!? どうしてここに······」

「······これは一体どういう状況ですか、椎名先輩?」

 

 

「やあ、夏油、久しぶり。ちょっと今この男を歓迎してるんだよ」

 

 

 恐らく星漿体・天内理子を説得し、戻ってきたであろう夏油がやってきた。

 

 

「────ッ!? お前······悟はどうした?」

 

 

「あー······殺した」

 

 

「そうか────死「ハイストップ夏油」······何で止めるんですか先輩?」

 

 

「五条殺したかもしれない相手に冷静さを失うな。それにそもそも何でお前は星漿体を連れて戻ってきた? ······まあ、理由は何となくわかるからいいけど。でもそれならお前のやるべきことは何? こいつを殺すことじゃないでしょ?」

 

 

「ですがッ······!」

 

 

「────それに多分五条は死んでない」

 

 

「えっ?」

 

 

 そう言うとようやく夏油は少し落ち着く。

 それを見て僕は伏黒甚爾に声をかける。

 

 

「実際のところ、完全に死んだのは確認してないでしょ?」

 

 

「······さあな。まあ、確かにお前の言う通りだが、それでも死んでる可能性は高いぞ?」

 

 

「生憎とうちには優秀なヒーラーがいる。······夏油そういうことだ。僕の方があの男の足止めに向いてる。お前はその二人を連れて外に出た後、家入と一緒に五条のとこに行け」

 

 

 するべきことがあるだろと諭すと、夏油は逡巡しつつ頷いた。

 

 

「······わかりました。────死なないでくださいよ先輩」

 

 

「あいよ」

 

 

 手を上げて三人を見送ろうとするが────

 

 

「俺がそれを見逃すと思ってんのか?」

 

 

「見逃させんだよッ!」

 

 

 当然伏黒甚爾からの妨害が入り、その間に僕は割り込む。

 

 

「ぐぅ······っ、ぅ···ガッ······!」

  

 

 しかし、先ほどと違い、攻撃を避けるだけでなく、後ろに通してはいけないという条件下でこの男を相手取るのは無茶だった。

 バカスカ殴られ、蹴り飛ばされる。いつの間にか『幻想剣』による影響は消えたらしい。

 それでも、何とか三人が見えなくなるまで間に入り続けた。

 

 

「チッ······面倒だな······」

 

 

「ッ────夢幻呪法!」

 

 

「認識っつうより操ってんのは幻術だったか······」

 

 

 まあ関係ねぇけどな、そう言った瞬間僕の術式はかき消された。

 

 

(天逆鉾か······)

 

 

 いつの間にか伏黒甚爾の首辺りに呪霊が巻き付いており、彼の手には短剣と鎖が握られていた。

 大方、僕が吹っ飛ばされて地面を転がっている間に、体内に飼っていた呪霊を吐き出し、そいつから取り出したのだろう。

 

 

「────テメェにはこれといった遠距離の攻撃手段はなさそうだし、これで終わりだな」

 

 

 こうなるとほぼほぼ詰みになることがわかってたから終始距離を潰し、あるいは潰せる距離を保ち続け、呪霊を吐き出させる隙を与えなかった。

 けど、鎖に繋がれた天逆鉾を見て、流石にこれ以上出し惜しみはできないと悟る。

 

 

(······隠しておきたかったけど仕方ない)

 

 

 死ぬわけにはいかない。

 だから────

 

 

「無駄なことをしたな」

 

 

「それはこの後の結果を見て言ったら?」

 

 

 それをやろうとした(・・・・・・・・・)

 

 

「······?」

 

 

 けど、僅かな揺れを感じとった。

 そして、心なしかそれが近づいてくるように感じる。

 いや、これは······

 

 

「────はは······」

 

 

「とうとう頭おかしくなったか?」

 

 

「まさか! むしろようやくかって思ってるよ! 同情するよ術師殺し」

 

 

「あっ?」

 

 

「僕の行動は無駄じゃなかったってことだよ。······役者って言ったけど、今回の舞台、僕はどっちかというと演出家だったからね。随分前から準備してたし、本当に無駄にならなくてよかった」

 

 

 ドドンッ!!!

 

 

 その瞬間、何かが飛来した。

 

 

「でも、まあ、あえて僕に役をあてるとしたら·········主演の登場までの余興を担う、道化(ピエロ)、といったところかな?」

 

 

 

 

 ────余興は楽しめたかい術師殺し?

 

 

 向けた視線の先には最強(・・)がいた。

 

 

「至ったね······」

 

 

「·········センパイ────」

 

 

 ────こいつ、もらっていい?

 

 

 小さく、しかし有無を言わさない声で聞いてくる。

 

 

「どうぞご自由に。僕はもう疲れたから」

 

 

 肩をすくめ、そのまま一気に身体を脱力させた。

 

 

「────」

 

 

 まだ青くはある。

 しかし、確かに今、彼は最強となった。

 後は何もせずとも、勝手にその実は熟していくだろう。

 

 

「······いけ、五条(最強)

 

 

 

 答えはなかった。

 

 

 ただ、僕の視界を赫い閃光が埋め尽くす。

 

 

「ッ────!!!」

 

 

 ────次の瞬間、伏黒甚爾は遥か彼方に吹き飛ばされていった。

 

 

 

 




椎名夕
これで一先ず一安心かなとなった。
つーか地味に『赫』に巻き込まれかけた。なるほど、確かに天上天下唯我独尊だ······。
さて、とりあえず夏油と合流するか。
しばらくは夏油の様子に細心の注意を払いながら、必要ならカウンセリング的なことをやっていこうと思っている。


天内理子
無事に死の運命から逃れ、星漿体の宿命からも解放される人。
改めて人生について模索し始めるが、とある事実を知り、軽く絶望(笑)をする。
実は○○○のファンだとか。
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